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突然の襲撃

 最初のクエストから2週間、俺とトオルの2人だけのチームは、その間に5つのクエストをこなしていた。

 さぼっていたって?いやそうではない、クエストの中にはミニドラゴンの馬車で1日かけた先のダンジョンなど、往復含めて3日がかりのクエストも多いため、これでも最速なほうだ。


 C+級冒険者で冒険者の袋ばかりか馬車まで持っている冒険者は俺たちくらいで、ほかの冒険者たちは徒歩で重いキャンプ道具を担ぎ、1週間から十日かけて一つのクエストをクリアすると言っていたから、凄まじいハイペースといっていい。


 遠くのダンジョンの場合はその分成功報酬が高く、一般冒険者たちは当然実入りのいい遠いほうを引き受け、攻略成功した後は、のんびりと残り半月を過ごすといった生活のようだ。


 適正レベルのクエストを、適正配置(剣士に忍びに弓矢使いと僧侶など)の適正人数(4人程度)で対応さえすれば、ほぼ間違いなく攻略できるようで、クエスト失敗で期限までにパーティが戻らず、上級職が武器や装備の回収に向かうことは、ごくごく稀なようだ。


 命がけの商売と言われる冒険者と言えど、背伸びさえしなければ、それほど命の危険はないと言える。

 そのため2人だけのチームでクエスト申請する俺たちに対しては、ギルド側でも当初はためらっていた様子だが、その後の実績から評価を上げてくれた様子だ。


 攻略済みのダンジョンはそのまま保存され、1年程度経過してから冒険者に開放されるらしい。これを2次クエストという。(攻略されたダンジョンにすぐに入って前のパーティが打倒した魔物の死骸をさらう通称ハイエナとは異なる。他に有力パーティと一緒に入って、ボス以外の魔物を倒す露払いというのもあるらしい。)


 前回攻略時に打ち漏らした魔物を倒したり、新たに発生した若い魔物を退治して、それらの肉や毛皮をいただく正規クエストでC級に値する。精霊球回収後10年経過するまで、ダンジョンごとに年に1度解放される。


 確かに猛進イノシシほどではないにしてもホーン蝙蝠の肉はなかなかうまかったし、巨大ナマズの肉も絶品だった。(巨大ナマズはボスなので、無理だろうが……)ブラックゴリラの毛皮は防寒着向けに重宝されるそうで、初級冒険者たちは魔物との戦い方を学び、それなりに稼ぎながら経験を積むわけだ。


 ほかにもダンジョンの奥深くでは、地上には生えないキノコや山菜などもゲットできる。これらは普段魔物たちの食料となっているようだが、珍味として高値で取引されるだけにもったいないと言えばもったいない。


 初級冒険者たちを育てるためにも、攻略済みのダンジョンが増えることは喜ばしいと、ギルドも認めてくれたわけだ。何せC+級以上の冒険者たちは、月に1度くらいしかクエスト引き受けないそうだからな。


 元S級冒険者だったカルネの見立てでは、王宮の剣術指南役であるトーマが冒険者A級で、カッコンの師範代のトオルは冒険者B級といった評価だったのだからな。実力的には現在クラスのC+級より、もう少しは上なのだろうと感じている。そういった評価は実績を積んであげていけばいい。


 まあ、それもこれも、カルネが写させてくれたダンジョンの構造図があればこそともいえるのだが……ダンジョン内の罠や最短ルートなど、すべて図解入りで把握できるのだ。これらを清書して本にして売り出せば、高値が付くと言っていたが、それは間違いないだろうと思う。まさにカルネ様様だ。


 今日は久しぶりの近場ダンジョンで、ミニドラゴンは置いたまま、徒歩で目指している。


 白樺のような幹が白くて下枝がほとんどなくスラっと高く伸びた木々が、道の左右にきれいに配置されている並木道をトオルと2人でゆっくりと歩いていると、どこかの観光地へ遊びに来たのかとも感じてしまうほどのいい景色だ。山間の村のギルドを最初の拠点にしてよかったとしみじみ感じる。これもカルネのおかげだ。


『ヒュッ……タタッ』すると突然目の前に、小さな影が出現し、反射的に身構える。この辺りはコージーギルド管理下であり、ダンジョン以外の魔物は全て駆逐済みのはずなんだが……。


「トーマ・アックランス3世だな?父の仇!覚悟!」


 目の前の影は魔物ではなく、人間の女の子……しかもよく見ると、目鼻立ちのはっきりとした美少女だ。

 女の子は自分の体とほぼ変わらないくらいの大きな弓を構え、矢をつがえたまま俺に照準を合わせているようだ。ううむ……一体どうした?


「確かに俺の名はトーマだ……今はワタルで通しているがな。

 父の仇って?何かの誤解じゃないのかい?あっと……そっそうか……タームの娘さんなのかな?


