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火のダンジョン挑戦

「じゃあ、今度は火のダンジョンに挑戦してみるか?水のダンジョンは、ワーニガメはかなりの強敵だったが、トオルの新魔法でうまく処理できた。


 新魔法のヒントは、色々なところに転がっているということだ……魔法を使っている、魔物たちの観察が大事ということを再認識したな。経験を積むためにも、休まずどんどん行こう。」

 翌日は、火のダンジョン挑戦を提案する。


「いいわね……火のダンジョンも強敵ぞろいよ……。」

「うん……楽しみだね……。」

「新魔法を使った戦法を考えるためにも、どんどんクエストをこなしましょう。」


 水のダンジョンはかなり苦戦したし、攻略までに時間もかかったが、皆休むとは言わない。ダンジョン挑戦が楽しいのだ……しかもより強敵と出会えることがうれしいのだ。なかなか攻撃が通じないような相手に対して、知恵を使って現有勢力で何とか倒し切った時の達成感は、本当に素晴らしいものだ。


 これこそが冒険の醍醐味だと、しみじみ感じる。クエストをこなすのが一番楽しい今のうちに、どんどん挑戦していって経験を積み……そうして成長していくのだ。


「では、頑張ってきてください。」

 美人受付嬢に見送られ、ギルドを後にする。港に戻ってモーターボートで浮島まで戻り、そこからミニドラゴンの背に乗って、北西にあるマース山脈を目指す。



 マース山脈は、マース湖の西側に位置する連峰だ。といっても3国にまたがる北方山脈程大きくはないが、それでも2000メートル級の山々が数峰連なって形成されている。マース湖に流れ込むマース川はここを源としており、マース湖を形成している場所ともいえる。


『バサバサバサッ』マース山脈の中央部にある盆地に着陸する。ミニドラゴンで飛んできているので浮き島へ引き返しても2時間程度で到着するが、これが馬車だと山裾についてからは徒歩で山道を進まねばならず、1日半以上の道中となってしまうようだ。つくづく俺たちは恵まれていると感じる。


 盆地から北に山道を進んでいくと硫黄の匂いを感じてくるので、ダンジョンが近いことが分かる。山道沿いに設けられた金網製の檻のうち、No.168と書かれた檻のドアをギルドから渡されたカギで解錠し中へと入っていくと、そこは高さ3m程度で幅が4m程度の洞窟の中だった。


「洞窟の天井に木の根が露出しているでしょ?そこを伝ってチンパニーランスが襲い掛かってくるから注意が必要よ。」


 洞窟地面や壁は岩肌だが、天井だけは所々土が露出しているようで、そこから太い木の根がツタのように複雑に絡み合っている。確かに木の根につかまって天井を移動してこられたら厄介だな……。


「じゃあ私が天井を警戒しますから、ワタルは地面側の罠に注意してください。」

 トオルと分担して警戒しながら、おでこに取り付けた輝照石の明かりを頼りに進んでいく。知能も高く群れで襲ってくるのでチンパニーランスは厄介な相手だが、何度も遭遇している相手だし、まあ何とかなるだろう。


『ボワバシュッボワバシュッボワバシュッ』歩き出してすぐに、前方から火の玉が飛んできた。


「水の壁!」

『ザッバァーッ……ゴンゴンゴンッ』反射的にトオルが水の障壁を俺の前に張り、火の玉は水の流れに叩き落された。


「炎の矢!」

『ボワバシュッボワバシュッボワバシュッ』『ボゴワァーッ』すかさずナーミが、火の玉が飛んできた前方へ向けて炎の矢を放つと、巨大な炎が燃え上がる。


『ボワシュッボワッシュッボワバシュッ』『ボワシュッ』そうしてまたもや火の玉が飛んできた。


「水の壁!」

『ザッバァーンッ……ゴンゴロゴロッ』『ガツッ』トオルが張った水の障壁で、ほとんどの火の玉は防がれたが、上から飛んできた火の玉はすり抜けて俺の盾に直接当たった。


「岩弾!岩弾!岩弾!」

『バシュシュボシュッ』『ガッドゴッガンッ……ドザッ』洞窟上方へ向けて、やみくもに岩弾を発射すると、何か小さな影が落ちてきたようだ。


「ぐぅぉーっ!」

『ボゴワーッ……ドッドッドッ』すると次の瞬間、前方で燃え上がっていた巨大な炎が、一直線に突進してきた。


「水の壁!」

『ザッバァーッ』『ドッドッドッ』トオルの水の障壁で多少鎮火気味にはなったが、炎の塊はなおも突っ込んでくる。


「雷撃!」

『バリバリバリッ……ドーンッ』『ズズッ……』『ズッパァーンッ』ショウの雷撃で一瞬動きが止まった炎の塊を、上段から思い切り袈裟懸けで斬りつけると、『ズッドーンッ』巨大な炎は、その場に崩れ落ちた。


