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戦争勃発?

「近衛隊にも差し入れられていた様子ですね。食べずに捨てたようでしたので、残骸を持ってきました。」

 ジュート王子にごみ箱を提示する。


「ありがとうございます……すぐにこのケーキを分析させましょう。」

 ジュート王子はごみ箱を受け取り、王子のお付きに指示を出して手渡した。


「では、我々は謁見室へ参りましょう。王宮守備隊の責任者も一緒に来てください。」


「はっ……わかりました。」

 先ほどの将校とともに、謁見室へと向かう。



「ううむ……なんと、未知なる技を使う賊が現れたようじゃな……このような移動ができれば、城壁や警備などは意味をなさなくなってしまうではないか……何もかも無駄じゃわい……。」

 謁見室でビデオを映しながら王様に報告をすると、さすがの王様も冷静さを失った様子だ。丁寧に作られてはいるが、金銀や宝石などの装飾は施されてはいない質素な玉座の背にもたれかかり、大きなため息をつかれた。


「そうですね……どのような警護をすればよいものやら……この賊を目にしても王宮地下牢警護の兵士たちは身じろぎ一つしておりません。恐らく、王宮入り口の詰め所の兵士たちも同様でしたでしょう。もしや……金縛りの術を使ったのではないかと……。」


 王宮守備隊の将校が、流れ落ちる汗をぬぐいながら同意する。初めて見るショッキングな映像に、彼も驚きを隠せない様子だ。


「直接、地下牢の通路などに出現しなかったところを見ると、恐らく屋内では瞬間移動はできないのだと考えられます。地下牢に賊が入ったことがなかったために、まずは王宮入り口付近に出現したとも考えられますが、見張り番の兵士から牢のカギを奪ったことからも、恐らく壁などを通り抜けることはできないのでしょう。


 ですから、しっかりと施錠して警備兵を置くことは有効と考えます。牢番の兵士が動けなかったのは、金縛りの術の可能性もありますが……ただこれも催眠の一種でして……。」


 トオルが、サートラの瞬間移動に関して冷静に分析する。なるほど……外でしか使えないという可能性が高いわけだな。


『ガチャッ』「王子様……。」

 ちょうどその時、ジュート王子のお付きが謁見室に入って来て王子に耳打ちをする。


「王様、今のトオルさんからの発言の補足をいたします。


 昨日、母上から王宮守備隊と近衛隊両方の夜勤者に、食後のデザートのケーキの差し入れがあったそうです。王宮守備隊の夜勤者は全員そのケーキを食べたようですが、近衛隊は警戒して食べなかったようです。

 王宮守備隊の夜勤者全員が昨晩の記憶があいまいな様子ですが、近衛隊隊員は問題ありませんでした。


 そうして、その差し入れのケーキの残骸のほんのひとかけらを実験用のネズミに与えたところ、すぐに眠ってしまいました。恐らく大量の睡眠薬入りのケーキということが推定されます。」


 先ほどのお付きがケーキの解析結果を知らせに来たのだろう、ジュート王子が報告する。やはり、睡眠薬か……しかもこんなあからさまに……どういうつもりだ?


「ふうむ……やはり、昨日からどうにもサーキュ王妃が何らかの陰謀に加担しておる様子じゃな……陰でいろいろ言っているだけでは、何も解決せんのう……おい、誰か王妃をここへ連れてきてもらえるか?


 昨日は突然倒れてしまい、わしから何も聞きだすことができなかったが、兵士たちに差し入れをしたくらいじゃから、体調は戻っておるということなんじゃろ?具合が悪いなどと偽ってベッドで寝ておっても構わんから、無理やり連れてきなさい。」


 王様は強い口調で、サーキュ王妃をこの場に連れてくるよう命じられた。さすがに堪忍袋の緒が切れたということだろうな……サーケヒヤー国に遠慮して、誰も王妃の行動をたしなめるものがいなかったのだろうが、ようやくこれで運の尽きといったところだろう。



「おっ……王様……。」

 王様に王妃の連行を命じられた侍従が、数人の兵士たちとともに戻ってきたが、王妃は同行していない。また病に臥せっているとか仮病でも使っているのか?王様は無理やりでもつれて来いといっていたはずだぞ?


「なんと……わがカンヌール国も舐められたものじゃの……。」

 侍従から渡された紙片に目を通した王様は、呆然自失の表情で、うつろな目で空を見つめた……一体どうしたというんだ?


