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捕獲

『シュシュシュシュッ』『ズッバンズバッ』洞窟天井に潜んでいるヒル系魔物や、飛びかかってくるゲンゴロウ系魔物たちを無言で、しかも素早く仕留めていく。やはり、本道では食材となる魔物に遭遇することはなかった。恐らくサートラは、本道に巣くう食材になる魔物たちを一掃しながら進んでいるのだろう。


(水の壁!)(水の壁!)

『ザッバァーンッ』『ザッブゥーンッ』『ドッドッドッドッ』『シュシュシュシュッ』トオルとショウの張る2重の水の壁をものともせず、ナーミの放つ矢も弾き飛ばしながら、巨大な影が突き抜けて行った。


「隆起!」

『ズッズゥーンッ』『ドッガァーンッ』『ズッババーンッ』『ズゴッ』何とかかわした後すぐに引き返してきたので、隆起で土くれの壁を築き、上方に輝照石を埋め込むと、やはり輝照石めがけて勢いよく突進して衝突した。

 すかさずトオルと2人で斬りつける。


『ブッシュワーッ……ズッゴォーンッ』体高3mを超える巨大な水牛は、血しぶきをまき散らしながら、その場に崩れ落ちた。


「ここは3層目の本道ですが、水牛のような食材になる魔物が生息しています。私たちはサートラを追い抜いてしまったのでしょうか?」

『ズズズーッ』水牛肉の回収のために皮を剥ぎながら、トオルが来た道へ振り返る。


「いや……300年ダンジョンもそうだったが、最下層のルートは複雑に絡み合っていただろ?だから、サートらに出会わなかった魔物が、回り込んでやってくるのじゃないかな……。2層目もしらみつぶしに回ったが、サートラの痕跡は本道以外にはなかった。奴は構造図を持っていて、本道しか通っていないはずだ。」


 わき道にそれると食材系の魔物たちに多く出会うことを見ると、このダンジョンは魔物が豊富なダンジョンなのだろう。サートラが長期間潜伏しようと考えるわけだ。


「では、やはりこの先に……。」


「多分な……サートラは魔導石を持っているはずだから、食材に向かない虫系魔物なんかは、出現しないよう制限していた可能性が高い。3層目ともなると十分な食材がたまったから、食材になる魔物も出現させないようにして、楽々通り抜けたとも考えられる。


 食べつくしてから、再度捕獲すればいいのだからな。何せここは、サートラ専用ダンジョンのはずだから。」

 そうなのだ……彼女にとってはこのダンジョン内の魔物たちなど、ただの食料にしか過ぎないのだ。


 念のために、脇道ルートにある水飲み場を確認して、サートラの姿や野営の痕跡がないことを確認。3層目本道のボスステージ手前の水飲み場は素通りして、ボスステージへ先行到達。


「ボスは……ワーニガメだな……生きているところを見ると、やはりサートラはこのダンジョンから出ていない。先ほどの水飲み場が怪しいな……。」


「どうします?先にボスを倒しておきますか?」


「いや……万一逃げられたことを考えると、ボスはそのままがいいだろう。いかなサートラでも、ボスを瞬殺ということは、ありえないだろうからな……。」


 ボスステージは覗くだけにして、水飲み場へ戻っていく。さあ……いよいよサートラとの直接対決だ。念のためにまた、サートラは敵だから魔力を封じてくれと再度封魔石に念じておく。



 ボスステージから3つの分岐というか合流を戻り、洞窟わきにある腰の高さほどの小さな穴を見つける。


「じゃあ、まずは俺が盾を構えながら入っていく。サートラが待ち構えていることはないとは考えるが、危なかったら叫ぶから、すぐに足首を引っ張って出してくれ。」


「わかりました……お気をつけて。」

 体が隠れるほどの大きめの盾は冒険者の袋に戻し、鎧とセットの小ぶりの盾に持ち替えて、盾を前面に出して這いつくばりながら穴を進んでいくと、その先は高さ2mで幅も2mの小さめの洞窟だった。


(おーい……入ってきてもいいぞ……。)

 入ってきた穴に顔を突っ込んで、小声で呼ぶ。サートラどころか、水飲み場へやってきている魔物すら見かけない。これも魔導石の効果なのだろうか……。


 狭い洞窟内を1列で進み、4つ目の分岐を越えた先は行き止まりだった……いや、周りの岩肌と見比べると湿気を帯びた赤土は異質で、明らかに土くれで塞がれていた……恐らく隆起……。



