サートラの収容先は?
サートラを捕まえたのはいいが、相当な使い手であり、さらに催眠はつかうわ、瞬間移動するわ・・・問題山積み。どうやって拘留しておくのか・・・必読の13章・・・始まります。
「どうします?ジュート王子様の催眠は解けたとはいえ、サートラに直接会わせるのは危険です。サーケヒヤー王宮へ連れていくのは、やめたほうがいいですね。サーケヒヤー元王を筆頭に、王族と近衛兵たちも催眠をかけられている可能性が高いです。サートラを逃がそうと、動き出す恐れがあります。」
拘束したサートラを詰めた装甲車の荷台の横で、トオルが問いかけてくる。
「そうだな……かといって、カンヌールへ連れていくこともできないぞ……居城もそうだがカンヌール王宮の人間だって、サートラの息がかかっているものが多くいるはずだ。
安全なのはカンアツ王宮くらいだが、さすがにホーリ王子様がサーケヒヤーへ出向いている今は、行けないだろう?如何にサートラが凶悪といっても、牢に閉じ込めてくださいなんて、カンアツ王に言えないぞ。
いや……もしかするとカンアツ国内だって、カンヌール同様に……なにせ、ホーリ王子様が遠出に出たところを襲われたくらいだからな……。」
「困りましたね……。」
サートラを拘束したのはいいのだが、投獄する場所がない……。
「レーシ教会はどうなの?トークおじさんがいるから、サートラの身柄を預かってくれるんじゃない?」
ナーミがトークの教会を推薦する。
「確かにサートラはカルネの仇の可能性はあるし、もともとトーク達がサートラのことを怪しんで調査していたわけだ……だからと言って教会には連れていけないぞ。
さっき戦ってみて分かったが、サートラは凄まじい手練れだ……俺とトオルの2人がかりでも敵わなかった。理由は分からないが、サートラは水飲み場ドーム内の装置類を破壊されることを極端に嫌っていた。ナーミの炎の矢が数台の装置を射抜いたとたんにギブアップしたからな……大切な装置というわけだ。
そんな装置のない場所で、しかもちゃんとした武器をもって戦ったなら、2人がかりでも倒されていたのはこっちのほうだ。そんな危険な奴を、教会に預けるわけにはいかない。
トークが俺達より弱いと思っているわけではないのだが、教会の隣には宿舎もあるし孤児院も併設しているだろ?……サートラのような危険人物を連れていくわけにはいかないな……。」
トークがサートラを一番捕まえたいと思っているのは確かなのだが、彼に引き渡しても対処に困るだろう。
「じゃあどうするのよ……浮島へ連れて行って、奥の方の部屋にでも閉じ込めておく?荷台のまま庭にロックしておくっていう手もあるわね……。封魔石があれば、魔法は使えないんでしょ?あの拘束具ってやつで拘束しておけば、とりあえず動けないものね。」
「いや……やはりサーケヒヤーは、王宮関係者とサートラン商社と、サートラにゆかりの深い場所が2ヶ所もあるから、浮島は安全ではないだろう。1日中ずっとついているのであれば別だがな……捕まったサートラを逃がすよう催眠をかけられている者が、近くに存在していないとは限らない。
仕方がないな……南の大陸の奴らに任せよう。サートラの出身地だとしても300年以上たっていれば世代も変わっているから、催眠の効果なんてないはずだ。映像を見てサートラが危険人物ということを認識したはずだしね。彼らだったら最新兵器とかもあるだろうから、サートラを拘束できるだろう。」
不本意ではあるが、南の大陸の軍艦にサートラを運び込むしかないな……ナガセカオルは彼らにとっては恩人だろうが、今は凶悪犯サートラなのだ……。
「ですが……我々が直接、軍艦に降り立つことはできませんよね?」
「うーん……メモ用紙あるか?」
「はい、ありますよ……。」
用意のいいトオルは、背中のリュックからノートとペンを取り出して渡してくれた。
『ビリッ』「1枚頂くよ……。」
ノートの最後のページを破り取り、ペンを走らせる。
「これでいいだろう……じゃあ出発だ。」
ミニドラゴンに荷台を足でつまませて出発する。サートラが意外とあっさり投降したのと、ワーニガメも簡単に倒したので、まだ日は全然高い。マースには日が落ちる前に余裕でつけるだろう。日が照っている時間帯なら、何とかなるはずだ。
『バサッバサッバサッ』ミニドラゴンで、巨大な軍艦の上空を旋回する。上から見ると、ほぼ長方形の形をしていて、後方に艦橋があってビルのようにそびえたっている。その先はというと、切り立った長く平坦な甲板が続き、これは空母だな……武装ヘリ以外に、ジェット戦闘機や爆撃機などを格納していると考える。
