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カンアツ王宮へ

「国軍の将軍を緊急招集しまして、モロミ渓谷とオーチョコに向けて軍を派兵するようにいたしました。オーチョコには飛竜部隊を配備いたします。飛竜部隊には、火と水の精霊球を持つ魔法使いと弓の狙撃手も同乗させて、ナーミさんやショウさんのような援護射撃を行う作戦です。

 では準備も整いましたので、出発いたしましょう。」


 王宮内の中庭で待機していると、ジュート王子がお付き一人と一緒にやって来た。一国のお世継ぎが、お付き一人だけ連れて他国へ出向く事は危険極まりない行為なのだが、今回ばかりはやむを得ない。


 なにせアポなしというか、電信で行くことは知らせてはいるものの、向こうからの返信を待たずに無理やり押しかけていくのだ。何十人もの護衛兵と一緒に出向こうものなら、それこそ武力行使の可能性ありとして、戦争にも発展しかねない。


 お忍びで行くしかないので、だからこそ俺たちがホーリ王子の顔見知りであることを利点に、付き添いとして護衛を兼ねて同行するのだ。


「わかりました。では先導させていただきます。」

 ミニドラゴンの背に乗り、ヌールーを出発する。この交渉によって、戦争を避けることができるかどうかがかかっているのだ。重要な任務であり、さらにジュート王子の身の安全も確保しなくてはならず緊張する。



 街道に沿って飛竜で飛び、出発がすでに夕刻近い時刻となっていた為、途中カンヌール国内で野営する。

 緊急事態ではあるのだが、深夜時間帯に他国を飛竜で飛行することは、国際問題となりかねないので避けるつもりだ。飛行は昼間のみとして、さらに都市部上空の飛行は避けるつもりでいる。


「すいません……ちょっと試してみてもよいですか?」

 夕食後、ジュート王子も加わって日常訓練を終えた後、トオルが前に出てきた。


「試すって何をだ?新戦法でも考えたのか?」

 補助魔法を使った、新戦法でも考えついたのかな?


「いえ……そうではありません。サーラの……サートラといったほうがいいでしょうか……ジュート王子様が王様に彼女を紹介するためにサーキュ王妃様の誕生会に招待されたとき、ショウ君がいち早く彼女の正体に気が付き、予定を変更して王子様と王様のお命を狙うために魔物たちを呼び寄せました。


 その時にワタルに対しても何か攻撃を仕掛けようとしたため、私がクナイを投げつけましたが、恐らくそれで攻撃を防ぐことができたわけではないと考えております。


 彼女は大量の魔物たちを呼び寄せてそのすきに逃げ出しましたが、瞬間移動できたわけですから、王子様や王さまを手にかけてから逃げ出してもよかったはずです。それをしなかったということは……何らかの力が作用して、彼女の攻撃力や瞬間移動の術を無効にされていたと考えたほうがいいでしょう。」


「えっ……?えーと……どういうことだい?魔法を使おうとして……精霊球をつけ忘れてきたんじゃなかったのか?ジュート王子様に会うので、身体検査を受けるかもしれないから着けずに来ていて、それを忘れて呪文を唱えようとしてできなかったとか……そんな程度に俺は考えていたぞ。」


 トオルが、とてつもなく難しいことを言い出すので、念のために確認しておく。サーラが、あの場で何かしようとしていたのは明白だ。ところがしなかった……できなかったと考えたほうが自然というのは納得できる。だがそれは……精霊球をつけてこなかったということで、十分説明できるわけだ。


「いえ……私のクナイをあの至近距離で、しかも振り返りざまに受けた手練れさから言っても、たとえ精霊球がなくとも体術で暴れることは可能だったでしょう。


 現にあの時は、ジュート王子様の体を片手で軽々と持ち上げていました。そのまま手にかけることは可能だったでしょうが、その瞬間に私かワタルに倒される恐れがありました。


 瞬間移動ができれば、王子様を手にかけて次いで王様を……といったことも可能だったのでしょうが、それをしなかったということは、使えなかったと考えたほうがよいでしょう。お二人が屋外でお揃いになる絶好機でしたからね。それをあきらめたということは、使うつもりでいたのに使えなかったと考えるのが自然です。


 精霊球も……特殊効果石もそうですが……隠そうと思えばドレスの色々なところに隠しておけますよ。」

 トオルは、サートラには何らかの攻撃手段があったはずと主張する。そりゃあ確かに、絶好機といえば絶好機だったからな……それなりに準備はしていて当然だな……。


「それができなかったのは、この石のおかげだったといいたいわけだな?」

 俺が胸元から、漆黒の角張ってごつごつした石を取り出して見せる。


「ああそれは……あの時にお渡しした……。」

 ジュート王子がその石を見つけて、小さくつぶやく。


「そうです……クナイや投げナイフを無効にするような特殊効果石というものは思い浮かびませんから、恐らく攻撃手段はワタルの予想通りに精霊球……攻撃魔法だったでしょう。そうしてその石は、魔力を封じる力があった……封魔石とでも言いましょうか……そのため瞬間移動もできず、魔物を呼んだのでしょう。」

