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和平交渉開始

「ふうむ……やはりサーラで間違いない……彼女は3ヶ月ほど前に、サートラン商社の社長の親せきということで紹介を受けた。身元は確かだし、民間とはいえ、この大陸で1,2を争うほどの商社の社長の親せきということで、ホーリ王子の縁談相手としてどうかということでな……。


 だがホーリ王子には、この国の貴族の御令嬢の許嫁がおるということでお断りした。残念がっておったのだが、それでもつい最近、この国のサートラン商社の代表をサートラからサーラが引き継ぐということで、再びあいさつに来ておった。」


 カンアツ王が、小さく首を振りながらため息をつく。大柄で恰幅のいい、緑色の髪の毛と緑色の口ひげを蓄えた、やさしい雰囲気の老人だが、さすがにサーラの映像を見て危機感を覚えたのだろう。ホーリ王子に何事もなくてよかったと、安堵したような印象を受ける。


「そういえば……私が北海の岸壁で水竜と魔物たちの大群に襲われたのは、サーラとの縁談をお断りした直後のことでしたね。」

 ホーリ王子も相槌を打つ。


「おお、そうだったそうだった……やはり、ホーリ王子も危ないところだったといえるわけだ……そこを、ワタル殿以下、皆さんに御助け頂いたということでしたな……遅ればせながら、お礼の言葉を述べさせていただく。ありがとう……。


 そのサーラが今度はジュート王子に近づいて、さらにカンヌール王のお命をも狙ったというのだな?ううむ……我が国も危ないところだったというわけだ……おいっ……至急、アーツのサートラン商社を家宅捜索しろ。サーラがもしいれば、捕えて連行してくるのだ。」


 さすがにこのままではまずいと思ったのか、カンアツ王はすぐに近くの兵にサートラン商社の捜索を命じた。


「もし、サーラを捕らえるのに出向くのでしたら、我々も同行させてください。サーラは映像で見た通り、かなりの手練れです。危険ですので、我々もサポートさせていただきます。」

 サーラの反撃にあっても困るので、一緒に行くことを希望してみる。


「心配ご無用……わが軍にもそれなりに使い手はいますよ。ワタル殿たちほどではないにしてもですね。

 それに地竜も数頭引き連れてまいりますので、大量の魔物たち相手でも問題はないでしょう。」


 すぐに丸眼鏡が、余計な心配とばかりに笑顔で否定する。そうだった……カンアツは大きな国だし軍隊もしっかりしているのだ。トーマ程度の使い手なら、余るほどたくさんいるだろう。


「いえ……貴国の軍が劣っているということではなくて、魔物たちとの戦いであるならば、冒険者である我々の方が、慣れていると言いたかっただけでして……ご無礼いたしました……。」

 顔から火が出るくらい恥ずかしい……何とも出過ぎたことを言ってしまったものだ……。


「お気遣いありがとうございます。そうですね、お力添えいただけるのであれば、我が国へ士官頂き、ぜひとも軍部の強化にご尽力願えればありがたい。ねっ王様?」


「おお……そうだの……ぜひとも我が国へ……。」

 今度はホーリ王子のみならず、王様にも士官を願われてしまった……参ったな……。


「お言葉は大変にありがたく、身に余るほどで光栄至極です……ですが私は一介の冒険者でありまして……ホーリ王子様とのこともたまたま運がよかっただけですので……過大評価なされぬよう願います……。」

 すぐにお断りしておく、あまり長引くとジュート王子も登場してきかねない。


「この国の内部に入り込もうとして、当初はホーリ王子様に近づこうとしたのでしょうね。恐らくその時点では、擬態石を使って仮の姿であったのかもしれません。サートラとの2重生活をしていた。ところが、ホーリ王子様との件は失敗して、代わりにジュート王子様に接近することができた。


 王家の婚約者ともなれば、当然のことながら身元調査のほかに身体検査も行われるため、早急に生命石にて若返る必要性があった。そのためサートラはこの世から存在しなくなり、代わりにサーラが出現したのです。


 仕方なく、サートラン商社の代表者が変わったことのあいさつに伺ったのだろうと考えますが、サートラはカンヌール国内ではサートラン商社の代表者でしたが、カンアツ国内でもそうでしたか?」


 話を切り替えようとしてくれているのか、トオルがサートラからサーラに切り替わったタイミングを推測する。確かに、一度若返ってしまったら元に戻れないからな……お試し期間は擬態石使用か……なるほど……。


