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冒険者として

「下着だけにして、ダンジョン攻略後檻の中に閉じ込めてきた。」

 俺たちをだましてダンジョン内に連れ込み殺そうとした奴らを、ダンジョンの外の柵の中に置き去りにしてきたことをギルドの受付嬢に告げる。


「装備や武器など回収してきましたか?」


「ああ、ダンジョン内で後ろから狙われないよう非武装にしたかったし、装備は持ち帰れと言われていたから。」

 そういって2人分の冒険者の袋をカウンターに置いた。


「そうですか、すぐに保安部門のものをダンジョンへ向かわせます。奴らは囚われて強制使役に処されるでしょう。装備や武器は持ち帰った冒険者の所有物となりますから、どうぞお持ちください。」

 受付嬢が笑顔で答える。やはり俺たちの行動は正しかったようだ、ちょっと安心した。


「そうはいっても冒険者袋はロックされているから、登録された使用者でなければ中身は取り出せませんよ。」

 トオルが残念そうに、冒険者の袋を受付嬢側に押し返した。


「冒険者の袋も持ち帰った冒険者の所有物となりますから、使用者登録を書き換えましょうか?」

「えっ……そんなことができるのかい?」

「そりゃ……冒険者の袋はB級に到達した冒険者にギルドが贈るものですから、ギルドで操作できますよ。」

 なんとまあ、そうだったのか……冒険者の袋があれば、かなり冒険がやりやすくなるな。


「はい、どうぞ。こちらがワタルさん用の冒険者の袋で、こっちがトオルさんのものです。

 スートとタームの所持金は、彼らがだまして殺してしまった冒険者の遺族や、身ぐるみはがされた冒険者たちへの賠償金として使われるでしょう。そのため、お金は手に入りませんが、装備はあなたたちのものです。」


 使用者登録を書き換えた冒険者の袋を受け取る。

 冒険者の袋に加えて装備まで受け取れたんだ、追剥まがいのことをされ命を狙われたからと言って、そこまでは要求するつもりはない。これだけで十分だ。


 C+級の俺たちが、これからクエストをこなしてB−に上がってさらにクエストをこなし続け、ようやくB級に上がって始めていただけるはずの冒険者の袋を手に入れることができたのは大きい。


「あれ?クエストの清算はなさらないのですか?」

 カウンターを立ち去ろうとしたら、受付嬢に呼び止められた。


「おおそうだそうだ……忘れていた。精霊球だったな。」

 柔らかい布に包んで鎧の下の腹に巻き付け、大切に運んできた精霊球を取り出してカウンターの上に置く。


「ご苦労様でした、報奨金はワタル様とトオル様の冒険者カードに均等割りして振り込まれます。

 冒険者カードは武器防具屋及び道具屋に宿屋と居酒屋に食堂、どこででも残金さえあれば手数料なしで清算可能ですのでご活用ください。これが明細表です。」


 受付嬢が1枚の紙片を手渡してくれる。カードの指定口座へ振り込みというわけか、現金を持ち歩かなくていいのは楽だ。


 うんっ?明細表を見て驚いた。これだけあれば、今の安宿よりもはるかにいいランクの宿屋でも3ヶ月は泊まれるし、毎晩居酒屋で飲み食い可能だ。精霊球というものが、それだけ高価ということがよくわかる。

 だからこそスートたちは、俺たちが持っている精霊球も欲しがったのだろうな。


 ギルドを出ると、すぐに安宿に向かい解約して、冒険者用の外観のきれいな宿に移ることにした。

 なにせベッドなどなく布団も一組だけで、トオルと一緒に寝ていたから、間違いが起きるんじゃないかと気が気ではなかった。ついでに、それぞれ個室とした。


 個室にする件に関しては、トオルがずいぶんと抵抗したのだが、何とか言い聞かせた。やはりお互いのプライバシーは尊重したい。シャワールームのほかに冷蔵庫までついている……さすが冒険者は羽振りがいい。


 久しぶりのシャワーで汗を流した後は、居酒屋へ出発だ。

 ヒレ肉は冷蔵庫に残し、ロース肉の1/4をミニドラゴンに与えると、残りをもって居酒屋へ向かう。


「持ち込みは大丈夫かな?これを焼いてほしいのだが。」

 冒険者でごった返しているにぎやかな居酒屋に行き、カウンター越しにオヤジに尋ねる。


「おいっ……もしかするとこれは……幻の猛進イノシシの肉じゃないのか?」

 差し出した肉の包みを開いて、オヤジが目を丸くする。肉を見ただけで動物を当てるとは、さすがに目が肥えているな。


「ああ……たまたまダンジョンに出てきた。荷物が多くてな……連れが一部の肉を回収しただけだ。」


「そっそうか……なあ……ちょっと相談なんだが、肉は焼いてやる……ステーキがいいんだろ?

