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情報漏れ

「そもそもカンアツでは地竜が守護竜であるため、地竜が王宮を出入りしているではないか……同じことではないのか?いちいち目くじらを立てるようなことではないであろう?」


「はっ……そうでした……。」


「彼らはホーリ王子様の大切な客人たちだ……今後このような無礼な行為をすると、王室から直接処罰を受ける可能性があることを、肝に銘じておけ!いいな?」


「はっ……かしこまりました……。」

 丸眼鏡の叱責を受け、大勢の近衛兵たちは、すごすごと引き上げていった。


「まあまあ……彼らだって悪気があってやったわけではないだろうから、大目に見てやってください。王宮への侵入者とでも、勘違いしたのでしょうからね。」

 とりあえず丸眼鏡には、穏便に済ませていただくようなだめておく。


「そうもいかないのですよ……前回ご来訪いただいたときだって、王子様へ直接連絡しようともしないで、ただひたすらお時間だけ取らせて、あわよくばあきらめて帰るのを待つような、そんな扱いでしたからね。王子様がご立腹なのですよ……何度通達をまわしても、一向に伝達していかないって……。


 この国は保守的な考えの持ち主が多いもので、王子様の交友関係にも重臣たちがうるさいんですよね……。


 ホーリ王子様を訪ねていらっしゃったのですよね?今回は全員でお越しいただけましたようで、王子様も大変喜ばれることと思います。王様もいらっしゃいますから、状況によっては王様も直接お会いしたいとおっしゃられるかもしれません。


 ですが王子様は現在所用で手が離せないため、少々お待ち願うことになりますが、よろしいでしょうか?」

 丸眼鏡がやってきて、ようやく取り次いでいただけそうだ。


「はっ……本日は、我々の用事というよりも……こちらの……御方……ジュート王子様とご一緒させていただきました。出来ましたら、カンアツ国王様との面会も希望しております。」

 そういって、ジュート王子をまずは紹介しておく。


「ああっ……これは……かしこまりました……すぐに貴賓室をご用意させていただきます。ホーリ王子様へも、大至急お取次ぎいたしますので、少々お待ちください。」


 丸眼鏡にはすぐに緊急事態であることを理解していただけた様子で、深々と頭を下げると、そのまま俺たちを先導してカンアツ王宮の本殿へと案内してくれた。そうしてふかふかなソファーの応接セットがある貴賓室へと招かれた。


「さすがですね、ホーリ王子も先生たちを大切なお客様として、考えていらっしゃるようです。どういうご関係なのでしょうか?」


 事情を知らないジュート王子が、先ほどの丸眼鏡の態度から、ホーリ王子との関係を尋ねてきた。それはそうであろう、本来ならば近衛兵たちの態度が、一介の冒険者に対する処置として適切なのだ。


「そうですね、ホーリ王子様との出会いからお話しておきましょう……。」


 タールーギルドでクエストをこなしていた時、ホーリ王子が水竜と魔物たちに襲われていたところを、お救いしたこと。ミニドラゴンと一緒に住めるところを探していて、ホーリ王子の厚意でコーボーの旧別荘を借りて住んでいたことなど簡単に説明した。


「はあ……そんなことがあったのですか……ホーリ王子も、先生たちと出会うことができたのは、幸運だったと言えますね。」

 ジュート王子が、何度も大きくうなずく。


「そうですね……でもホーリ王子様に出会えて、我々にもいいことがたくさんありました。コーボーの旧別荘をお借りできたのはもちろんですが、そこでチートさんという地域貢献をしている素晴らしい方に出会うことが出来ましたし、何より最初の出会いの時に、サーケヒヤー軍がカンヌールに攻めてくることを、いち早く知ることが出来ましたからね。


 ミニドラゴンを飛竜に成長させてオーチョコへ急行出来たのも、ホーリ王子様との出会いのおかげともいえるのです。」

 おかげで敵戦艦を急襲出来て、戦況の拡大を防ぐことができたのだからな。今回の訪問で、また戦争を防ぐことができることを期待している。


「お待たせしていて、申し訳ございません。ただいま昼食を用意させましたので食事をしていただき、今しばらくお待ち願います。」


『カチャカチャ』暫くして、丸眼鏡が数人の前掛けをつけた給仕たちと共に、小さな車輪がついた手押しの台車を押してやってきた。台車の上には大きな洋式の蓋付きトレイが並んでいる。料理が入っているようだな。