「もちろんだ……サートラはこの国でもサートラン商社の代表取締役だ。しょっちゅう王宮に出入りしていて、わしとも面識がある。資材調達はお妃に任せたかったのだが、お妃はどちらかというと武の出でな……格闘技の達人で、じっと帳簿をつけるなどといったことはできないお人だ。


 そのため軍部を任せておる。わしがカンアツの資材調達や王宮の台所を担当しているのだな……。」

 カンアツ王は、そういって優しく微笑んだ。


「そうなると……サートラは、常にカンヌールとカンアツを行き来していたものと考えます。擬態石を使って替え玉を用意することはできますが、別に監督者であれば外観や名前など同一にしておく必要性はありませんからね。人を信じて任せようとはしない、かたくなな性格と想定されます。


 そうして同一人物であるがために、名前も統一の必要性があった……複数の名を同時に使っていると、時に誤った反応を示す場合がありますからね。特に警戒厳重な王室や政府筋と取引するには、名前を変えないほうがいい。まさか同一人物が超遠距離の複数国間を行き来しているとは、通常は考えないでしょうし確かめようともしないでしょうからね。


 どの道、商社内で大量の魔物たちを飼育していたことからも、人任せにはできないという事情もあったと考えます。街中で大量の魔物を飼育するような異常行為は、人任せにしておくと外に漏れる可能性がありますから、自分自身の手で行っていた……ですがサートラは18年程の間、ノンフェーニ城に住んでいましたが、長期間彼女が城を開けた形跡はございません。


 そうなると、瞬間移動でいつでもヌールーとアーツを行き来出来ていたはず……エーミちゃんが言っていましたが、ノンフェーニ城で夜に時々姿が見えなくなっていたというのは、アーツへ出向いていたのではないでしょうか。もちろん、昼間の業務の合間も行き来していたと考えられます。


 瞬間移動で、長距離移動が可能ということになりますね。」

 トオルが、サートラの瞬間移動能力について推定する。そうか……カンヌールとカンアツのような長距離を瞬間的に移動できるのか……すごいな……。


「だとすると……アーツにサートラ……今はサーラだが……が、いたとしても逃げられてしまうのじゃないか?やはり、同行すべきだったか……俺たちがいたからどうということもないが、少なくとも瞬間移動する恐れがあるから、そのまま外へ連れ出さないように警告できたはず……。」


 まずったな……やはり無理にでもついていくべきだった……。


「それはどういうことですかね?」


「はあ……先ほどの監視カメラの映像を見ていただいてもお分かりのように、サーラは王宮の内堀と王宮の間に出現しています。そうして消える時も同じく内堀と王宮の間で消えています。


 目的地は、王宮地下の牢やであったにもかかわらずにです……つまり、サーラは好きな場所に瞬間移動できるが、屋内では無理であろうと……壁などは通り抜けられないのだろうと推定しているのです。」

 トオルの推定だが、伝えておく。間違いはないはずだ。


「そうですか……すぐにサートラン商社へ向かった部隊に連絡して、首謀者のサーラは拘束前に外へと連れ出さないよう注意しておきなさい。必ず手足を拘束して、呪文を唱えられないように猿轡をしてから外へ連れ出すように、無線で指示してくれ。」


「はっ、わかりました。」

 丸眼鏡が、すぐに衛兵に伝える。


「最近は無線という便利なものがありましてですね……電信と同じ原理なのですが、文字を伝えるわけではなく、言葉を発信できるのです。カンアツの軍隊の司令官用の馬車には、無線機が搭載されておりますから、移動中でも連絡可能なのですよ。」


 丸眼鏡は、したり顔で微笑んで見せる。そうか……よかった……。


「それで……サートラン商社とサーキュ王妃がつながっていて、これまでにもカンヌール国内で不祥事が続いていたと。さらにはお世継ぎであるジュート王子のお命まで狙われ、それを未然に防いだところ、サーキュ王妃は国外逃亡し、サーケヒヤー国から宣戦布告されてしまった。


 カンヌール側に戦争の意思はないから、仲裁に入ってほしいということですな?


