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サートラ捜索

「ああ……擬態石を作り出すために試験的に改造したというダンジョンですか?詳しい場所までは、私にはわからないのですよ……この大陸へ移住してきて大陸中を回っているときに見つけたダンジョンのようで、自分しか知らない隠しダンジョンだから、好きなように改造できると言っていました。


 レーッシュの近くにある水系ダンジョンということくらいで、場所を示す地図までは……持っておりません。」


 ミニドラゴンでマースの街中にあるサートラン商社の屋上へ降り立ち、ナガセへ面会を求めたら、すぐに応じてくれた。やはり、商売をそのまま継続させていることに、恩を感じているのだろう。

 だが、改造したダンジョンの場所までは知らない様子だ……ギルド未管理のダンジョンということのようだが……。


「そうですか……そのほかにサートラとよく言った場所などありませんか?遊びに行ったところとか、旅行などでもいいのですが……。」

 ついでなので、ほかに心当たりのある場所がないかも聞いておく。


「サートラは仕事人間でしたからね……わたしが子供の時にも、遊びに連れて行ってくれることは全くありませんでした。遊園地なんて言うところは、全く縁遠い場所でしたね。


 マーレー川の河川敷ですかね……?マーレー川の河川敷は湿気が高く密林のような場所ですが、一緒に釣りに行った時がありますね。エンジン付きのボートに乗ってマース湖からマーレー川を下っていくのですが、途中密林が途切れて上陸できる河畔が何ヶ所かあるのです。そこでキャンプして釣りをした記憶があります。


 ですが……子供の時ではなく、サートラがカンヌールへ行って数年経過してからですけどね。私がモーターボートを運転して行きました。サートラは何をするわけでもなく、ただ川の流れを見つめていましたね。


 それでも後にも先にも、一緒に遊びに行ってくれたのは、その時1度だけだったかな?」

 ナガセが寂しそうに、ひきつった笑みを浮かべる。


「そうですか、ありがとうございました。大変参考になりました。」


「いえいえ……満足に答えることもできず、ご期待に沿えず申し訳ありませんでした。サートラには厳しく商売のイロハを教えられた以外の思い出など……まったくないのですよ……。


 ですが、私にわかることでしたらなんでも協力いたしますので、いつでもお訊ねください。また、出頭せよとご命令されれば、すぐに王宮へ出向きますので、お呼びたてください。」


 相変わらずナガセは愛想よく、何でも話してくれる。サーケヒヤー王もそうだったが、世話になったはずのサートラへの恩義などは感じていないのだろうか……犯罪者とはいえ、身内からも裏切られているようなものなので、一寸気の毒にも思えてきた。



「いかがでしたか?サーケヒヤー元王のお話では、マース湖の東側に離宮があり、そこへ夏場は避暑に出向いていたそうです。時々サートラも一緒に……。


 母上からは、カンヌール南の漁港にある別荘を、サートラもたまに使用していたと聞きました。カンヌール王宮へ電信を打ち、飛竜部隊を派遣していただくようお願いしておきました。」

 王宮へ戻り謁見室へ入ると、すでにジュート王子はサーケヒヤー元王たちへの尋問を終えて戻ってきていた。


「そうですか……こちらはマーレー川の河川敷のキャンプ地と……レーッシュそばにあるというギルド未管理のダンジョン……場所は不明ですが、カルネの残したダンジョンの構造図を当たってみる予定です。


 方角が同じですから、離宮含めてミニドラゴンで回ってみますよ。ダンジョンだと中を調べるのに半日とか1日がかりでしょうが、離宮や河川敷のキャンプ場であれば、すぐに確認できますからね。


 これから浮島に寄ってから向かえば、日が落ちるまでに離宮へ到着できると思います。」

 離宮か……そこも候補の一つだな……。


「わかりました……先生たちだけでは危険ですから、飛竜部隊も同行させてください。」


「いえ……あまり大人数で行くと気付かれて、逃げられてしまう可能性があります。少人数でそっと近づいたほうがいいでしょう。大丈夫ですよ……封魔石がありますから……ある程度の距離まで近づくことができれば、瞬間移動で逃げられる恐れもありません。」


 心配そうに顔をしかめるジュート王子に、漆黒のごつごつとした石を胸元から出して見せる。サートラの体術もすごいだろうが、さすがに魔力を封じて4人がかりであれば、なんとかなるだろう。