「いいか……俺が沈下を唱えたら、俺とトオルだけ中へ突っ込む。ナーミとショウは、ここに残ってサートラが逃げ出さないよう、援護射撃してくれ。」


「分ったわ……。」

「うん……気を付けてね……。」


「参りましょう……。」

 ナーミが矢をつがえ、ショウが数歩下がって身構える。俺は目の前の土くれの大きさを目見当で把握しながら、沈下魔法効果をイメージする。


「沈下!」

『ズズズズズズッ』目の前をふさいでいた土くれの壁が沈み、洞窟の先が見通せるようになる。


『ダダダダッ』すぐに駆け出していった先は、やはり水飲み場の小ドームだった……が、そこはまるで何かのコントロールルームのようだった。ドーム状の壁一面には無数の計器が並び、計器に表示される数字が刻々と切り替わっていく。


 発電機があるのか通電しているようで、パネルのランプが点滅したり、赤や青に黄色と多彩に発光していて、ドーム内に点在するテーブルの上にも計器が積まれているようだ……何かの実験をしているのか……?


「お……お前は……トーマ……!」


 奥の壁に設置されたモニター画面の様子を見ていた白衣姿の人間が、俺たちが入って来たのに気づいて振り返った。まだ幼さを残してはいるが、黄色い髪の凄まじいまでの美少女……やはり……サートラ……。


「観念しろサートラ……抵抗しなければ乱暴はしない。おとなしく捕まれ!」

 腰の剣を抜き身構え、降伏を促す。


「ちいっ……。」

『タタタタッ』しかしサートラは聞く様子も見せずすぐに駆け出し、ドーム壁を回りこんで逃げ出そうとする。


「させるか……だりゃあっ!」

『シュッガッ……ガッガッガッ』すかさず行く手に回り込み、剣を振りかぶり斬りつけるが、サートラは何と腰から取り出したナイフを右手で持ち、片手で楽々と俺の攻撃を受け止めた。


「とうっ!」

『シュッ……キンキンキンッ』トオルも駆け寄ってきて長刀で斬りつけるが、左腰の後ろから短刀を抜き、今度は左手だけでトオルの攻撃を受け止めた……なんと2刀流……。


「だりゃあーっ!」

『シュッ……ガッガッガッ』『ドゴッ』『ダンッ』上段から何度も剣を振り下ろし、さらに足で蹴ってサートラの体を蹴り飛ばすと、彼女は背後の計器にぶち当たった。


『シュシュシュッキン……キン……キンッ』すかさずトオルが踏み込んで斬りつけるが、うまく体裁きで躱すと、体勢を立て直して短刀で受け始める。


「仕方がない!」

『ガッ』『ブシュワーッシュワーッ』サートラがすぐ脇にある、緑色の細長い鉄ボンベの上部についたホースを短刀で切りつけると、ホースの先から白い蒸気がものすごい勢いで向かって来た。


「うわっ!」

 一瞬ひるんで、慌てて盾で煙を防ごうとする。


『タタタタッ』そのすきにサートラは駆け出したようで、足音が遠ざかっていくのが分かる。


「炎の矢!」

『シュボワボワボワッ……グザグザグザッ』それでも待ち構えていたナーミの炎の矢が入り口の奥から発せられ、サートラが矢をかわすと、壁面の計器へと次々突き刺さっていく。


「わ……わかった……もう抵抗しない……ここの計器を破壊しないでくれ……。」

『カラーンカンッ』すると突然サートラは、両手に持っていた短刀とナイフを落とし、両手を高く頭の上に掲げた。なんと……あっけなく降伏……。


 俺がサートラの足元からナイフと短刀を回収し、トオルがサートラの体を触り、凶器が隠されていないかを確認する。その間ナーミの矢が、しっかりとサートラの頭を狙っている。


「クナイ5本とナイフ2丁に毒針と、冒険者の袋が6つに土の精霊球を首にかけていました。恐らく冒険者の袋の中には、武器や精霊球や魔物肉など保管されているでしょう。ナーミさんの炎の矢攻撃が、効果的だった様子ですね……これらの装置を壊されては困るのでしょうかね?貴重な装置ではないのでしょうか?」


 身体検査を行ったトオルが、隠し持っていた武器と精霊球を、サートラが持っていた冒険者の袋に収納し、空のクーラーボッスの中に入れた。


「ずいぶんと訳の分からない装置が並べられているが、何をするための装置だ?何か実験でもしていたのか?


