石ワーム
「石ワームは俺たちの足音を聞いて位置を知り、その場へ出現しているようだ。だから、動かなければ恐らく出てこないだろう……いや……もしかしたら、会話の声も聞いているかもしれないがね……。
あんな巨体が地中を楽々と動けるのは、恐らく土系魔法だろう……軟化とか液状化とかいう高度な魔法なのだろうな……そこで俺も考えた。俺が奴の出現を防いでみる。
散々じらした後で、みんなで取り囲んだ場所だけ出られるようにするから、そこから出現したらみんなで一斉攻撃だ。いいね?」
姿を見せずに突然地中から姿を現して、俺たちをはじき飛ばしてはまた地中へ戻っていく石ワーム。どうやって俺たちの位置を探っているのかと思っていたが、恐らく足音だろう。
駆けていく足音を聞いて、その先に出現して攻撃してくるのだ。仕掛けさえわかれば、対応はさほど難しくはない。
『ダダダダッ』わざと大きな足音を立てながら、ドーム端へと駆けだしていく。そのすきにトオルたちは足音を忍ばせながら、ドーム中央へと寄っていった。
『モコモコモコッ』「硬化!」
少し目の前の地面が盛り上がったので、俺が駆けていくすぐ前方の地面めがけて硬化を唱える。俺のイメージでは、分厚い岩盤並で何物をも通さない固い地盤だ。
『ドゴッ』案の定、俺の目の前の地面が揺らいだが、石ワームは地中から出て来られなかった。
『ダダダダダッ』すぐに方向転換し、ドーム壁に沿いながら駆けだす。
『モコモコッ』「硬化!」『ドゴァッ』急停止して硬化を唱えると、地面が大きく揺らぐ。やはり石ワームが地面を突き破ってくるのを防いだようだ。
向こうは地面を軟化させる土系魔法を使い地中を縦横無尽に動き回り、俺たちの動いていく方向の先に出現して、効果的に攻撃を仕掛けてくるつもりなのだろうが、奴が地表に出ようとする瞬間に、その出現ポイントを俺の土系魔法で硬化させて防いでいるのだ。
同じ土系魔法を使っているのだから、向こうの魔力が勝ってたまには出現で来てもよさそうなものだが、いかなA級ボスとはいえ、冒険者と戦うのは成長してから初めてのはずだ。つまり経験がほとんどない。
対する俺は、数々の魔物たちと戦い経験を積んできている。硬化という地面を固くする魔法を使うのは、先ほど思いついた魔法なのだから初めてではあるのだが、向こうだって対人戦闘で使うのは今日が初めてのはずだ。
そうなると、これまでそれなりの数の戦闘をこなしてきた俺の方が経験の上で勝ることになり、呪文を唱えるタイミングとか、より効果的に魔方効果を具現化させる術に長けているはずなのだ。
だから石ワームがどれだけ頑張っても、俺は奴を地中から出さない自信はある。
『ダダダダッ』『モコモコモコッ』「硬化!」『ドガンッ』時計回りにドーム周辺を駆けながら、石ワームが出現しようとした瞬間を狙って地面を硬化させ、その出現を防ぎ続ける。
そうしてドームを半周程回ってから方向転換し、トオルたちが待ち受けるドーム中央へと駆けだす。
『ダダダダダッ』『モコモコッ』「硬化!」『ドガンッ』すぐに目の前の地面が盛り上がったので、地面を硬化させ出現を防ぎ、『ダダダダッ』さらにトオルたちの方へと駆けていく。
(行くぞっ!)
