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水系ダンジョンでリベンジ

「水系のA級クエストご苦労様でした……これからもよろしくお願いいたします。」

 翌朝、ギルドへ行って水のダンジョンの清算を終える。


「次はどうするの?まさか十分稼いだから、休むなんて言わないわよね?」

 受付で精算を終えた俺の背中越しに、ナーミが尋ねてくる。


「もちろんダンジョンへ向かうさ……トークのところへ行って十分に休んだだろ?

 まずは……ちょっと苦戦したから、リベンジとしてもう一度水のダンジョンへ挑戦しよう……いいかな?」


 当たり前だが、日曜だからと言って休むつもりはない。曜日に関係なく、疲れがたまれば休めばいいし、元気ならダンジョンへ向かうのだ。ほかにやりたい事でもあれば別だが、今のところクエストをこなす以外に、やりたいこともないのだ……少なくとも俺にはな……。


「賛成ー。」

「いいわね……。」


「先日のダンジョンで苦戦したのは……私がワタルの指示を無視して、勝手な行動ばかりとっていたからで……その上ワタルに大怪我まで負わせてしまい……申し訳ありません……。」

 ショウもナーミもすぐに賛成してくれたが、トオルだけは受け取り方が違うようだ。


「そうではないさ……俺もトオルも……ショウもそうだが、冒険者になって間もないから経験に乏しい。

 だから目新しい魔物に遭遇したら、どうしてもその攻略に時間がかかってしまう……これは仕方がない。


 だからと言って冒険者を続ける限り、避けることはできないわけだ……毎回同じ魔物たちしか出てこなければ飽きるし、つまらないだろ?冒険者が大陸中を自由に旅して、各地のダンジョンを攻略していくというのは、出会ったことのない地域性の高い魔物たちと戦いたいからだろう。


 そうして一度攻略に手こずったダンジョンは、なるべく早い機会にもう一度挑戦して早期攻略を目指す。


 つまり、苦手を作らないようにするということだな……コージーでもタールーでも、コーボーでもそうだったが、一度攻略したダンジョンでは、各自がなんの指示を出さなくても自然に連携して戦えたから、最初の挑戦よりはるかに早く攻略できただろ?


 いずれ初めて行く土地のダンジョンであっても、メンバー全員が個々に考えて最適な作戦行動をとれるようになって、どんなダンジョンでも最短で攻略可能な域まで上り詰めたいと考えているわけだ……。」


 トオルに日ごろから俺が考えている、冒険者としての心得というか、あるべき姿を説明する。ナーミたちには秘密だが、俺の正体を知ったトオルは、トーマではないということで俺を警戒するようになっていたからな……。


 気持ちが離れていた……だから連携がうまくいかなかったわけだが……それだって攻略し慣れたコージーやタールーのダンジョンであれば、ああまでひどくはならなかったはずだ。


コーボーの海系ダンジョンだって……そのあとに向かった山のダンジョンだって……ずいぶんと苦労してようやく攻略したのだからな。補助魔法を使っているため攻撃力だけはあるから、経験もないのにレベルだけが上がった俺たちは、少しでも多くダンジョンをこなして経験を積まねばならない。


 決してトオルのせいではないと慰める……連携がうまくいかなくなった原因は俺なんだしな……。


「では、頑張ってきてください。」

 美人受付嬢に見送られてギルドを後にし、モーターボートにて水系ダンジョンへ向かった。



「火弾!火弾!火弾!」

「炎の矢!」


『ブッシュワーッ』『ボワボワボワッ』『シュシュシュッ』『シュシュシュッ』『ボゴワァッ……』『ブシュワーッ』猛烈なスピードで突進してくる影に向かって放ったショウの火弾に、ナーミの炎の矢とトオルのクナイは、魔物に当たる直前に無効化され、魔物はなおも突進してくる。


「よっ……避けろっ!」

『ブシュゥー……』慌てて洞窟壁にへばりつくようにして、ようやく避ける。洞窟の幅は3mちょっとあるので、何とかぎりぎりですり抜けていった。


「な……何じゃああれは……?」


「水系魔法を使う牛系魔物……水牛よ……炎牛の親せきね……こっちも基本的に突進してくるのだけど、強烈な水流の圧力で突進してくるのよ。でもB級の時は、攻撃は当たったはずだけど……突進をよけながら攻撃して、何とか倒していたのよ……スースー達だったら3人がかりで盾で押さえこんだりもしたけど。」

 ナーミが腕組みして首をかしげる。


「頭の周りに水のベールというか膜を張っていました……恐らく水の障壁といったところでしょう。ああいった使い方もあるのですね……勉強になります。そうして、我々に近づいて衝突する直前に膜を外したようです。こちらからの攻撃は水の障壁で防いで、近づいたら頭突き攻撃というわけですね。


