土のダンジョン挑戦
「では、頑張ってきてください。」
前日までの火のダンジョンのクエストを清算して、今度は土のダンジョンのクエストを申し込み、ギルドを後にする。すぐに港からモーターボートで浮島へ引き返し、ミニドラゴンの背に乗ってマース山脈へ出発。
前回同様、山脈内の盆地に着陸し、そこからほど近い場所にダンジョン入り口はあった。
『ガチャッ……ギィッ』鉄柵で作られた扉を開けて中へ入っていくと、中は高さ3mで幅が4mほどの洞窟だった。洞窟全体に土や木の根が露出していて、今にも崩れてきそうでちょっと怖い。
『モコモコモコモコッ』入ってすぐに足元の地面が盛り上がり、危うく足を取られそうになる。
「危ないっ……地面に何かいるぞ!気をつけろ!」
すぐに叫ぶが、『ドッバァーンッ』今度は目の前の地面が目の高さまで盛り上がる。『ビュッスカッ』すぐに剣を振るが空ぶり、目の前には何もいない……逃げられたか?
「いやあっ!」
『ズッバァーンッ』後ろへ振り返ると、今度はショウの目の前に巨大な土の塊が盛り上がっていた。
「火弾!火弾!火弾!」
『ボシュワボシュボシュッ』果敢にも炎の玉で攻撃を仕掛けるが、すぐに地面に引っ込んででしまい、またもや空振りに終わる。
「身構えていて、姿を現したらすぐに攻撃しないと当たりそうもない。一旦洞窟の真ん中に固まろう。」
4人が洞窟中央で互いに背を向け合って身構え、4方を警戒する。
『モコモコッ』少し前方の地面が動き出したので、息をゆっくりと吐きだし構える。『ドッゴォーンッ』『シュッパァーッ』『ドッゴォーンッゴロゴロゴロッ』地面が盛り上がるが早いか、すぐに剣をふるい前方を水平斬りすると手ごたえあり、直径50センチほどの丸太のようなものが地面に転がった。
「ふわー……巨大ミミズ……いわゆるワームだな……この洞窟は所々岩が突き出しているが、土が露出している場所が多いから、こういった魔物が増えるのだろう。
地中を移動して襲い掛かってくるから、厄介な相手だな……。」
ううむ……恐らく土系魔法を駆使して、この巨体でも土の中を楽々と移動できるのだろう。こういう魔物は嫌だな……何より食用に適さないし……いや……食糧難でミミズを食用にするなんて言う話も昔あったかな……?
『モコモコモコッ』「うん?」『ズッバァー……ビュッビュッ』
「きゃーっ……痛い……目が痛い……。」
今度は頭上の洞窟天井が盛り上がったかなと思った瞬間、後方のナーミが悲鳴を上げる。なんだぁー?
『モコモコッ』『ズガッ』今度は洞窟側壁が盛り上がり、そこをめがけてトオルが勢いよく銛を突き入れる。
『ガバッ』銛を引き抜くと、1mほどの長さの大きなムカデが刺さっていた。
「ワーム同様、大ムカデも洞窟内の地中を移動して襲い掛かってくるようですね。大ムカデは毒を吹きかけるようですから、より厄介といえます。」
『ジャーッ』ナーミの目の周りについた毒を、解毒薬で洗い流してやる。
「ありがとう……B級でも土系ダンジョンでは大ムカデやミミズは出現していたけど、地中から突然襲い掛かってくるようなことはなかったわ。せいぜい木の根の間に隠れて襲い掛かって来たくらい。さすがにA級ともなると、簡単にはいかないようね……。」
タオルで顔をふきながら、ナーミが悔しそうに歯ぎしりする。念のために、竹筒に残った解毒薬を飲ませておく。
「水系ダンジョンで購入した水中眼鏡があるにはあるが、さすがに洞窟内では視界が悪いだろうな……注意して進んでいくしかないだろう。」
「私が洞窟上部を監視して、盛り上がりを見つけたら、すぐに銛でついて先制攻撃しますよ。」
トオルが銛を掲げながら答える。
「ああ……じゃあ俺が地面を担当して、盛り上がってきたら銛で突き刺すとしよう。」
剣を鞘におさめて、冒険者の袋から銛を取り出す。どうにもこのところ、銛が活躍する場が多いようだ。剣士ではなく騎士になった感がある・・・。
『ドッドッドッ』その後もワームや大ムカデに悩まされながらも進んでいくと、洞窟の先の方に大きな黒い影が走ってきて止まった。次の瞬間『ゴンゴンゴンッ』前に掲げる俺の盾に、強い衝撃を受ける。地面を見ると、こぶし大のごつごつと角ばった石が転がっていた。つまり……岩弾だ……。