 装置が大事なようだが、中古の精霊球を削ってダンジョンに保管し、生命石や擬態石などの特殊効果石を作るための実験場と聞いていたぞ……養殖だったらこんな装置……必要ないのではないか……?」

 トオルが拘束しようとしているサートラに、質問する。


「これらは次元を移動するための装置のようだ……別世界……異次元世界へ人を送り込むための、実験装置だ……と言っても、移送機を作るための理論検証を行うための実験のようだがね……。この装置をボスステージへ運び込んで、実験を行うらしい……普段は水飲み場に保管しているようだ。」


 サートラが、ナーミの矢で破壊された装置を、残念そうに横目で見ながら答える。


「ようだ……というのはどういうことだ?お前がこの実験装置とやらを作って、ここで実験していたのではなかったのか?それとも、120年前は別の誰かが実験をしていたのか?」


 サートラがこの大陸に来た時に発見したダンジョンで、このダンジョンを養殖の実験場として改造しようとしたのではなかったのか?


「私はサートラでもナガセカオルでもない……サーラだ。人々から追われたときには、この洞窟へ逃げ込みナガセカオルが現れるのを待つのだと、サートラの日記から知った。ここの装置がなければ、ナガセカオルは生きる希望を失うこともな……だから、破壊されては困るのだ……。」


 サートラは両手を頭の後ろ側で組みながら、他人事のように答える。


「サーラというのは、サートラが生命石で若返った姿の名前だろ?つまり同一人物だ……。さらにナガセカオルもサートラが、この大陸に出現したときから名乗っていた名前……いや、シュブドー大陸の時からそう名乗っていたのか……。20年前に戸籍を作ってカンヌールへ行くときに、改名したのがサートラだろう?


 つまり、3人は同一人物だ……。」


「ふん……3人は同一人物などではない……全くの別人だ。特にナガセカオルはな……。」

 サーラ?はふてぶてしく答える……今更、私は違いますー……なんて命乞いか?


「証言はまずダンジョンを出て、連れ帰ってからゆっくりと伺いましょう。まずは白衣を脱いで……はい、ここに足を入れて……次はこのそでに手を通して……。」


 トオルがサートラを拘束しようとして、後ろ手に縛るのかと思っていたら、なんとつなぎのような服を着せようとし始めた。別に白衣の下が下着とか裸同然というわけではない。ブラウスとズボンを履いているのだが、その上から……。


「じゃあ、これを口に咥えてください。」

 さらに丸い玉のようなものをトオルは取り出し、サートラの口に含ませようとする。


「ふん……拘束具にさるぐつわか……念がいっているな……。」


「移動石を粉にして飲んでいるのですよね?そのままでは後ろ手に拘束したとしても、ダンジョンの外に出れば簡単に逃げられてしまいます。呪文が唱えられないように、さらにダンジョンから出たかどうかも分からないようにしなければなりませんからね、目隠しもしていただきますよ。」


 トオルはそう言いながら、サートラが着込んだつなぎの長い袖をサートラの背中できつく縛ったあと、ゴーグルのような目隠しをして、頭もすっぽりとヘルメットというか革製の風防付き帽子で包んだ。まさに全身拘束具……。


「どうしてそんなもの持っているんだ?忍びの道具なのか?」


「いえ……サーケヒヤー王の趣味なのでしょう。地下牢隣の拷問部屋に、拷問道具と一緒に陳列されていました。サートラを追いかけると決まったので、すぐにとりに行ったのです。これもアイテムとして認められているようで、セットで冒険者の袋に収納できましたよ。」


 トオルが平然と答える……ううむ……トオルの趣味ではないことが分かって、ちょっと安心する。


「ちょっとこれ……。」

 サートラを拘束している最中、ドーム奥を確認していたショウが、数冊のノートを持ってきた。表紙にはサートラとナガセカオルの名前がそれぞれ書かれていた。


「〇月〇日……サートラのは日記だな……さっきサーラが言っていたやつだな、ほんとかどうか怪しいが。ナガセカオルのは……なんか数字の羅列とか……何が書いてあるかよくわからんが実験ノートだな……。

 参考になるかどうかわからんが……持っていってみよう」


「では……ワタル……サートラをお願いします。」

 拘束されて全く身動きが取れないサートラの体を担いで、洞窟を進んでいく。念のために水飲み場入り口は、隆起で土くれの壁を作って、入れないようにしておいた。



 ワーニガメはナーミが矢を射かけておとりになり、ショウとトオルの水の障壁で勢いが弱まった手と頭を斬り落とすことで結構簡単に仕留め、精霊球も回収した。


 ショウとトオルを先に出し、ミニドラゴンを使ってダンジョン出口の小屋に装甲車の荷台を横づけし、出たらすぐに拘束具のままサートラの体を装甲車に放り込んで扉を閉めてロック、これでサートラは瞬間移動できないはずだ。


続く


意外とあっさり捕まったサートラ。彼女の真意はどこにあるのか・・・。サートラとナガセカオルの過去に触れていく、次章にご期待ください。

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