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陥落

「あっ……白旗が上がりました!……敵は降伏した様子です。」


 数分して、照準器を使って本殿の様子を見ている工兵が嬉しそうに叫んだので、急いで望遠鏡の焦点を合わせると、王宮本殿の前のポールに白旗があげられ、王宮の3階の窓からも白い布が振られているのが見えた。


「ジュート王子様……やりましたね……本当に降伏した様子です。全員そのまま王宮本殿内で待機するよう、電信で連絡してください。


 セーサさんありがとう……あなたのおかげだ。」

 本当にありがとう……優柔不断な俺では、未だ進展は望めなかったであろう。


「わしらが冒険者になりたての頃はな……荒くれが多くて冒険者同士の争いが絶えなかった。取り分のことや縄張り争いのような、不毛な争いをしていたもんです。対人関係の争いを解決するのは、まあ慣れているわけですな……年の功といったところですかな?


 ですが油断は禁物ですぞ……降伏するふりをしている場合もありうる……本殿へ乗り込んで、奴らの様子を確認する必要性がありますな……。申し訳ないですが……今しばらく、あの巨大な火球を維持してくだされ……わしが一人で行って確認します……なあに……30分もあれば……。」


 さすがに戦術に詳しいのか、セーサは降伏がフェイクである可能性を指摘し、一人で確認に行くと告げる。


「まずは本国にサーケヒヤー王宮陥落の報告を入れます。これで、カンヌールが攻め込まれる危険性はなくなりました……ありがとうございました……。」


 ジュート王子が本当にうれしそうに、笑顔を浮かべながら頭を下げる。本当によかった……各地で戦火が広まることを防げただけでも、本当にうれしい。


「セーサさん待ってくれ……この隙に逃げ出そうとするやつもいるかもしれないし、サートラが王宮内にいるかもしれないから、封魔石を持っている俺も一緒に行く……ミニドラゴンで行こう。

 ショウっ……もう少しあの火球を維持できるか!ちょっとこっちへ来てくれ。」


「うん……全然平気だよ……何発も打つのは大変だけど、そのまま保つだけだからね……ほとんど疲れない。」

 ショウは笑顔で答える。コンテナ近くに来てもらって見てみたが、顔色も問題はなさそうだ……大丈夫そうだな。


「ようし……じゃあ、もう少し高くまで上げて……今の倍よりももう少し高いくらいかな?大砲の火薬に引火するくらいだから、今の高さだと地面は熱気がすごいはずだ……もう少し和らげてやってくれ。」


「うん分かった……。」

 ショウがそう言って念じると、巨大火球は王宮本殿のおおよそ500m位上空で静止した。


「ようし……トオルとナーミとショウはここに残ってくれ。俺とセーサさんだけで行って、本気で降伏する意思があるのかどうか確認してみる。王族だけはすでに逃げだしているかもしれないしな……みんなが向かうのは安全を確認してからだ。」


「だめです……ワタルだけで行かせません。私も一緒に向かいます。」

『シュタッ』コンテナから飛び降りてセーサについていこうとすると、『シュタッ』トオルも降りてきて、俺を引き留める。


「だめだ……俺たちは少人数であることは向こうだって承知の上だ。おびき寄せて取り囲むつもりかもしれない。向こうの本拠地へ向かうわけだからね……百名くらいなら、取り囲んで簡単に捕まえられてしまうだろう。


 そうならないように、確認に向かうのは2人だけでいい……様子が異なれば攻撃を再開するよう、こちら側で構えていてくれ。君……名前は?」


「はっ……ブースと申します!」

 先ほどから照準器を使って、王宮の様子を確認していた兵士に尋ねると、兵士はすぐに姿勢を正し直立不動の姿勢で敬礼しながら答えた。


「そんなにかしこまらなくてもいい……俺は軍人ではないからね。


 俺たちが王宮へ向かって、もしかすると向こうは待ち構えていて俺たちを反対に捕まえようとしてくるかもしれない。もし向こうがちょっとでもおかしな行動をとったら、容赦なくゴーレムを発射してくれ。


 俺たちを巻き込んでも構わない……敵は大人数だから、仕掛けられたら逃げ出せないだろうからね。嫌なことを頼まなければならないが、そのくらいのことをしないと、こんな少人数で大軍を相手にはできやしない。


 一応、このゴーレムの設計者は俺だし、発射の指示はずっと俺が出していたはずだ。だから、これは俺の指示だ……決して君の責任ではない。向こうの状況が一変したら、すぐに対応してくれ……そのほうが俺も楽になれる……。セーサさんもそれでいいよね?」