「王様……しっかりしてください。いかがなさいました?」

 すぐにジュート王子が、玉座に駆け寄っていく。


「王妃が……サーキュが……消えよった……恐らく、サーケヒヤーへ帰ったのじゃろう。王妃の飛竜がいないようじゃからな……しかも、ダーウト王子を連れて……。さらに……これは……。」

 王様が手に持つ紙片を見つめながら、わなわなと肩を震わせる。


「これは……離縁状……まさか、母上は計画的に……?」


 ジュート王子が、王さまが持つ紙片を覗き込んで絶句する。離縁状まで準備していたとは……サートラン商社のありさまといい、どこまでも用意周到に練られ、失敗した場合の手順も細かく決まっていたのだろう。


 そうして全ての証拠を消して立ち去っていく……うーん……今までサートラが陰の存在であった理由が分かるような気がする……かなり頭が切れる……いわゆる天才ということだ。


「すぐに追いかけましょう、恐らく王妃様は飛竜で長時間飛行することは辛いはずです。日の高いうちの数時間だけ休み休み飛行するでしょうから、こちらが羅針盤を用いて夜間も飛行していけば、追いつくことは可能なはずです。カンヌール国内は無理でも、カンアツ国内で追いつけば、連れ戻すことはできますよ。」


 すぐに追いかけることを提案する。まさか王妃を乗せた飛竜が、羅針盤を使って夜通し飛行するなんてことはあり得ないだろう。体力が持たないはずだ。王妃の体力から考えて、飛行時間は1日5、6時間がいいところだろう。無理すれば、明日には追い付けるはずだ。サーケヒヤーに入られたら手が出せない。


「それが、無理なのです。おっしゃる通り、母上は飛竜での旅はお嫌いでした。一般のご婦人はどなたでもそうでしょうが、せいぜい数時間程度しか、飛竜に乗っていられません。


 ですから母上がサーケヒヤーに里帰りする際は、船を使うのです。カンヌール南の漁港には、母上専用の船が係留されておりまして、エンジンも何もついていない形だけの船なのですが、従者用の部屋もたくさんありましたし、シャワー室や大きな寝室に厨房や食堂までそろった、豪華なつくりをしていました。


 私も一度だけ見せていただいた記憶があります。


 その船を成獣の水竜が2頭で引いて航海するのですが、水竜ゆえ高速に進むことができ、しかも24時間休むことなく航行しても、船内はホテルのように快適に過ごせます。飛竜で南の港町まで本日の夕刻には到着するでしょうから、そこから2日半ほどでマースへ到着してしまうでしょう。


 元々はサーケヒヤー国の軍艦は水竜が引いていたのですが、最近はエンジン技術が発達して、水竜を使わなくても巨大戦艦を就航できるようになり、以前の軍艦を改造してプライベート用に使用しているのです。

 そのため巨大な船ですし、頑丈なつくりで高速で航行しても揺れはほとんどありません。


 恐らく本日の早朝には出発しているのでしょう。もう昼をとっくに回っている時間ですし、今からでは、どうやっても追いつけないですね。」


 ジュート王子が、力なくうつむき気味に答える。なんとまあ、そんな交通手段まで……サートラの瞬間移動が一度にどれほどの距離を移動できるか疑問ではあったのだが、王妃と一緒に国外逃亡する可能性は十分に考えられるな。だが、そのことを確かめる手段も何もないということか……参ったな……。


「でも、どうするつもりなのでしょうね……サーキュ王妃様はダーウト王子様を次の国王にさせるために、色々と画策していると考えておりましたが、ここまであからさまなことをしてしまっては、ダーウト王子様の目はもうないでしょう。しかも国外逃亡ですからね……。」


 トオルが、王子たちには聞こえないくらいの小声でつぶやきながら腕を組む。確かにそうだ……失敗はしたのだろうが、それでただ逃げ帰ってしまっては、これまでの苦労が水の泡だ……。


「まさか……また戦争でも起こすつもりなんじゃ……ジュート王子様……取り敢えず王宮は警戒を強めて……それから、サーケヒヤーから宣戦布告される恐れがありますから、軍備も確認しておく必要性がありますね。

 今回は海軍の戦艦だけではなく、本格的に陸軍も一緒にこの国を制圧しに攻め込んでくる恐れがあります。」


 恐らく王妃がサーケヒヤーに到着次第、宣戦布告だろうな……そうして今度こそ、大規模な戦闘が巻き起こる。カンヌールを攻め滅ぼして、ダーウト王子を新国王に据えれば、国民の支持も得られるだろうからな。


「そうですね……非常に残念ですが……先の戦闘で拿捕した戦艦も、返還したばかりだというのに……。」

 さすがのジュート王子も、ショックを受けた様子だ。


「へ……返還されたばかりなのでしょうか?」


「はい……戦艦の航続距離や速度など、エンジン性能や船の構造なども詳細に解析をしまして、その後サーケヒヤー国に返却いたしました。カンヌールで戦艦を所有してもあまり意味を持ちませんからね。


