さらに新たな訪問者
「分かりました……とりあえず相手が何者なのか確認する必要性があります……南の大陸からだったら余計に、その目的が気にかかりますからね。まあ、大船団という感じではないですから、サーケヒヤーに攻め込むといった感じではないと考えます。何かの交渉に来たのでしょう。
まずはミニドラゴンで、上空から確認に行ってみます……。」
「私も参ります。」
「あたしも一緒に行くわよ。」
「僕もー……。」
すぐにトオルとナーミとショウが寄ってきた。
「我々も御一緒いたしますぞ。」
セーサとサーマも名乗りを上げる。
「いや……あまりに大人数で行かないほうがいいだろう。下手に相手を刺激しても困る。セーサさんたちは飛竜部隊とコンテナを準備して待機していてくれ。ミニドラゴンで飛んで行って攻撃でもされたら、それから出撃してくれればいい。
ジュート王子様、ホーリ王子様……王宮中庭に高射砲とゴーレムの配備をお願いします。万一の場合は、応戦しなければならないでしょうからね。」
とりあえず、4人で向かう旨を伝える。下手に刺激して撃ち落とされても困るからな。4人だけで白旗掲げていけば、話は聞いてくれるだろう。
『パラパラパラパラ』王宮中庭でミニドラゴンの背に乗り込もうとしていたら、湖から黒い飛行物体が……そのプロペラ音からヘリコプターではないかと思い見上げると、やはり武装ヘリが飛来してきていた。機体側面には機銃が備わっていて、下部についている筒は、恐らくロケット砲だろう。
『我々はジュブドー大陸からやってきた、アカシロ連合国の使者だ。貴国の現状に対して、平和的解決を望み交渉に来た。貴国の主権を侵害するつもりはないし、敵対関係となるつもりもない。あくまでも平和的解決策を、互いに協議して取り決めたいと考えている。
貴国と交渉を行うため、まずは着陸を許可されたい。』
武装ヘリからは、拡声器を使って着陸許可を願ってきた。平和的解決策?サーケヒヤー王国を降伏させて、カンアツに統治を依頼したことが問題なのか?確かに、南の大陸はサーケヒヤー国寄りだったからな……サーケヒヤー国とのみ交易をしていたし、戦艦など近代兵器を供与していたしな……。
南の大陸と親交のある国が滅ぼされては困るということなのか?まさか、サーケヒヤー王が南の大陸に援助を頼んだりしていたのだろうか?やけに潔く敗北宣言したのは、南の大陸からの援軍を待つまでの時間稼ぎとでもいうのか?
だったらまずいな……サーケヒヤー王家にひどい扱いはしていないが、ここで盛り返されてしまうと、このまま一気にカンヌールまで征服されかねない……それほどの脅威を感じる。
「向こうから来ていただけたようですね……協議を要望されているようですから、着陸していただきましょう。それにしても……あれは魔物でしょうかね?飛竜ではないようですが……。」
ジュート王子がヘリが巻き起こす強風の中、上空を見上げながら大きく両手で手を振る。
「そうですな……まさに面妖な……あのような生き物がいたなどとは、脅威の一言ですな……。」
ホーリ王子も、強風の中で目を細めながら答える。意外と冷静だな……王子たちもサーケヒヤー国への援軍を想定しているだろうが、かといって撃ち落とすわけにはいかない。向こうは平和的な協議に来たと言っているのだからな。人道に反するようなことはできないわけだ。
『パラパラパラパラ……キュルンッ』武装ヘリがジュート王子の案内通りに、王宮中庭に着陸した。『ダダダダッ』同時に、飛竜部隊兵士が、ヘリの周りを取り囲む。
『ガラガラガラッ』スライド式の扉を開け中から出てきたのは、この世界では珍しい黒髪の美男美女だった。
恐らくは20台の中盤であろう2人組は、光沢のある布地のスーツを着込んでいる。あれは軍服だろうか?