 俺たちが捕まりそうになったら気にせず攻撃することを指示し、セーサにも同意を願う。


「それはそうですな……敵軍につかまって拷問でもされてはかなわない……サーケヒヤー国王は残虐な人物で、王宮地下には拷問部屋があるという噂を、冒険者時代にサーケヒヤー出身の冒険者から聞いたことがありますぞ……そうなる前に一思いに……というのは大賛成ですな。


 まあ、つかまりそうになったら、一人でも多くの敵兵を道連れにしてやるつもりですがね……ガッハッハ。」

 セーサはそう言いながら豪快に笑った。


「では、頼むよ……いいね?」

「はっ……か……かしこまりました。」

 工兵は、多少戸惑いながらもそれでも小さくうなずいた。


「最悪の事態に陥った場合は、トオルたちはジュート王子様を連れて急いで逃げるんだ。少なくとも、カンヌールまでは送り届けてくれ。頼む。」

 両手を合わせてトオルにお願いし、ジュート王子に望遠鏡をお返しする。


「私は一緒に参りますよ!」

 ところが今度はジュート王子が反発する。


「そうは参りません……ジュート王子様は一旦この場に残り、本国へ電信を打たねばなりません。その内容が勝利の報告となるのか、あるいは反撃を食らって逃げ帰るという内容になるのか、今はまだわかりませんが、どちらにしても、兵を率いる将として報告義務がございます。


 最後まで通信兵とゴーレムの工兵たちとともにこの場に残り、報告義務を果たしてください。我々や、後続の兵士たちが捕らえられるような事態に陥った場合は、ゴーレムで攻撃を仕掛けてから、部隊を引き連れて逃げてください。飛竜部隊がいれば敵に一矢報いることくらいはできるはずです。


 申し訳ありませんが、トオルたちも連れて一緒に逃げてください。


 とはいっても……これはあくまでも最悪の事態の話ですからね……実際の話、向こうだってショウの放った巨大火球がいつ落ちてこないか、心配で心配でたまらないはずです。


 白旗を振って降伏する気持ちはあるのだと考えております。それでもなお、全員でのこのこと出向いて反撃されては大変という……万一のことを言っているだけです。


 この浮島の様子は王宮からでも容易に確認できるでしょうから、部隊は残したほうが良いのです。依然として王宮を狙っていると認識していれば、容易には手を出せないだろうという思惑もあるのです。


 いわゆる後方支援ですね……よろしくお願いいたします。問題なければ、王宮の窓から黄色いハンカチを振ります。それを確認したら、まずは飛竜部隊を1小隊派遣してください。様子を見ながら、順に兵を送り込んでいくのです。いいですね?」


 別に死地へ向かうつもりではなく、あくまでも向こうの意思を確認に行くのだが、万一を考えてこちらでの待機をお願いしているのだと強調し、ジュート王子に頭を下げてミニドラゴンのもとへ向かう。なにせ、行ってみなければわからないからな……セーサが言う通り偽装降伏だったらえらいことになる。


「ワタルたちが向こうで捕まりそうになったら……王宮ごと……いえマースの街ごと大津波で沈めてやります……300年ダンジョンの水の精霊球であれば、たやすいことでしょう……それでいいですね?」

 するとトオルが、とんでもなく物騒なことを言い出す。


「ああ……はい……そうですね……先生の身に何かあった場合は……そのくらいの報復は当然かと……。

 ですから、危ないと感じたらすぐに逃げてください……約束できますか?」

 ありゃりゃ……ジュート王子までもが、その物騒な話に乗ってしまった……。


「わかりました……身の危険を感じたら、戦わずにすぐに逃げることを約束します。セーサさんもいいね?」


「ううむ……一人でも多くの兵を道連れにするよう戦う所存でしたが……一般市民をも巻き込んで……街ごと沈められてしまうのでは困りますなあ……わかりました……残念ですが、すぐに逃げることにしましょう。」


 セーサが少し残念そうに肩を落としてため息をつく。捕まりそうになった場合は、体が動く限り暴れまわってやる……といった決死隊のつもりだったが、なんとしても逃げなければならなくなってしまったな……。


「ようし、じゃあ……ミニドラゴンが火傷してしまうから、ショウっ俺たちが王宮に近づいたら一旦大炎玉を消してくれ。向こうの出方によっては攻撃も辞さないつもりだが、ショウは無理をしなくてもいい……短期間に何度も魔力が枯渇させるのはいけないとトークも言っていたからね。」


