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催眠

「じい……待ってくれ、急ぎ王宮へ行かねばならん。その前に少し立ち寄っただけだ。


 ミニドラゴンも、王子様の飛竜も夜通し飛行してきて疲れているだろう。申し訳ないが水と、ホーン蝙蝠とツッコンドルの肉がまだあったはずだから、与えてやってくれ。」

 爺にはミニドラゴンと飛竜の世話をお願いする。


「さてトオル、どうするんだい?」


「ジュート王子様……大変失礼な質問ですが、300年ダンジョンから帰還した後、先日のサーキュ王妃様の誕生会までの間に、サーラとお会いになりませんでしたか?電信などの連絡ではなく直接お会いになって、しかも長い時間会ったような日はありませんでしたか?」


 トオルに居城へ立ち寄った理由を聞こうとしたら、ジュート王子へ質問だ。そりゃあ会ったはずだろう……危うく死にかけたわけだからな。無事生還したことを告げなきゃならんだろうし、何より王さまへ会わせる日の連絡もしたはずだぞ。


「ああはい……無事生還した2日後にヌールーの遊園地へ一緒に行って、そのあと食事をしました。そこで、王様に会っていただく事をお願いして、数日後に電信で都合の良い日の返事をいただき、日取りを母上の誕生会と決め、先生にも電信を打ったのです。」


「そうですか……やはりその時に……。」


「やはりってどういうことだ?その時点ではサーラがサートラだとは分かっていなかったんだし、王子様が会いたいと思っても仕方がなかったんじゃないのか?」

 そりゃあ結婚まで考えていた相手なのだから、会おうとしたはずだ。それがどうしたというのだ?


「取り敢えず食事でもして、お待ち願います。」

 そういってトオルは、門を出て外へ行ってしまった……あれれ?実家へ帰るのかな?



「お待たせいたしました……確認のために父を呼んできました。

 大変失礼なのですが、ジュート王子様……サーラに操られてはいないか、確認させていただけますか?」


 飛んでいる間飲まず食わずだったので、食堂で王子とともに軽食を食べていたら、父親と一緒に戻ってきたトオルが、とんでもないことを言い始める。


「おいおい……どういうことだ。そりゃあ確かにサーラがサートラで、王様や王子様のお命を狙うようなとんでもない奴だとわかりはしたが、それもこれもサーキュ王妃様の誕生会の場で、エーミがサートラだと暴いたからだ。それがなけりゃ、サーラはもしかしたらあのまま王子様とご成婚されていたかもしれない。


 だがもう、そんな関係は御和算して、サーラは恐らくサーケヒヤー国へ逃げ込んでいるだろう。操るも何もできやしないぞ!そもそも操るってなんだ?色仕掛けか?」

 あまりにも無礼な発言……ジュート王子は温厚な方だからまだいいが、そうでなければ即刻お手打ちだ。


「玉璽のことが、サーケヒヤー国へ伝わっていましたよね?生命石が3石出たことまで伝わっていたところを見ると、あれはあてずっぽうでも何でもなく、隠したはずの玉璽と生命石2石のことを誰かが漏らしたのです。


 私とワタルは、ずっと一緒にいましたし、サーケヒヤー国へ行っていましたので、その間にサーラやサーキュ王妃様と接触はありません。


 カンヌール国王様は、あの時この場の4人だけの秘密とおっしゃっていましたから、サーキュ王妃様にも玉璽のことは告げていないでしょう。そうなると残りはジュート王子様だけなのです。ですが……王子様が何気なくにしろ、極秘のことを軽々と話すとは考えられません。


 捕らえられたものたちを堀に飛び込ませたことからも、サーラは強力な催眠の術を使うと考えられます。そのため王子様が催眠にかけられてはいないか、確認させていただきたいのです。」

 トオルは真顔でとんでもないことを言い始めた……そりゃあ確かに言われてみればもっともだが……。


「わかりました、そういえばサーラさんと2人きりで会うたびに、途中記憶が抜けていることが度々あったのです。もちろん、あの日もそうでした。


 遊園地の雑踏の中にいた昼間のはずが、いつの間にか日が落ちかけていた覚えがあります。もしそれが催眠によるものであれば、私が玉璽のことを漏らしてしまったのだろうと考えます。