『パラパラパラパラッ』すぐに甲板に置かれていた武装ヘリのローターが回り始める。警戒しているのだろうな……そうして黒髪の男女が艦橋下から飛び出してきた……セーレ、セーキ姉弟だろう。
『ひょいっ』『カンカンカンッ』彼らの駆けていく先に、小石にメモ紙を巻いたものを落としてやると、拾い上げて中身を読み始め、やがてセーレが急いで艦橋へ戻っていった。
少し経ってセーレが数人のマシンガンで武装した兵士たちとともに艦橋から出てきて、上空に向かって両手を大きく何度も降る。恐らく降りてこいの合図だろう。サートラを捕らえたので、そちらで拘留してくれとメモ用紙に書いておいたのだ。
「よし、ミニドラゴン……彼らの前に荷台を下ろしてから、着艦してくれ。」
『バサバサバサッ……ゴンッ』ゆっくりと荷台を甲板に下ろし、そのすぐ横にミニドラゴンは降り立った。
「君らはすごいな……本当に飛竜を自在に操っているのだな……。」
マシンガンを構えた兵士が、ミニドラゴンの姿を見て思わず息をのむ。
「ああ……君たちだって……あんなくるくる回る羽のついた乗り物を、自在に操っているじゃないか……。」
ヘリコプターのことを驚いているように、言ってやる。思えば、真の南の大陸の奴らと言葉を交わすのは、初めてだ。真っ黒い風防のついたヘルメットをかぶり、迷彩色の軍服を着こんでいるが、背格好もあまり変わらないし同じ人間だろう……少なくともロボットではないと感じる。
「サートラは……どこですか?」
「ああ……この荷台の中に拘束具で包んで入れてある。だが……外へ出すと瞬間移動される恐れがあるので……どうするかな……この荷台を艦橋のすぐ前までミニドラゴンに運ばせて、入り口に横付けするか?」
いくらさるぐつわしているとはいっても、瞬間移動の呪文がどんなのか知らないし、基本的に念じれば通じるはずだから、屋外を認識されれば逃げられる恐れは十分にある。
「大丈夫ですよ……この甲板は可動式のエレベーターになっていますから。」
『ガッシャンッ……ゴゴゴゴッ』セーレが右手を上げると同時に足元が振動し、景色がゆっくりと上がり始めた……荷台どころかミニドラゴンも一緒に、俺達の方が下がっているのだ……戦闘機を格納するためのエレベーターだろうな……30m角位の区画が甲板ごと下がっていく。
「んぎゃぉーっ」
「ミニドラゴン……落ち着いて……大丈夫だ……問題ない。」
焦って飛び立とうと構えるミニドラゴンを、必死でなだめる。
『ガッシャン』大きな金属音とともに降下が止まると、はるか上の天井が閉まり暗くなり、同時に照明がついた。おお……すごいな……ここに連れてきてよかった……。
「これでもう、逃げられないでしょう。サートラを出してください。」
『かシャッ』セーレに促され、荷台のロックを外し扉を開ける。
『ガラガラガラガラ』台車付きの簡易ベッドがやってきたので、拘束具で動けないサートラの体をそれに乗せてやる。ベッドには拘束用のベルトがついていたので、サートラの体を固定する事が出来た。何から何まで、万全だ……。
『ガラガラガラガラ』そのまま台車付きベッドを転がし、案内されるがまま通路を進んでいく。ミニドラゴンは環境が変わると心配なので、ショウを残して面倒を見させることにした。サートラはショウの母親なので、投獄されるところも尋問される所も見せないほうがいいしな……。
「軍規を乱した兵士の反省を促すための、営倉へ収容しましょう。」
『ガッシャン……ガラガラガラッ』長い通路を延々と渡った先の、覗き窓に格子がはめ込まれたドアを、セーレが開ける。中は2畳間ほどの、むき出しの洋式便座と洗面台以外何もない部屋だった。
『ガラガラドンッ……ガッシャン』壁際に台車付きの簡易ベッドを置いてタイヤを動かないようにロックすると、そのまま部屋を出てドアを閉めた。
「では、こちらへどうぞ……。」
セーレに案内されて通路を戻っていき、同じフロアの4畳半ほどの小部屋に案内された。中へ入ると、俺たちのほかはセーレとセーキだけが残り、マシンガンを構えた兵士たちはそのままどこかへ行ってしまった。
「彼女がサートラということで間違いはありませんか?」
セーレが開口一番……先ほどの人物について確認してくる。ヘルメットをしてゴーグルをつけ、さるぐつわまでしているのだからな……人間違いだったらえらいことだ……。
「ああ……間違いなくサートラだ……というか、なぜかサーラと名乗っていたが、サートラが生命石を使って若返った姿のはずだ。
といっても、本人はサートラでもナガセカオルでもないと主張していたがね……だが、ここが一番重要なのだが、彼女がサーラという別の人物だとしても、ジュート王子様に近づいてカンヌール王もろとも命を狙った、張本人であることは間違いない。さらにサートラン商社で捕まえた社員たちを殺したのも彼女だ。