 水流が推進力だと落とし穴も使えないでしょうから、かなり厄介ですね。」


 駆け抜けていった水牛の後姿を目で追いながら、トオルが分析する。確かにトオルのクナイやナーミの矢は、俺たちの足元の地面に落ちているので、ここで障壁を解いたのだろうな……気づいたトオルとナーミが、急いで矢とクナイを回収し始めた。


 よくもまああの巨体が突進してくるという恐怖の中で、冷静に観察していたものだ……。だが本当に厄介だな……トオルの超高圧水流のようなものを推進力にしているということだからな……。


「あっ……戻って来たよ……!」

 ショウが叫ぶ……『ブシュワーッ』ものすごい勢いで、洞窟の向こう側から巨大な影が迫ってきた。


「隆起!」

『グゴゴゴゴッ』『ドゴワッ』仕方がないので、突進してくる水牛の直前に地面を隆起させて壁を作ると案の定、水牛はおもいきり壁にぶち当たった。


『ドゴワァッ……ドガァッ』そうしてその後も何度も、壁に衝突する音が続く。


「水の障壁を前面に張っていましたから、壁に衝突してもダメージは少ないのでしょう。いずれ壁を破壊してきますよ……。」

 トオルが崩れていく土壁の様子を眺めながらつぶやく。


「ああ……そうだろうな……隆起!」

 仕方がないので、俺たちのすぐ背後にもう一つ壁を作っておく。


「いいか……側壁に張り付いていろよ……沈下!」

 皆にわきへ避難しておくように言ってから、先ほど作った壁を沈下させる。


『ブシュワーッ……ドッガァーンッ』目の前が開けた水牛は強烈な水流の圧力を使って再び加速し、輝照石の照らす先へ向かって思い切り突っ込んだ。


「だりゃあっ!」

『シュッパッ』『ズゴッ』洞窟壁に張り付いていた俺が、おもいきり振りかぶって土壁にめり込んだ水牛の首を刈り、トオルも下から突き上げるようにして心臓を長刀で突き刺した。そうしてから、土壁にめり込ませた輝照石を回収する。


 そう……暗い洞窟内なので恐らく明かりを頼りに俺たちの位置を把握していると考え、輝照石を盛り上げた土壁の上の方に埋め込んでおいたのだ。案の定俺たちがいると思って水牛は、土壁に当たる寸前に水の障壁を解いて頭突きし壁にめり込んだ。そうなれば止めを刺すのは、そう難しいことではない。


「やりましたね……久しぶりに牛肉が手に入りましたよ……。」

 トオルは難敵を倒せた喜びよりも、食材が手に入った喜びの方が大きいようだ。皆で協力して水牛を解体し、大量の肉をゲットした。



 その後もウナギ系魔物やザリガニ系魔物に、ウシガエル系魔物には悩まされたが何とか対処し、水飲み場で一泊してからボスステージへ到達した。


「このダンジョンのボスは、ワニ亀系の魔物でワーニガメとなっているな……ぬるぬるの保護膜はないが、手足や頭を甲羅の中に引っ込めると、どんな攻撃も通じない相手のようだ。尤も、向こうからも攻撃できないがね……向こうが攻撃を仕掛けてくる時を狙って、こちらからも攻撃するのがいいとなっている。


 大きな口での噛みつき攻撃と、手足の爪が鋭いので、こちらも要注意となっているな。」

 いつものように、ボスステージ前で注意事項を伝達する。A級ダンジョンだから、さらに魔法攻撃も使ってくるはずだからな……強敵だ……。


「うわあ……大きい……。」

 ショウがドーム奥を見上げながらため息をつく。甲羅のサイズだけで恐らく長さ10mを越えているだろうし、甲羅の厚さというか高さも7,8mはある。そうして1mほどの短い手足で、のっしのっしと歩いてきた。


「大炎玉!」

『ボゴワッ』『ズンッ』『ボワァーッ』ショウがすかさず巨大な炎の玉で攻撃すると、ワーニガメは一瞬で両手足と頭を引っ込め甲羅に閉じこもり、巨大な火炎はワーニガメを包み込んだが、すぐに消えた。


「ありゃりゃ……不発だったな……甲羅に閉じ込まれたら、攻撃は通じないというわけだ。」


 ふあー……ここまでとは……甲羅に阻まれて剣や矢は通じないとは覚悟していたのだが……炎系魔法まで不発に終わるとは……ぬるぬるの保護膜よりもはるかに厄介だ……。だがまあ亀だから、動きはゆっくりだわな……手足を出して歩こうとした瞬間に、間を詰めて攻撃を仕掛ければ何とかなるだろう。


「うんっ?ショウッあぶないっ!」

『ビヨーンッ……』『ドンッ……ドゴッ』何か飛んできたので、ショウに駆け寄り突き飛ばして避けさせ、危うく盾で防ぐ。かなりの衝撃だ……駆けてきた勢いがなければ、後ろへ吹き飛ばされていただろう。


「左前脚ですね……ここまで伸びてくるとは……。」

 トオルが厳しい目つきでつぶやく……左前脚はすでに縮まって甲羅の中だ……何だって?