『はいっ!』ほぼアイコンタクトで皆に意思を伝えると『モコモコモコッ』目の前の地面が大きく盛り上がる。
『ダダッ』『ドッバァーンッ』巨大な石ワームが出現する寸前に制動をかけ、大きく後方へジャンプ。
「炎の矢!」
『シュボワシュボワシュボワッ・・・ズダダダッ』まず最初にナーミが反応し炎の矢を連射すると、その矢は正確に石ワームの関節部に突き刺さっていく。
「硬化!」
『ドゴンッ』石ワームはすぐに頭から地中へ潜ろうとするが、その先の地面を硬化させ、今度は石ワームを潜らせない。
『シュシュシュシュッ』逃げ場を失った石ワームに、トオルがクナイをその節に正確に投げつける。
「かまいたち!かまいたち!かまいたち!」
『ビュゴワァッゴワァッビュゴワッ』ショウのかまいたちも正確に石ワームの関節部に的中し、体を砕き小石を飛ばす。
「脈動!」
『ダダダッ』『ガツンッガツンッガツンッ』剣を突き刺すと石柱ブロック同士にはさまれて剣が折れてしまう危険性があるため銛に持ち替え、脈動を使って大ジャンプし、石ワームの体に馬乗りとなり、両手で関節部めがけて思い切り何度も突きさしてやる。
『ドッバァーンッ……バシュッ』『ドーンッ……ゴロゴロゴロッ』それなりに手ごたえを感じていたのだが、はるか向こうの方の地面が盛り上がり長い石柱が出現すると、そいつが鞭のようにしなりながら襲い掛かってきて、俺の体は大きく弾き飛ばされ地面を転がった。くそうっ……しっぽにやられた……だが……。
「ちいっ……だが、効いている様だぞ……苦しんでいるんだ……休まず続けるんだ。脈動!」
『ダダダッ……ガツンガツンガツン』『シュボワシュボワシュボワッ』『シュシュシュシュッ』『ビュワァビュワッゴワァッ』ナーミの炎の矢にトオルのクナイ、ショウのかまいたちがさく裂する中、動き回る石ワームの体に、ロデオのようにバランスをとりながらしがみつき、くじけずしつこく銛で関節部を突き続ける。
『グラグラグラッ』『ドンッ……ゴロゴロゴロッ』『ビュワビュワビュワビュワビュワッ』『カランコンコンコンッ……』すると突然、先ほどまでの手ごたえがなくなると同時に、思い切り放り投げられ地面を転がされる……見ると石ワームが石柱ブロックごとに分割して浮かんでいるではないか……。
倒されて崩れたのではない……石柱ごとにばらばらに分割して宙に浮いているのだ。
同時に、関節部に深く突き刺さっていた矢やクナイが地面に落とされた。
『シュワァーッ……ズダダダダッ』バラバラになった石柱ブロックは、数十mほど奥へ飛んでいき、そこでもう一度積み重なって、合体した。
「硬化!」
『ドッガァーンッ』俺たちと距離を置いてから地中へ潜ろうとしたようだが、そんなことは許さない。すぐに地面を硬化させて、逃げるのを防いでおく。
「はあー……せっかく突き刺さった矢やクナイは全て落とされてしまったな……またやり直しか……。ごくごくごく……。」
ううむ……退路を断って攻撃を続け、いいところまで行っていると思っていたのにな……取り敢えず回復水を飲んで体力回復だ。
「B級までの石ワームは分裂することはなかったわね……矢が大量に突き刺さると抵抗になって地中に潜れなくなるから、最終的に大口を開けて襲い掛かってきて、大抵はそこで仕留められたんだけど……。」
ナーミが悔しそうに唇をかむ。
「分割した石柱平面部の中央部分に、接合部のようなものが見受けられました。直径30センチほどの円形のものでしたが、恐らくそこも急所ではないのでしょうかね……。」
トオルが冷静に石ワームを分析する。
「そうか……じゃあもう一度攻撃を仕掛けて苦し紛れに分割したら、各石柱ブロックの円の中央部分を狙うんだ……敵は石だからな……地道な攻撃の積み重ねで倒すしかないということだろう。」
すぐにトオルが発見した、石ワームの急所攻撃を提案する。
「脈動!」
『ダダダダッ……ダッ』すぐに駆け出すと脈動を使ってジャンプし、石ワームの上に飛び乗り『ガツンガツンガツンッ』再度銛で関節部分を突き始める。
「炎の矢!」
『タタタッ』『シュボワシュボワシュボワッ』すぐにナーミも石ワームの近くまで駆けより、関節部分を狙って炎の矢を射かけ始めた。
「超高圧水流!」
『タタタタ……タッ』トオルは超高圧水流でジャンプし、俺と同様に石ワームの背に飛び乗り『ガツンゴツンッ』関節部を銛でつく。
