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奪取

『ブンッ……ゴツンッ……ブンッ……ゴツンッ』巨漢兵は、その上背を生かし、大上段に振りかぶって思い切り打ち込んでくる。何とか鉄パイプで受け止めるのだが、その衝撃で後退させられ、前へ踏み込んでいけない。それどころか、受け止める腕も痺れてきて、上がらなくなってきた……。


 身を深くして懐に飛び込もうとすきを窺っているのだが、付け込む隙を全く与えられず防戦一方……体格差もあるのだが、トーマよりも剣技の腕前は上なのではないかと思えるような相手だ……こんな奴に出会うことになるとは……。


『ワーッワーッ』『キンッ……ズバッ』『キンキンキンッ』『ズッバァーンッ……』『バッシューンッ』俺の周りでも突っ込んできた飛竜部隊と、丘に駐留していた敵兵との白兵戦が始まった。


『ズゴーッ……』小高い丘周辺に降り注ぐ集中豪雨は、さらに勢いを増し、周囲の様子が全く見えなくなるほどの勢いで、これなら丘の上の兵士だけに気を付けていればよく、十分な勝機はありそうだ。さすがトオル……魔力が向上しているな……いや……もしかすると、ショウも手伝っているのかな?


『ワーッワーッ』『バシュッ……シュパッ』『シュッパァーンッ』目隠しはきいているのだが、周りを見ても飛竜部隊は防戦一方の兵士が多く、逆に次々と切りつけられて行っている……飛竜を使って突っ込んできたのはいいが、ずいぶんと旗色は悪いようだ。


 飛竜部隊の存在は、すでにサーケヒヤーには知られていたからな……剣客ともいえるような凄腕の剣士を随所に配置して、待ち構えていたのだろう。カンヌールではエリート集団の飛竜部隊ではあるのだが、軍事大国を誇るサーケヒヤーならば、それを上回る豪傑はごろごろいるのだろう……規模が違い過ぎるからな……。


 まいったな……無理やり突っ込んでは見たものの、このままでは全滅だ……かといって、逃げ出すこともできそうもない……降りてきたときとほとんど変わらず丘の端へ詰め寄られた状態で、兵士たちも防戦一方なのだ。


『ボシュワッボワッ』『シュパッシュッ』突然俺の目の前の剣士に上空から炎を纏った矢が飛んできたが、剣士は簡単にそれを払った。


 今だ……『ダッ……ドガッボゴッ』剣士の注意が上方に向けられた瞬間に踏み込んで、腹に一撃を入れてから、鉄パイプで脳天に思い切り撃ち込む……兜をつけているから死にはしないだろう……ナーミ……ありがとう……ちょっと卑怯な気もするが、これも作戦のうちだ……。


 滝のように降り注ぐ集中豪雨の隙間をぬってミニドラゴンを操り、上空から援護射撃をしてくれる、ナーミやショウも含めて、これが俺たちの戦い方なのだ……卑怯ではない……ないぞ……。


「岩弾!岩弾!岩弾!」

『バシュッ……ゴンッ』『バッ……ゴッ』『シュッ……ドゴッ』飛竜部隊兵が押され気味の相手めがけて、岩弾をお見舞いすると、当然ながら、あらぬ方向から飛んできた強烈な一撃を食らい、いかな豪傑といえども、その動きが止まる……。


『シュッパンッ』『パンッ』『シュッパァッ』追い詰められていた兵士たちが反撃し、一気に形勢が逆転した。そうだ……補助魔法を使っての剣技も、俺の戦い方なのだ……何もダンジョン攻略に限定されることはないではないか。


 トーマの剣の腕は上級なので、対人戦闘ではその腕に頼り過ぎていた……普段の戦い方でいいのだ。


「水弾!水弾!」

『ジュバッ……バシュッ』『キンッ……ボゴッ』『キンッ……バシュッ』トオルも水系魔法を補助に使い、敵兵たちを打倒し始めた様子だ。そう……この戦法は、俺たちチームの専売特許なのだ。


 なにせ敵は圧倒的武力差を背景に、難癖付けて無理やり宣戦布告してきているのだ。もっと卑怯な手段を用いてもいいくらいだ……。


『バサバサバサバサッ』

「ぎゃおーすっ」


『ブンッ……ドゴッ……バゴッ』『バンッ……ピューッ』『ピューッ』すると今度は丘中央部に飛竜が舞い降りてきて、ものすごい勢いで敵兵を蹴散らし始めた。いかな豪傑といえど成獣の飛竜に敵うわけはなく、思い切り斬りつけていっても硬い鱗に弾かれ、一撃ではるか遠くへ吹き飛ばされていく。