「そ……そうですか……。」

 ジュート王子が少し残念そうに肩を落とす。


「それよりも、こちらの動きに感づいたサートラが、関係者の口封じに動く可能性があります。王宮は多くの兵で固めているので大丈夫でしょうが、サートラン商社の警戒をお願いいたします。実の息子である、ナガセのことが心配です。」


「了解いたしました……ではサーマさんの部隊に、サートラン本社ビルの警護をお願いしましょう。」


 恐らくジュート王子も一緒に行きたかったのだろうな……しぶしぶナガセの護衛にサーマの部隊を派遣してくれることを了承したようだ。ナガセは、サートラの実の息子であるため、やはり情報は一番持っているだろう。


 エーミの場合は、商売のためにどこかいいところへ嫁がせる目的で育てていたようだから、重要な情報は隠していただろうからな。だからエーミは、サートラのことを実質何も知らない。


「じゃあ、俺はそろそろ教会へ戻るぞ。今から港へ向かえば定期船に丁度間に合うからな。」

 トークがやってきて帰る旨を告げてくる。


「ああ……ご苦労様でした……セーレとセーキが無事戻ってこられそうで、よかった。記憶喪失なので、回復までは南の大陸で保護しますなんて言われたら、どうしようかと思っていたよ。」


「そうだな……わざとらしく記憶が戻りましたなんて、突然いうことも出来やしないだろうしな。助かったよ……こちらこそ、ありがとうな……。」

 トークが緑の口ひげを触りながら、ニタニタと笑顔を見せる。やはりうれしいのだろうな……。


「レーッシュへお帰りになるのでしたら、御者付きの飛竜にてお送りさせていただきます。どうぞこちらへ……。」


 トークをミニドラゴンで港まで送ろうかと思っていたら、ジュート王子がやってきた。レーッシュまで飛竜で送っていただけるようだ……これはありがたい。



「南の大陸からの使者さんたちのお知り合いということで、いらしていただいたおかげで、協議も随分とスムーズに進みました。更に、兵士たちにご講話まで頂くことが出来まして……ささやかですがお礼の品も積み込んであります。」


 ジュート王子に連れられて中庭へ出ると、飛竜の座席部分には大きな木箱に樽酒が山と積まれ、ロープでくくりつけられていた。


「これはこれは……ですが……昨日も樽酒を頂いておりますし……ここまでしていただくとかえって恐縮してしまいますが……。」

 トークが、あまりにも土産物が多いことにちょっと困惑の表情を見せる。


「いえいえとんでもありません、昨日のご講話……兵士たちのみならず、サーケヒヤー王宮に使える侍従やメイドたちにも大変好評でした。


 レーシ教会の司教様でいらっしゃるそうで……王宮関係者たちの話では、サーケヒヤー国内でも有数の教会のようですね……さらにトーマ先生のお知り合い……出来ましたら、毎週とは申しません……月に一度か2ヶ月に1度程度、王宮へお越しいただいてお言葉を頂ければありがたいのですが……。


 トーマ先生からもぜひ……お願いしていただけますよう、ご協力お願いいたします。」


 いつも腰の低いジュート王子が、尚更慇懃にもみ手をしながらトークに定期講話をお願いした。なるほど……非常勤司教ということだな……。さすがジュート王子……働くものたちへの気遣いが半端ない。


「うーん……そうだね……レーッシュ郊外の教会だけではなく、サーケヒヤー王宮の教会も見ていただけるとありがたいのだが……。」


 確かにここには兵士や使用人たちが多いし、その家族だって近くに暮らしているわけだ。彼らの精神的な支えになっていただけるとありがたい。


「はあ……やれやれ……わかりました……昨日の講話の際に分かりましたが、どうやら王宮の教会は、長年にわたって司教不在が続いていたようですからね。


 常に私が来ることは無理でも、代わりの上級牧師を派遣するなり検討いたしましょう。追ってご連絡させていただきます。」


 少々間が開いたが、ため息交じりに仕方がなさそうにトークは了解し、王宮の教会のことも検討してくれることになった。ジュート王子の細かな心遣いが、実ったと言えるな……。


