戦闘開始
果たしてカンヌールは近代兵器を擁するサーケヒヤーに勝てるのか?今後の展開にご期待ください
「いよいよ決戦です。マースの王宮は湖畔に建てられ、1辺が3キロの広大な敷地を有しています。マース湖へ流れ込む川を利用したお堀は幅が百mもあり、対岸にかけられた橋は所々跳ね橋となっていて、夜間時間帯や非常時は跳ね橋を上げて王宮への侵入を防ぐようです。
さらに城壁は十m以上の高さがあり、陸側からでも湖側からでも、近距離からでは直接王宮の姿も捉えることはできません。
飛竜部隊で突っ込むのでお堀や塀は関係がないように思えますが、王宮の中庭には至る所に土嚢が積まれていました。今考えると、飛竜部隊による直接侵入に備え、各所に兵を分散配置しておくつもりと考えます。
そのため飛竜部隊での突入は避けたほうがいいでしょう。高射砲の砲撃をかわして突っ込むことができたとしても、囲まれて全滅の危険性が高いです。
王宮前の約2キロ地点が小高い丘になっておりますので、ここに陣を張ってここから王宮への攻撃を仕掛けます。カンヌールの陸軍に確認したところ、大砲の射程距離は大筒でも1キロが限界で、精密射程距離は五百m程度と聞いております。
サーケヒヤー軍は射程の長い大砲を備えておりますが、カンヌールの軍備を知っているため、この丘の警戒は薄いと考えております。」
マース湖畔西の山脈奥にある山に囲まれた小さな盆地で野営して、夜明けとともに出発の準備にかかる。
深夜時間帯なので平地を探すことは困難だったが、兵士たちを運ぶコンテナは頑丈なつくりをしているため、少しでも平らなところを見つけたら強引に置いてしまえば野営は可能ということで、大体の見当でコンテナを下ろし、コンテナの上で野営した。
マース王宮攻略のための陣形に関しては、散歩がてらミニドラゴンで周遊飛行したり、ミニドラゴンでダンジョンへ移動する際にも、遠回りしてマース湖畔周辺を数日かけて飛行していたのが役に立った。
もともとウォーゲームで敵城攻略するための作戦を練る癖がついているせいか、マースの王宮上空を飛行した際には、どうやって攻め込むかなど、お堀や渡し橋の形状や地形などを眺めながら考えていた。侵攻作戦時に陣を張る場所なども、わざわざ迂回して回って確認済みだ。
サーケヒヤーでは成獣の竜を飼うには申請が必要なようで、浮島を購入した不動産会社を通じて申請しておいた。当時はまだ宣戦布告されていなかったため、街上空をミニドラゴンで飛行してもお咎めはなかったが、今なら撃ち落とされていただろう。
ミニドラゴンのストレス解消のための散歩目的だったが、何が役に立つか分からないものだ……。
「えっ?でも……カンヌールの大砲は一キロしか届かないんじゃ、そんなところに陣を張っても意味があるの?向こうから砲撃されなくても、こっちからだって攻められないじゃない?
飛竜部隊で突撃することもできないんでしょ?あたしの弓だっておもいきり引いて一キロ届くかどうか……しかも狙いなんて全く付けられないわよ……。」
俺の言葉を聞いて、すぐにナーミが突っ込みを入れてきた。
「ああ……どうせ大砲なんて持ってきてやしない。それでも魔法だったら目で見ることさえできれば攻撃可能だろう?さらに、もっと射程距離の長い新兵器を持ってきている。
これがうまく使えれば、2キロ程度なら十分射程距離内だ。いくら砲身の長い高射砲だって、さすがに2キロは飛ばないんじゃないかな?そうなると、こちらが圧倒的に有利なわけだ。」
すぐにナーミに魔法攻撃の可能性と新兵器の説明をしてやる。
「うーん……大炎玉だったら2キロくらいなら燃え尽きることなく、敵陣迄達することができるかもしれないということね?でも……威力は相当弱まっているわよ。
でも……そうか……敵からの攻撃も届かなくなるわけよね?大砲は使えないし、さらに魔法攻撃も……向こうは魔法兵士が直接取得した精霊球ではないはずだから威力は半減で、ここまで魔法効果は届かない。だから、こちらが圧倒的に有利というわけね?