「ようこそいらっしゃいました。私はカンヌール国第1王子のジュートと申します。そうしてあちらが、新生サーケヒヤー暫定王位を預かる、カンアツ国第1王子のホーリ王子です。」
ジュート王子がすぐにヘリに近寄っていき、握手を求め右手を差し出す。ううむ……腰が低く何でも率先して自ら行おうとする、ジュート王子の悪い癖だ。まずは俺たち兵隊が先に応対して、安全が確認されてから、王子たちが挨拶しなければいけないだろうに……こっちも警戒していたために、出遅れたのが失敗した。
だが……変な動きがあればすぐさま岩弾をくらわしてやる。距離的にも脈動で一気に間を詰められる距離だ……もし、ジュート王子の身にちょっとでも危険が迫ろうものなら……。
「どうも、突然の訪問を快く歓迎いただき恐縮です。私は親善大使のセーレと申します。彼は親善大使のセーキです。よろしくお願いいたします。」
セーレは優しい口調で笑顔を見せながら、握手に応じた。あれ?セーレとセーキって……しかも黒髪?とりあえず2人は敵だから、魔力を封じるよう封魔石を握り祈っておく。
「どうぞ……王宮内でお話ししましょう……護衛の兵士などおりますかな?」
すぐに丸眼鏡もやってきて、セーレ達親善大使を王宮へと案内しようとする。
「護衛兵士などおりません……交渉の打ち合わせには、私たち2名のみで対応させていただきます。交渉と申しましても、こちらの考えをまずはお伝えするだけですので、2名だけでも十分なのです。
このままでは警戒されるでしょうから、彼らには一旦戻っていただきます。」
セーレはそう言って武装ヘリに向かって右手を振ると、『キュルルンッ……パラパラパラパラッ』すぐにヘリのローターが回り始め上昇を始めると、湖上の戦艦へと戻って行ってしまった。
ふうむ……ずいぶんと度胸がいいな……自分たちが囚われるとかは考えていないのだろうか?
「では、参りましょう。」
親善大使2名とともに、王宮の謁見室へ向かう。
「お伝えいただくことというのは、なんでしょうか?」
謁見室へ到着すると、ホーリ王子が玉座について、壇上から尋ねる。暫定政権とは言え、統治王であるのだから、外交交渉ではこの形式が相当だ。
「その前に、南の大陸シュブドーの科学力に関して、お話しておきましょう。
ご存知かどうかわかりませんが、シュブドー大陸ではシュッポン大陸に比べて科学力や芸術文化など文明が、ずいぶんと発展しております。その差は、恐らく500年程あると見ています。
千年ほど前には、ほとんど文明レベルに差がなかったようですが、300年前には500年以上の文明レベル差があると評価されました。元々大陸間の交易はなく、全く独自の文化発展を遂げた故のことと考えられておりますが、この差が今でも大陸間の通商の障害となっております。
シュブドー大陸では電化が進み、一般家庭でも照明に空調及び冷蔵庫などの家電製品に、テレビなどの娯楽設備なども整っており、豊かな生活が送られているにもかかわらず、シュッポン大陸では未だに精霊球などの魔力に頼らざるを得ない暮らしが続いていますね?
50年程前からシュブドー大陸とシュッポン大陸間で、暫定的な通商条約が結ばれ交易が開始されましたが、文明レベルの違いからシュッポン大陸内の混乱を招いてはいけないと考え、シュブドー大陸の科学力は輸出の対象としないと、取り決められていたのです。
主な交易品は、シュッポン大陸側からは特産品である魔物肉に家畜や農産物で、シュブドー大陸からはハムやベーコンにケーキなどの加工食品と、服装品と限定されていました。」
セーキが、突然南の大陸との交易に関して説明を始めた。
「はあ……南の大陸の文明レベルが格段に進んでいるのは、南の大陸と交易をおこなっているサートラン商社という会社の社長からお聞きした内容を、報告書で読んで知っております。それまでにも、南の大陸から伝わった食品やお菓子などで、進んだ文明というのは感じておりましたがね。
ですが……交易の制限とおっしゃっていましたが、この地を統治していたサーケヒヤー国で所有していた巨大戦艦や駆逐艦などは……恐らくシュッポン大陸の技術レベルでは作りえないものであり、シュブドー大陸からの輸入品と考えておりましたが、違うのでしょうか?」
ホーリ王子が、代表して答える。ナガセが話した内容は、トオルがまとめて報告書として提出していたからな……さらに戦艦などが輸入品であることも一緒に……。
「そうなのです……50年前に締結した通商条約では、近代兵器の輸出は固く禁じられていたのですが、それでも南の大陸の発電技術を軸とする電化技術は、一般家庭の生活レベルを向上させるとして、技術援助を行い徐々に展開してまいりました。おかげで文明レベルの差が、100年程に縮まったなどと一部では評価されております。
近代兵器の輸出に関しましては、玉璽の存在が大きかったようです。
シュッポン大陸に生息する飛竜地竜水竜の3竜を従わせることができる玉璽の存在は、近代兵器をも凌駕する可能性があると聞いておりました。玉璽を産出した国がシュッポン大陸を統一して、シュブドー大陸へ進出して来ることがないよう、対抗兵器として5隻の戦艦と造船技術をサーケヒヤー国へ拠出せざるを得なくなってしまったのです。
更に玉璽を発生させるには多くの生命石が必要ということで、魔物肉など今でもシュッポン大陸から輸入されておりますが、現在の最大の輸入品は精霊球となっているのです。それを南の大陸にある洞窟内にて成長させることで、生命石や擬態石を作り出して返却していたのです。
その生命石をこちらのダンジョン内に展開することにより、玉璽の発生場所を人為的に操作する計画でした。玉璽の発生場所をサーケヒヤー国内に限定する目的で行っていたのですが、どうやら失敗したようです。玉璽が使われて、サーケヒヤー国が征服されてしまいました。
副産物として産出される輝照石は、省エネ照明としてシュブドー大陸では重宝されていて、有難かったのですがね。」
セーキが驚くことを告げる……南の大陸は玉璽がサーケヒヤー国以外の手に渡ることを恐れ、それを未然に防ぐために戦艦を与えたり、さらには中古の精霊球を養殖して生命石を作り出そうとしていたというのか?
