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サートラン商社へ

「人間の方は生身の体だから精霊球と違い疲れるわけだ……毎日毎日制限回数ぎりぎりまで無理をしていると、疲労が蓄積して魔力の回復が遅くなる為、短い休息では魔力が十分に回復していない場合がある。それでもどうしても魔法が必要となると、人は無理してでも呪文を唱え魔法効果を発揮しようとしてしまう。


 疲労が蓄積することにより、制限回数内でも魔力が枯渇してしまう場合があるわけだな……。


 これは精霊側が想定していない異常事態だから、精霊が2度とこのような異常事態を発生させないために、リミットをもっと手前に……魔力総量の90%のところを80%とか70%とかに設定してしまう場合もあれば、魔力自体を復活させない場合もありうる……精霊は術者の保護を第1に考えるからな。


 そうなると2度と魔法を使えなくなる場合だって起こりうる。だから、きちんと治療して回復しましたよ……これからは問題ありませんよ……ということを精霊たちにアピールしないといけないと言われているわけだ。司教が治療することにより、次からは無理をしないよう節度を守らせるわけだな・・・。」

 ほう……トークが行っている治療というのは、精霊たちへのアピールだったのか?


「更に、きちんと治療を受けることにより、魔力総量も向上する場合が多いわけだ……折れた骨がより太くなって繋がるように、これは術者自体による……生体としての反応なので、精霊活動とは別物だがね……。


 お前さんの場合は、ただ単に精霊球の使用回数制限に引っかかっただけだろう……どうれ……とりあえず回復魔法をかけてやるから、それから魔法を試してみるといい……目が赤いところを見ると……寝ておらんのだろ?既に8時間以上経過しているだろうから、精霊球の制限は消えているだろう。」


 トークがそう言いながら俺のオデコと胸のあたりに順に右手をかざすと、ふわっと温かくなりそれまで体中を覆っていた疲労感が消えていった。


「岩弾!」

『バシュッ……ゴンッ』試しに岩弾を唱えると、傍らの草地にこぶし大の石が突っ込んでいった……。


 そうか……確かに精霊球を取得した時分は、毎日が使用制限とのせめぎあいだった……そのうちに、使用可能回数が飛躍的に向上し、以降は全く意識もしていなかった……ショウの魔力が枯渇したときは、6、7層目の階層を連日長時間かけて探索して、疲れすぎて倒れることもあったからな……。


 ショウは何も言わなかったが、毎日限界まで頑張っていたはずだ……だからか……。


「彼らの治療に3日かかるが、お前さんはその間付き添いをするか?それとも一旦帰るか?まあ、帰るにしてもせっかく肉をもらったんだ……すぐに焼くから食ってから帰るがいい……腹も減っているだろ?」

 マースへは川伝いに帰れば夜でも迷わないので、とりあえず教会で晩飯を食べてから戻ることにした。



『バサッバサッバサッ』教会で当番の牧師が焼いてくれたヒレステーキに舌鼓をうち、魔法兵士たちのことをトークにお願いしてからミニドラゴンで引き返す。すでに日はとっくに落ちていたが、マーレー川沿いに飛び、広いマース湖上で家のある浮島を見つけるのは困難なため、ライトアップされている王宮中庭へ直接降りた。


「おお、ワタル殿……戻られたのですかな?魔法兵たちの状態はいかがでしょうかね?


 ようやく応援部隊との引継ぎも終わり、我々は休憩に入るところですぞ……歩兵の給仕係と王宮のコックたちで給仕を行い、昨日はサーケヒヤー元王たちの食事は済ませておりますゆえ、ご心配なく。では、我らは王宮のホールにて休みます……。」


 王宮につくと、丁度ホールの入り口でセーサたちと出会った。サーマや他の兵士たちとシャワーでも浴びていたのだろう。すでに甲冑は脱いで、作務衣姿で歩いてきた。丁度夜が明けかけてきたところなので、すごいな……ほぼ丸2日貫徹だ……。


「そうか……ご苦労様でした……少し休ませてもらって体力もだいぶ回復したから、俺はこれから本殿周辺だけでも見回りをしておくよ。サートラのことが気になるからね……。


 魔法兵士は、知り合いの司教にお願いして治療していただいている。3日後に迎えに行けばいいことにしてあるから、安心してくれ。ではおやすみなさい。」

 笑顔で会釈してからセーサたちは、多くの兵たちが待つホールの中へ入っていった。



『バッサバッサバッサッ』まずは王宮中庭の見回りをしていたら、夜が明けるのを待ちかねていたかのように、大型の飛竜が王宮中庭に着陸した。


「トークさんの教会へ行ったのではなかったのですか?」

 ジュート王子の飛竜のようだ……トオルが降りてきて俺の姿を認めて怪訝そうに首をかしげる。


「ああ……魔力が枯渇した魔法兵士2人と一緒にトークの教会へ行った。2人は確かに魔力が枯渇していたが、どうやら俺の方は勘違い……ただ単に1日の魔法使用回数制限がかかっていただけだったようだ。