さらに……新兵器……楽しみねえ……。」
そう……前世というか、転生前の世界で使用していた……と言ってもウォーゲームで使っていた仮想の武器ではあるが、きちんと設計図が存在する。コンピューターゲームの特性を最大限に生かしたゲームであり、武器のカスタマイズから新規作成まで、図面があればバーチャル世界内で製作可能だった。
製品寸法のほかに部品寸法や素材材質の物性から有限要素法とやらを用いて高度計算し、実際製作した場合の威力や効果範囲などをシミュレーションできたのだ。兵器製造の専門家ではない俺は試行錯誤を繰り返し、2年の歳月を使ってようやく超巨大ボウガンを作り出した。名付けてゴーレム。
有効射程は2キロを超え、厚さ50センチの杉板製の壁をも一撃で打ち砕く、超ド級の破壊力を持つ巨大矢を打ち出すことができる。その時の設計図を思い出し思い出ししながら、図面化したものだ。
想定していた素材である鋼鉄やステンレスはこちらの世界でも存在していたし、恐らく見込み通りの威力は備わっているだろうと考えている。
超遠距離から攻撃を仕掛けて、城壁だけでも粉砕してしまえば、敵もビビッて戦意喪失するのではないかという、淡い期待をしている。そうならなくても、王宮を周囲から直接射撃可能な状態にすることは、敵防衛力の削減となるので、効果的だろう。
「じゃあ行きましょう。丘の上に陣を構えれば、さすがにサーケヒヤー側も兵を派遣して攻撃を仕掛けてくるはずです。新兵器を組み立てるまで、それまで敵の猛攻に耐えられるかどうか……そこにかかっているともいえます。梱包を解いてから組み立てるまでに2時間は必要です。お願いいたします。」
なんとしてもゴーレムを組み上げなければ始まらない。ナーミの危惧する通り、2キロともなると魔法効果も希薄となるため、恐らくゴーレムを使わなければ攻略不可能だろう。
「任せておいてくだされ……先の戦争でも活躍したが、飛竜部隊の兵士はカンヌール国内でも精鋭中の精鋭。
さらに、先日の300年ダンジョンに同行した兵士が全員参加しておりますぞ。魔物相手では苦戦した兵士も、対人であれば日常訓練通りにその力を存分に発揮できることでしょう。2時間でも3時間でも、ゆっくりとその新兵器とやらを組み上げ、そうしてサーケヒヤー国の奴らに一泡吹かせてやりましょうや。」
「そうそう……我らにお任せあれ……わっはっはっはー……。」
すぐにセーサとサーマから力強いコメントが……やはり頼りになるなあ……。
「では……出発します。」
兵士達は鉄製のコンテナのような箱に入り、それを飛竜が足でつまんで運ぶ。本来は敵陣深くに下ろした時に、4方の壁板が倒れて兵士が4方へ散っていく仕掛けだが、今回はこの箱を陣の防御壁に使用するため、分解しないのでフックは外さないようお願いした。
ミニドラゴンを先頭に、木々の生い茂る山中から南東方向へマース湖の湖岸を伝って飛行すると、摩天楼のような巨大ビル群が立ち並ぶ近代都市が見えてきた。
上空から見るとマースの街は正三角形の形をしていて、1辺はマース湖畔に面していて、2辺をマース北西のマース山脈から流れる大河マース川の支流を鋭角に迂回させて作り上げている。
いうなればマース湖とマース川の支流の間に作られた、中洲の上にできている街だ。その、マース湖と反対側の頂点に軍の基地がある。背面は巨大なマースの街であり、基地は陸面からくる敵を一手に引き受けて、街を守るという造りになっていて、マース湖に面した北側の頂点が商業施設の中心地で南側の頂点に王宮がある。
支流とはいえ幅百mもの大きな川であり、川にかけられた橋を使わなければ街へ突入することも叶わない、街全体が要塞のような造りをしている。
サーケヒヤー王宮がある頂点から、南西へ2キロ地点が目的地だ。軍基地と王宮のどちらからもほぼ2キロの距離の地点となる。なるべく軍の基地から遠いほうがいいのだが、それではマース湖畔となってしまい、湿地帯で足場が悪く、丘がないので仕方がない。
「うん?ありゃりゃ……目的地の丘の周りに、陣を張られてしまっているようだな……。」
王宮のある中洲の対岸壁から延々と平原が続いているのだが、2キロ地点に兵士が点在して陣を張っているようだ。勿論、俺たちが陣を張る予定でいた小高い丘にも……そりゃそうだよな……飛竜部隊がいることを知っているわけだから、編隊を組んで突入してくることは想定済みなのだ。
さらに北方山脈での戦闘の連絡もすでに入電済みだろうからな……飛竜部隊が王都方面へ向かったということは、とっくに知られているのだ。かといって、奴らをあのまま山越えさせるわけにもいかなかったしな……まあ仕方がないさ……
基地は基地内で兵を分散配置させ、さらに基地の外にも兵を配置しておく……これで攻め込む隙間など与えないという作戦だ……それだけ大軍勢の兵力ということなのだろうが、ううむ……まいったな……。
