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ジュート王子の恋人

「ワタル様に電信が入っておりますよ……4日前に受けたのものですが……その間いらっしゃらなかったもので、お渡しできませんでした。」


 早朝にギルドへ出向き、前回クエストの清算をまず行ったら、美人受付嬢がおずおずとA4の用紙を差し出す。見ると電信なのに着日は4日前……仕方がないな……クエスト清算せずに、そのまま週末にトークの教会へ行っていたからな。


「どうされたのですか?」

 俺が受け取った用紙を、トオルがのぞき込む。


「ああ……ジュート王子様からだ……浮島を不動産会社に紹介されたときに、住まいが決まりそうですっていう手紙を出しておいたからな……おおっ……以前言っていた会わせたい人の件だ……ええと、王様が会わせてくれとしつこいので、王様に紹介することにしたようだ……。


 それで……できれば王様に紹介する前がよかったが、日が近いのでご一緒にとなっている……ありゃりゃ3日後の午後予定だ……近々で申し訳ございませんと追記してあるな……まあ、電信は4日前に来ているんだから、仕方がないか……。


 どうする?行くか?このまま浮島まで戻って、すぐにミニドラゴンに乗って帰らなくちゃいけないが……。


 内々の会なので普段着でってなっているが、まさか冒険者の格好じゃいけないから、城に戻って着替えていく必要性はあるけどな。」

 電信の用紙をちらつかせながら、皆の顔を見回す。


「もちろん行くわよ……将来の王妃様の顔を生でばっちりとみておかなくちゃね。どんな人かしらね……清楚で美しくてしとやかで可憐で……賢くてスタイルがよくて料理上手で……性格もいいでしょ?おっと、それから……」


「そんな人が実際にいたらすごいけどな……エーミとトオルはどうする?」


「もちろん一緒に行くー……。」

「私も同行いたします。」


 ギャラリーを引き連れていくことになりそうだ……すぐにギルドを出てボートで浮島へ向かい、荷物をまとめてミニドラゴンで飛び立つ。街へ買い物に行ったときに、ワインを数本とコルク抜きを一緒に買っておいたのがよかった。


 何かの時の土産にするために結構奮発して高いのを買っておいたので、これをお祝いとして進呈すればいいだろう。



 ミニドラゴンに装甲車の荷台を足で持ってもらって、一路西へと向かう。途中2泊して3日目の昼前にはノンフェーニ城へ到着した。


「おかえりなさいませ……いよいよ宮中へご士官なされる決心がつきましたか?爺もうれしゅうございます。

 ささっ……すぐに正装に着替えて……。」

 城の中庭に着陸すると、いつものように爺やが出てきて、衣裳部屋へ案内しようとする。


「ああちょうどいい……士官ではないがジュート王子様に呼ばれて、これから王宮へ向かう。俺とショウとトオルにはタキシード……ナーミは王様から頂いたドレスがあるから、至急着替えたい。


 城のものを呼んで、ナーミの化粧と着替えを手伝ってもらえるかい?」

 すぐに、着替えて王宮へ行く旨を使える。


「かしこまりました……ただいま……。」

 爺やが急いで城の中へと消えていった。


「じゃあ、男は衣裳部屋で……ナーミは自分の部屋だな……着替えたら、また中庭に集合だ。」

『はいっ』


 すぐに城の衣裳部屋に行って、タキシードに着替える。ショウはここカンヌールではノンフェーニ城以外ではエーミに戻ることは許されないので、男の格好で我慢してもらうしかない。



「申し訳ございません、急なお呼びたてとなってしまいました。それなのにご都合を調整いただき、いらっしゃっていただきましたこと、本当にありがとうございます。さっこちらへ……。」


 俺たちが王宮へ向かうことを爺やに言って電信を打っておいてもらったためか、中庭にはジュート王子が待っていて出迎えてくれた。サートラが住んでいた時分は、電信で各地とやり取りをしていたため、その時使っていた装置が城にはいまだに残されているのだ……もちろん、トーマの金で設置したものだ。


『ワイワイガヤガヤ』王子に連れられてきたのは、王宮の中庭……と言っても広い王宮の、普段は使っていない東門近くの中庭に、いくつものテーブルを並べた、野外の立食パーティの席だった。


