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生命石の需要

「そうです・・・考えてみれば、サートラもかわいそうなのですよ・・・。


 当初は、カンアツにもカンヌールにも南の大陸との交易を開始させ、文明を発展させることにより、精霊球に頼らない生活を広め、余った精霊球を拐取する目的だったようですが、さすがに他国にも近代兵器が流れ込むことを、サーケヒヤー王は良しとしなかったようですね。


 他国に肩入れするなら、サーケヒヤーはカンヌールやカンアツが脅威となる前に攻め込むと宣言したのです。


 300年以上続いた平和が途切れ戦国時代へ突入してしまうと、カンヌールやカンアツからの精霊球の供給どころか、サーケヒヤーからの精霊球の供給さえも途切れてしまう可能性があります。やはり実際の戦争では範囲攻撃の魔法は、必要になる場面が多いでしょうからね。


 もしそうなると自分の命にかかわるということで、サートラが折れたのです。」


「サートラが折れた・・・譲歩したということでしょうか?」


「そうです・・・仕方なく、両国を支配下に置いて大陸統一王朝を目指すということで、同意したのです。まずはカンアツ国内部に入り込み、精霊球を不正に横流しし、いずれは内部崩壊へ誘導する。その後、カンヌール内部に入り込む、といった計画が出来上がっておりました。


 国同士の戦争行為は極力避けて、謀略を駆使して両国を陥れるという約束をしたのです。


 20年程前には先行きに不安を感じ、生き続けるためにやむを得ず・・・とは言いましても、時が経つにつれ手段を択ばず何が何でも・・・と言った感じで、最近はどんどんと狂暴になっていくのが恐ろしく感じておりました。


 そのため商社業務に関すること以外では、サートラとの付き合いを取りやめ、まともに連絡を取ることもなくなりました。」


 そうか・・・カンヌールへ進出し始めたころから、おかしくなってきたということだな・・・そうして実の母親とはいえ、ナガセは必要以上の協力は拒んでいたのだろう。犯罪に加担したくはないということだな・・・裏を返せば、サートラの悪行を承知していたということにはなるのだが・・・。


 サートラも、ここには近づかないだろうな。下手に近づいて共謀しているとみられ、サートラン商社の営業を停止させられてしまうと、自らの生命線を絶たれるようなものだからな。


 この会社さえあれば、まだ生命石の供給を受けることは可能だ。精霊球の取得に違法性があるとはいえ、南の大陸との交易は合法なものだろうから、25年以上前に引き渡した精霊球から得られた特殊効果石を受け取る権利はあるだろう。


 それにしても・・・ナガセの説明で、段々とカンヌールで起こっていた不祥事の背景が見えてきたな・・・。

 自分が生きるためとはいえ・・・人を犠牲にしてまでも、大量の精霊球を手に入れようとしていた。恐らく、そのような資材の横流しに気づいたトーマの父親を失脚させたのも、サートラの指示によるものだろう。


 だが、それを立証する物的証拠・・・ううむ・・・やはり精霊球の横流しの線で追及するのがいいのだろうな・・・さすがに大陸間の交易だし、正規の取引と言っていたから帳簿も正確だろう。


「了解いたしました、貴社の営業はこのままお続けください。市民生活に支障をきたすと困りますからね。

 南の大陸へ輸出している精霊球に関してですが、取引台帳上でサーケヒヤー国内で収集したものか、カンヌールやカンアツから不正に取得したものか、区別はつきますか?」


 先ほどコピーしてもらった取引明細の台帳で区分ができれば、その出元を追及していけるだろう。カンヌールでは魔法軍担当の将軍の不正により25年で廃棄という形になっていたが、カンアツはどうだったのか・・・そのあたりも調べていけばいい。


「それは・・・台帳に調達先が記載されているので、大丈夫と考えます。」


「サートラが生きていくために生命石が必要ということでしたが、生命石の在庫はどこに保管してありますか?この商社内に、あるのでしょうか?」


 まずは文字通りサートラの生命線である生命石の在庫確認だ・・・サートラが狙うとすれば、その保管庫だからな。


「サートラが必要としていた生命石は、ここ十数年間は年に150gでして、それは半年ほど前に引き渡し済みです。ところがそれから3ヶ月後に症状が悪くなってきているということで、追加で50gの生命石を引き渡し、うちの在庫はそれでゼロとなってしまいました。


 本格的に養殖を始めたのは今からおおよそ20年前のことですから、南の大陸から生命石の輸入が始まるのは、予定通りの収穫が挙げられたとしても5年はかかります。実験的に試作していた生命石の在庫は、既に尽きてしまいましたからね・・・それまでの間、生命石はないということになりますね。


 以前は大口のお取引様とか相手には、生命石を供給することはあったのですが、ここ20年ほどはサートラの需要だけで在庫がひっ迫しておりましたので、一般向け販売を停止しておりましたから、大きな問題にはなりませんがね。なんでしたら、金庫を開けてお見せしますよ。


 そのほかにも以前から擬態石を毎年2石必要としていたようですね。こちらは、何の目的に使用しているのか、全く分かっておりません。他人に変装するために使用しているにしても、取り扱いが悪いのでしょうかね?