映像が残っているし、名前はどうでも、彼女がここ最近の凶悪事件の首謀者であることは間違いがない。彼女の主張の意図は、尋問して確認していくしかないな……。」
少なくとも、サーラが凶悪事件の首謀者であることは事実なのだ。彼女を捕らえたこと自体は、間違いではない。
「そうですか……あの拘束具は外しても大丈夫でしょうか?さすがに水や食べ物を与えないわけにはいきませんし、手足が自由でなければ自分で食べられませんよね……。」
セーレが拘束具のことを質問してくる。確かにあれは、やりすぎのようにも感じるのだが……。
「サートラ……捕らえたサーラと主張する人物は、催眠という人を操る術に長けております。その術を使って捕らえた囚人を脱獄させたり、お堀に飛び込ませておぼれさせたりしております。さらにジュート王子様を操り、カンヌール軍の機密や、玉璽のことを聞きだしたりもしています。
サーラと顔を突き合わせれば、誰でも催眠で操られてしまう危険性が生じます。短時間であればいいのでしょうが、基本的には拘束具をつけて周りの状況も見えないままにしておいたほうがよいと考えます。
食事とトイレ以外は拘束具を完全につけたままにしておいて、食事の時もせいぜい頭の覆いととさるぐつわだけを外して、ゴーグルはつけたままで複数人で監視しながら流動食でも与えるのがいいと考えます。
目を見ると催眠にかかりやすくなりますので、注意が必要です。担当者も、毎日変えたほうがいいでしょうし、名は名乗らせないほうがいいでしょう。」
トオルが、サートラを拘留する上での注意事項を説明する。何ともまあ厳重警戒だ……無理もないか……。
「わかりました……食事に関しましては、栄養剤を点滴で間に合わせることも考えられますが、食事をとれる体であるにもかかわらず、点滴だけにするというのは人道上許されませんから、流動食なりを与える必要性が生じます。当面の間、我々に手順をご指導願えますか?」
「はあ、まあ……構いませんが……。」
「尋問取り調べも、立ち会われますよね?」
「もちろん……そうさせていただきたいのだが……。」
「そうであれば客室をご用意いたしますので、船内にご宿泊いただき、サートラ……ナガセカオルを取り調べましょう。如何でしょうか?」
セーレが、俺たちに泊まれと言ってきた……これはずいぶんと意外な言葉だ……なにせ南の大陸の人間は、シュッポン大陸の住民とは直接接触したがらないはずだからな……。
「ああ……そりゃ構わないが……俺たちはマース湖上の浮島が住居だから、ミニドラゴンで行き来しても30分もかからないぞ……通いでも構わないと思うのだが……。」
「あくまでも、こちらでサートラの身柄を拘束するための手順を確立するまでの、数日間だけのお願いです。マニュアルさえできれば、以降はこちらサイドで管理可能ですから、浮島へ戻られても構いませんが、深夜時間帯など緊急対応が懸念されますので、どうかお願いいたします。」
「分った……サートラを捕らえてこちらで収容している旨を、サーケヒヤー王宮のジュート王子様たちに連絡したい。当面この船に宿泊することもね。無線連絡の手配をお願いできるかな?
それと……ミニドラゴンは、鉄で囲まれた船の中だと落ち着かないだろうから、荷台と一緒に甲板へ戻してくれないか?一緒に甲板へ上げてもらえれば、そこでおとなしくしているように、言い含めておくから。」
別にどうしても浮島でないといけないということはないし、空母の中での宿泊というのも個人的には興味があるから、俺は構わない……シュート王子たちが心配していると悪いから、連絡さえしておけばいいだろう。
「了解いたしました。こちらへどうぞ……。」
セーレに案内され、無線室からサーケヒヤー王宮を呼び出しジュート王子に事情を説明する。捕らえたサートラの収容先は向こう側も頭を痛めていたらしく、他人任せになってしまうと懸念はしていたが、賛成してくれた。
それからミニドラゴンとともにエレベーターで甲板へ上がり、水牛の骨付きすね肉を与えてやり、その場に待機を命じる。すぐ横になじみ深い荷台があるし、明日からの取り調べの最中はショウも残しておくつもりだから、落ち着くだろう。ついでに甲板で日常訓練も行っておく。
「ナガセカオルと同じ世界から、ワタルはやってきたのですね?」
『シャーシャー』船の中のシャワールームで訓練の汗を流していたら、トオルから鋭い質問をされる。すぐにあたりを警戒するが、男性用のシャワールームで、俺達だけ時間をずらしているので、俺とトオルの2人きりのようだ……。