 内々といっていたが、それでも正装した貴婦人や恰幅のいい初老の男性から、きらびやかな軍服に身を包んだ将校など、大勢の来客が来ていた。着替えてきてよかった……。


「本日は王妃様の誕生日でして……いつもはかなり盛大にパーティをするようなのですが、このところ未然に防ぐことはできましたが、他国に攻め込まれたりダンジョン攻略で犠牲者が出たりと災難続きということで、王妃様も遠慮して、内々での開催となりました。


 招待客も王宮関係者以外は、王妃様の親しい友人のみとなっているようです。


 王様ももちろんご出席されますので、ちょうどいいので、この日にどうしても会わせてほしいとせがまれてしまいまして、本日来賓の一人としてお呼びしております。王様への直接の紹介はせずに、皆様とともに歓談いただく予定となっております。そのため、少し遅れてくるよう申し合わせております。


 本来ならトーマ先生にまずご紹介して、先生のお眼鏡にかなってからというのが筋なのでしょうが……ご一緒にということになってしまいました。申し訳ございません。」


 シュート王子がそう言って腰を折り頭を下げる。やはりナーミの推察通りに、意中の人を紹介してくれるということのようだ……剣術指南役の紹介ではなかった……。


「めめっ……滅相もない……ジュート王子様のお好きな方をご紹介いただけるだけでも光栄ですのに、お眼鏡……だなんて、どんな方も何も王子様が選んだ方なのですから、素晴らしい方に違いありません。


 あっそっそうだ……これ……今は拠点をサーケヒヤーに移したのですが、マースで売っているワインという南の大陸の酒です。結構おいしいので、試してみてください。王妃様にお誕生日おめでとうございますと、お伝えください。」


 どんだけトーマのことを尊敬しているんだか……ここまで心酔していただくと、対応に困ってしまう。俺なんかじゃ、すぐに化けの皮がはがされて、ショックを受けさせかねないので怖い……。


 とりあえず土産のワイン5本と、コルク抜きを忘れないうちに手渡しておく。本来なら会場の世話係に渡すのだろうが、王子に直接招待されている立場から、王子に渡したほうがいいだろう。


「お心遣い、感謝いたします……母も喜ぶことでしょう。あっそうだ……大切なことを忘れておりました。


 300年ダンジョンから、皆様方と一緒に持ち帰った特殊効果石の一つなのですが……トオルさんが持ち帰ったもののうち一つが、どのような特殊効果なのか、ギルド担当者の鑑定でも、これまでの記録にないもののようです。ただの小石という判定を受けまして、鑑定額もつかずに返却されました。


 発見者に記念品として、お渡しするようにと申しつかっております。ですが、あのダンジョンを経験した私には、これがただの石であるとは到底信じられません。何か意味がある石のはずです。そのため、他の特殊効果石同様、チェーンを取り付けました。


 よろしければ、この石をつけてダンジョンに入り、どのような効果があるか試してみてください。勿論、いかなる効果があろうとも、返却の必要性はございません。ギルド担当者が価値を認めていないのですからね、そのままお使いいただくのがよろしいです。


 これまでの歴史の中で、つけている人に害を及ぼすような特殊効果石は見つかっていないと、ギルド担当者からも聞いております。この石もきっとトーマ先生の冒険の一助になるはずです。どうかお使いください、お願いいたします。


 では……パーティをお楽しみください。」


 そういってジュート王子は、俺の手に真っ黒くごつごつと角ばった小石にチェーンを取り付けたものを握らせると、ワインの入った紙袋を手に、大きなテントを張った壇上へと歩いていった。


 婚約披露パーティとかではなくて、誕生日会的なものの中でさりげなく王様に合わせるという、格式ばった会ではないのでほっとした。王族の婚約披露パーティなんて肩っ苦しい場に対応するのは、骨が折れるからな。王子の気遣いに感謝する。


「どうする?トオルがつけるか?」

 この黒い石は見覚えがある……トオルが見つけたものだ。


「いえ……私は遠慮しておきます。特殊効果石は確かに人に害を及ぼすものではないのですが、擬態解除石なるものも存在するはずと考えられております。ですから私としては遠慮させていただきます。私は擬態石を常用していますので、それと干渉すると困ります。」


 そういってトオルは拒否をした……そうだな……ある時突然、擬態が解けたりしたら困るわな。


「わかった……俺がつけておこう……。」

 とりあえず、なくさないようにすぐに首から下げておくことにした。効果なんてなくても構わない……ジュート王子の頼みだから、アクセサリーのつもりでぶら下げていればいいさ。