 トークに回復魔法をかけてもらって、夜通しかけて戻ってきたところだ。ちょっと恥ずかしかったが、今はサーケヒヤー王宮警備が最重要だからな……すぐに引き返してきた。


 2人は3日後に迎えに行けばいい……どうせ、週末はみんなでトークの教会へ行くことになるだろ?その時にジュート王子様と一緒に行けばいいさ。」


 魔力の枯渇のことは士気にかかわるから皆には内緒に……なんてことまで言っていた割に、ただの勘違いとは……恥ずかしいことこの上ないのだが……小声でトオルにだけ説明する。


「そうですか……でもよかったですね……これでサートラン商社へ捜索に向かえますね。」

 トオルが少し微妙な笑みを見せる。


「ああ……だがまだ夜が明けたばかりで、時間が早いからな……まずはもう一度見回りを……と考えているのだが、トオルたちは十分休んだのか?」


「はい……12時間は眠りました……皆さん十分休息は取れていますよ。でも、また、見回りですか?」

 トオルが、少しあきれた風に尋ねてくる。


「ああ……やはりサートラが気になるからな……いつ瞬間移動してきて王宮内に忍び込んで、サーケヒヤー王たちを暗殺しないとも限らない。催眠とやらを仕込んでいるだろうから、万一敗戦したときの行動も決められている可能性もあるが、自殺させることはできないわけだろ?


 だったら、それぞれの居室内に閉じこもっている限りは大丈夫だろう。心配なのはサートラ自らやってきて、彼らを手にかけることだ……サーケヒヤー王の話を聞いている限り、彼らはサートラのことをかなり詳しく知っている様子だからね……口封じを行う可能性は高い。


 封魔石を持っている俺が見回りをして、サートラの侵入を防ぐのが一番だ。」

 3竜を従えて、サーケヒヤー国軍をも制圧したことは間違いがないのだが、それでもなおサートラは脅威だ。


 サーキュ元王妃の誕生日会でのサーラ……実はサートラだったが……の体術は、恐らくトーマをもはるか凌ぐだろう。そのまま1対1で戦って勝てる相手とは思っていないのだが、だからと言って放っておくことはできない。彼女が、長年に渡ってこの大陸中で起こった様々な陰謀を、陰で糸を引いていた可能性が高いのだ。


 諸悪の根源ともいえる。

 今がサートラを追い詰める大チャンスなのだ……この機を逃してはいけない。


「わかりました……サーケヒヤー王宮は広いですからね……手分けして見回りましょうか?

 ジュート王子様はどうされますか?」

 トオルがジュート王子へ振り返る。


「見回りですか?そうですね……サーケヒヤーの王族たちはまだ眠っておられるでしょうから、私も見回りに御一緒させてください……十分休息できましたので、大丈夫です。」


 ジュート王子が笑顔で答える……そうだ……まだ夜が明けたばかりで、夜勤の兵士が起きているのみの時間だからな……。


「そうですか、では……私とワタルのグループと、ジュート王子様とナーミさんとショウ君の組み合わせでよろしいでしょうかね?」

 トオルが組み分けを提案してから振り返る。


「ああ……そうだね……万一サートラを見つけても、決して単独では戦わないようにね。必ずグループで対処する事。そうして周りにも知らせること……大きな火球を王宮窓の外に向かって発射すれば。周りでも気づけるだろう。少ないとは言っても王宮内には警護の兵たちがいるわけだから、必ず大人数で対処する事。


 サートラは相当な使い手だろうから、2,3人じゃあ止められない可能性が高いからね。」

 ジュート王子は剣士だから、ナーミとショウと一緒の組み合わせは最適だろう。俺も剣士だが、俺もトオルも飛び道具は使えるからな……。サートラの危険性を繰り返し強調しておく。


「うん、わかった……。」

「わかったわ……絶対捕まえてやるんだから……。」


「サーラが……いまだに信じられない気持ちですが、もし出会えば冷静に対処して、捕まえて事情を聞きだしたいと考えております。」

 ジュート王子は未だに複雑な心境なのだろう……婚約寸前までいっていたのだからな……無理もない。


 その後、10時ころまでかけてサーケヒヤー王宮内をくまなく捜索したが、サートラの姿どころか、異常も発見されなかった。サーケヒヤー王家には給食担当の歩兵とコックたちがサンドイッチを朝食として出したので、俺たちも見回りながらサンドイッチをつまむことができた。