 こちらはまあ・・・潤沢とまではいきませんが、在庫はございますよ。」


 ナガセが、生命石在庫は皆無だと答える。嘘はないだろう・・・金庫を開けて見せるとまで言っているのだしな。金庫以外に隠して平然としているにしても、さほど大きなものではないし、この大きなビル内に隠されても、見つけられるものではないから、信用するしかない。ここまで来て嘘を言っても仕方ないだろうしな。


「150gはサートラが生きていくために必要な生命石で、追加の50gは15歳まで若返るときに一部使ったのでしょうが、そうだとしても、あと8ヶ月ほどで追加の生命石が必要となりますね。」

 トオルが、小声で耳打ちしてくる。


「わかりました・・・恐らく養殖でできる生命石が南の大陸から輸入できるようになるまでのつなぎとして、カンヌールの百年ダンジョンとか300年ダンジョンから産出されるであろう、生命石をあてにしていたのでしょう。恐らくカンアツ進出も、目的は生命石。


 彼女が潜んでいるような場所に、心当たりがありますか?」


 ううむ・・・やはり生命石目的で、カンアツやカンヌールへ進出。そうしてある程度地盤を固めた後は王宮へ入り込もうとしていたわけだ・・・それもこれも、南の大陸から生命石が供給され始めるまでの、5年間のつなぎのため・・・。


 段々と分かって来たな・・・生命石がなければ、サートラの命に係わるわけだからな。狂暴にもなるわな。

 それにしても・・・サートラがどこへ行ったのか、ナガセなら知っているかもしれない。


「うーん・・・どうでしょうね・・・潜むとするなら・・・それこそダンジョンでしょうかね?サートラは元々は冒険者だったと言っておりましたからね。ダンジョン内に深く入り込んでしまえば、なかなか見つかるものではないでしょう。


 ですが・・・先ほど申し上げました通り、擬態石も大量に所持しておりますからね。もしかすると、この大陸中の至る所に隠れ家を作って、そこに擬態石を隠しているのかもしれません。

 そうして擬態してしまえば、一般市民と混じり合って区別がつきませんよ。まず見つからないでしょうね。」


 ナガセが自信満々に答える。そりゃそうだろうな・・・だがそうなると、封魔石を持っている俺が直々に全国を回って、魔法を封じたうえで全ての人の面通しを行う以外で、サートラを見つける術がないということになってしまう。


「今現状はナガセさんのほかに・・・サートラに身内というか・・・家族はいないということでよろしいのでしょうか?」

 トオルが突然口を開く・・・エーミがいるだろ?


「はあ・・・先ほど申し上げました通り、エーミという娘を授かったとは聞いておりましたが、その子がどうなったのか分かっておりません。ほかには家族は・・・いないはずですね。もともと人を信用しない一匹オオカミのような性格でしたから、近しい友人などもいないと思いますよ。」


 ナガセが、首をかしげながら答える。そうだろうな・・・質問の意図は俺にもわからない。


「そうですか・・・了解いたしました。長らくお邪魔いたしました。1度だけの捜索ではすべて把握することは難しいため、持ち帰った取引の資料を精査させていただき、後日またお伺いさせていただきます。よろしくお願いいたします。」


 トオルが、笑みを浮かべながら頭を下げる。たしかに、今日のところは、これ以上ここにいても事態の進展は望めないだろう。コピーしてもらった台帳の確認をしてから、不明点を確認していく必要性がある。


「もちろん、こちらでわかることは全てお話いたしますし、資料でも何でも提出させていただきます。協力は惜しみませんので、なにとぞこの会社の存続を許可願います。」


『ゴツン』ナガセはそう言って、応接のテーブルに頭をぶつけるほど深く頭を下げた。根っからの商社マンである彼には、会社存続が第1使命なのだろう。


「では、失礼いたします。」

 席を立ち社長室を後にして、廊下の突き当りから階段を上がっていく。


「では、失礼いたします。」


「社長は、いつでもアポなしでお越しくださいと申しておりました。」

 ビルの屋上で美人秘書に挨拶して、ミニドラゴンの背の御者席に乗り飛び立つ。


『バサバサバサッ』街中を飛行して王宮中庭へ降り立つ頃には、すでに日が沈もうとしていた。


「はあー・・・やはりサートラを捕まえることはできなかったな。それでもサートラの悪事の理由が分かってきた。永遠の命を得るために、生命石が必要ということのようだ。だが、そこまでして生き永らえようとしているのはなぜだ?