「では、失礼いたします。」

『バサッバサバサッ』トークの大量の土産物を乗せた飛竜が飛び立っていった。


「では我々は離宮経由で、マーレー川の河川沿いと隠しダンジョンとやらを捜索してみます。」


「了解いたしました……お気をつけて……。」

 俺たちもミニドラゴンの背に乗り出発だ……。



「レーッシュ近郊のギルド未管理ダンジョンは、火のダンジョンが一つと水のダンジョンが3つだな……。」

 浮島へ戻り、カルネから写させてもらった構造図の中から、レーッシュ近郊の未管理ダンジョンを抽出する。


「へえ……じゃあその水系ダンジョンのうちの一つが怪しいということになるわね。」

「ああ……さらに、水のダンジョンのうちの一つは、マーレー川の河川敷にあるようだ。」

「えっ……というと……?」


「ああ……このダンジョンが一番怪しいな……。だがまあ……離宮から順番に当たってみよう。王宮本殿入り口わきの庶務室から、離宮のカギは借りてきたからな……。宿泊もOKと言われたから、サートラが見つからなければ、今日は離宮に泊まろう。河川敷のダンジョン捜索は、明日だな……。」


 なんとまあ……マーレー川の河川敷に、カルネが見つけたギルド未管理ダンジョンがあるようだ。こちらは正真正銘カルネが22年前に攻略したダンジョンだから、今はC+級ダンジョンといえる。はたしてこれが、サートラがこの大陸へやって来たばかりの時に見つけたものかどうかは不明だが、可能性は十分ある。


 ほかにもカルネの知らない未管理ダンジョンがあって、そこにサートラが潜んでいるとなるとかなり厄介だが、まあわかっている限りの未管理ダンジョンの捜索を行ってもサートラが見つからなければ、トークにも手伝ってもらって、未発見のダンジョンを捜索していくしかないさ……。


「じゃあ出発するか……離宮に宿泊できるから、装甲車の荷台は持っていかなくてもいいかな?」


 サーケヒヤー王宮へ攻め込んだ時は、ゴーレムの部品を運んだために居城に置いて来た荷台だが、オーチョコ港へ向かっていたサーケヒヤー海軍を引き返させることができたため、オーチョコ港の警戒に当たっていた、飛竜部隊の一部を増援でマースへ送り込んできた。


 その時に、ついでに居城から荷台を運んできてもらったのだ。久々の出番かと思ったが、いらないかな?


「いえ……離宮の後のダンジョンがすぐに見つかるかわかりません……水のダンジョンが3ヶ所あるわけですからね。野営する可能性も高いですから、持っていきましょう。」

 ナーミではなくトオルが、荷台を持っていくことを主張するなんて珍しいのだが、持っていくことにするか。



 出発はすでに昼を大幅に回っていたので、マース湖の東岸へ着くころには、すでに日が落ちかけていた。それでも湖畔に建つ西洋風の大きな建物はかなり目立つので、すぐに見つけることができた。船でやってくることを想定しているのか、湖側に高い塀が作られていて、船着き場の先に頑丈そうな鉄製の門扉があるようだ。


『バサッバサッバサッ』高い塀など構わず、ミニドラゴンで直接広い中庭に降り立つ。


「ようし……そおっと入っていくぞ……。」

『ガチャッ』玄関の施錠を外し、中の様子をうかがいながら静かに入っていく。


「1階にはだれもいる気配はありませんね……2階へ上がってみます。」


 トオルが慎重に、息をひそめながらゆっくりと階段を上がっていく。コンクリート製の大きな洋風建築は、1階は大広間とキッチンに食堂と、恐らく使用人たち用であろう小部屋が用意されていた。


 2階が王族の居室となるのであろう。慎重に各部屋を確認していったが、2階にも誰もいなかった。サートラはここにはいない様子だ。


「まあ日も暮れたし、今日はここで泊まりだ。各部屋にシャワーもついているようだから、ちょうどいい。

 好きな部屋を使うことにしよう。」


 2階の部屋は10以上ありそうだが、階段から近いほうの4部屋を割り当て、そこに宿泊することにした。

 ベッドもあってシーツなど、すぐわきの戸棚に洗濯済みのものが入っていたので、快適に眠れそうだ。ブレーカーを上げると電気も来ているようで、照明もついたので有難い。


 広い中庭で日常訓練をしてから、トオルたちは食事の支度にとりかかった。本日の晩飯は、大きなフランクフルトとジャガイモやセロリなどを煮込んだポトフと、ロールパンだった。

 サーケヒヤー王宮のマーケットで購入した食材を、クーラーボックスに入れて荷台に積んで持ってきたのだ。


 まだダンジョンで仕留めた水牛や焼き鳥の肉など残ってはいるのだが、明日はダンジョンに入ることもあり、冒険者の袋で保存できる食材は、やはり確保しておきたい。ダンジョン内で何があるかわからないからな……。


 当然のことだが、回復水や解毒薬なども冒険者の袋に入れたほかに、クーラーボックスで予備は持ってきている。


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