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新チーム結成

 俺たちが申請したC+級ダンジョンだったので俺たちに責任があるし、まずは実力を見せると言って、トオルと2人で前衛に立ちダンジョンを進み、2時間で踏破した。

 ボス戦ではナーミの弓がすごく役に立ったし、やはり適正人数の適正配置が必要という事を痛感した。


 ギルドへ戻り精霊球を提出して清算すると、3人で受けたということに申請しなおしたために取り分は減ったが、それでも結構な金額だ。ナーミは宿をとっていないと言ったので、俺たちが宿泊している宿をナーミにも紹介し、彼女にも一部屋取らせ、居酒屋へ向かい歓迎会となった。


「じゃあ、まずは親睦を深めるために自己紹介だ。

 俺はワタル……本名はご承知の通りだがワタルで通させてくれ。カンヌール出身の剣士だ。33歳独身。

 特技は……特技は何だろな……特……特に……ないかな……よろしく……。」


 なんと、美少女がチームメンバーとなったんだ。歓迎会は必須だ。トレンディドラマかなんかで見た合コンの自己紹介を参考にやってみようとしたが、引きこもりの俺には人様に披露するような芸は持ち合わせていない……まさかネットゲームとは言えないしな……ことに気づき、言葉に詰まる。失敗した……。


「私は……トオルです……ワタルに名付けていただきました。22歳です。よろしく。」

 続いてトオルが自己紹介、というか名乗っただけだ……しかもその言い方、なんか誤解を招くような……。


「あたしはナーミよ……年は……言わなくてもいいでしょ?あたしがこのチームのリーダーだからね……よろしく。」


 最後にナーミが名乗る。相変わらず自己主張が激しいのだが、凄まじくかわいらしい顔をしているので、あまり腹が立たない。まあ、許してやるさ。トーマが尊敬してやまない師匠である、カルネの娘なんだしな。


「じゃあ、乾杯だ。あれ?ちょっと待て、トオルは20を超えているからいいとして、ナーミのグラスは何だ?

 酒じゃないのか?だめだだめだ、成長期の未成年はジュースにしておけ。」


 ナーミの手からお猪口を奪い取り、代わりに店員にジュースを注文する。この居酒屋は猛進イノシシの肉を提供したため、俺たちは飲み放題食い放題で、ナーミも同じチームに入ったと親父に告げると、豪気にもナーミも一緒でいいと言われた。そのため飲み代をケチるわけではなく、未成年者に酒を飲ますわけにはいかない。


「なっ……何言ってるのよ……あたしはもう働いているのよ!お酒ぐらい飲んだっていいでしょ。」

 ナーミは、もう一度俺の手からお猪口を奪い返す。


「馬鹿言うな……働いていてもだめなもんだだめだ。まだ体ができていないうちの飲酒喫煙は禁止だ。」


「ちょっとおっかしいんじゃないの?自由な冒険者のはずでしょ?なんでこんなこと注意されなきゃならないの?それに大体、あたしがチームのリーダーなんだから、指図されるのはあなたたちのはずよ!」


 この世界も成人年齢は20歳で、酒やたばこは20歳になってから嗜める。結婚は男女ともに15歳から可能となっているが、成人前は親の承諾が必要と日本の法律にどことなく似ている。


「ナーミは俺たちのチームのリーダーだ。クラスも上だし冒険者経験も長いようだからね。それは俺も納得しているし、クエスト中なら、ナーミの指示に従うつもりだ、連携行動が必須だからね。


 だがしかし、ここはクエスト中のダンジョンじゃない。普通の居酒屋だ。こういった場所では、年長者の言葉に耳を傾けたほうがいいと思うぞ。」


 なるべく穏やかに、平静を保って説得を続ける。若い時から冒険者の世界に入ったナーミは、苦労もしたのだろうが、周りに負けじと努力して経験を積んできたのだろう。

 そのため負けん気が強くなり、メンバーに対して弱みを見せないためにも、酒なども嗜むようになってきたのだろうが、体が完全に成熟していない状態での喫煙飲酒はやめたほうがいい。


「いやよ……あたしは飲むわ、あたしに逆らわないで……リーダー命令よ!」

 ナーミは頑固で、徳利を持つと自分でお猪口に酒を注ぎ始めた。


「若いうちからお酒を飲み続けることは、美容によくないですよ。肌は荒れるし血色も悪くなるし、シミも出来易くなります。私はお酒は乾杯の時だけで、2杯目からは野菜ジュースを飲みますね。」