「ジュート王子様……飛竜部隊を2班お貸しください。これから商社ビルの捜索を行いたいと思います。恐らくサートラは、すでに逃げてしまっているでしょうが、それでも千人規模の社員全てを連れてということはないでしょう。彼女の陰謀を暴くチャンスです。」


 早朝の王宮内の見回りを終え、ジュート王子に兵を借りることを願いでる。千人相手なので百名は欲しいところだが、王宮の警備を考えるとそうも言っていられない。最低限の人数で向かうこととした。


「はい、わかりました。当直の兵に確認したところ、セーサ近衛隊隊長とサーマ近衛隊副隊長の部隊は、丁度休んでいるシフトのようですから、応援で駆け付けた飛竜部隊とともに向かってください。


 私は電信を使って、サーケヒヤー国の今後に関して、カンヌール王宮と相談しておきます。まさか、カンヌールで統治するわけにはいかないでしょうからね……恐らく王様は、他国を占領することは望まれないでしょう。」


 すると、ジュート王子がとんでもないことを言い始めた。サーケヒヤー国が一方的に宣戦布告してきたとはいえ、サーケヒヤー王宮へ攻め込んで、降伏させたのだ……いわばカンヌールは戦勝国であり、サーケヒヤー国を占領できたわけだ……それなのに、カンヌールで統治しないって?じゃあ、どうするの?



 だがまあ、まずはサートラン商社の捜索が第一だ……コンテナをつかんだ飛竜2頭とミニドラゴンで、街中へ向かう。本来なら成獣の飛竜は街中へ入ってはいけないのだが、サートラが相当な使い手であるということと、サーケヒヤーでも魔物を飼育している場合に備えて、飛竜を連れていくことにした。


 聞いたところサートラン商社は高層ビルということなので、屋上に着陸すれば周りの一般市民も飛竜の姿を見て怯えることもないだろう。


『バサッバサッバサッ』ミニドラゴンで、1区画分丸々占めているであろう広いサートラン本社ビル屋上に、トオルとナーミとともに降り立つ。20階建ての、この世界では間違いなく高層ビルなのだからな……千人の従業員というのも頷ける。


 『ゴンッ』『ゴトンッ』続けざまに巨大な鉄の箱が屋上に並べられた。飛竜部隊のコンテナボックスだ。

『カチャッ……ダダダダッ』『カチッ……タタタタッ』すぐにコンテナボックスの後部扉が開き、兵たちが雪崩出てくる。


「ようし……サートラが苦し紛れにホーン蝙蝠やツッコンドルたちを放ちでもしたら、街は大混乱になってしまう。ショウと飛竜部隊の御者はそのまま待機していて、魔物たちが出てきた場合は、駆除に当たってくれ。


 突入隊は十分注意して、不意の攻撃にも耐えられるよう常に盾を前面に掲げておくこと。鎧の装甲を簡単に突き破る新型銃を準備している可能性もあるので、十分注意する事。いいね!」


 魔物対策として、竜たちには待機していてもらうことと、突入部隊には十分な注意喚起をしておく。サーケヒヤー王宮には重機関銃を配置してあったと聞いたからな……こちらの世界の通常の銃と同じ感覚で突っ込んでいったら、ハチの巣にされてしまいかねない。


「はっ……了解いたしました。直ちに、ドアの解錠にとりかかります。」

 飛竜部隊の班長は敬礼しながら緊張気味に答え、さらに指示を出すと、2名の兵士が屋上に突き出た階段降り口のドアへと駆けて行った。


 まあ、施錠してあるわな……当然だろう……さらにドアの向こう側に武装兵でも待機されていたら、面倒なことになるな……街中で白兵戦を繰り広げることになってしまう。


『カチャッ』と思っていたら、兵士たちが到着する前にドアがひとりでに開いた……自動ドア?いや、観音開きのドアではないのだがな……。


「お待ちしておりました……私、サートラン商社社長秘書のターミと申します。責任者の方はどちら様でしょうか?」


 ドアを開けて出てきたのは、スーツ姿の若い女性……しかもものすごい美人……ぱっちりとした目にすっきりと高い鼻すじ……美しく魅惑的な真っ赤な唇……膝上10センチくらいのタイトなスカートから覗く、むっちりとした太ももがたまらない……あっ……いや……見惚れている場合じゃないな……。


 そういや、ジュート王子が捜索させて頂くと連絡を入れておくと言っていたな……だから出迎えか……。


「はあ……ターミさん……ですか……?ワタルと申します……サートラを逮捕するべく、関係するサートラン商社の捜索をさせていただきたいと思います。」

 とりあえず名乗ってから、訪問の目的を告げる。


「そうですか……社長がお待ちかねでございます。どうぞこちらへ……。」

『カチャッ……カッコッカッ』美人秘書はくるりと身をひるがえすと、ドアを開けて階段を下りて行った。


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