 ふうむ……サーケヒヤー国がカンヌール国へ宣戦布告しているのは、カンヌール国が玉璽を所有しているからではなかったのか?このままだまっていては、カンヌール国が準備を整え、3竜と強大な魔力を有する精霊球を用いてこの大陸を制圧してしまうと……そうなる前に、未然に防ごうということではなかったのか?」


 そうしてカンアツ王が本題ともいえる、訪問の目的の確認に入る。背景がはっきりしていないと、また同じ問答になってしまうため、まずは元凶ともいえるサーラとサーキュ王妃のことから説明をしたのだ。

 サーラがこの国でも同じような行動を起こしていたので、理解していただくのは難しくはなかった。


「はっ……玉璽に関しましては、カンヌール側では使用するつもりはさらさらないと……カンアツにであれば託すこともできるし、使用できないように火山の噴火口に、王様立ち合いの上で投げ入れてもいいと提案しています。憂いを残さないためにも、火山の噴火口に投げ入れてしまうのが一番よろしいかと……。


 そのうえで、サーケヒヤー国との和平交渉の仲介をなされてはいかがかと……当然ながらそれまでの期間、サーケヒヤー国にはカンヌール国へ攻め込むのを待っていただく必要性がありますがね。」

 ホーリ王子が、ジュート王子の決意を説明する。


「ふうむ……よろしい……まずは誤解を解かねばならんでしょうな……サーケヒヤー国へ無線連絡して、サートラン商社のサートラやサーラがいかに異常な人物であるか説明してみよう。そのうえで彼らに騙されてはいないのか、詳細に調査いただく事となるであろうな……。


 おい……サーケヒヤーとの通信を準備してくれ。」

 なんとカンアツ王自ら動いてくれるようだ……来て見てよかった……。



「サーケヒヤー王……聞こえますかな?」


「ガガガ……カンアツ王か?如何した?ガガガ」


 すぐにマイクとスピーカーが謁見室内にセットされ、カンアツ王がマイクに向かって呼びかけると、応答した。サーケヒヤー国とのいわゆるホットラインだ。まさか、俺たちの目の前で交渉してくださるとは……。


「カンヌール国へ宣戦布告されましたな……先般巨大戦艦で攻め込んで簡単に拿捕されてしまい、我が国を通じて和平交渉されたばかりというのに、どうしてまた戦争を仕掛けようとなさるのか、お考えをお聞かせ願おうと思いましてですね、ご連絡差し上げました。」

 カンヌール王が、素知らぬ顔で尋ねる。


「ガガ……それは宣戦布告の文書で示した通りだ。ガガガ……カンヌール国は秘密裏に300年ダンジョンを攻略し、そこで取得した玉璽を使用して、カンアツ国及びサーケヒヤー国へ侵攻し、シュッポン大陸を制覇しようと画策している。ガガガガ……


 いち早く、その策謀に気づいた我が国は先手を打って、カンヌール国の態勢が整う前に攻め滅ぼすつもりだ。

 貴国も我が国に追従して、カンヌール国へ攻め込むよう要請する。ガガ……」

 やはり予想通りの答えが返ってきた。


「ほお……300年ダンジョン……そのことですが、カンヌール国は誤った情報を流されて、若いダンジョンのつもりで攻略に向かったと聞いておりますぞ。攻略後18年程度のダンジョンで、若い精霊球があるだけという情報だったようですね。


 しかもそれがサーキュ王妃からの情報であり、詳細確認しようとした途端、王妃は姿を消し、恐らくサーケヒヤー国へ帰国したと……離縁状まで置いてあったといいますから、計画的犯行ですな。


 さらにジュート王子の縁談相手として、サートラン商会社長の縁戚関係にあるサーラという女性を紹介され、婚約寸前にまで発展していたのですが、カンヌール王へ紹介するときに正体を暴かれ、カンヌール王とジュート王子のお命を狙うという暴挙に出た。


 会場が混乱しているすきに逃げられましたが、ヌールーのサートラン商社はもぬけの殻で、一部の社員は捕らえましたが、戻って来たサーラに殺害されてしまったようです。


 このサーラは長くヌールーのサートラン商社の代表取締役を務めていた、サートラという社長の娘が生命石で若返った姿のようで、実を言いますと我が国でも息子の縁談相手にどうかと紹介されていたのです。許嫁がいるとお断りしたが、そうでなければ我が国もどうなっていたことか。


 サートラ……今はサーラですが……サーキュ王妃とは懇意の仲と伺っておりまして、彼女にサーキュ王妃も騙されているのではないかと感じております。今一度、詳細背景をご確認いただいてはいかがでしょうか?カンヌール国への対処は、それからでも遅くはないでしょう?」


 カンアツ王は、俺たちの説明を信じてくれている様子だ。サートラとサーキュ王妃の関係を確認いただくよう提案してくれた。


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