 だがしかし、あれはスートとタームが悪い。俺たちを襲って精霊球を奪おうとしたわけだ、だからギルドにお願いして、捕まえてもらった。腕は切り落としてしまったが、くっつかなかったか?だとしても恨むとしたら逆恨みでしかない。


 彼らは、初級冒険者たちをダンジョンへ連れ込んでは身ぐるみはいでいた悪党たちだから、自業自得のはずだがね……ギルドに行って確認すればわかるはずだ。」


 もしかするとタームに娘がいたのかもしれない……いてもおかしくはない年に見えたからな。

 かわいそうだが、彼らの件は正当防衛だし、仇として狙われる覚えはない。


「ターム……スート……何を言っている?話をはぐらかそうとしても無駄だぞ。

 カーネ・トルビニーニョの名を、忘れたとは言わせんぞ!」


 女の子は、矢をつがえた弓を目いっぱい引いた状態で、油断なく構え俺のことをにらみつけている。

 いつ矢が放たれてもおかしくはないし、また、弓を目いっぱい引いた状態で長く保持できるということは、それだけ訓練も積んでいるということだ。


 肩まである長い黄色の髪に淡い茶色の帽子をかぶり、濃い緑のシャツに茶色のベストに緑のスラックスを履いて、恐らくは森林や草原での保護色を狙っているのだろう。左胸のところには黒い革の胸当てをつけているところが、女の子らしい。


 忘れるも何も……トーマが尊敬しやまない剣術の……そうして今や冒険者としても師匠であるカルネの本名じゃないか。


「かっ……カルネの仇って?カルネは不治の病に侵されて死んだ……治療に関してはそれこそ国中の名医にお願いして診てもらったのだが、最後まで原因も分からず、体を蝕まれながら死んでいった。


 それでも人生に悔いはなかったと、明るい笑顔で旅立っていった。仇も何もないはずだ。

 そもそも君は一体誰だ?」


 カルネは不治の病に侵され壮絶な死を遂げた……いかなる薬も受け付けず日々衰弱していく中で、それでも明るく楽しそうに冒険者時代のことを、毎日話してくれた。

 最期まで看取ったトーマに対して、恨みを抱かれるような状況ではなかったはずだが。


「うるさいっ……黙れ黙れ!言い逃れようとしても無駄だ!


 カーネには旅の途中で知り合って、親密な中になった恋人がいたんだ。そうして娘もな。

 ところが突然カーネから手紙が来て、とある豪族に仕官して冒険者を辞めたと書いてあった。しかも近々現地で結婚するとも……そうして娘のことは心配するな、養育費として毎月送付するとなっていた。


 恋人は悲しんだが、もともと根無し草の冒険者に恋した自分が悪いと納得し、カーネを責めることもなく分れた。その後は自分の稼ぎと送金されてくる養育費で何とか生活をやりくりして娘を育てていた。

 だがしかし、娘の成人までは欠かさず送ると言っていた養育費は、途中から送付されることはなくなった。


 それでも母は恨み言も言わずに、女手一つで私を育ててくれたが、無理がたたって病魔に侵され他界した。

 私は父と同じ冒険者になって、事情を探ろうとしていたのだが、父がカンヌールのアックランス家に仕官して、そこの息子であるトーマの剣術指南役になったことをつかんだ。


 その地で妻を娶り定住生活を送ることになったこともな。


 ところがそれからいくばくもしないうちに父が不治の病に侵されて亡くなり、あろうことか父の教え子であったはずのトーマが、父の元妻と娘を引き取ったというではないか。


 父の妻を見初めたお前は、邪魔になった父を始末しようと、不治の病に見せかけて毒殺したのだろう!違うのか?しかもようやく手に入れた妻さえも数年で飽きてしまい、今度は城も売り払い冒険者になったと聞いた。

 コージーギルドに冒険者登録したことをつかみ、急ぎ早馬でやってきたのだ。


 お前の悪行もここまでだ!覚悟しろっ!」

 美少女は、さらに引手に力を込める。限界まで引いている様子だ。


 ううむ、途中から恋人が母になり娘が私に変わったが、どうやら自分のことを話しているのは間違いない。

 そういやいたな……冒険者時代に知り合った、各地の恋人の自慢話は常々聞かされていたが、一目ぼれしたサートラを娶るために全て清算したと言っていた。


 だがしかし、そのうちの一人がカルネの子を宿していたことが後で判明し、子供の養育費は毎月欠かさず送金していると病床のカルネから聞かされた。


 なんと妻のサートラが全てを理解してカルネに代わって送金し続けてくれているらしく、俺が死んだ後のことも安心だと言っていたのを、そんなことを言わないで早く元気になってくださいと励ましたものだ。


 その後カルネがなくなった後は、トーマとの事実婚となるわけだが、トーマはカルネの元恋人の娘のことも覚えていて、定期的に養育費のことをサートラに確認していたが、毎月送金していると彼女は答えていた。