 トオルが自信満々に答える。


「えっ?だって……魔物たちだって魔導石で操っていたわけだろ?魔法が使えないのだったら、魔導石だって使えなかったんじゃないのか?」


 攻撃魔法だけ選択的に使えなくするというのはありえなくはないが、瞬間移動だって攻撃魔法ではないだろうからな……魔導石だけ使えたのはおかしいだろ?


「いえ……魔物たちは長年サートラン商会ビルにて飼育されておりました。当初は魔導石の力を使っておとなしくさせていたのでしょうが、長年の餌付けを通してペットのように飼いならされていたのではないかと……魔導石を使わずとも、操ることができたのではないでしょうかね?


 20年間もの長期間あのビルで飼育していたとなると、何世代かにわたって飼育していたはずですからね。

 魔物だって、人間に慣れていうことを聞くようになっていても、不思議ではありません。」

 ああなるほど……


「だとすると、ペットのように飼いならした魔物たちを、自分が助かるために利用して逃げたということか?」


「そういうことになりますね……。」

 うーむ……冷血漢……サートラ恐るべし……。


「まあ、こんな議論をしていたところで先へ進みませんから、試してみましょう。

 水弾!水弾!」


『バシュッシュッ……ズザザザザッ』トオルがすぐわきの藪に向かって水弾を唱えると、強烈な水滴の弾によって弾かれた枝葉が宙に舞い上がった。


「では……ワタル……盾をしっかりと構えてください……いいですね?水弾!水弾!」

 トオルが俺の目の前で身構えるので、急いで冒険者の袋から全身を覆うような大きめの盾を取り出し構える。


「うん?どうした?」

 盾を構えていても、何の衝撃もない……まさか狙いが外れたか?盾の横から、恐る恐る顔を出してみる。


「水弾をワタルに向けて発射してみたのですが、何も起きませんでした。やはり攻撃魔法は無効化されたのでしょう。水弾!水弾!」

 トオルはそう言いながら体の向きを変えて、先ほどと同じ薮のほうを見て水弾を唱える……が、今度は何も起きなかった。


「うーん……一度攻撃を仕掛けられて認識されてしまうと、その相手の魔力自体を無効化してしまうのでしょうね……。」

 トオルが少し恥ずかしそうに、苦笑いを浮かべる。


「じゃあ、今度はあたしが魔法攻撃してみる?」

 トオル一人だけでは確信が持てないので、今度はナーミが出てきた。


「ちょっと待ってください……超高圧水流!」

 今度は超高圧水流を使ってジャンプ……と思ったが何も起こらない。


「やはり……魔法自体が使えなくなってしまいましたね……。危険ですから、ナーミさんは攻撃を仕掛けないでください。」


「おっおい……魔法が使えなくなったら、まずいんじゃないのか?ダンジョンに入った時に困るぞ!」

 いくら実験のためとはいえ、トオルが魔法を使えなくなったら、かなりの戦力ダウンだぞ!


「いえ……逃げた後のサートラは、捕らえられた元社員たちを始末するときに瞬間移動をしていましたから、恐らく魔力は回復したはずです。時間が経てば戻るのか、あるいはその石から一定距離以上離れると回復するのかわかりませんが、回復はできるはずです。


 いずれ戻るとは考えますが、擬態石などは自分の思い描いたとおりに擬態できますから、精霊球同様、特殊効果石は持ち主の思考を読み取るはずです。その石を握って、私は敵ではなくて今のは実験だったんだと念じてみてくれませんか?」


 トオルは案外冷静に俺に指示するので、俺もなんとか気を落ち着かせて漆黒の石を握り締め念じる。


(トオルは敵ではない……さっきの魔法攻撃はテストだ……だから魔力を戻してやってくれ……)


「どうだ?」


「はい……では……水弾!水弾!」

『バシュシュッ……ズッバーァーン』トオルが薮に向かって唱えると強烈な水滴の弾が発せられ、薮の枝葉が舞い上がった……やったあ……魔力が回復した。


「やはり思った通りですね……敵から魔法攻撃を受けようとした瞬間に……ワタルを狙った時点で自動認識して敵の魔力を封じるようです。念じることで解除可能なところから、同じく念じることで、魔力を封じる敵を攻撃を受ける前から設定することも可能と考えます。