 分厚く切って焼いてやる。だがまあ……これ全部2人で食べるつもりじゃないだろ?


 だったらこうしねえか?残りはこっちで引き取る。その代わり、今日明日の飲み食い代はタダだ。

 いい話だろ?」


 すると親父がとんでもないこと言ってきた。どうせ、残り3キロ全部食べきれるとは思っていないし、調理代がどれくらいかかるかとか、持ち込みで親父が気を悪くしないかとか、変なほうばかり気にしていたのだが、状況が全く違う。


「どうする?」

「私は構いませんよ、2日間飲み食いし放題も魅力的ですよね。」


 トオルはあっさりと承諾する。そうだな……ヒレ肉がまだ残っているし、2人だけじゃとても食べきれないし、冷凍すると味が落ちるらしいからな。せっかくの貴重肉がもったいないと言って、トオルが猛反対した。


「わかった……2日連続で同じ店に来ることもないだろうから、明日は別な店に立ち寄る予定だ。

 今日と明後日の飲み食いし放題でいいか?」

 明日はヒレ肉をもって別の居酒屋へ行ってみよう。今日と同じだとありがたいが……。


「もちろんだ……名前を聞かせてくれ……俺がいない時でも名前さえ言えば無料にするよう言っておく。」

 親父が笑顔で了解した。それほど貴重な肉ということか。今度からダンジョンに向かう楽しみが増えたな。

 それと、まめなトオルに感謝だ。


 それぞれ200グラムのステーキに舌鼓を打つ。猛進イノシシは脂身がうまいと聞いてはいたが、脂身が赤身の中にいわゆるサシの状態で細かく入っており、肉質も柔らかくジューシー。まさにとろける味わいだ。


 ほかにも焼いた川魚に白菜や大根の漬物に焼き鳥と、居酒屋メニューを堪能した。何よりうれしかったのは、酒は米を醸造して作られた、いわゆる日本酒だった。

 さらに大豆を醸造発酵させた味噌や醤油も存在し、居酒屋メニューを堪能する。


 堅物のトーマは娘の前ではしたない姿は見せられないと、結婚してからは即刻禁酒していたため、居城には酒樽などなかった。収入がないので、贅沢ができないと言ったところが本当の理由だったのだが。


 冒険者になって旅に出てからは、金銭的以外にも安全面で酔っぱらっている余裕などなかった。

 今は安全な村の中にいるため、浴びるほど飲んでも問題はない、食べ放題飲み放題といったことも手伝って、タガが外れたように飲み食いし続けた。この体はかなりいける口のようだ。


「ふあーあ……じゃあ、そろそろ宿に戻るか。」

 いつまでも居座る俺に愛想をつかし、トオルはとっくに宿に戻って行ったため、誰に言うでもなく一人でつぶやく。居酒屋のおやじに声をかけてから、上機嫌で店を出た。


 後は昨日までの安宿に間違って戻らないように注意するだけだ。来た時の道順を逆にたどり、明るく照明に照らされた宿に到着すると、そのまま2階の角部屋に向かう。


『ガチャガチャ』あれ?鍵が開かない……持っているカギが合わないのだろうか?

『ガチャガチャ』それでも酔っ払いなので、しつこくもう一度カギを差し込み繰り返すが、ダメだ。


「えーっ?おーい、ワタルだぞ!……この部屋は俺の部屋のはずだ、どうして開かないんだ?」

『ドンドンドンドンッ』そうしてドアを激しく叩きながら廊下で叫ぶ。


 部屋に誰がいるわけでもないので、何の意味もないのだが……

『ガチャッ』ところが次の瞬間、ドアがひとりでに開いた。なんだ自動ドアか、名を名乗ればよかったのか?

