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サーラ

「検査結果が分かるまで、2日ほどかかります。尋問を再開いたしますか?」


「そうだな……サートラン商社の活動やカルネのことも確認しておきたいから、取り調べを再開したいね。」


「健康診断の間も非常に従順でしたから、拘束具はつけなくてもいいですよね?尋問の様子を撮影したビデオを見て、人道上の問題を指摘されております。」

 セーレがとんでもないことを言い始める。


「それはまずいだろ……奴は催眠の使い手だ……自由にさせて我々が操られてしまったら、簡単に逃げられてしまうぞ。」


「そうですね……健康診断という行いでは、私とセーレさんが彼女を台に乗せたり席につかせたり、あるいはベルトで体を固定したり薬を飲ませたりしましたが、基本的な指示は天の声でした。


 陰から誰かが覗いていて、右を向けとかバーをつかめとか指示をしていましたね。我々はサートラを直接注視しないで済んだので、サートラが自由であっても警戒を続けることが出来ました。しかし、サートラが自由な状態で注視する事は危険です。


 最も危険なのは彼女と目と目を合わせることですが、ほかにも言葉を聞いたり手足の動きを注視したりするだけでも、ゆっくりと催眠にかかっていく恐れがあります。その間、こちらは非常に気持ちがよくて、そこから逃れられなくなってしまうのです。


 やはり拘束服は必須ですし、目を隠すためのゴーグルも必要と考えます。」


 トオルも拘束具の必要性を説く。サートラが従順に健康診断を受けていたのは、拘束具が不要と感じさせるためだったのではないだろうか……そのくらいしたたかな奴だからな……。


「わかりました……取り調べが完全に終了するまでは、拘束具は必須であると報告しておきます。」

 セーレが仕方なく同意したように、しぶしぶ頷いて見せる。どうせ、南の大陸の奴らに無理やり言わされているだけだろう。彼らにとってサートラは、仇の可能性があるのだからな。


「では、尋問を再開する。サートラン商社のことを聞かせてもらおうか。

 ヌールーにあったサートラン商社は、実際は注文しか受けてなく、見積もりから品物の手配も配送も全て本社であるサーケヒヤーのサートラン商社で行っていたな?


 独立採算制で、国ごとに別会社のようにふるまっていたが、実質はサーケヒヤーのサートラン商社本社のみ活動していて、カンヌールとカンアツはいわば幽霊会社であった。


 その為、商品は全体的に他の商社と比較して価格は高めだったが、わいろを用いて取引の継続を図り、使用期限を偽った精霊球は廃棄費用まで取ったうえで、養殖用に南の大陸へ供給していたな?

 どちらかというとビル内で魔物たちを飼育して、時が来れば王家転覆を狙っていたのではなかったのか?」


 健康診断が終わり昼食をとらせた後、拘束服を着せ目隠しのゴーグルをつけて車いすに乗せ、尋問を再開させる。それでもサートラはとりわけ意外そうな顔もしなかった。


「サートラン本社での取引価格に、各支社の利益分を乗せるため、どうしても価格が高くなってしまったが、王宮内に人脈を作り裏金を渡すことで、軍需物資は一手に引き受けていた。だがまあ付け届けくらい、どこの商社でもやっていることだ……とりわけ犯罪と目くじらを立てるようなことではないだろ?


 王家転覆は……確かに狙っていたな……全てサーキュやサーケヒヤーたちの要望によるものだ。

 私は、だれがどの国の王でも構わないからな……。」


 サートラは平然とわいろを送っていたことを肯定し、さほどの罪ではないと主張する。ううむ……そんなこと許していたなら、正当な商取引はどうなる?

 さらに王家転覆計画は人のせいにしやがった……。


「カンヌール王宮や政府内の、抱き込んだ役人たちの名前を明らかにしてもらおうか……。」


 サートラやサーキュ元王妃に買収された役人たちを特定できれば、そいつらを追及して裏付けをとることもできるし、何よりトーマの父や祖父の汚名をそそぐことができる可能性が高い。

 今のままでは、単にサートラが言い逃れようとして適当に証言していると、とられられないからな。


「そんなもの……いちいち覚えてはおらん……なにせ大人数だからな……サーキュの後ろ盾があったから、奴らは賄賂というより、褒美とでも考えていたのではなかったのか?」


 ところがサートラは、肝心な部分は答えようとはしない。自分の罪を確定させてしまうからな。それに……以前のカンヌールのサーキュ王妃の影響力から考えると、王宮全体や軍部含めた政府までも全て抱き込んでいた可能性も否定できない。サーキュ元王妃のバックにはサーケヒヤー国があり、影響力は絶大だったからな。