 ましてや他国製作の戦艦となると……捕虜としてとらえていた乗組員たちは先立って先月には送り届けましたが、戦艦だけは解析に時間がかかったわけです。解析で得た技術は、海上保安船や大型漁船の建造に役立てるつもりでした。恐らく未だに北海を航行中のはずですね。」

 ジュート王子がさりげなく告げる。


「まずい……これでまた宣戦布告されたら、返還した戦艦がUターンして攻め込んできますよ。乗組員たちは別途水竜で運んでいけばいいのですからね……北方山脈だけではなく、オーチョコ港も警戒しなければいけませんね。」

 このままでは、また前回の戦争の二の舞になってしまう。


「わかりました……すぐにわが軍の将軍たちを招集いたしましょう。」

 ジュート王子が真剣な表情で頷く。


「ジュート王子よ……戦争はできるだけ避けるのじゃ……万一の場合に備えることはもちろんじゃが、並行してカンアツにお願いして、間に入って頂くよう交渉してくれないか?こちらから先手を打って、和平交渉を行えば、無理やり宣戦布告ということもできないはずだ。」


 やはり王様は、戦争を好まないようだ。それはそうだろう、戦火が広がれば、国民が一番迷惑するからな。いつもおっしゃっていることだ。


「承知いたしました……時間がありませんので、直接カンアツへ出向いて交渉してみます。」

 王子が神妙に頷く。この交渉にかかっているのだ、責任重大だぞ。


「カンアツのホーリ王子様とは、私どももちょっとしたお付き合いがございます。先日までコーボーにある、カンアツ王家の別荘をお借りしてコーボーギルドへ通っていたくらいです。

 王子様、我々も同行させてください。」


 カンアツへの同行を願いでる。俺たちが行ったところで、何が変わるということはないのだろうが、王子の護衛のつもりだ。カンアツまでも手をまわされていると厄介だからな。


「そうですか……ホーリ王子とは縁戚関係にあるのですが……生みの母が亡くなってからは疎遠になってしまいまして……そうですか、お元気にされていましたか?」


「はい。それはもう、聡明で立派な青年となっておられます。また、細かな気づかいなど、お優しい面をお持ちのようですから、きっとお力になっていただけるものと……。」


 実をいうと3度会っただけではあるのだが、一応は命の恩人と感謝されているわけだし、コーボーでの滞在だってそれなりに長かったからな。近しい間柄であることを強調しておく。恩を返せということではないが、ホーリ王子であれば戦争にならないよう、力添えをしていただけるはずだ。


「では時間がありませんから、国軍の準備とカンアツ王宮宛に電信を打ってから、すぐに発つといたしましょう。トーマ先生たちは、このままの出発でも大丈夫でしょうか?」


「ええ……そうですね、いつもなら野営用に装甲車の荷台を使用しているので、ちょっとそれをとりに戻ればいいかと……。」


「いいわよ……緊急事態なんだからテントでも……ショウだってサートラに正体を知られてしまったわけだから、今更隠す必要性はないわけでしょ?寝るときはみんなの前でエーミの姿に戻ればいいのよ。」


 一旦ノンフェーニ城へ戻ろうとしたら、ナーミに止められた。装甲車の荷台であれば温かいし、何より内側からロックできるから、ショウがエーミの姿に戻れるので必要な野営道具なのだが、確かに一番隠しておかなければならない相手に、正体がばれてしまったのだからな……これ以上隠そうとしても仕方がないか。


「大丈夫でした……このままでも出発可能です。」

 いつでも行動できるよう冒険者の袋はもちろんだが、着替えやパジャマなども常にリュックに入れて携帯しているからな。すぐに旅立てるわけだ……。


「それと……例の設計図の件ですが……。」

 ジュート王子に小声で耳打ちする。


「はい……軍の工作部隊に極秘に制作させているところですが、材料はそろいまして寸法どりして切り出した後にねじ穴など加工が始まったところです。まだ仮組もしておりませんし、試すにはそれなりの日数がかかるかと、考えております。」

 王子も小声で答える。


「そうですか……最悪ぶっつけ本番で……仮に戦争になった場合は、戦線に投入いたしましょう。私が直接指揮を執ります。ですのでいつでも持ち出せるよう準備を願います。」

「了解いたしました。手配しておきます。」


 戦争にならなければそれが一番いいのだ。だが、どうしても止められない場合……相手があることだからな……その場合は先制攻撃してでも早急に武力で制圧するのが一番だと思うのだが……とりあえずは、平和交渉だ……。


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