『わー……わー……』会場がざわめきだし何事かと思ったら、王様とお妃さまが王宮から出てきた様子だ……そりゃそうだ……お妃さまの誕生会なのだものな……いわば主役だ。


「ナーミ……王様は心優しい方だからよかったが、お妃さまは言葉遣いなど結構厳しいお方と伺っているから、気を付けてくれよ……できれば何もしゃべらないほうがいい……。」


 王様とお妃さまが来賓へあいさつに回っているので、危険人物に注意しておく。


「わかったわよ……何もしゃべらないで、ただ食べているわよ……。」

 そういいながらナーミは、テーブルの上の大皿に盛られている料理に手を伸ばした。まあ、食べ続けていれば、話しかけられることもないだろう……。


 王様とお妃さまが回ってきても、姿勢を正して直立して頭を下げ目を合わせないようにする。そうして嵐が過ぎ去るのを待った。王様は嫌いではないのだが、やはり公の場となると緊張するので、出来れば言葉を交わしたくはない……無礼討ちにでも処せられたら大変だ。


 王様とお妃さまは来客たちの間を一回りすると、先ほど王子が向かった大きなテントが張られたひな壇へと向かって、席につかれた。


「では……サーキュ王妃様の誕生日を祝しまして……カンパーイ……。」

 ナーミはフライングしていたようで、王様たちが席についてようやく誕生パーティが始まったようだ。


 せっかくだから頂こうとテーブルの上の料理の大皿を見ると、肉料理のほかに中華料理風のものや欧風料理風のもの、カンヌールでは珍しいハムやウインナーソーセージなどを使った料理もあるようだ。


 さすが王妃様だ……サートラの商社を通じて、珍しい食材を調達しているのだろう。前回の祝勝会の晩餐よりも、はるかに多彩な料理が並んでいる様子だ……ワインくらいじゃあ驚かなかったかな?



『わあーきれい……』『どこのお姫様かしら……』国際色豊かな料理に舌鼓をうっていると、会場がざわつき始める。ふと見ると、南の方から人影が……追加の来客か……?そういえば王子の恋人は、遅れてくるといっていたな……もしや……と思っていたら、ジュート王子が駆けていった。やっぱりな。


「トーマ先生……お会いしていただき方というのはこのご婦人……と言ってもまだ若くて15歳なのですが、サーラさんです……。」


「始めまして、サーラと申します。トーマ先生のことは、王子様からも時折お伺いしておりました。先日は王子様の窮地をお救いなさったとか……本当に感謝しております。王子様は、カンヌールになくてはならないお方ですから……。


 いつかはお会いしたいと思っておりましたが、まさかこんなに早く願いがかなうとは、思ってもみませんでした……遠いところ、ようこそお越しくださいました。」


 サーラと紹介された美少女は、見た目は若いのにしっかりとした口調で話した。それにしても、凄まじいまでの美少女……というか幼さをどこか残していながらも美しいと感じる。ナーミやエーミとは違うタイプの美少女だ。だが、どことなく冷たい印象と、さらにどこかで会ったことがあるような感じがするのは気のせいか?


「トーマと申します。どうにもジュート王子様は私のことを買いかぶりすぎていらっしゃるようでして、恐らくお聞きしている内容の、1割ほどの人間とお考えいただければよろしいかと……ただの一介の冒険者にすぎません。お会い出来まして、大変光栄です。


 ジュート王子様……本当におきれいで、しかもお若いのにしっかりとされていて、すごく素敵なお方ですね……王子様とお似合いですよ。」


 心に少し引っ掛かりは感じるのだが、とりあえず外観含め感じたままをジュート王子に告げる。俺の評価でどうこうなるはずはないのだが、やはりこういう場合はお愛想を言っておかなければ……。


「ありがとうございます……トーマ先生にそうおっしゃっていただけますと、王様に紹介するのに弾みがつきます。では……王様もお待ちかねのご様子ですので……。」


 王子は笑顔でそう言ってサーラとともに一礼してから、王様が待っている大きなテントの方へと歩いていった。さすがに2人が歩いていくと、立食パーティで混雑している客が道を開けていく。


「ママ……ママなんでしょ?」


 ところが突然ショウがその後ろ姿に向かって叫ぶ……ショウの声に反応してジュート王子は立ち止まり振り返るが、サーラは自分の事とは考えていないかのように、そのまま歩いていこうとしている。

 ママって……サートラか?まさか……。


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