「へえ……おいしそうじゃない……食べても……いいの……よね?」

 すぐにナーミが寄っていき、ドーム型の金属製のふたを開けて中を確認する。


「もちろんですよ……毒等入っておりませんから、どうぞお召し上がりください。」

 丸眼鏡が笑顔で答える。


「まあ、ただこうしていても仕方がないから、有難くいただくとするか……朝はかなり早かったからな。」

 少しでも早い時間に到着しようと、夜明けとともに出発したので、朝食からすでに6時間は経過している。

 スパイスが効いた鳥料理など、豪華な食事を堪能し、デザートはケーキやフルーツなど盛りだくさんだった。



「やあ、大変お待たせして申し訳ない。本日早朝にサーケヒヤーから重大な通達があるという連絡があり、現王とともに待機していたのだが、未だにその内容すら伝わってきていない。


 ワタル殿たちご一行のほかにジュート王子までいらっしゃっているというのに、これではあまりにも失礼ということで、私だけ抜けて出てきた次第だ。どのようなご用件でしたかね?」


 紅茶とケーキを頂いていると、ようやく背の高く精悍な顔つきの青年が現れた。以前出会った時よりも、なんだか一回り位体が大きくなったような気がする……脂肪太りというよりも、胸板などが厚くなった感じだ。


「これはこれはホーリ王子様……突然お訊ねすることになってしまい、大変申し訳ありません。

 早急にお伝えしたい事と、お願いがございまして……。」

 すぐにホーリ王子の前に傅いて頭を下げ、傍らのジュート王子へ視線を移す。


「まあまあ……かような堅苦しい所作は、私とワタル殿たちの間では不要です。


 ジュート王子……しばらくぶりですね……お怪我はすっかり癒えましたかな?戴冠の儀の際に賊に襲われてけがをしたと聞いたときは、本当に心配しましたぞ。」

 その目線に気が付いたのか、すぐにジュート王子へ寄っていく。相変わらず愛想がいい……。


「お久しぶりですホーリ王子……カンヌールへお越しいただいた際は、一緒に剣術の稽古をしたりと、楽しかったですね。今度は私からお伺いするとお約束したまま果たせず、大変申し訳ありませんでした。


 カンアツ訪問を予定していた時に、生みの母君の不幸と重なったものですから……。その上今度は、電信一本だけで一方的にお邪魔することになってしまい、ご無礼を深くお詫びいたします。


 ですが、緊急事態なのです。どうかご容赦ください。」

 ジュート王子が、悲痛な表情でホーリ王子に突然の訪問を詫びる。


「いえ……ジュート王子と私はいとこ関係で親戚なのですから、訪問の際にいちいちご連絡いただく必要性はありませんよ。さらにワタル殿たちは、私の命の恩人ですからね。私の方から逆に、近くを通る時には事前連絡不要だから、必ず王宮へお立ち寄りくださるようお願いしているほどです。


 ですが……やはり中には頭の固い輩がいるわけですね……王様にも許可を頂いて、飛竜での直接来訪を認めたと通達しているにもかかわらず、到着の際はご無礼な扱いがあったこと、こちらこそお詫びいたします。


 まあ、このまま双方で頭を下げ合っていても済みませんからね……ご用件というものをお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 ホーリ王子は、軽く頭を下げると満面の笑顔を見せた。


「はい……実は、私の母上……サーキュ王妃が一昨日の早朝に、突然姿を消しました。ダーウト王子を連れ、お付きとともに、どうやらサーケヒヤー国へ旅立ったとみられております。


 サーケヒヤー国は王妃様の母国ですから、里帰りということで通常であれば問題はないのですが、このところカンヌール国内に起こっている様々な異常な事件や不祥事に、王妃様がかかわっている節がございまして、その確認をしようとしたところ、いち早く姿を消された様子です。


 さらに居室には離縁状まで置いてあり、これはもう覚悟の上の国外脱出とみられております。


 サーケヒヤー国は先般、突然の宣戦布告を我が国宛に発し、それとほぼ同時期に巨大戦艦3隻でカンヌールのオーチョコ港を制圧しようと攻めてきた経緯があります。


 いち早くサーケヒヤー国の動きに気づかれたトーマ先生……ホーリ王子がご存知の冒険者名ではワタル先生ですね……たちのご活躍により未然に防げましたが、今回も同様に我が国へ宣戦布告してくる可能性が高く、事前に貴国の仲介で平和裏に解決できないものかと、お力をお借りに参りました。」

 ジュート王子が、極力手短に訪問の目的を告げた。


「はあー……サーケヒヤー国がカンヌール国に宣戦布告すると……恐らくそうなのでしょうな。

 その通達をするから、待っていろということなのでしょうね。それがなぜ、こんなに時間がかかっているのかはわかりませんが……。」

 ホーリ王子は腕を組んで、一人頷く。


「恐らく、サーキュ王妃様のサーケヒヤー王宮到着を待っているのではないでしょうか。下手に宣戦布告を早めて、王妃様が途中で攻撃されては困るので……。」


 ジュート王子の予想では、そろそろサーキュ王妃の乗った船がマースへ到着するくらいの時刻だ。到着後に宣戦布告してくることが予想される。


「そうとなれば急がねばなりませんな……このまま謁見室へ参りましょう……王様に直接交渉して、サーケヒヤー国が宣戦布告する前に平和条約を結ばせるよう、動いていただく必要性がある。