 調べることが可能であれば、どうかお調べください。」

 ジュート王子は悲痛な表情で、トオルの目を見つめた。


「では、こちらへ……。」

 トオルの父の案内で居城の客間へ向かい、そのソファーに深く腰掛けていただいた。


「では、お呼びするまで別室で待機をお願いいたします。周りに大勢いると気が散って、催眠にうまくかからない場合がありますのでね。」

 トオルの父に促され、取り敢えず各自部屋で仮眠をとることにした。



「ワタル……終わりましたよ……。」

 しばらくしてトオルが部屋まで呼びに来た。まだ日が高いので、恐らく1時間くらいしか経ってはいないだろう。


「どうだった?」


「はい……やはりサーラに催眠をかけられていたようです。詳しくは父に聞いてください。」

 トオルと一緒に客間へ向かう。


「ジュート王子様は、やはり深い催眠にかけられていたようですね。玉璽のことや生命石のこと及び、カンヌール国軍の情報など、かなり詳細に漏らしていたようです。


 恐らく弱小国と考えていたカンヌールに、サーケヒヤー国の巨大戦艦を3隻も向かわせたにもかかわらず、あっさりと拿捕されてしまい、カンヌール国の軍備を侮れないと考え、飛竜隊の情報などを聞き出した模様です。さらに300年ダンジョンの話も聞きだされておりました。


 その上、サーラが万一捕まった場合は、誰にも知られずに牢のカギを外しに来るような、後発催眠までかけられていました。


 サーラを捕らえようとすると体が動かなくなるような暗示とともに、連行する際にも逃亡を手助けするような、強烈な暗示も加わっておりましたから、サーラというやつはかなり頭がいい上に慎重派ですね。


 全て解除できたとは考えますが、ジュート王子様はサーラに近づけさせないほうがいいでしょう。一度催眠にかかってしまった場合は、再度かかりやすくなりますからね。」


 トオルの父親は、残念そうに顔をしかめながら説明する。さすがにジュート王子の気持ちを考えると辛いだろうな……。


「大変申し訳ありません……すべて私の責任です。」

 ジュート王子が、涙を流しながら頭を下げる。トオルたちの状況説明で、ショックを受けていることだろう。


「とんでもありません……私だってサーラの前身であるサートラとは、対外的ではありましたが婚姻関係であった仲です。婚姻後の態度があまりにもおかしかったので深い関係にならなかっただけで、そうでなければ私だって、今日ここに無事でいたものかどうか。


 それくらいサートラのやり方は巧妙で、さらにあの美貌ですからね。特にジュート王子様の場合は、サーキュ王妃様の紹介ということだったのですから、それはもう……仕方がないですよ……。」


「そうよ……もしかするとパパだって、サートラに騙されて殺されてしまったのかもしれないんだから。」


 すぐにジュート王子を、ナーミとともに慰める。恐らくサートラは、蟄居の身であったトーマを利用して何かしようとは考えていなかったのだろう。そのため対外的な夫婦の関係を得ると一切協力せずに、約束したはずの経済援助など行うそぶりもなかった。ノンフェーニ城という住まいが欲しかっただけであろう。


 敷地が広い居城であれば、人目につかずに瞬間移動で行き来できるからだ。そうして、何かの時に利用できると考えそのまま生かして置き、ジュート王子の戴冠の儀の際に近衛隊隊長へ抜擢して、賊に襲わせた。ただ一つ誤算だったのは、トーマが至極真面目であり、思いのほか手練れだったことだ。


 王子の命を奪うつもりが果たせず、それでもトーマが責任を取って自決してくれたので、そこで事件は閉幕し、サートラはノンフェーニ城を手に入れたはずだった。ところがどうした理由かは分からないが、別次元で事故で死んだ俺がトーマの体に転生して、サートラは城を追い出されたわけだ。これはサートラの誤算というより不運と言えるだろう。


「ともかく今は、サーケヒヤー国からの侵攻を食い止める必要性があります。反省するのはそれからということにして、王宮へ参りましょう。」

 トオルが催促するので、ミニドラゴンと王子の飛竜で王宮へ向かう。王さまへ説明するのが辛い……。



「ふうむ、そうか……ジュート王子がサーラとやらに催眠をかけられ、それで玉璽のことや生命石のことがサーケヒヤー国へ伝わってしまったか……さらにはわが国軍の機密までも……。」


 王宮へ到着し、すぐにカンヌール王へカンアツからの和平交渉が失敗に終わったことと、玉璽などの情報漏れを報告すると、やはりショックを受けられたご様子だ。


「すぐに軍で使用している、電信の暗号文のコード表の見直しをするように指示を出してくれ。陸軍や飛竜隊の兵力や火力など、知られてしまったものはどうしようもない。陣形など訓練しているものから下手に崩すとかえって危ないので、訓練通りの陣形で戦ってくれ。


 情報漏れの件は、王宮の責任じゃ。兵士たちには十分に説明をしたうえで、戦線離脱を希望する者は認めてやるよう願う。戦う意思のある者だけで、戦うよう通達を出してくれ。」