 確かに、不老不死というのは万人のあこがれではあるのだろうが、犯罪を犯してまで・・・とは普通考えないだろう。生命石の話を聞いたときには、大金持ちなら若返りを繰り返して永遠の命を得ているのだろうな・・・と考えていたのだが、実際はそうではなく、やはり寿命には逆らえないということのようだ。


 それでも無理やり大量の生命石を服用することにより、何とか命をつないでいる・・・そのために犯罪行為をも辞さないということのようだが、一体何のために?


 大陸を統一して統一王朝の王として振舞うことも可能なのにそうはせず、ただ生き延びるための生命石を得るために活動している。永遠の美・・・を欲しているとでもいうのか?」

 御者席から降りながら、なぜか納得できないサートラの行動に対して、ため息交じりに言葉が出る。


「サートラの目的は分かりません・・・やはり捕らえて、直接本人から聞き出すしかないでしょう。」

 トオルもミニドラゴンの背から降りながら答える。


「それはそうなんだが・・・サートラがどこにいるのか、実の息子であるナガセも知らないと言っていたじゃないか。擬態石をたくさん所持しているから、擬態して別人に成りすませてしまえば、まあ見つからんだろう。

 封魔石は一つしかないし、まず見不可能だろうな。」


 サートラの居場所が分からない上に擬態しているだろうから困っているというのに・・・トオルは話を聞いていなかったのか?


「いえ・・・擬態石で、別人に成りすましているという可能性は低いと考えます。」

 ところがトオルは、平然と言葉を返す。


「それは・・・どういう理由だい?だって・・・擬態石を毎年2石ずつ取得していたんだぞ!貴重な石だから、一度に大量ということはできなかったのだろうから2石づつなのだろうが、それでも以前からと言っていたから、数百石・・・いや千石近く持っているのじゃないのか?


 たくさん持っているからどうということでもないのだが、それこそ至る所の隠れ家に置いているというナガセの考えを、俺も支持するぞ・・・姿を替えられていたら、まず見つからんさ・・・。」

 さっきナガセが難しいと、説明してくれたばかりじゃないか・・・。


「いえ・・・そうではないでしょう。恐らく擬態石を使っても、サートラは擬態できないのだろうと考えております。


 ショウ君からお聞きしましたが、王宮での尋問の際に、サーキュ元王妃が擬態石は粉にして飲み込むと、1度だけ別人に変われるが戻れないとおっしゃっていたそうですね。しかも、以降は擬態石を使っても擬態できなくなってしまうと・・・。擬態石を使っている者同士、注意が必要と教えていただきました。


 恐らくそれはサートラ自身の経験からの言葉でしょう。サートラのあの美貌は、もしかすると擬態石を粉して飲み込むことにより、得られたものなのかもしれません。そうして生命石同様、数百年間もの間その美貌を維持するためには、定期的に擬態石を粉にして飲み込む必要性があったのではないかと考えます。


 つまり、擬態できないのです。サートラは15歳のサーラの姿のままで、擬態不可ということになります。

 15歳は一応独立できる年ではありますが、あのような稀に見る美少女が一人だけで生活することは、目立つだけに難しいでしょう。」


「あたしだって・・・15歳になってすぐに養護施設を出て冒険者になろうとしたけど、一人じゃ部屋も借りられないし、お金もなかったから養護施設の先輩だった人を頼って、そこに居候させてもらっていたの。


 独立できる年だからって、一人だけで簡単に生活できるようになるわけじゃないわ・・・それでもあたしの場合は、養護施設が身元保証人になってくれたから、冒険者になることができたのよ・・・冒険者の登録費用だけは必死にアルバイトして、お金を貯めていたんだからね。」


 トオルが王宮内を歩きながら淡々と説明すると、ナーミも同調する。確かに少女が一人で生活するのは、容易ではない・・・特に美しければなおさらだ・・・。


「そうなると街中に潜むことは難しいでしょうから、ナガセさんがおっしゃっていた通り、元冒険者という経験を生かして、ダンジョン内に潜むことが考えられます。ところがナーミさんがおっしゃったとおり冒険者になるにしても、登録の名前は自由ですが、本人確認資料が必要となります。


 サーラとしての戸籍は、犯罪者としてすでに監視されているでしょうから登録不可でしょう。ギルドのダンジョンは施錠されて常に管理されていますから、勝手にダンジョンに入ることはできません。


 故に・・・人里離れた山の中に潜むか・・・若しくはギルド未管理ダンジョン内にでも潜伏するしかないということになります。


「おおそうか・・・だったら・・・カルネのダンジョン構造図の中から未管理ダンジョンを探し出して、そこを徹底調査すればいいことになるな?後は山狩りだが・・・こちらはサーケヒヤー軍にでもやらせればよさそうだな・・・数万の兵士をただ遊ばしておくのもなんだしな・・・。」


「そうですね・・・サーケヒヤー軍がマースに駐留していると、やはりこちらとしては脅威ですから、彼らを分散させる目的としても山狩りに参加させるのはいいかもしれませんね。」

 トオルもこっくりとうなずく。確かにそうだ・・・自然と足が速くなっていく・・・。


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