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応援部隊到着

「食事の支度が整いましたよ……申し訳ありませんが、食堂などへ移動すると警固が大変なので、ここ謁見室で済ませていただきます。」


『ガラガラガラガラッ』トオルとナーミが大きな手押し台車を押しながら、謁見室へ入ってきた。台車の上にはいくつもの大皿や鍋が積まれている。


「厨房をお借りして兵士の分も一緒に調理して、セーサさんたちに配布していただいております。

 王家の方たちのお口に合うかどうかわかりませんが、おなかもおすきでしょう……お召し上がりください。」

 トオルたちと一緒に入ってきた召使の女たちが謁見室内にテーブルを並べ、大皿に食材を盛りつけ始める。


「調理には私も立ち会いましたが、毒等入っておりません。安心してお召し上がりください。」

 後から入ってきたトーセが、サーケヒヤー元王に告げる。


「そうか……最後の晩餐というわけだな……いただこう。」

 玉座を降りて、サーケヒヤー元王がテーブルにつくとともに、王妃や王子たちも従った。


「おお、これはうまいな……今まで食べたことのない味わいだ……なんという料理だ?」

「これは肉じゃがと煮魚に、ほうれんそうのお浸し……カンヌールの田舎料理ですぞ……。」


 料理を口に運びながら、嬉しそうにつぶやくサーケヒヤー元王にサーキュ元王妃が答える。ハムやウインナーなど加工肉とパンが主食のサーケヒヤーに対して、カンヌールのいわゆる和食は、珍しいのだろう。

 あえてカンヌール料理をお出しした、トオルたち……ナイス……。


「ほお……実にうまいし、やさしい味付けだな……。思えば料理もそうだが……この大陸の他国の文化など調べようともしておらなんだ……遥か進んだ文明の南の大陸ばかりに目が行っていたな……。

 文明の発達していない、劣った国などと見下してばかりで……歩み寄ろうと考えたこともなかった。


 それもこれもサートラのいうことを、すべて鵜呑みにして行った故よの……まあ、悔やんでも仕方がない……サーケヒヤー建国の最大の功労者のお言葉なのだからな……。」


 サーケヒヤー元王は、少し寂しそうに笑みを浮かべ箸をおいた。敗戦の将となったことを、後悔はしていない様子だ……意外とさばさばした性格なのかもしれない。



 俺たちにとっては祝勝会だが、元王たちを前にさすがに乾杯するわけにもいかず、それでもジュート王子がサーケヒヤー王たちを気遣い、明るく会話をしながら食事会は続いた。


 以外にも従順な態度で安心した……サーケヒヤー王の冷酷さや残虐さは、トーマの記憶の中にも多く残っていたし、さらにカンアツ国王から和平交渉してもらった時の通信内容からも、好戦的で人の言葉を聞こうとしない、独裁者を思い浮かべていたのだが……ちっともそんなことはないではないか……。


 敗戦して囚われの身となったから……借りてきた猫のようにおとなしくなっているのだろうかな?


「では……兵たちがご案内いたしますので、居室にてお休みください。」

 さすがに謁見室で雑魚寝というわけにもいかないので、それぞれ5名ずつの兵士が付き添い、召使たちと一緒に元王たちを居室へ案内していった。


「じゃあ、腹も満たされたことだし……王宮の中を巡回して回ろう。飛竜部隊は王宮本殿内外の主要個所を重点的に立番しているはずだが、人数が少なすぎてこの広い王宮では巡回警備までは手が回らないだろう……俺たちがやるしかない。


 捕らえた王族や将校たちを、取り戻されたら逆転もあり得るからな……あんな巨大な炎の玉の下では従順でも、収まってしまえば気持ちも変わりかねないからね。


 カンヌールの本隊が来るまでは、寝ずの番となりそうだな……エーミとナーミは疲れているだろうから、客間を借りて寝ていなさい。巡回は俺とトオルだけでも十分だ。怪しい雰囲気を感じたら、すぐに知らせるからそれまでは休んでいたほうがいい。ジュート王子様も一緒に休んでいてください。トオル……行くぞ……。」