「では、伝説とまで評されたS級冒険者カルネ……カーネ・トルビニーニョの死に関して質問する。


 カルネは原因不明の不治の病で亡くなったとされているが、お前が何らかの毒物を飲ませて毒殺したのではないのか?カルネのようなS級冒険者に毒を盛ることなど、一般人には到底不可能と考え、お前に疑いがかけられることはなかったが、千年も生きてきて、しかも元は一級の冒険者となれば話は別だ。


 お前が、シュッポン大陸では知られていない毒で、カルネを殺したのだろ?」

 いよいよ本筋……カルネの死の真相について質問する。


「カルネか……奴はサートラ……いや、ナガセカオルの希望を叶えるために命を賭した……ということだけは聞いているが、私が生まれたのは12年前で、19の歳に生まれた。その時点でカルネはすでに病に侵されていたから、私にその真相は分からない。


 サートラの日誌で、不治の病に侵されたことを知っているだけだ。詳細はサートラに聞いてくれ。」

 ところがまたもや、自分はサートラではないということを言い始める。


「あなたがサートラであることは、以前南の大陸にいたころに名乗っていたナガセカオルの身体的特徴……指紋と目の虹彩パターンで確認済みです。若返ったことにより、若干サイズは異なっておりますが、言い逃れが効かないように、現在DNA鑑定も行っております。いい加減、あきらめて真実を述べてください。」


 すぐにセーレが、サーラがサートラであることは確認済みと説明し、真実の証言を要求する。


「私は真実しか述べてはいない……それはお前たちも分かっているはずだ……。」

 サートラは、そういいながら口元を緩める……不敵な笑みだ……。


「確かに……本日より嘘発見器を装着していてモニターの様子を聞いておりますが、これまでのところ、彼女は嘘をついていないという判定が出ているようです。ですが……自己暗示等で、データに出ないようなことも訓練すれば可能とも聞いておりますし、確信は持てません。」


 セーレが、小声で説明する。ううむ……嘘発見器……。


「そもそも……12年前に生まれたなんて言っているが……9年半前からは俺の妻でもあったわけだろ?あくまでも対外上の話で、婚姻届けも出してはいなかったが……3歳の少女と結婚した覚えはないぞ!」


 いくら何でも……独立して結婚できる年は、この世界では15歳からなのだ。しかも、その前はカルネと結婚してエーミまでもうけているのだからな。嘘発見器の反応はともかく、明らかに嘘の証言だ。矛盾を突いておく。


「だから……私は19歳で生まれたと言っているではないか……。」

 サートラは、平然と返す。


「ちょっと言っている意味が分からないな……12年前に19歳で生まれた……12年前に生命石で19歳に生まれ変わったということか?カルネと出会ったのは18年前で、その時は13歳と称していたはずだな。


 その6年後だから、19歳でいいはずで、生命石を使う必要性はないはずだろ?それでも定期的な服用は必要と聞いたから、定期の服用のことを話しているのか?

 さっぱりわからんな……もっとわかりやすく説明しろ。」


 細かく1,2年若返ったにしても、計算が合わない。19歳から19歳ならば生命石は不要なはずだ。一体、何を言いたいのだ?


「だから……私はサートラではないし、ましてやナガセカオルではないと、何度も言っているではないか。私が生まれたのは12年前のことで、その時点で19歳だった。私はサートラやナガセカオルのように、千年も生きてきた化け物とは違う。」


 サートラ(サーラ?)はまたもや同じ主張を繰り返す。ううむ……頭が痛くなってきた。


「もしや……お前は生まれ変わったのではなく、19歳で生まれてきたと言っているのか?」

「そうだ……。」


「しかも、サートラでもなければナガセカオルでもないと……じゃあ質問するが、サートラとナガセカオルは、同一人物ということで間違いがないな?


 南の大陸ではナガセカオルと名乗っていたが、20年ほど前……実際は18年半前なのだろうが……にカンヌールへ進出する際に、会社名からサートラという名前をとって、戸籍まで作って行った。このことは、戸籍上のお前の父の証言があるから、言い逃れの出来ない事実のはずだ。


 このことをうまく表現すれば、この時にサートラという人物が生まれたことになる。13歳という年でな。


 この時と同じことを、12年前にも行ったということか?戸籍を作ったのか?だが……カルネが死んで未亡人となったお前は、俺に経済支援をエサに結婚を迫って来たぞ。婚姻届けを提出しなかったから、戸籍の確認をしてはいないが、サーラではなくサートラと名乗っていた。


 サーラと名乗り始めたのは、ホーリ王子様やジュート王子様に近づくため身分を偽った時の、ほんの数ヶ月前のことではないのか?