こんなの生身で受けたら、大けがだぞ……自分で使っていながら、攻撃魔法の威力に背筋が寒くなる。
「すぐに盾を出したほうがよさそうだ……岩弾を打ってくるな……。」
すぐにトオルたちに盾の装着を指示する。海系ダンジョンのために揃えた装備が、ずいぶんと役に立っているな……。
『カッカッカッ』『ゴンゴゴゴンゴンゴンッ』岩弾の当たる密度が濃くなってきたので、魔物が増えてきたのだろうか……。ええい……『ブンッ……ドザッ』盾で視界はさえぎられているのだが、大体の見当で足音がした方向へ銛を思い切り投げつけてみる。
『シャキンッ……ダダダッ……』一瞬攻撃が止んだので、そのまま剣を抜いて一気に駆け出すと、駆けて行った先には、毛深い2頭の大型動物が自分たちの間の地面に突き刺さった銛に驚いて、目を丸くしている所だった。
「おりゃあっ!」
『バシュッ……シュッパンッ』すぐさま身をかがめて一頭の喉元に剣を突き刺し引き抜くと、もう一頭の首を斜めから袈裟懸けに斬り落とす。
「わあっ、イボイノシシ系の魔物のようですよ……やりましたね……このダンジョンでは食肉は調達できないのかと、あきらめ気味でしたが、いい肉が手に入りましたね……。」
トオルが上機嫌で、イボイノシシ系魔物の解体に取り掛かる。これまで虫系ばかりだったからな……だが、食肉をゲットするのも容易ではないようだぞ……たまたま今は、やみくもに投げつけた銛に驚いてくれたからよかったが……次はこんな簡単にはいかないだろう。
猛進イノシシよりも2回りは大きな体で、鼻の上に大きないぼのような突起がある。大きな口の両横から飛び出している長い牙は、反り返って先端は上を向いている。下から突き上げて攻撃してくるのだろう……さらに魔法まで使うのだから厄介そうな相手だ。
火弾とか大炎玉くらいだったら、トオルやショウの水の障壁で無効化できるだろうが、岩弾だとそうはいかない……多少は勢いが弱まるだろうが、突き抜けて来てしまう。だからトオルもショウも、水の障壁はあきらめて、張ろうともしていない。
ほかにも崩落とか使われだしたら大変だ……狭い洞窟が崩れ落ちたら生き埋めだ。まあ、土や岩でできたボス魔物とは違い、奴ら雑魚魔物は食肉ゲットできることからも生身の体なのだから、自ら自殺行為の崩落は使わないとは思うのだが……考えてみると、土系魔法を相手にすることが一番厄介かもしれないな……。
『カンカンカンカンッ』暫く進むと、またもや盾に衝撃が……先ほどよりは少し軽めの衝撃ではあるのだが……『カンカンカンカンッ』『カンカンカンカンッ』後方のショウやナーミの盾にも衝突して、大きな音を立て始めた。どうやら敵魔物は大勢いる様子だ。
「ワタルっ……ちょっと盾を上向きに……そうして高く構えなおして!」
「おっ……おお……こうか?」
『カカカカカンカンカンッ』前向きに構えていた盾を、両手を思い切り伸ばして上向きに構えなおすと、今度は盾表面を滑るように、衝撃が伝っていく。
「炎の矢!」
『ボワシュッボワシュッボワシュッボワシュッ』『バサバサバサバサッ……』ある程度攻撃を避けられるようになったので、ナーミが矢をつがえて炎の矢を連続して放つと、衝撃が止んだ。どうやら倒せた様子だな……。
「ホーン蝙蝠よ……この辺りのホーン蝙蝠は土系ダンジョンでは石つぶてを使うのね……体が小さいせいか、中級の岩弾を使わなかったからまだよかったわね……。」
ナーミが射かけた先へ駆けていき、矢を抜きながら蝙蝠の死骸を掲げる。そうか……洞窟といえばホーン蝙蝠なのだが、火のダンジョンでは火を吐くが、土系では石つぶてを使ったりするのだな……超音波だけではないのだ。ホーン蝙蝠はミニドラゴンが好んで食べるため、血抜きしてまとめて縛って持ち帰ることにした。
その後もワームや大ムカデにホーン蝙蝠らを退治しながら進んでいき、ボスステージ手前の水飲み場まで到着した。土が盛り上がればすぐにそこをめがけて銛を突き、羽音がすれば矢を射かけるという、条件反射的な対応も、ずいぶんと慣れてきて、魔物たちの出現回数は多かったのだが、さほど苦労せずに進んでこられた。
やはり慣れだな……。