 なあに……何をしているわけでもなく、サーケヒヤー国からの連絡を待っているだけですから、このまま出向いても問題ないでしょう。やはり戦争となると民が巻き込まれてしまいますからな。避けられるものであれば避けたいし、話し合いで解決できることは極力話し合いで解決したほうがいい。では、参りましょう。」


 やはりホーリ王子は、話の分かる御方のようだ。何より国民のことを考えてくれている……それが他国民であってもだ……。


『カチャッ』「王子様……たった今サーケヒヤー国がカンヌールに対して宣戦布告いたしました。さらに、気になる情報が……。」


 ホーリ王子がドアノブに手をかけようとした瞬間、ドアが勝手に開き、衛兵と思しき甲冑姿の兵士が王子に数枚の書類を手渡す。


「こ……これは……ふうむ……王様のところへ行くのは取りやめですな……遠いところ、わざわざお訊ねいただいたのに申し訳ないが、このままおかえりください。」

 渡された書類に目を通したホーリ王子は一転、俺たちにこのまま帰るように告げた。


「お待ちください……今のお話聞こえてしまいましたが、サーケヒヤー国がカンヌールに対して宣戦布告したと……ぎりぎりのタイミングで間に合わなかったとは言えますが、今からでも遅くはありません。

 何とか間に入って、和平交渉の仲介役をお願いできませんか?」


 すぐにジュート王子がホーリ王子を引き留める。そうだ……まだ宣戦布告しただけで、戦争の火ぶたはきられていないはずだ。まだ間に合う。


「そうはいきませんね……こんな大事なことを隠したうえで和平交渉などと……時間稼ぎとしか考えられない。カンアツにはこんな戯言に惑わされるつもりは、ありませんぞ。」

 ところがホーリ王子の態度はかたくなだ。……一体あの書類には何が書かれているのだ?


「時間稼ぎなどするつもりはありません。カンヌール王は、戦争は民を傷つけるだけで、何も得るものはないとおっしゃって、何とか戦争を避けるよう私にお命じになられました。その仲介役をお願いしたく、カンアツまで参ったのです。このまま帰るわけには参りません。一体その書面に何が書かれているのでしょうか?


 カンヌールを攻め滅ぼした場合の、領地の取り分でしょうか?」

 ジュート王子が何とか食い下がる。このまま追い返されては、何のために2日もかけてはるばるやって来たのか、分からなくなってしまう。


「ここには、先般のグイノーミの百年ダンジョンのほかに、カンヌールでは極秘に300年ダンジョンを制したことが記載されております。その際、巨大な精霊球のほかに3石の生命石に加え、何と玉璽まで出現したと。


 百年ダンジョンの精霊球ですら強大な魔力を秘めていると評されているというのに、それが300年ともなると如何様なものか……想像を絶しますな。


 さらにさらに玉璽まで出現していると……この事態を知ったサーキュ王妃は急ぎサーケヒヤー国へ帰国し、カンヌール国王の陰謀を暴き、先手を打って宣戦布告することにしたとの記載がある。


 カンヌール国へ攻め込む際は、カンアツと連合を組んで一気に攻め滅ぼしたいとも記載されています。もちろん制圧後の領地の分配方法も記載されてはおりますな……。


 ですが領地配分に目がくらんだわけではござらん……300年ダンジョンの精霊球取得と玉璽の件を極秘にしたうえで、準備が整う前にサーケヒヤーに攻め込まれそうだから和平交渉の仲介役をお願いするだのいわれても、我々はそこまで馬鹿ではござらん。


 精霊球と玉璽を扱う兵士の訓練を終えた後、一気に攻め込むおつもりでしょう?その際はまずカンアツを平定し、続いてサーケヒヤーの順ですかな?我々を愚弄するにもほどがある。


 本来なら、このまま捕えてサーケヒヤー国に引き渡すところだが、ワタル殿たちには命を救われた恩がある故、ここは私が独断で皆様方をそのまま追い返したということにする。早々に立ち去ってくだされ。

 時が経てば経つほど、ここを離れることが難しくなりますぞ。」


 ホーリ王子から驚愕の情報を告げられた……隠したはずの2石の生命石と玉璽のことが、サーケヒヤーに伝わっていたのだ……一体どうして?ダンジョン内でトオルが回収したときに、誰かに見られていたのか?


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