 お前の言っていることは、ある程度想定はできるが、矛盾が多すぎる。」

 サーラ(?)の主張の矛盾点をついておく。もうこいつの名前すら、分からなくなってきた。


「お前たちは、大きな勘違いをしている。サートラとナガセカオルは、同一人物ではない。いや……サートラは永きに渡ってナガセカオルと名乗っていたのだが、本当のナガセカオルという人物は別に存在する。」


「はあ?ナガセカオルがサートラと名乗るようになったのではなくて、サートラが長年にわたって、ナガセカオルと名乗っていただって?しかも、本当のナガセカオルは別にいるって……じゃあナガセカオルは、今どこにいるんだ?」


「ここにはいない。」


「そんなことは分かっている。この場には俺たちと南の大陸の使者とお前だけだからな。

 ナガセカオルは、どこにいるというのだ?シュッポン大陸内ということだろうな……南の大陸の人間はお前をナガセカオルと認めたくらいだからな……。


 サーケヒヤー国内に潜伏でもしているのか?」


「ふん……そうではない……今、この場には、サートラでもナガセカオルでもなく、サーラとして私がいるのだ。だから、ナガセカオルは存在しない。存在するのはサーラだけだ。」


「はあ?それはお前がサーラと名乗ってサーラ……いうなればジュート王子様を誘惑するために生命石を使って若返ったサーラという存在を、演じているからではないのか?


 確かに、お前がサーラと名乗っている限り、サートラもナガセカオルも存在はしないわな……だが、所詮同一人物なのだろ?いい加減、認めてくれ!」


 ううむ……禅問答とか、哲学の論争のような難しさを感じてきた。元々サートラという女性の体に、ナガセカオルという日本人が転生してきたのだろうと、俺は考えていた。何らかの形で死んだサートラの体に、ナガセカオルの魂が宿ったわけだ。


 そうして以降はサートラを演じてきた……というより、ナガセカオルと名乗っていたわけか……自分の知識を使って、南の大陸の文明発展に尽くしていたということだな……一体いつの時代の日本から来たのかと聞きたいところだが、それ以前のところで躓いている。


 話すことが堂々巡りで、ちっとも進んでいかないのだ。


「お前がサートラかサーラか、ナガセカオルか誰でもいい。お前がやってきたことは決して許されることではない。必ず罰してやる。サーキュ元王妃も、カンヌールでの悪事に関しては別扱いとして、近々カンヌールへ送られて、裁判を受けた後に刑に処せられることになるはずだ。


 サーケヒヤー王家の身の安全を保障すると約束したが、サーケヒヤー王が降伏するときの条件であり、あくまでも今回の戦争に関してだけだからな。お前の尋問映像を見せれば、サーケヒヤー王も納得するはずだ。


 お前の場合は、カンヌールへ送ることがいいことかどうかわからないので、ここで取り調べることになるのだろうが、厳罰に処せられることになるだろう。

 だから……正直にこれまでのことを全て洗いざらい、話してしまったほうがいいぞ。」


 このままでは埒が明かないので、最後通告だ。昨日王宮へ無線通信して、サートラの証言内容を簡単に報告しておいたのだ。すると証言が取れたのであれば、サーキュ元王妃を取り調べるとジュート王子からの連絡を受けたのだ。サーキュの証言があれば、サートラの関与の仕方など、より詳細にわかるかもしれない。


 主犯をそのままにして共犯だけ裁くということはできないと、安気にしているサーラ(?)に引導を渡してやる。


「本日は、ここまでにしておきましょう。」

 無理やり詰め寄ろうとしていたら、セーレからストップがかかった。まだ、深夜時間というわけではないだろうに……だがまあ仕方がない……これが南の大陸のルールであるならば従おう。


『ガチャンッ』サートラの体を営倉へ運び入れ、流動食を与えてから拘束したまま施錠する。


「精神科医の診断では、サーラ達はいわゆる多重人格であろうという結論に至りました。」


「多重人格?」

 営倉から戻り始めた通路の途中で、なんだかとんでもないワードがセーレの口から飛び出してきた。


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