 王様は意気消沈した様子で、それでも短く国軍への作戦指示を出した。国軍の武力や作戦など筒抜けになっているのは王宮の責任と認め、戦わず逃げることも認める方針の様子だ。確かに、この状況下でも戦えとは言いにくいだろうな……。


「了解いたしました、すぐに暗号通信のコード表を再作成いたします。ですが……大丈夫ですよ、わが国軍に、軍事機密が敵に伝わった位で戦線離脱するようなやわな兵はおりません。もともとカンアツ国やサーケヒヤー国に比べて国土も小さく、さらに王様の方針で軍事予算比率は他国に比べて低かったのですからね。


 そんな中でも国を守るという使命感に燃えて、国軍兵士を目指した愛国心の強いものたちです。どのような逆境であっても、たとえ最後の一兵になったとしても戦うでしょう。


 サーラとかいう魔女のことは……仕方がないですよ……サートラン商会には魔法軍の将軍も虜りこまれておりましたからね……軍事機密はこの時点で漏れていたと考えるべきでしょう。

 士気を高めるため、私も北方山脈の最前線へ向かい、直接指揮を執ることといたします。」


 軍服姿の恰幅のいい陸軍中将は、直接前線へ向かうと言い残し、足早に謁見室を出ていった。確かに、魔法軍の将軍まで、敵側に寝返っていたわけだからな。その時点ではカンヌール軍を甘く見ていて、さほど情報の重要性を感じていなかったのだろうな……そのうちに精霊球の問題で失職してしまったからな。


 仕方なく、ジュート王子から直接軍事機密を引き出したのだろう。軍事機密を握る将軍が失職したら、暗号コードなど一新されることは明白だからな。この時に、玉璽のことまでも伝わってしまったというわけだ。


 それにしても……カンヌール国王は国民に愛されているのだな……このような不利な状況下でも、逃げ出す兵士はいないとまで言い切っていったからな……さらに自分で直接指揮を執ると……カンヌール国王のお気持ちを鑑みての行動だろう……一寸頼りなく見えていたが、陸軍中将もいいところあるなあ。


「こちらから攻撃を仕掛けましょう。サーケヒヤー国の軍事力から考えて、まともにやり合っては、圧倒的な軍事力の差がありますから敵うはずがありません。ですから、飛竜部隊で直接サーケヒヤー王宮に攻め込むのです。王都が陥落してしまえば、サーケヒヤー軍は戦闘意欲を失うでしょう。


 飛竜部隊はオーチョコや北方山脈にも派兵するでしょうが、そのうちの一部でもお貸しいただければ、私も同行して戦わせていただきます。新兵器があれば……うまくいけば敵王宮を陥落できるかもしれません。


 もしだめでも、直接王宮を狙われるということが分かれば、全勢力をカンヌールに向け派兵することはできなくなるはずです。それだけでもかなりの兵力を削減可能と考えます。

 敵が圧倒的軍事力で攻め入ってくるのであれば、こちらは機動力で攻めるしかありません。」


 唯一カンヌールがサーケヒヤーに勝っている点といえば、飛竜を使っての機動力だ。機動力とだけを言ってしまえば、水竜を使えば恐らく巨大空母のような要塞だって、猛スピードで運んでくることが可能だろう。


 それをしないでエンジン付きの軍艦を使っているということは、エンジン動力での移動で十分と考えているということと、主砲を使うにはどのみちエンジンの出力が必要になるからであろう。


 折角いる水竜を直接攻撃にしか使わないのはもったいないといえばもったいないのだが、それをしなくても十分な軍備があるということなのだろうな……。


 その点カンヌール国軍は、わずかな歩兵と弓矢隊に魔法部隊が陸軍で、飛竜隊が空軍として存在しているだけだ。空軍といっても火器を持っているわけではなく、飛竜でコンテナのような四角い鉄箱を運ばせて、敵陣深くに下ろし、中に潜んでいた兵士たちが白兵戦を繰り広げるという、いわゆる肉弾作戦だ。


 敵の意表を突くことができれば効果が大きいのだが、先の巨大戦艦相手に披露してしまったからな……向こうだって警戒しているだろう。恐らく前線には各所に上級の剣士たちを待機させて備えているはずだ。


 対策して待ち構えているところへ突入しても、成功する可能性は低い。それならば、いっそのこと敵王宮へ突っ込んでしまうのだ。飛竜である特性を最大限に利用しての作戦は無謀ではあるのだが、成功すれば戦果は大きいはずだ。


「ううむ……そうか……敵王宮を直接な……それくらいしか、わが国には太刀打ちできる作戦はないというのは辛いな……じゃが、特攻ともいえる作戦じゃぞ。敵の真っただ中へと突っ込むのじゃからな。」

 王様はじっと俺の目を見て、確認してきた。


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