 おお……ついに飛竜も参戦したか……。


「戦況が思わしくないので、飛竜も投入することにしました……一気にこの丘を陥落させましょう。」

 飛竜を投入するため、操っていた飛竜の背からコンテナの上に降り立ったのだろう……後方からジュート王子が声を駆けてきた。そうだ……持てる力をフルに使って戦うのだ……。


「行きましょう!岩弾!岩弾!岩弾!」

『バシュシュシュッ』前方にこぶし大の岩を飛ばし、『ダダダダッ……バシュッ……キンッドゴッ』ひるんだ敵を鉄パイプで殴りつけ、それでも斬りつけてくる奴の剣を冷静に受け止め、腹を水平に打ち据える。


「脈動!」

『ダッ……ドッゴォンッ』『ドガッ』さらに脈動を使ってジャンプし、群がる兵士を飛び越えて、背後から一撃ずつで2名を倒す。


『キンッ……ズゴッ』『キンッ……バゴッ』不意に俺が目の前に現れ、驚いて腰が引けぎみの兵士の剣を冷静に受け止め袈裟懸けに打ち据えると、更に次の剣を受け止めそのまま抜き胴を狙う。そうだ……このところ身に沁みついた戦い方は、これなのだ……。


「超高圧水流!」

『ブシュワーッ……タッ』『ドゴンッ……バシュッ』トオルも大ジャンプして、敵兵の群れの中に突っ込んできたようだ。


「岩弾!岩弾!岩弾!」

『バシュシュシュッ』苦戦している飛竜隊の相手めがけて岩弾をお見舞いし、援護射撃をしてやりながら「落とし穴っ!」『ズゴンッ……ボガッ』補助魔法を駆使して、敵豪傑を打倒していく。


『ブンッ……ドガッ……バシュッ』『ブンッ……ボシュッ』遥か前方では、飛竜が暴れまわっているようで、兵士の体が宙を舞っているようだ。


 敵兵は突っ込んでくる俺たちのほかに、後ろの飛竜も気にかけねばならず、段々と逃げ腰気味になってきた様子だ。『キンッ……ドガッ』『キンッボゴッ』踏み込みが甘く、簡単に打倒していけるようになってきた。

 それでも敵兵の数は多く、補助魔法をどれだけ発したのかわからないくらい、延々と戦いは続いていく。



「脈動っ!」

『ダダダッ……ダッ』敵陣深く斬り込んで、前方を阻む数名の兵士を飛び越え、後方で身構えている兵士の目の前に降り立ち、鉄パイプを振りかぶる。


「わ……わかった……降伏する……抵抗はしない!おいっ……全員武器を置いて投降するように!」

 と、突然、重厚な甲冑に身を包んだ兵士は、降伏すると叫び両手を上げる……あれ?一寸拍子抜けだな……。


 恐らく将校なのだろう……その言葉を聞いて、彼の周囲を守っていた屈強な兵士たちは、仕方なさそうに剣を地面に置いて両手を上げた。

 すぐにトオルたちが兵士をロープで拘束し始める。


「降伏していただけるなら、無益な殺傷はこちらも望まない……拘束はさせていただくが、不当な扱いは決してしないと約束する。賢明な判断……感謝する。

 お名前をお聞かせ願えるかな……私は、カンヌールの公爵で……ワタルと申す。」


 もうほとんど敵兵は残ってはいないのだが……最後の抵抗……なんて玉砕覚悟で来られると厄介だからな……降伏していただけるのであれば、有難いことこの上ない。


「サーケヒヤー陸軍第3連隊中尉……ハーツだ。


 だがすごいな……カンヌールには飛竜部隊が存在すると聞き、この丘は飛竜部隊の中継基地として最適と判断され、丘を守るためにサーケヒヤー軍の中でもとりわけ剣技に長けた有段者だけを300名揃えて、防衛線を張った。それなのに、1/3ほどの兵士たちにしてやられるとはね……。


 飛竜の参戦は予想してはいたのだが、高射砲の直撃で倒せるはずだった。ところがこの……何なんだい?この雨の防壁ともいえる膨大な雨量は……基本戦術は飛竜の背から魔法や弓矢で援護射撃を行うと聞いていたので、弓矢隊と魔法軍も配備していたのだが……彼らにだってこの魔法効果は想像を絶すると言っていた。


 魔法兵も弓矢隊も、とっくに崖を転がり落ちるようにして、逃げていったがね……。」


 ハーツ中尉は、悔しそうに本陣内のパイプいすに腰掛けると、小さく首を振った。やはり腕利きの剣士をそろえ、さらに魔法兵士や弓矢隊も従えて、待ち構えていたというわけだ。危ういところだった……一歩間違えば全滅していてもおかしくはなかったわけだ……だが……。


「ここはサーケヒヤー軍基地からも王宮からも2キロは離れている場所だよね?仮にカンヌールから大砲を持ってきたとしても、カンヌールの大砲は届きそうもない。それなのに、主力ともいえる凄腕の剣士たちを300名も配置して……王宮の警護は手薄になってしまわないのかい?