 と思って入ろうとすると人影が……見るとショートカットの絶世の美女がバスローブ姿で立っていた。


「わわわわわっ……おおおお……俺は、女を部屋に呼んだ覚えはないぞ!」

 どうして俺の部屋に女が、しかも涼やかな切れ長の目の美女……どう見ても商売の人ではない様子だが。


 えっ……?美女は動じずに微笑むと、俺の手を引いて部屋の中へと導き入れようとする。

 やわらかで温かい感覚が俺の手首に伝わってきて気持ちがいいので、そのままドアを閉じて部屋の中へ。


 えっえっ……?更に美女はベッドわきへ進むと、そのままローブを脱いでベッドイン。


 これまでの人生の中で現実世界の彼女などいたことがない俺だったが、ええいっ……あとは本能の赴くままに……顔が美しいだけではない、柔らかでスレンダーな体に形のいい胸のふくらみ。

 酔いも手伝って、夢中で彼女の体をむさぼった。



 うんっ?気が付くともう明るくなっていて、ベッドに一人で寝ていた。きょろきょろとあたりを見回すが、昨日いたはずの美女の姿はどこにもない。ベッドわきには俺が脱ぎ散らかした私服のほかに、俺の鎧に兜などが並べられてあり、テーブルの上には冒険者の袋も置いてある。


 間違いなく俺の部屋だ……だとしたら、彼女はいったい誰だったのか?急いで顔を洗って服を着て部屋をでると、トオルがいるはずの向かいの部屋のドアをノックするが返事がないため、そのまま降りていく。

 1階の食堂に行くと、奴がすでにテーブルについて朝食を食べていた。


「おはようございます。昨日はずいぶんとご機嫌だったようですね。」

 トオルが嫌味ったらしく流し目で俺のほうを見る。寝ているところを俺が廊下で騒いだから起こされたのだろう。申し訳ないことをした。


「悪い悪い……騒がしかったな……以後気を付けるよ。

 それよりも昨日の晩……女……というか……その……絶世の美女……。」


「えっ……絶世の美女……?ですか?それがどうかしましたか?」

 トーストを口に運びながら、ただでも大きな目をさらに見開いて、驚いた仕草を見せる。


 トオルが気をまわして、俺の部屋にも女を呼んでおいてくれたのかとも思ったのだが、見当はずれのようだ。

 そういった感じの女ではなかったしな。


「い……いや……何でもない……飲み過ぎで夢を見ていたようだ……忘れてくれ。」


 ううむ……節制生活から解放されて、浮かれすぎてとんでもない夢を見ていたようだ。飲み過ぎだな。

 その後も何度も平謝りに謝り、深酒は2度としないことを約束させられたが、自業自得だ仕方がない。


「じゃあ、また今日もギルドに行って、クエストを申し込むとするか。」

「はい、そうですね。」


「じゃあ装備を身に着けてから、エントランスで待ち合わせだ。」

 朝食を食べ終わると身支度を整え、ギルドへ向かった。



「えっ……昨日ダンジョンを攻略して精霊球を納めたのに、本日もまたクエストを申し込むのですか?

 装備を増やすおつもりですかね?冒険者の袋を手に入れたんですものね。」


 ギルドに行ってホールの壁にかかっているクエスト票から、C+級のクエストを選んでカウンターへもっていくと、美人受付嬢が目を丸くする。さすがに昨日の今日で顔を覚えていた様子だ。


「いや別に、今の武器や防具など装備には満足している。トオルだって同じはずだ。

 毎日クエストを申し込むのはおかしいのか?」


 冒険者の袋に武器や防具を入れると、その重さや大きさを感じずに持ち運べるので非常に重宝だ。

 ようやく念願のロープレゲームのような形になり、なんだか懐かしさを感じたものだ。


 それでも入れられる数には制限があり、武器も防具も種類は関係なしに10個ずつまで。

 つまり剣を10本とか剣とナイフで併せて10本が限界。小刀でも一本なので注意。

 防具は鎧の兜と胴と小手に脚それぞれで1個なので、注意が必要だ。せいぜい予備1組か2組までだ。


 道具に関しては回復水と解毒薬はそれぞれ10個まで、獲得した精霊球やアイテムも10個まで入れられる。

 といった制約があるので、何でも買えば持ち運べるということではない。


 落ちぶれていたとはいえ、伯爵家に伝わる先祖伝来の剣に鎧装備はA級冒険者の装備に匹敵するとカルネは評価してくれていたし、それはトオルの装備だってそうだろう……伯爵家のお付きとしての装備だ。