 すると突然、トオルが口を開く。そうだな……トオルはあまり酒は飲まないのだったな。


「えっ……なによ……美容にって………………わかったわよ……ジュース飲めばいいんでしょ、ジュース。」


 勝手に一人で始めようとして口元に運んでいたお猪口をテーブルに置くと、俺が注文したジュースと差し替える。さすがトオルだ、女の子の気持ちがよくわかっている。男とは言え、顔は見た目美少女のトオルが美容に関して言うと、それなりの説得力があるのだろうな。


「ようし……じゃあ、チームのこれからの発展を願って……かんぱーいっ」


『乾杯!』

 紆余曲折あったが、とりあえず宴会が始まった。


「それはそうと……俺たちのことを調べたと言っていたが、ギルドは個人情報は教えないはずじゃなかったか?それとも上位冒険者には、初級冒険者の情報は流してくれるのか?」


 彼女がどうやって俺たちがここにいるという情報をつかんだのか気になっていた。ギルドの受付にカルネの昔の仲間のことを聞いたが、きっぱりと断られてしまったのだからな。仕方なく酒場などで情報を探ったのだが、ひどい目に合うところだったとスートとタームの話をしてやる。


「そんなの……お金を出して情報屋を雇うのよ。ギルドでは個人情報は厳密に管理されて漏れることはないけど、人の口に戸は立てられないというでしょ。直接冒険者に聞いてもまともに答えてくれるのは稀だし、信憑性に薄いから、こういった居酒屋なんかで情報収集するらしいわ。


 安全な場所で、仲間内で話すことなら信頼できるでしょ?

 店員とかを使って、情報を集めるらしいけど、かなりお金がかかるのよ。あたしは冒険者の稼ぎの大半をつぎ込んで、父の仇の動向を探っていたわ。」


 そうだったのか……突然現れた中年の新人冒険者は、ギルド内でも噂になっていたのだろうな。カルネ没後のことは地元では周知の事実だったし、カンヌール王都にいた冒険者たちであれば聞き及んでいたことだろう。師匠の妻を横取りした不埒な奴が、今度は全てを清算して冒険者となったわけだ。


 まあ、冒険者仲間で噂になってしかるべしともいえるが、散々な推察をされていたようだ。

 店員が小耳にはさんだ会話のほかに、もしかすると居酒屋の席近くに、隠しマイクを仕込んでいることも考えられるな。それだけ情報料は、高額になるというわけだ。


 誤解を少しでも解きたいと、トーマの記憶をたどり、どうして由緒ある伯爵家が没落したのか含め、まあ当たり障りのない表に出ている部分をメインに話してやると、ナーミは病気で母親がなくなり、孤児院に引き取られたが、その後冒険者になったのだと話してくれた。


 なんと15歳からだというから、たったの2年でB級になったというわけだ。C級からC+級に上がるのに通常2年。B−級に上がるのにさらに4年かかると言われているようだから、驚くべき才能だし苦労したはずだが、明るく当時の様子を話すのは、まさにカルネ譲りの負けん気と、苦労を苦労と感じないタフな性格ゆえだろう。


 トオルも忍びとしての訓練が過酷だったことを打ち明け、宴会は盛況に進んだ。

 結局酒を飲んでいるのは俺一人だけで、それでも料理はおいしいからナーミも満足している様子だ。


 徳利をつかんだまま席を立とうとしない俺に愛想をつかし、ナーミとトオルは早々に引き上げていき、残された俺はそれでも一人飲み続け、いい気分になって宿へ戻る。


『ガチャ』部屋について解錠してドアノブをまわそうとすると、カギがかかっていない。あれ?鍵をかけ忘れたのか?しまった……ものを盗られていないといいが……そう思いながらドアを開けると、照明の点いていない部屋の中にバスローブ姿の美女が立っていた。


「おっおおっ……きっ……君は……」


 ショートカットに切れ長の涼しげな瞳……久しぶりの再会だ……2週間以上か?それよりも何よりも、彼女はどうしてこの部屋にいるのだ?彼女の正体を聞かなければ……


 ところが美女は、口を閉じたまま人差し指をその真ん中に当てる。静かにしろということのようだ。

 そのまま彼女に連れられ部屋に入り施錠すると、ベッドへと導かれた。

 月明かりに照らされる彼女の裸体は、それはもう美しく、滑らかな肌は手に吸いつくようだ。 



「ふあーあ……」


 朝目覚めると、ベッドで一人だけで寝ていた。辺りを見回しても、バスローブ美女がいた形跡はどこにもない。俺の鎧や装備など、テーブルの上やわきに置いてあるので、ここは間違いなく俺の部屋だ。