「洞窟上部から狙っていたのは、やはりチンパニーランスのようですね……天井の木の根を足場に伝ってきているようです。これは……枯れた木の根を小さく噛み切ったものですね……蓮の葉のような大きな葉っぱを丸めて、袋のようにして背中に背負っています。


 この球に炎を纏わせて火の玉として攻撃してきていたのでしょうが、火の玉を投げつけてきていたのは、最初はこちらの魔物でしたよね?チンパニーランスがこいつに木の玉を、供給していたのでしょうかね?」


 トオルが、俺が斬り捨てた巨大な魔物の方へも寄って来た。岩弾を食らって落ちてきたチンパニーランスの手には、野球のボール大の丸い木片が握られている。投げる時にこれに炎を纏わせるというわけだ……。確かに火弾で直接攻撃するよりも、手間はかかるが威力は大きい。


「こいつは、ファイアーゴリラだな……全身を炎で纏い、矢の攻撃を無効化する。炎を纏ったまま抱き着かれると命にかかわるので厳重注意。時にチンパニーランスと共謀して攻撃を仕掛けてくるとなっているな……魔物同士連携して戦うということか……それだけ知能が高いということだ……。」


 これからは魔物同士の共同戦術にも気を付ける必要性があるということだ……さすがA級ダンジョン奥が深い……。


「それにしてもトオルの水の障壁は結構使えるな……ファイアーゴリラが纏っていた炎をある程度鎮火できたから、ショウの雷撃も当たったし、斬りつけることもできた。」


「そうですね……火のダンジョンでは、かなり有効に使えそうですね……。」

 トオルも、新魔法が有効なのが相当うれしそうだ。満面の笑顔で答える。


「ぼっ……僕も使ってもいい?」


「もちろんですよ……ショウ君も水の精霊球を持っていますからね……中級魔法ですから右手の中指を割り当てて……。」


 トオルが、ショウに水の壁をレクチャーし始めた。2人とも使えるようになると、不意を突かれてもどちらかが対処できればいいのだから、より効果的だな……。



「コケーコッコッコ!」「コケーコッ」「コケーッ」

『ボワァーッ』『ボゴワーッ』『ボゥーッ』しばらく歩いていくと、突然鶏の鳴き声のようなものが聞こえたかと思ったら、大きな火の玉が一直線に飛んできた。


「水の壁!」

『ザッパァーッ』『バシュッ』『ボシュッ』『ボシュッ』『バサバサバサッ』さっそくショウが唱えて水の障壁を張ると、炎が消えかかった塊が、羽ばたきながらそのまま飛んでくる。


『シュッパンシュパッ』『シュッパッ』トオルと俺が冷静に、飛んできた塊を中空で斬り捨てる。


「ああ……鶏系の魔物ね……火を吐く鶏だから、名付けて焼き鳥って呼んでいたわ。B級までだと、火弾のような火の玉を吐くだけだったんだけど、A級になると炎を纏って飛びかかってくるようね。でも、必ず泣いてから襲ってくるから、比較的対応が楽な相手よ……。」


 ナーミが地に落ちた塊を拾い上げ、説明してくれる。真っ白い羽毛に覆われた、80センチほどの体に羽をもつその姿は鶏をそのまま大きくしたものだが……炎を纏って襲ってきたというのに、羽には全く焦げ跡など見られない。術者本体には炎の影響はないということのようだな……そりゃあそうだよな……。


「やりましたね……鶏肉ゲットですよ……。」

 トオルがさっそく斬り捨てた3羽の焼き鳥に駆け寄り、羽をむしり始めたので手伝ってやる。


「こいつに出会えると、いいことは鶏肉だけじゃないのよ……えーと……どこかな……。」

 ナーミが先ほど魔物たちが飛んできた辺りの地面を、きょろきょろと見回し始めた。


「あっあった……どれどれ……やったぁー……6個も……。」

 ナーミが掲げた手には、ナーミの手より少し大きめの、ソフトボールのようなものが握られていた。


「えへへ……焼き鳥の卵よ……普通の卵よりも数倍大きいから、これ一つだけでメンバー分の卵焼きが作れるわ。味もいいし……売ると結構な値段で売れるのよ……ダンジョン内で鳴き声が聞こえたら、みんな必死でその鳴き声に向かって駆けて行ったものよ……。