 ただし有効範囲というのは存在するでしょうから、この場で念じてもサートラの魔力を封じ続けることは難しいでしょうね……あくまでも魔法効果の射程距離内に対峙した場合に、封じることができると考えたほうがよいでしょう。」


 トオルが漆黒の特殊効果石の効果について解説する……そうか……封魔石か……得体のしれない怪物ともいえるサートラに対抗する強力な武器となりうるな……ジュート王子……ありがとうございます。


「サートラとの闘いを考えることは重要だが、まずは戦争を避けるための交渉が先決だ。といっても夜間は動けないから、今日のところはこれくらいにして……交代で見張り番をして……休むとするか……。」

 封魔石の使い道は、追々考えていこう。


 翌日も早朝から飛行して、更にカンアツ国内でも一泊野営して、アーツ到着は3日後の10時前だった。


『バサッバサッバサ……』アーツ王宮の中庭に直接ミニドラゴンで降り立つ。かなり乱暴だが、ホーリ王子は直接でいいと言っていたし、何より緊急事態だからやむを得ない。

『ダダダダダダッ』すぐに近衛兵であろう、重厚な甲冑で身を包んだ兵士たち数十人に取り囲まれる。


「俺はワタルという冒険者だ。ホーリ王子様からは、いつでも立ち寄るよう仰せつかっているので、お邪魔させて頂いた。王子様はいらっしゃるかな?」

 ジュート王子と一緒に来た旨は当たり前だが臥せて置き、ホーリ王子の知り合いとして面会を申し込む。


「ふざけたことを……ホーリ王子様のお知り合いかどうか知らないが、王宮に直接飛竜で降り立つとは何事だ!カンアツ王家を愚弄しているのか?本来ならば王都から離れた場所で降り立って、そこから馬車でやってくるのが礼儀であろう?悪いが王子様への面会は許可できないし、不審者として拘束させていただく。


 開放するのも、お前たちの素性を細かく調べてからとなってしまいそうだな……こっちへ来てくれ。」


 近衛兵たちの先頭に立っているひと際体の大きな兵士が、鋭い目つきで睨みつけてきた。まあそうだろうな……カンヌールの守護竜である飛竜で、こともあろうにカンアツの王宮へ直接舞い降りたのだからな。


「待ってくれ……無礼なことは重々承知のうえだ……だがホーリ王子様からは、直接飛竜で乗り付けて構わない旨の許可を頂いている。だからと言って、普通ならこんなことはやらない……緊急事態なんだ。

 悪いが王子様へワタルが来た旨、取り次いでくれ。これを見てくれ……。」


 そういって、ホーリ王子から渡されたネックレスを見せる。これがあれば、王子の知り合いとして認定されるはずだが……。


「無理だな……本日早朝より厳戒態勢を命じられている。そんな折、このような暴挙を許すわけにはいかない。数日間は牢獄に閉じ込めて、お前たちの素性背景をしっかりと取り調べたうえで、何も怪しい点がなければ釈放はしてやる。当然ながら国外退去という形となるがな……おいっ……ひっとらえろ!」


『はっ』


 近衛兵の指揮官は、俺のいうことに聞く耳持たずといった感じで、何が何でも俺たちを捕らえようとする。ううむ……厳戒態勢っていうのも気になるな……。しかし、このまま捕えられてしまうとまずい。ジュート王子がカンアツに捕えられたなんてことになると、今度はカンアツとカンヌールの戦争に発展しかねない。


 どうする?まさか戦うわけにはいかないし、ジュート王子の名をここで明らかにしたほうが良いか?


「お待ちなさい!何をしているのですか?飛竜が来宮した場合は、真っ先にホーリ王子様か私宛に連絡するよう、通達をしてあったはずです。それなのに、どうしてここで捕らえるだのなんだのと物騒な話になっているのでしょうか?責任者は誰ですか?」


 するとそこへ、王宮から出てきた長身の男が待ったをかける。おお……ホーリ王子のお付きの丸眼鏡だ。ミニドラゴンで降り立つところを見かけて、出てきてくれたのだな?助かった……。


「はっ……でもまさか……本当に飛竜で他国の王宮に直接降りてくるなど、こんな無礼なことは……。」


「馬鹿を言うのではない!ホーリ王子様が直接で構わないと彼らに案内したというのに、どうしてそれを一介の近衛隊の班長であるお前が否定するのだ?」


「はっ……申し訳ありません……。」

 丸眼鏡に恫喝され、先ほどまで威勢のよかった兵士が肩をすぼめ委縮する。


いつも応援ありがとうございます。この作品への評価やブックマーク設定などは、連載を続けていくうえでの励みとなります。お手数ですが、よろしかったらお願いいたします。よろしくお願いいたします。

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