1辺が恐らく100mないくらいの、ほぼ四角柱状の丘の上は、兵士たちの姿であふれかえっていた。
高さは50m位だが、周囲は崖のように切り立っていて、容易に上ることは出来そうもない場所なので、飛竜部隊で直接飛来して陣を張るにはうってつけと考えていたのだが、読まれていたということか……。
「どうします?」
御者席の後ろから、トオルが声をかけてくる。
「どうするも何も……何とか陣を張れる場所を確保するしかないだろう。高射砲の砲弾を避けながら降下するしかない。それに、こっちの目的は基地ではなく王宮だ……王宮を直接叩く!」
ここまで来て逃げ帰るわけにはいかない。いくら時間稼ぎをしたとはいっても、ここでUターンして戻ったところで勝機はないのだ。なにせカンヌールの数倍から十数倍は兵力があるだろう。その上巨大戦艦に戦車や装甲車まで……まともにやり合っては、とてもかなわない。
『パーンッパーンッ』『シュシュシュシュシュッ』地上からは対空砲火に加え、降下し始めると無数の矢が射かけられてきた。それはそうだろう……向こうは陣を構えて待ち受けていたのだ。俺たちが視界に入った途端に攻撃を仕掛けてくるのは当たり前だ。
「火弾!火弾!火弾!」「火弾!火弾!火弾!」「強水流!」
『ボワボワボワッ』『ボワボワボワッ』『ブジュワーッ』すぐにショウとナーミが火弾を、トオルが強水流を発して眼下の兵士たちを威嚇し始める。
『ブジュワーッ』『ジュワーッ』『ザバーッ』『ブシューッ』『ビュゴーワッ』ところがすぐさま至る所から放水が始まり、炎の玉は消滅させられ、また猛烈な風も巻き起こって強水流も向きを変えられてしまった。
どうやら向こうも魔法使い混成軍で待ち構えていた様子だ。しかも魔法使いの数が多いのだろう、一人一人の魔法効果は弱くても、集団で対抗してきている。前回カンヌールへ戦艦で攻め込まれたときに、俺たちの戦い方を知られてしまったからな……対抗して待ち受けられているわな……。
『ドーンッドーンッ』対空砲火は一向に止まず、なかなか上空から降りていけない。『ドゴワッボゴワァッドゴワッ』すると後続の飛竜から、ひときわ大きな火球が続けざまに発せられ、『ブジュワーザバーッ』『ドドーンッブシューッ』更に続けざまに強力な水流が、周囲を取り囲む戦車に向かっていくのが見えた。
「わーっわーっわーっ!」
『ドッゴォーンッ……ドッガラガッシャッ』小高い丘を取り巻く高射砲の周りに陣取っていた兵士たちが逃げまどい、火球をまともに食らった大砲は詰め込んだ火薬にも引火したのか、爆発音の後大きく飛び跳ねて地面に衝突して転がり、『ドッガァーンッ……ドガッゴロゴロゴロ』瞬く間に3台の高射砲が破壊された。
ありゃりゃ……大炎玉を使用したか……更に大津波並の上級魔法の巨大水流……あまりにも強力な攻撃は人にも危害を加えるから、ショウやナーミやトオルは加減して魔法を使っているのだがな……向こうは兵士だし仕方がないか……。
「トオル……あの丘を取り囲むようにして配置されている高射砲が厄介だ。1台ずつ攻撃していくと時間がかかるから、丘の周りに集中豪雨を張って1時的に目隠ししてくれ!」
1ヶ所ごとに攻撃を仕掛けていっても埒が明かないので、トオルに指示を出す。
「分かりました……集中豪雨!」
『ズザザザザーッ』トオルが唱えると、小高い丘周辺にものすごい量の雨が降り始める。これにより、丘周辺からの高射砲攻撃は中断された様子だ。下手をすると、丘の上に着弾して同士討ちになってしまうからな。
「よしっ……ミニドラゴン……急降下してくれ。」
『バサバサバサッ』俺の指示に従い、ミニドラゴンが急降下を始める。
「トオル……行くぞ!」
「はっ!」
『シュタッ……ダダダダッ』『シュタッ……タタタタッ』丘の端にミニドラゴンの背から飛び降りるように着地し、駆けだす。ミニドラゴンは、すぐに反転して飛び立っていった。
「だりゃあっ!」
『キンッ……ドゴッ……キンッボゴッ』すぐに兵士が剣を振りかざし襲い掛かって来たので、一歩踏み込んで剣を鉄パイプで受け流し、そのままみぞおちを突いて気絶させると、すぐに引き抜いて、もう一人の剣を受け止めてから、腹を水平打ちして仕留める。
丘の上には数百人規模の兵士が詰めて待機していたようだ……『キンッ……ズゴッ』倒しても倒しても、後から後から襲い掛かってくる。
『ズンッ……ガチャッ……バタバタバタバタ』『ズーンッ……バタバタバタバタ』『ズンッ……バタバタバタバタ』俺とトオルがいる丘の端側に、飛竜隊のコンテナが次々と下ろされ、扉を開けて兵士たちが飛び出してきた。何とかこちら側から、押していく作戦だ。
「だりゃあっ!」
『キンッキンッキンッ』ようし……一気に押し切るぞ……と思って丘中央部めがけて突っ込んだら、巨漢兵が前に立ちはだかった……。