 網に入れておけば、数十個まとめて冒険者の袋に1アイテムとして入れられるから、焼き鳥が出現するダンジョンは人気があるのよ……。」


 ナーミが嬉しそうにゲットした卵を網に入れて、冒険者の袋に収納する。そうだな……食材になる魔物は人気が出るだろうな……。



 その後、火を吐くホーン蝙蝠や、洞窟天井から襲い掛かってくるチンパニーランスには悩まされたが、水の障壁の効果は大きく、結構楽に進んでいくことができた。焼き鳥とも何度か遭遇し、多くの鶏肉と卵をゲットできたのはうれしい。


 そうして2層目の最深部近くの水飲み場で、野営することにした。


「今日の夕食は親子丼です……焼き鳥という手もありましたが、卵も手に入ったので、こちらの方がよろしいかと……。」


 米が焚きあがるまで日々の訓練をこなし、晩飯は焼き鳥の肉と卵に洞窟キノコや野菜をふんだんに入れた、親子丼だった。鶏肉は味が濃く、かみしめるたびに濃厚な風味が鼻に抜け、さらにふわふわの卵との相性も抜群だった。おいしくて箸が止まらず、お代わりしたほどだ。こんな魔物ばかりだと、有難いのにな……。


「じゃあ、腹ごなしにダンスの練習をしようか……。」


 夕食の後片付けを終えると、このところ日課となっているダンスの練習に入る。当初は自信がなくて憂鬱だったダンスも、トーマの記憶をたどり何とか手足がスムーズに動くようになってくると、意外と楽しいものだと思えるようになってきた。


 洞窟内なので音楽も何もなく、手拍子のリズムだけで踊る練習をするのだが、それでもターンが決まった時などは気持ちよく、剣の訓練とはまた違った達成感が得られる。

 ダンスの訓練を終えた後は、交代で見張り番しながら就寝。



「このダンジョンのボスは、クジャク系魔物となっているな。強烈な炎の魔法攻撃で、名付けて火炎鳥となっている。炎系魔物の攻撃は、直撃すれば致命傷にもなりかねないから、要注意だ。」


『はいっ』

 いつものようにボスステージ手前の洞窟内で、ボスの注意点を伝達し、ボスステージのドームへ入っていく。


「はあー……でかいや……それと立派……。」


 ボスはクジャク系らしく、俺たちの姿を認めると扇のようにその尾を広げた。体高だけでも7,8mはあるのだろうが、さらに尾羽を広げたサイズは、高さ15mほどで幅は20mを越える巨大な扇子のようだ。青や赤や黄色など、鮮やかに彩られた羽の装飾は非常に美しく、芸術作品のようにすら感じる。


「あんぎゃぁーっ!」


『ボゴワアーッ……ボフゥーッ』ところがその美しい光景は、火炎鳥が雄たけびのような咆哮を上げると一瞬で業火に変わる。ドーム天井まで達するかのような巨大な火柱を上げ火炎鳥は炎に包まれ、更に口から巨大な火炎を吐いてきた。


「水の壁!」

『ザッバァーンッ』トオルが唱え、水の障壁で火炎放射を防ぐ。


「あんぎゃおぎゃおわーっ!」

『ボゴワァーッ』『バシュッバシュッバシュッ……』一段と火炎鳥を包む炎の勢いが増し、今度は火炎鳥後方から炎を纏った高速の矢が飛んできた。


「水の壁!」『ザッバァーンッ』『バシュッバシュッバシュッ』

「水の壁!」『ザッパーンッ』『ズダダダッ』トオルに加えてショウも水の障壁を張り、ようやく勢いを殺した矢は、それでも硬い地面に突き刺さった。


「尾羽に火炎を纏わせて、矢のように高速で飛ばしてくるようです。水の障壁2重でようやく防げるくらいですから、盾で防ぐのは厳しいでしょうね……。」


 トオルが地面に突き刺さった、クジャクの尾を眺めながらつぶやく。尾羽といっても長さ15m位はありそうな巨大な羽だ……こんなのが炎を纏って高速で飛んで来たら、確かに防ぐのは容易ではないだろうな……。


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