 ところが俺が転生して城を売り払い冒険者になると宣言して、事実婚(というか表面上の結婚といったほうが的確か)を解消してサートラたちを城から追い出した後に、サートラたちがいた部屋からカルネの手紙の束を発見して驚いた。全て未送付の、元恋人の娘に宛てたものだった。


 サートラは、カルネの財産から本来送るべき元恋人の娘への養育費でさえも着服していたのだ。

 これはまずいと思い、城を売り払って得た金の大半を娘宛に送金したのだが、間に合わなかったということだろう……残念だ。


「まてまてまてっ……養育費の件に関しては謝る。カルネの元妻だったサートラが養育費を着服していたんだ。と……おっ俺はサートラの言葉を信じて、カルネの元恋人の娘には、毎月養育費が送金されているものと考えていた。


 しかもサートラを見初めて邪魔者のカルネを始末しようとしたなんて、とんでもない誤解だ。と……俺はサートラのことは好きでも何でもなかったが、破産寸前の伯爵家に経済支援をしてくれるという条件で、サートラと娘を受け入れた。実際は騙されていて、サートラは一銭も金を入れてはくれなかったがね。


 そんなサートラには愛想をつかし、事実婚を解消して実家へ帰らせ、俺は冒険者となって旅に出たわけだ。

 その時に城を売った金の大半をカルネの元恋人の娘宛に送金したのだが、間に合わなかったということだね?」


 今にも矢が放たれようとしているのを、何とか押しとどめようと、早口でまくし立てる。人と会話するのは苦手な俺だが、命がかかっているとなると、火事場の馬鹿力が発揮されるのかもしれない。


「うるさいっ……問答無用!」

『シュッシュッ』『キンッキンッ』説得もむなしく矢が放たれ、仕方なく剣で捌く。

 かなり威力のある矢だ、薄いステンレス製の俺の鎧など、下手すると貫いてしまうのではないか?


「地震!」

 精霊球を左手で握り締め、指を一本立てて引っ込めもう一度人差し指を立ててから唱える。


『グラグラグラッ』『シュッシュッ』『キンッキンッ』バランスを崩そうと、彼女の足元に地震を発生させるが、揺れを起こしても彼女の照準は狂わない、正確に俺の急所を狙ってくるので、剣で弾くしかない。


『シュッシュッ』『バシュッバシュッ』トオルがクナイを投げつけるが、女の子は弓を使って器用に弾いた。

 小柄な体に似合わないような太く長い弓は、彼女の盾の役割も果たしているのだ。かなりの手練れと言える。


「水弾!」

 トオルが放った高速の水滴が、彼女の目じりに命中して出血した。


『シュッシュッ』『グザッグザッ』今度はトオルに向けた矢が、彼の両肩に命中した。

 矢先を向けられて、すぐに短剣を構えようとしたが間に合わなかったようだ。


「あたしの目的はトーマだけ……あなたには恨みはないから殺さないであげるから、おとなしくしていて。」


 美少女は目を細めた冷たい視線で、うずくまるトオルを眺める。トオルは目の細かい鎖帷子を装着しているので、元から矢は深くまでは突き刺さらないはずだ。

 殺さないなんて言っているが、装備がなければ肩口を貫通していただろう……恐らく口先だけだ。


 トオルも俺も何とか手荒な真似をしたくはないと力を加減しているので、こちらからの攻撃は簡単にかわせるが、向こうからの攻撃は強烈で防ぐのも精いっぱいだ。

 本来なら百発百中のトオルのクナイや水弾が命中しないのは、決して彼女の腕が勝っているからではないと思う。


『シュッシュッシュッシュッ』『キンッキンッキンッキンッ』剣で弾いてはいるが、彼女から放たれる矢に勢いがついてきた。このままではじり貧だ……先祖伝来の盾は冒険者の袋の中に入れてあるので取り出している暇はない。俺は魔法も使いたいので、片手に盾を持ちたくはなかったのだ。


「ちいっ!」

 恐らく切れた目じりから血が目に入ったのだろう、美少女の矢攻撃が一瞬止まった。


「脈動!」

 その瞬間、呪文を唱え、立っている地面を瞬間的に膨張させ、その勢いに合わせて高く遠くへジャンプする。

 着地点は彼女のすぐ横ではなくて、彼女を通り過ぎた1m程奥。


「動くな!」

『チャッ』背後から腕を伸ばして、彼女の首筋に剣を触れさせる。


「弓を放して、両手を高く上げろ!」

「うるさいっ!殺せ!」

 武器を捨てさせようとするが、彼女はいうことを聞きそうもない。


「仇を討てずに、このまま死んでも悔いはないのか?

 お前も冒険者の端くれなら、チャンスが巡ってくるまで辛抱するということは、十分承知しているはずだ。」

 首筋に剣を当てたまま、再度説得する。


「ちいっ……覚えておけよ……。」

『ボトッ』しぶしぶ美少女は弓を、すぐわきの草わらに投げ捨て両手を上げた。やれやれ……ほっとした。


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