 それとも、まだまだ多くの凄腕剣士がサーケヒヤーには存在しているということなのかな?」

 答えてくれるとは思わないが、とりあえず王宮の警備状態を聞いてみる。


「ああ……王宮か……あそこは要塞だよ……飛竜部隊の突入に備えて、王宮の中庭には要所要所ごとに柵を設けて、機動力を抑制してある。さらに重機関銃とかいう最新兵器が設置してあって……1分間に何百発もの鉄砲の弾を打つことができる上に、甲冑などの装甲を簡単に貫ける威力があるそうだ。


 一度軍基地でその威力を試し打ちして見せてもらったことがあるが、甲冑に鎖帷子に盾といった3重の防備でさえも貫いて、哀れダミー人形は粉々になったよ……南の大陸から大枚はたいて購入した新兵器らしいが、これからはもう剣士の時代ではないと、サーケヒヤー王が高らかに宣言していたさ……。


 だからこそ……この丘は何としても死守したかったのだが……まあ仕方がない……変な術を使う剣士と飛竜により、打ち負かされたということだな……。」


 意外と簡単に王宮の警備状況を教えてくれた……重機関銃……この世界の銃は、鎧の装甲を貫くことはできないと聞いていたのだが……南の大陸には強力な近代兵器が存在するということなのか……?

 丘の警護がすごいから、いっそのこと王宮へ突っ込んでしまえと、計画変更しないでよかったぁー……。


「みんなは捕虜だが、不当な扱いは決してしないと約束する。国際法に基づいて……。」

 セーサがやってきて、ハーツ中尉以下、拘束した剣士たちに捕虜として丁重に扱うと説明を始めた。

 ふう……かなり苦労はしたが、何とか攻略できたな……。


「やりましたね……何とか陣を確保できました。」

 ジュート王子も笑顔で寄って来た。


「そうですね……被害状況はいかがですか?敵剣士はかなりの手練ればかりで、倒された兵士も多かったように見受けられましたが……。」

 当初は、かなり劣勢だった。斬られた兵士は数名では足りないだろう……。


「はい、飛竜隊のうち32名が敵剣士の反撃にあい、負傷しております。ですが、命に別状はなさそうです。


 重症者は同行してきた衛生兵が治療に当たっておりますし、軽症者は回復水を与えて、ほとんど回復しております。勿論敵兵も傷ついたものに対しては、治療を行っております。敵軍の僧侶も協力的なので、捕虜の治療に当たってもらっております。捕虜の兵士たちは、傷ついて倒れたもの含めて、240名となります。


 まだ多くの兵士がいたようですが、丘の急斜面を転がり落ちるようにして、逃げていったようです。

 現在、飛竜を使ってコンテナを陣幕代わりに、王宮側に移動させ、兵士たちを配備しているところです。」

 ジュート王子が被害状況と現況を説明してくれる。


 そこかしこで動ける兵士たちが回復水の竹筒を、負傷者に与えている様子がうかがえる。今回は衛生兵である僧侶が一人だけと、部隊の人数に対して少ないため、回復水をギルドから大量に購入して持ち込んでいるのだ。さすがに決死隊ともいえる突撃部隊に、参加してもいいというもの好きな僧侶は、多くはなかったようだ。


 いや……一人だけでもいたのが、素晴らしいと思わねばならないか……。

 それにしても……百名の兵士で300名の部隊を攻略して、240名の捕虜を得たということだな……優秀優秀……。


「おーい……ここだ……ここに下ろしてくれ。」

 とりあえず陣は確保できたので、秘密兵器を下ろすことにする。


 並べておいたコンテナの隙間から王宮を狙える位置に荷物を下ろすよう、上空を旋回しているミニドラゴンに指示する。


「何とか攻略できたわね……。」

「沢山の人が密集して戦っていたから、上からだと狙いがつけにくくて、なかなか援護射撃できなかったよ……。」

 荷物を下ろして着陸したミニドラゴンの背から、ナーミとショウが降りてきた。


「そんなことはないさ……俺だって危ういところを助けられたし、飛竜部隊の援護をしていたじゃないか……。ナーミだってショウだって、十分活躍したさ……。」


 俺はナーミの炎の矢に助けられたが、ショウの火弾は、飛竜部隊の兵士たちの援護射撃として効果を上げていたのは、戦っている最中に何度も見ていた。


 援護射撃がなければ、1/3どころか大半の兵士が負傷して、下手をすれば全滅していたかもしれない。

 それくらい、ぎりぎりの戦いだった……。今でも、勝てたのが不思議に感じるくらいだ……。


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