 現状の装備で満足している限り、余計なものを購入するつもりは当面ない。


 俺たちをだまそうとしたタームの冒険者の袋の中には、武器として大ナイフや短刀のほかに斧に鎖鎌が入っていて、防具類では鎖帷子と鉢金に手甲が入っていた。忍び系ではないかとトオルの部屋にもっていったら、恐らく盗賊だろうと言われた。タームは盗賊を職業としていたようだ……なんだかぴったりで怖い。


 タームの装備はそれなりに上物だったようで、全てトオルが引き継ぎ、代わりにスートの弓矢や防具などは俺の冒険者の袋の中に入っている。防具類は女物なので売ってしまうつもりだが、今後仲間が入った場合に装備させてやることも考え、メンバーが決まるまでは持っていることにした。


「は……はい……C+級ですと通常は半月からひと月に1度程度クエストをこなされるパーティが多いようです。


 C級ですと初級者は攻略後のボス不在のダンジョンへ入って、倒した魔物の肉などを回収してそれを収入にしますが、精霊球を獲得できるダンジョンのクエストを受けられるC+級では、毎日クエストを受けるパーティはまずありませんね。


 かなり以前は、ダンジョン攻略を楽しんでクエストを受けられる冒険者の方たちが多かったので、ほとんど毎日ダンジョンに潜るのが普通でしたが、最近はどちらかというと生活のためで、しかも楽しんで日々を送るために最小限度働くといったスタイルに変わってきているようです。


 でっですが……お客様たちは、確かにお年を召されていますから……将来のために今のうちに……ということでしょうか?でも……お二人でのクエスト申請は危険ですので当方では……。」

 受付嬢が、言いづらそうに言葉を区切りながら答える。意外とはっきりとものをいういい性格をしているな。


 若い初級冒険者たちは、すでに攻略されたダンジョンを回って、狩り残された魔物たちを狩り、その肉を売って収入に当てるということだ。ボスがいなければ、さほど苦労せずにダンジョンを抜けられるからな。


 一般にも農業のほかに酪農も盛んだが、やはり猛進イノシシのような高級食材となる獲物が出現する場合もあるため、ダンジョンの魔物を狩って生活することもできるわけだ。それで経験を積むわけだな。


 それにしても、冒険者の収入が予想外に高いのには驚いた。カルネが冒険者は自由気ままで楽しい商売だと言っていたのが分かる気がする。命がけではあるのだが……。


「図星だ……今のうちから老後のための蓄えをしておかなければな、いつまでもダンジョンへ入れないから。

 昨日のクエストだってC+級だったが実質2人だけで、しかも仲間に襲われるというアクシデントまであったのにちゃんとこなしたんだ、俺達なら問題ないはずだ。」


 そういって、笑顔を見せクエスト票を受け付けてもらう。

 さて今日も又、2人だけでダンジョン攻略だ。


 精霊球は15から18年である程度の大きさになり採取可能となるが、それ以降も年数を重ねるごとに成長し魔力を蓄える。ギルドで管理されているダンジョンは、20から50年周期で解放され、精霊球が回収されればまた同じ期間だけ保存される。その間のダンジョンを使って初級冒険者が経験値を積むわけだな。


 精霊球は使用することによっても成長するが、ダンジョンによっては使用した場合の成長をはるかに上回る速さで成長する場合がある。そのようなダンジョンは特別に保存されて、百年に一度くらいしか開けられない。


 そんなダンジョンは雑魚魔物といえども超強力で、ボスクラスとなると魔王級となるため、特別なチームを編成してクエストが行われると聞いた。その代わりに精霊球は1個だけでない場合が多く、特殊な効果がある精霊球も見つかる場合があるそうで、輝照石や擬態石などがその一例らしい。


 稼ぐことも必要だがレベルを上げて、難しいクエストもこなしてみたいので、休んではいられない。

 百年級のダンジョンは、さすがのカルネも全ては把握していないわけだから、前情報なしでチームの力だけで攻略する必要性がある。それだけの信頼できるパートナーを早い所見つけたいものだ。


続く


さて、今話をもって旅立ち編ともいえる、第1章が終わります。次なる展開の第2章は引き続き、明日から連続掲載させていただく予定です。引き続きご愛読お願いいたします。また、この小説に対する評価や感想、ブックマークなど、連載を続けていくうえでの励みになりますので、お手数ですが実施いただけますと幸いです。よろしくお願いいたします。

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