「今のお言葉はちょっと意外だね……シュッポン大陸から大量の精霊球を輸出して、南の大陸の洞窟で養殖して生命石を作り出して返却していただいているという話は、サーケヒヤー国を占領してから知った。
だが生命石を必要とした目的は、サートラという人物が自らの命を保つために生命石を粉にして、定期的に服用するためと聞いている。今では年に百g以上の生命石が必要ということだ。決して玉璽を意識的に算出させようとする目的ではない。
また、サーケヒヤー国を降伏させたのは玉璽を使用する前だ。少数の兵とともに突撃し、サーケヒヤー王宮を陥落させて降伏させた。だが、サーケヒヤー国は10万もの大軍を有する軍事国家であるから、降伏したとはいえ、国軍を制圧する目的で玉璽を使って3竜を派遣している次第だ。
今おっしゃったことは、どこからの情報なのかね?」
とりあえず、言っていることの間違いを指摘して、さらに情報源を確認する。もしかすると、サーケヒヤー王の居室に、南の大陸とのホットラインでも引いてあるのかもしれないからな。そんなことしなくても携帯電話くらい、持たせているかもしれないが……。
「ああそうですか……シュッポン大陸の様子は、10基の人工衛星にてはるか上空から常時監視しているのです。北方山脈で小競り合いのような戦闘が発生した後、サーケヒヤー王宮近辺で丸1日戦闘が発生したことを確認しております。
その後まもなく、多数の飛竜と地竜がサーケヒヤー軍基地へ集結し、さらに軍が散開してサーケヒヤー国内へ派兵されたものですから、玉璽使用によりサーケヒヤー国軍を征服したものと推測いたしましたが、間違いということですか……玉璽を使用しなくても、近代兵器に勝る破壊兵器があるということですかね?」
セーキが笑顔で答える……サートラの名前は……無視か……。
「サーケヒヤー王宮を陥落させることができたのは、運がよかっただけだ……カンヌールの飛竜部隊に対する対抗手段を十分に準備していたようだが、それが驕りとなり隙ができた。もう一度やって、また勝てる自信はない。たまたまだ……。」
300年ダンジョンの精霊球やゴーレムの活躍があってのことだが……玉璽に変わる脅威ととられてもつまらないから、運だけで勝ったことを強調しておく。
「ふうん……そうですか……こちらの解析結果とはずいぶんと異なりますね。サーケヒヤー元王はすでに処刑されていますか?」
突然とんでもないことを言い出す。
「まさか……サーケヒヤー元王は、今でも王宮内の居室にて滞在いただいておりますよ。折を見て、別の住居を準備することはあるでしょうが、今のところは安全のためにも、こちらで生活いただいております。」
ジュート王子が代表して答える。
「そうですか……では、サーケヒヤー元王と直接話をさせていただけますか?」
そうか……サーケヒヤー王と今後の対応を相談するつもりだな?
「はあ……別に構いませんが……。」
「いえ……サーケヒヤー元王は、戦争犯罪人ですよ。カンヌール国に対して異様な執着を持ち、何か理由をつけては攻め込んで来ました。今回、サーケヒヤー王宮が降伏したからよかったものの、逆にカンヌール国が占領されていたなら、カンヌール王一族はとっくに処刑されていたでしょう。
ジュート王子様の温情でサーケヒヤー元王は生かされてはいますが、南の大陸のバックアップを得て政権を取り返そうと画策されては困ります。面会はお断りするべきです。」
ジュート王子の言葉を遮り、すぐに改めさせようとする。
「そっ……そうですか……仕方がありませんね……申し訳ありませんが、面会はお断りいたします。」
ジュート王子も納得して、セーキの要求を突っぱねてくれた。