「うん……わかった……でも……大炎玉でなければ大丈夫だよ……。」

 ショウは、戦うつもりの様子だ……戦わせなくても済む結果であってほしいと痛切に願う。


「では、出発します。ミニドラゴン……目指すはあの王宮の中庭だ。」

 セーサとともにミニドラゴンの背に乗り込む。『バサッバサッバサッ』ミニドラゴンが上昇し、湖を渡って王宮本殿へと向かう。



『バサッ……バサッ』ミニドラゴンで王宮上空に到着すると、王宮の中庭には人影はなく、至るところに暴発した高射砲や大砲の破片が飛び散っていた。逃げ遅れた兵士が負傷したかもしれないな……。


 まずは……今この王宮にいるものは俺とセーサ以外は全員敵なので、魔力を封じ込めるよう、封魔石を握り締めて念じておく。しつこいようだが用心に越したことはない。サートラがもしいるのであれば、捕まえられるかもしれないしな……すでにこっそりと逃げてしまっている可能性が高いのだけどな……。


「ようし、ミニドラゴン……中庭に降りて、そのまま待機してくれ。」


『バサバサバサッ』ミニドラゴンが中庭の真ん中に降り立ちセーサとともに背中から降りると、内堀を渡って王宮本殿へ向かう。西洋の城を思わせるような外観は、まさに異世界を思わせる。大きさもカンヌール城の倍以上はありそうだ。


 内堀の渡り橋は渡されたままで、本殿入り口も開け放たれているようで、俺たちの来訪を拒む姿勢は見られていない。


 本殿の中に入ってみると、エントランスには多くの兵士たちとスーツ姿の男やメイド服姿の女性たちであふれかえっていたが、俺とセーサの姿を見つけると、全員すぐに両手を上げた。

 兵士たちは最初から武器を携帯しておらず丸腰で、ここでも降伏が本当であることを裏付けているようだ。


「君は王様の従者か?サーケヒヤー王や、王族はどこにいる?」

 兵士たちとは違う側の先頭に立っている、身なりのきちんとしたスーツ姿の侍従らしき者に尋ねてみる。


「はい……私はサーケヒヤー国王宮の侍従長を仰せつかっている、トーセと申します。どうぞお見知りおきを……。サーケヒヤー王さまは、謁見室にとどまっておいでです。王妃様も第1王子様も第2王子様も、全員謁見室にいらっしゃいます。」

 トーセは俺の質問に、表情を崩さずに答える。


「そうか……ここには多くのものがいるようだが、王族以外はここに集合させたということでいいのかな?」


「はい……そうでございます。王宮守備隊およびお付きや侍従に召使など、全員エントランスに集合させております。本来は王宮守備隊が王族をお守りする役目ですが、全員武装解除させ整列させました。」

 トーセは俺の顔は見ずに、両手を上げたまま前だけを見て答えている。ふうむ……緊張しているのかな?


「ああそうだったか……ご協力感謝する。こちらとしても、抵抗さえしなければ誰一人として傷つけるつもりはない。カンヌール国王様は、平和を愛するお方だからね……安心してくれ。」


「そうですか……ありがとうございます。」

 トーセはようやく俺の方へ顔を向けて、笑みを浮かべる……やはり他国の兵に占拠されたことに緊張しているのだろう。そりゃそうだ……あんなでかい矢を王宮すれすれに撃ち込んできたのだからな……。


 ミニドラゴンの背から降りた時に、中庭から内堀の向こう側の王宮の壁が大きくえぐられているのが見えた……そうして壁すれすれに長い鉄の矢が突き刺さっていたのだ……その凄まじい衝撃を体感し、状況を確認した兵士に報告を受けているのだろうからな……そりゃ恐怖しかないな……。


「じゃあちょっと、全員の顔を確認させていただくよ。」

 サートラがまぎれていると厄介なので、一人ひとり召使や女性職員の顔を確認していく。


「じゃあわしは、王族が紛れ込んでいないか兵士たちを確認してみましょう。サーケヒヤーへ攻め込むと聞いたときに、王族の写真を手配して持ってきておりますからな……。」


 セーサが数枚の写真を手に、そっと耳打ちしてくる。おおそうか……王や王子が兵士に紛れている可能性もあるな……ナイス!浮島を購入して、マースの街へ買い物に行ったときに、市中のあちこちに王族の写真が掲示されていたので、俺も王族の顔は覚えている。


 買い物途中にでも出会って無礼があってはいけないと思い、じっくりと観察して覚えたのだ。写真の下には、国民中心のフレンドリーな王様と大々的に謳ってあったので親近感がわいていたのだが、カンアツから和平を申し込んでいただいたときに、何が何でも攻め込む気満々の態度にショックを覚えた。


 女性陣だけではなく、男性スタッフも王族がまぎれていないか確認していき、全員それらしい人物は見当たらなかったので、ほっとした。


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