今日の晩飯は、先日の水牛肉を使ったビーフシチューとパンだった。ナーミにサーケヒヤーの土系ダンジョンは虫系の魔物が多いので、食材調達が難しいと聞いていた為、水牛肉をクーラーボックスに入れて持ってきたのだ。ミーミーたちに習って、トオルはパンも焼くようになったようだ。
通常でも食材調達が困難な場合に備えて、各自の冒険者の袋に1〜2アイテム分ずつは、以前に取得した食材を分配して入れてあるのだが、別分として持ち込むのは300年ダンジョン以来だな……。
イボイノシシ系魔物の肉は使い道が別にあるということで、帰ってから調理するとトオルが言っていた。
パンが焼けるまでに日々の訓練と、ダンスの練習までこなし、腹ペコだったせいもあったが、フォークで簡単にほぐれるような水牛肉のシチューは、格別だった。
「じゃあ、いよいよボスステージだ……このダンジョンのボスは……石ワームとなっているな……。
巨大なワームで地中から突然襲い掛かってくるので要注意、弱点は関節部と大きな口と体の中心となっている。要するに、このダンジョンでよく出てきたミミズの化け物のようなワームの、さらに巨大版ということかな?」
早朝からボスステージ入り口前で、ボスの特徴と注意点を伝達する。
「違うのよ……石ワームというのは、その名の通り石でできた巨大なワームよ……だから通常攻撃は通じないわ。魔物の攻撃を避けながら関節部を狙ってしつこく攻撃して、魔物が一気に勝負をつけようと大口を開けて襲い掛かって来た時がチャンスよ。
その大口めがけてありったけの矢や銛を打ち込むの……それでようやく倒せるわ……。」
ナーミが石ワームという魔物の解説をしてくれる……ううむ……石でできたミミズ……。
「ようし……関節部を集中攻撃だね……じゃあ、行ってみるか……。」
意を決して、ドーム内へ入っていく。中は広い円形のドーム状空間だ。直径100mはあるだろうか……だが……。
「何もいないぞ……。」
ナーミへ振り返る。いつもドーム奥に待ち構えているボス魔物の姿がどこにも見えないのだ。
「気を付けて……多分、地中から突然出てくるから……。」
ナーミがそう言いながら、身を低くして身構える。
『モリモリモリモリッ』突然十mほど先の地面が1mほど盛り上がる。
「来るわよ!」
ナーミが弓に矢をつがえて構える。
「えっ……どこ?」
『タタタッ』ショウが盛り上がってくる地面から避けようと、左手に駆け出す。
『ドッバァーンッ』すると突然ショウの駆け出した目の前の地面が破裂し、巨大な石柱が出現した。
「きゃあっ……。」
『ドンッ……ゴロゴロゴロ』地中から勢いよく飛び出てきた石柱に弾き飛ばされ、ショウが地面を転がる。
これが石ワームなのだろう、灰色のその体は直径2m以上ありそうだし、地表に出ている分だけでも長さは十mを余裕で越えている。こんなの、どうやって相手をしろというのだ?
『ズッボォーンッ……』ところが一瞬だけ姿を現した石ワームは、すぐに頭から地中へ潜ってしまった。
「ショウっ、大丈夫か?」
『ダダダダッ』急いで転がっているショウのもとへと駆けだすと、『グラグラグラッ』『ドッバァアーンッ』目の前の地面が大きく揺れ始め、突然盛り上がると『ドガンッ……ゴロゴロゴロッ』出現した石ワームに弾き飛ばされ、俺の体も地面を転がる。
「関節部を狙うのよ!炎の矢!」
『シュボワシュボワシュボワッ……』『ズッボォーンッ』姿を現した石ワームめがけてナーミが果敢にも矢を射かけたが、石ワームはすぐに地面に潜ってしまい、空ぶりに終わったようだ。
直径2mで、それぞれ長さ3mほどの円柱ブロックが積み重なって巨大なワームを作り上げているようで、激しく動く石ワームの石柱同士の接続部の関節部分を狙うということなのだろうが、地中から出現してすぐに潜ってしまうのでは、狙いを定めている暇もない。
「ふうっ……ごくごくごくっ」
冒険者の袋から回復水を取り出して飲みながら、石ワームが潜った地面の様子を注視して警戒する。
「ワタル……ショウ君……大丈夫ですか?」
『タタタッ』トオルが心配そうに、弾き飛ばされた俺とショウのところへ駆け寄ってきた。『ドッバァーンッ』すると今度はトオルの目の前に、巨大石柱が出現。
「超高圧水流!」
『ブッシュワァーッ』瞬間的にトオルは大跳躍し、事なきを得た……だが……そうか……足音か……。