「はい、了解いたしました。」

 夕食用の食器や鍋などをまとめ、台車を召使たちに任せてから、トオルが振り向いた。


「まってよ……徹夜ならクエストで慣れているから、あたしは平気よ……一緒に巡回するわ。」

 すると、すぐにナーミが一緒に行くと言い出す。


「私も平気です……ですが、私は本国とのやり取りがありますので、そちらに回らせていただきます。」

 ジュート王子はカンヌール王宮と電信でのやり取りのために、通信兵のもとへと駆けて行った。


「僕は……あまり自信はないけど一人だけだと怖いから……だから一緒に行く……。」

 ショウは自信なさそうに、それでも一緒に行くと言い出す……そりゃそうだろ……他国の王宮内の部屋にたった一人というのは、ちょっと怖い……。


「わかった……仕方がないな……だが……眠くなったらすぐに言ってくれ……無理をしないようにね……。」

『はいっ!』

 チーム全員で、王宮内を回ることとなった。


 まずは王の居室や謁見室がある3階を回っていくと、王や王妃に王子たちの居室の外には、それぞれ5名ずつの兵士たちが立番していた。彼らも寝ずの番の様子だ。


 兵士たちを慰労して2階へ降りていく。2階は大きな会議室のほかは客間がほとんどで、閑散としていた。

『ガチャッ……バタン』『カチャ……パタン』一つ一つドアを開け、中に兵が潜んでいないか確認して回る。


 こういう作業も輝照石があると簡単だ……何せいちいち照明のスイッチを探すのも、知らない建物では難しいからな……各部屋を見て回って、人影がないことを確認し終えて1階へ降りていく。

 1階は、食堂に大ホール……奥には召使や侍従たちの部屋があるらしい。


「おおワタル殿……どうやら寝ずの番となりそうですな……。」

 大ホールでは大きな体をしたいかつい顔の兵士が、大勢の侍従や召使たちをホール内の丸テーブルの周りに着席させていた。その人数たるやすごい……ホールの大半を占有している様子だ。


「コックや召使に侍従すべて合わせると、500名を超えるようですな……王宮警備兵たちと同様に、帰してしまおうと考えたのですが、彼らは王宮内に居を構えておるようでして……かといってこれだけの人数、個々に自由にさせるわけにも参りませんからな……仕方なく大ホールに待機を願うことにしました。


 食事は、トオルさんたちと一緒にコックたちが手伝って作り、我ら兵士と同じものを食べておりますからな、捕虜虐待ということではござらぬぞ……寝られないのは、我々も同じですからな……カンヌール料理は、評判がよかったですぞ……ガハハハッ。」


 サーマはそう言って豪快に笑う。そうだな……これだけの人数、自由にさせると、間者が潜んでいる可能性だってあるわけだ……目の届くところに置いておくしかない。


 中にはテーブルに突っ伏して寝ている者もいる様だが、大半は周りのものと談笑している様子だ。カンヌール兵士の対応を、彼らは受け入れてくれている様子だな。


 食堂や召使たちの居室なども順に確認して回り、怪しいところがないことが分かると、今度は王宮本殿の外へ出ていく。広い王宮内を巡回していたので、すでに夜が明けている……7,8時間はかかっているだろうか……。


「おお、ワタル殿……警戒は継続しておりますが、軍基地には、怪しい動きはなさそうですぞ……。


 夜間は飛竜の背に乗って基地上空を旋回しておりましたが、明るくなってきたので、こちらへ戻ってまいりました……全員基地建物内にて待機するよう、飛竜の上から指示して回っていたので、従ってくれているようですな……。」


 本殿の外では、緑色の口ひげを蓄えたいかつい顔の兵士が、飛竜隊のコンテナの上に立って、望遠鏡にてはるか向こうを監視しているようだ。そうか……夜は飛竜で巡回していたのだな……さすが抜かりがない。


「ああ……セーサさん……そうか……基地には動きはなさそうか……ちょっと安心した。


 まあ……こちらには王族のほかに、サーケヒヤー国軍の将校たちがいるのだから、まさか攻撃は仕掛けてこないとは思うけど、警戒は続ける必要があるね……本殿内は一通り見て回ったけど、侵入者もいない様子だし、みんなサーマさんたちの指示に従って、おとなしく行動してくれている様子だよ……。」


 一寸拍子抜け……とでも言おうか……意外と執拗な抵抗もなく、従順に従ってくれていることが、なんとなく不気味ではあるのだが、今のところは問題なさそうだ。


 後は……どれだけ早くカンヌールの本隊が到着してくれるかだが……飛竜部隊が先行で到着したところで、数百名規模だからな……数万の兵士を擁するサーケヒヤー国軍基地を平定するには全然足りない。


 いや……カンヌール軍全員が来たところで……軍基地や王宮を掌握することは不可能に近いだろう。はてさて……一体どうするのだ?戦争に勝ったとはいっても、無理やり敵王宮を攻略して、王族や将校を人質に取っただけだからな……彼らがいなければ、すぐにひっくり返されてしまう。


 一体どうやって、この状況を維持するのだろうか……頭が痛い……。


 カンヌール兵士が軍基地や王宮本殿内に常駐すれば、あの超巨大な炎の玉やゴーレムは使えないことは明白なのだ……圧倒的大人数のサーケヒヤー国軍兵士たちに取り囲まれてしまったなら……本格的にカンヌール軍がやってきてからのほうが、かえって維持が困難になりそうだ。


