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カルネの死の真相

「しょ……ショウは……ちょっと向こうを向いていなさい……子供にはまだ早すぎるわ……。」

 少し経って後ろの方からナーミの声が……なんだ……散歩って言っていながら……もう戻ってきてしまったのか……?


「はっ……すいません。」

 すぐにトオルが俺から離れて、うつむいた。


「ぱっ……パパはトオルさんのことが好きなの?」

 包帯がほどけて、ようやく手が自由になったので、残りの包帯を外していたらショウが寝袋の前に立ちはだかった。


「ああ……パパはトオルのことが大好きだ……でも……もちろんショウのことは大好きだ……だってショウは……エーミは……大切な……本当に大切な娘だからな。ナーミのことだって大好きだし……メンバーみんなのことがパパは大好きだぞ……。」


 極力ショウを刺激しないよう、笑顔で答える。


「ふうん……パパは浮気者?」


「う……浮気って……ナーミだな?ナーミに吹き込まれたな?おいっ……ナーミ!」

 あたりを見回すが、ナーミの姿はどこにもない。ううむ……どこかに隠れやがったな?


「パパは浮気者なんかじゃ決してないからな!真面目なんだぞ……。」


「そうだよね?うんそうだよー……。」

 心配そうに顔をゆがめるショウを、何とか納得させる。


 ミイラ然とした全身に巻かれた包帯を外し、トオルに渡された俺用のリュックから下着と服を取り出して着替える。体を動かしてみるが、どこも痛いところはなさそうだ。回復水のおかげだな……全快だ。


「本当に大丈夫ですか?」

 トオルが心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。


「ああ……どこも悪いところはなさそうだ……だけどトークのところへ向かう途中なら、そのまま行くかい?クエストの期日は10日間だったから、教会へ行って帰ってからだって清算は間に合うはずだ。


 週末は教会へ行く予定だったからちょうどいい……このまま行ってしまおう。俺たちの住まいである、浮島の場所を案内しておけば、トークがマースに寄った時に泊まることだって可能だし、手紙のやり取りもできる。

 回復してからのショウの魔法の状態とか、連絡するべきことはあるからいいだろう。」


 どうせだから、このままレーッシュまで向かうことにする。明日の朝から引き返したとしても、ダンジョンには向かえそうもないからな。だったらこのまま飛んでいけば、明日の昼過ぎには教会へ着くだろう。


「そうですね……ナーミさんやショウ君もそのほうが喜ぶでしょう。」

 ようやくトオルも笑顔を見せた。やっぱりトオルは笑顔が一番だ……というか、本当にきれいだ……。


「わーい……教会だー……。」

 ショウが飛び上がって喜ぶ。やはりカルネの古くからの知り合いということが、ナーミはもちろんショウもつながりを感じているのだろう。一人ぼっちではないと分かることは、本当にありがたいのだ。


 大急ぎで来たためか、装甲車の荷台は持ってきていない様子で、不格好にテントが2つ張られていたので、中に隠れていたナーミを追い出し、杭を打ち換えてきれいに張りなおしてやる。こういう作業は慣れだからな……テント張り専任の俺でなければ難しいのだ。そうして交代で見張り番をしながら就寝。


 ナーミたちは遠慮して俺とトオルを組ませようとしたが、順番では俺とショウが組む番なので、その通りの組み合わせとした……トオルと一緒だと、ちょっと緊張しそうなので今日ではないほうがいい……。



「骨も折れてはいないし、内臓もどこもダメージは残っていないぞ……頭は……こぶができた程度で、それももうほぼ治っている。治療するところなんか、どこにもありはせんぞ……。」


 翌日の昼ころにはトークの教会に到着した。俺は何ともないと主張したのだが、トオルがどうしてもというので、トークにけがの状態を見てもらうと、やはりどこも悪くはなさそうだ。