「かまいたち!かまいたち!かまいたち!」
『ビュワッゴワァッビューワーッ』ショウの唱えるかまいたちも、石ワームの関節部を正確に攻撃する。
『グラグラグラッ』『ドーンッ……ゴロゴロゴロッ』突如、石ワームの体が揺れ始めたかと思ったら、そのまま大きく振られ、ドーム端まで飛ばされ転がる。
『ビュワビュワビュワビュワビュワビュワ』起き上がって振り返ると、いくつもの石柱ブロックがドーム中央部分に浮いていた。
「炎の矢!」
『シュボワシュボワシュボワッ』ナーミが、空中に浮かんでいる円柱ブロックめがけて矢を射かけていく。
『ドンッ……ゴロゴロゴロッ』『ドンッ……ゴロゴロゴロッ』矢が中心部分に見事命中した石柱ブロックは落下し、地面を転がった。
「かまいたち!かまいたち!かまいたち!」
『ジュワビュゥッビュワー』『ドンッ……ゴロゴロ』『ドンッ……ゴロゴロっ』ショウのかまいたち攻撃を食らった石柱も、次々と落下していく。
『シュワーッ……ドンドンドンドンッ』残りの宙に浮いていた石柱ブロックはドーム端の方まで逃げていき、そこで再度石ワームを形作った。
「なんだか短くなっているな……石柱ブロックの急所を突かれた分は動けないのか、参加できずにずいぶんと寸詰まりだ……ようし……この調子だ……脈動!」
『ダダダダッ……ダッ』『ガツンガツンガツンッ』すぐに駆けだし石ワームの背に飛び乗り、関節部を銛でつき始める。『ガツンガツンガツンッ』トオルも飛び乗ってきて加わり、『シュボワシュボッシュボワッ』ナーミの炎の矢に『ビュワッビュゥワービュワッ』ショウのかまいたちも炸裂する。
『グラグラグラッ』『ダダッ……ダッ』またがっていた石ワームの体が大きく揺れ始めたので、すぐさま飛び降りる……毎度毎度吹き飛ばされてはいないさ……『シュタッ』トオルも飛び降りて着地した。
『ビュワビュワビュワビュワッ』見上げると、いくつもの大きな石の円柱が宙に浮いているようだ。
「岩弾!岩弾!岩弾ッ!」『ビュビュビュッ』トオルの言っていた円の中心部分の急所が見えたので、そこを狙って岩弾を発射する。『ドンッ……ゴロゴロゴロッ』と見事的中、1つの円柱を撃ち落とすことができた。
「炎の矢!」
『シュボワシュボワシュボワッ』『ドンッ……ゴロゴロゴロッ』『ゴンッ……ゴロゴロゴロッ』ナーミの炎の矢は、正確に円柱ブロックの中心を突いて撃ち落とし、
「かまいたち!かまいたち!」『シュビュワーッ』『ドンッ……ゴロゴロゴロッ』ショウのかまいたちと『シュシュシュシュッ』『ドンッ……ゴロゴロゴロッ』『ドゴンッ……ゴロゴロゴロッ』トオルのクナイも次々と、円柱ブロックを撃ち落としていく。
『シュアーッ……ドンガンドガンッ』堪らずドーム反対奥へと飛んでいった石柱ブロックは、そこでまた石ワームを形成する。だが、3,40mはあったであろう巨大石ワームも、すでに半分も長さがない……。
『シュアーッ』石ワームはその大きな口を開けて、最後の攻撃を仕掛けてきた。
「今よ!炎の矢!」
『シュボワシュボワシュボイワシュボイワシュボワ』『グザグザグザグザグザッ』ナーミがその大口に、無数の矢を射かけ始めたので、
「だりゃあっ!」
『バシュッ……ズゴッ』俺も続けとばかりに、手にしている銛を大口めがけて投げつけると見事命中。
『パシュッ……ドガッ』トオルの投げた銛も命中した。
「雷撃!」
『バリバリバリッ……ドッガンッ』更にショウの雷撃が、俺とトオルが放った銛に炸裂する。
『ズッドォーンッ……ゴロゴロゴロゴロゴロゴロッ』大きく鎌首を持ち上げていた石ワームは、崩れ落ちて石柱ブロックに分裂し、そのまま動かなくなった。
「や……やったぞ……倒した……。」
へなへなとその場に座り込む……周りを見回すと、ナーミもショウも……さすがのトオルも座り込んでいた……。
「やりましたね……。」
『ゴクゴクゴクッ』全員が冒険者の袋から回復水を取り出し、それを飲んでようやく立ち上がる。
「さあて……精霊球を回収して、帰るとするか……。」
精霊球は銛や矢が突き刺さった、大口を開けた頭の奥の方にあった。ドーム壁や石ワームのパーツの石柱ブロックも注意してみて回ったが、ほかには精霊球も特殊効果石もなさそうなので、ドームを後にしてミニドラゴンの背に乗り浮島へ帰宅した。