 如何にして、この状態を維持するのか……サーケヒヤー国からの宣戦布告に対して、先手必勝とばかりに特攻作戦を敢行したのだが……うまくいった先のことまでは考えていなかった。


 それほど成功確率の低い困難な作戦であったわけだが、いざこうなってみると、かえって厄介だな……セーサとサーマ含め、飛竜部隊やジュート王子迄捕えられてしまったら、今度はカンヌールが白旗を上げるだろう。このままでは……攻め込まなかったほうがよかったということになってしまう……。


 何とか、今の状況を維持できるような、強大な抑止力が必要だな……さて……どうしようか……。

 昼過ぎまでかけて、大きな王宮本殿の周りをつぶさに見て回ると、とりあえず異常はなくて安心はしたのだが、この先を思うと不安要素がどんどんと湧き上がってくる……頭が痛い……。


「では……昼食の準備に取り掛かります。」

 見回りが終わるとすぐに、トオルたちが本殿内へ消えていった。いくらコックがいるとはいえ、全て任せるわけにはいかないのが辛い……占領している側なのだからな……。


 昼食はハムや野菜などをパンにはさんだ、いわゆるサンドイッチだった。外で立番しながらでも食べやすく、好評だった。


「おや……?巨大ないくつもの影が……サーケヒヤー基地を取り囲みましたな……さらに一部がこちらに向かって……うん?あれは……?」


 昼食休憩後、王宮中庭に置いたコンテナの上から望遠鏡を使って基地を監視しているセーサが、首をかしげながらつぶやく……なんだなんだ?新たな脅威か?


「ご安心なされ……あれは飛竜のようですな……どうやら味方ですぞ……飛竜部隊。それにしてもなんだ?あの凄まじい数は……?」


 望遠鏡を眺めているセーサの視線の先を追っていくと、確かに無数の影が、こちらに飛来してくるのが見える。それは段々と巨大になってきて、肉眼でもやがて羽を持った黄金の竜であることが認識される。


「すっ……すぐにジュート王子様を呼んでくる……。」

 いくら飛竜部隊でも、到着は明日になるだろうと踏んでいたのだが、ずいぶんと早い……夜通し飛行してきてくれたのだろう……すぐに王宮本殿に入り、ジュート王子を探す。


「ジュート王子様……飛竜部隊が到着しました。」

「えっ……ずいぶん早かったですね……すぐに参ります。」


 ジュート王子は1階のホールわきの小部屋に無線兵とともに詰めていた。恐らく王宮内には無線室があるだろうが、暗号通信のコードが漏れることを恐れ、わざわざ別室にて通信しているのだろう。


 すぐにジュート王子とともに、王宮中庭へ急ぐと……すでに10頭を超える飛竜が中庭に着陸していた。

 ほお……飛竜部隊の大半を送ってきたのだろうか?主力を投入してくれることはありがたいが、今度は本国の警備が危うくなってしまうぞ……。


「これは……ミール中将……陸軍の最高責任者である、中将自らお越しとは……ご苦労様です。」

 ジュート王子が飛竜部隊の先頭に立つ、恰幅のいい中年男性に向かって声をかける。そうだ……陸軍中将だったな……圧倒的不利な戦況下でも兵士たちを奮い立たせるため、前線へ赴くと言っていた将軍だ……。


 カンヌール国軍の大将は当然ながらジュート王子で、総司令官は国王様だ。そのため、中将というのは実質的なトップなのだ。その、トップ自らやってくるとは……大丈夫かな……?


「それはもう……まさかとは思いましたが、少数の手勢だけで強国サーケヒヤーを陥落させたとお聞きしまして……さすがジュート王子様……と改めて感心いたしましたが、それを維持することは相当に難しいと考えましてな……すぐに飛竜部隊を仕立てて応援に参りました……。


 と申しましても……実は真の飛竜部隊は2小隊だけで……8小隊分はただの歩兵をコンテナに詰めてやってまいりました。主力をすべて投入してしまいますと、本国の警護が危うくなってしまいますもので……。


 飛竜も、大半は玉璽を使って従えた野生の飛竜です。依然としてカンヌール国に本来の飛竜部隊を待機させておりますゆえ、ご安心ください。


 玉璽を使って百頭の飛竜と、さらに150頭の地竜及び300頭の水竜を従え、地竜と飛竜はすでに到着しておりまして、地竜でサーケヒヤー国軍基地を取り囲み、サーケヒヤー軍基地には10小隊分の歩兵を置いてまいりました。軍基地の兵士たちには武装解除を命じてありますので、いずれ掌握できるでしょう。」


 なんと……玉璽を使って3竜を従えて救援に来てくれたのだ……やった……助かった……。


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