「だ……だって……ワーニガメまで、10mはあるぞ……あの手足は、そんなに伸びるのか?」


「恐らく首もそうなんじゃないですかね……一瞬で伸びてきて鋭い爪でひっかいたり、大きな口でかみつくのでしょうね……魔法を使われるより、はるかに厄介です……。」

 トオルがため息交じりにつぶやく。かっ……亀なのに素早く動くのか?反則じゃないのか?


「ぜっ……全員盾を装着するんだ……海系ダンジョンでそろえた盾があるだろ?」

 ショウに手を差し伸べて立ち上がらせ、すぐにみんなに盾を装着させる……海系ダンジョン用のチタン製の盾だが、結構役に立つなあ……。


「ううむ……あの伸びた手足や首に攻撃を仕掛けるしか手はないのだろ?手足を避けながら本体攻撃しても、硬い甲羅だから効果がないからな……。」

 仕方がない……一か八かだ……盾を構えて数歩前に出る。


『ビヨーンッ』『ドガッ……スカッ』またもや左前脚が長く伸びてきたので、盾で受け止めすかさず剣をふるうが、空ぶった……攻撃した後戻すのも素早い……。


『ダダダッ』仕方がないので、ワーニガメの正面に駆けていき身構える。

『ビヨーンッ』『ガブッ……スカッ』長く首が伸びてきて盾にかみついたので、その瞬間に剣をふるうが、またもや空振り……ヒットアンドアウェーが徹底しているな……。


「私にやらせてみてください。」

 トオルが折角装備した盾を冒険者の袋に戻し、ワーニガメに近づいていく。


「おいっ……危険だぞ!」

 いくらなんても無茶だ……盾を使わず体裁きだけで避けて、攻撃を仕掛けるつもりなんだろうが……俺の動体視力でさえも、はっきりと認識できないくらいの速さなんだぞ……。


『ビヨーンッ』「水の壁!」『ザバァーッ』『ズゴッ……バシュッ』『ゴロンッ』猛スピードで左前脚が伸びてきたところで、トオルは水の障壁を自分の前面に張った。左前脚が水の壁を突き破ったところで体をかわし、長刀で斬りつけると、見事に左前脚を斬り落とすことができた。


「先ほどの水牛の水の障壁を利用させていただきました……あまり厚くない水の障壁だけでは、強い攻撃ならば突き抜けるでしょうが、それでも水の抵抗で勢いは弱まります。動きのスピードが緩めば、そこを斬りつけることは、さほど難しいことではありません。


 では次は首を狙いましょう……ワタルもお願いします。」

 そう言ってトオルはワーニガメの正面にいる俺の前に立つ。


『ビヨーンッ』「水の壁!」『ザッパァーッ』『ズバッ……シュバッ』『ダダッ……シュッバンッ』『ドゴッ』トオルの作った水の障壁を、大口あけたワーニガメの頭が突き抜けてきたところをトオルが斬りつけ、さらに駆け寄った俺も思い切り剣を振り下ろし、何とか首をはねることができた。


「ふうっ……やったな……それにしても、水の障壁か……なかなか使えるな……。」


「そうですね……ワタルの隆起のやり方を見ていて、ああいった魔法を私も欲しかったのですが、水牛のおかげですね……。」

 トオルが笑顔を見せる……魔物に習って魔法を覚えていくというのは……基本なのだろうな……。


「甲羅は本来なら高く売れるのでしょうが……この大きさでは持ち帰れないでしょう。それでも亀の肉はいい出汁が出ますからね……持ち帰りますよ。」

 皆で協力して、巨大なワーニガメを解体して精霊球を回収し、持ちきれないほど肉もゲットした。

 皆で考えあって戦えば、ダンジョンは簡単に攻略できるのだとということを改めて感じる。


 ギルドに戻って清算し、晩飯はすき焼きと亀の肉でとった出汁のスープだった……すき焼きも最高だったが、スープの濃厚な味わいは格別だった。出汁をとったガラは、ミニドラゴンが喜んで食べていた。日々の特訓のほかに、夕食後は久しぶりにダンスの練習もして就寝となった。


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