 あれは夢か……この部屋では定期的に絶世の美女が夢の中に出てくるのだろうか……そうであれば当たりの部屋ということになる。急いで顔を洗って階下へ降りていく。


「ようやく呑兵衛が起きてきたわね、もう今日は起きてこないんじゃないかと思っていたわ。

 人には体がまだできていない未成年は、体に良くないから酒は飲むなだなんて偉そうなこと言っておいて、自分は浴びるほど酒を飲むなんて、一体どういう神経しているのかしらね。」


 食堂へ行くと、すでにトオルとナーミは起きてきていて、ちょうど朝食を終えたところのようだった。


「いやあ……もしかして起こしてくれたけど、反応がなかったのかな?だったら悪かったね。だがまあ、深酒というほどじゃあない。普段のペースさ……正体をなくすまでの暴飲はしないと約束したからね。」

 以前トオルに散々嫌味を言われたので、これでも酒の量は控えているつもりだ。


「ちょうど食べ終わったところです。部屋に戻って支度してから出発のようですので、急いで食べてくださいね。」

 トオルが、苦笑しながら話しかけてくる。


「おお、分った……そうする。」

 すぐに出されたばかりのハムエッグにぱくつき、トーストに手を伸ばした。



「じゃあ、今日はB−級のクエストを攻略するわよ。あたしの指示に従ってさえいれば、危険はないから安心して。」


 とりあえず詰め込めるだけ口に詰め込み数十秒で朝食を終え、装備をつけて冒険者の袋をひっさげ宿のエントランスへ向かうと、ナーミが本日の予定を告げる。


「昨日、クエストを攻略したばかりなのに、もう次のクエストかい?

 精霊球を狙えるクラスのチームは、月に1度くらいしかクエストはしないって聞いていたんだが。」


 俺とトオルは新人冒険者で、稼ぎたいのとランクを上げたい両方の理由から、かなり過密スケジュールでクエストをこなしていたが、彼女のように長い経験のある冒険者は、もっとゆったりとしているのではないのか?

 クエストをこなすこと自体は反対するつもりはないのだが、折角彼女が加わったので、ぜひとも行きたい場所があった。


「だから言ったでしょ、あたしは稼ぎの大半を情報屋に使っていたって。ここへ来る路銀も足りなくて、借金してきたのよ。だから、昨日の稼ぎは借金返済にあてて全く残っていないわ。

 どうしても今日、クエストを受ける必要があるのよ。」


 ナーミは、全然悪びれる風もなく話す。まあ、そういった事情なら仕方がないな、金貸してといわないだけえらいともいえる。


「事情はわかった……俺たちはこれまでもかなり過密にクエストをこなしていて、結構報奨金がたまっているから、今日のクエスト報酬は全てナーミが受け取るということで構わない。かといって、俺たちはさぼって動かないということはない、ちゃんと協力し合ってダンジョンン攻略する。トオルもいいだろう?」


「もちろんです。」

 トオルは間髪を入れずに賛成してくれた。


「そんな必要ないわよ……借りを作るのも嫌だし。クエスト報酬は均等割りでいいわ。じゃあ、悪いけど協力してくれる?」

 ナーミが宿を出てすたすた歩いていく。ううむ……性格は良さそうだな……。



「じゃあ、このクエストを願いね。」

 ギルドへ出向き、ナーミがホールの壁のクエスト票から厳選したクエストを携えて、受付へもっていく。


「このクエストは、お客様のクラスより低いレベルのクエストですが、お間違いはございませんか?」

 受付嬢が首をかしげる。


「いいのよ……急にメンバーが増えて、C+級が2人加わったの。だから彼らのために少しだけレベルを下げたクエストにしてみたのよ。」


 ナーミが笑顔で後方に立つ俺たちを紹介してくれる。俺たちのチームにナーミが加入したのだとばかり思っていたが、違ったようだ。どっちでも同じことなのだが……。


「ああ、そうですか……承りました。そういえばチーム名がまだでしたが、もうお決まりでしょうか?」

 受付嬢は、今度はナーミの後ろに立つ俺のほうを見ながら尋ねてきた。そういやそんなこと言われていたな。


「チーム名はナーミュエントにして。」

「えっ……なー……」

「ナーミュエントよ……こう……。」


 聞き取れなかった受付嬢に対して、ナーミがメモに書いて見せる。カルネの生まれた国で聖なるとか神聖な という意味で、カルネの所属していたチームの名前だ。ナーミの名もそこから由来しているとも聞いている。

 だがそれは……


「ああ、申し訳ございませんでした。ナーミュエントですね……承りました。」


 ありゃ?意外や意外……あっさりとチーム名が了承された。重複するチーム名は使用できないから、今現在ナーミュエントのチーム名は使われていなかったことになる。

 カルネのチームメンバーはどうなったのだろうか……?


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