「本当ですか?ある日突然ばったり倒れるというようなことは……?」


「そんなことはありゃせんよ……まったくの健康体だ……保証する。」

 それでも心配性のトオルが何度もトークに確認するので、トークは面倒くさそうに答える。


「それにしても、お前さんたちは暇だな……5日前にマースへ戻ったばかりだというのに、もう来たのか?そりゃあ、この教会を気に入っていただけたのなら、何よりなんだが……。」

 さらに、わざわざマースから取って帰ってきたことに、首をかしげる。


「ああ……せっかく大きな浮島に住居を構えたので、トークにも知らせておこうと思ってね。これが住所の番地と……マース湖での大体の位置だ……。敷地も広いが、家もでかいので部屋は余っている。いつでも泊まりに来てくれ。」


 浮島に割り当てられた番地と、マース湖内でのおおよその位置の略図を手渡しておく。これを湖上タクシーの運転手に見せれば、来ることができるはずだ。


「ああ……わざわざありがとう……スースー達のところへ行ったついでにでも、寄ってみるよ。それよりも、新居の住所を知らせにだけ来たわけじゃあるまい?」

 トークがじっと俺の目を見つめてきた。


「ああ……ショウの治療のお礼と……あとは……カルネの死について調べていると聞いたんだが、何か怪しい点でもあるのかい?」


 本来なら、ショウの治療のお礼に樽酒でも買ってくるつもりでいたのだが、俺が気絶しているうちに運ばれていたので、それもかなわなかった……まあ酒は次回でもいいだろう。


「あいつが……あんな簡単に死ぬわけはないんだ……世界中のダンジョンを一緒に回って、俺達の体より何十倍も大きな魔物たちと戦って……それでもほとんど怪我もせず生きていたやつなんだぞ。


 体力だって人並外れていた……それがどうして……同じような死に方をしたやつがいないかをずっと調べていたんだが、あんな訳の分からない不治の病とかで死んだ奴の記録は、大陸中探し回ってもどこにもなかった。


 そりゃそうだろうな……普通の病気にだったらカルネが簡単に負けるわけないし、病名だってわかっていたはずだ……本当に解せない……たまたま……だとしても、そのたまたまがカルネに当たるか?絶対何かあるはずだ。」

 トークはカルネの死が、ただの病死ではないと力説する。


「うーん……少なくとも、伝染病とか人から人へうつる病気ではなかったことは確かだ。病床に倒れたといっても、城での蟄居を命じられていた俺はカルネとほとんどずっと一緒に過ごしていて、冒険の話を聞いたりダンジョンの構造図を写させてもらっていたが、俺は何ともなかったからな。


 食べ物だって、カルネが病床に伏してからは流動食が多かったが、それだって城のコックが俺たちが毎日食べているものと同じ材料を使って作っていたものだ。妻のサートラは料理もしないし給仕もしなかったからな。だから、食べ物の害で体を壊したのではないことは断言できる。ほかに怪しい点などどこにも……。」


 出会った時にナーミにも説明はしたのだが、カルネの死について不審な点はなかったことをトークに伝える。


「俺たちは、カルネの妻だったサートラのことを疑っている……。」

 トークが眉を顰め、声のトーンを落として告げる。サートラのことを……しかもたちって……?


「ううむ……サートラのことは……対外的には俺の妻ということに1時期なっていたのだが、実際は寝室だって別々だし夫婦の営みというものも一度もなかった。


 なにせ職にあぶれてノンフェーニ城を維持することも難しくなった時に、資金援助をエサに結婚を迫られただけだからな……対外的に結婚としていたが、婚姻届けも出してはいなかった。資金援助など一度もされなかったしな……。


 だが別に……すごい美人ではあったが冷たい印象で……俺は普通の女性と思う……性格はかなりしたたかだったがね……。」


「えーっ……そうだったの?パパとママは、正式には結婚していなかったの?エーミはパパの娘ではないの?」


 これもまたナーミにした説明と同じと思いながら、そのまま話したらショウが驚いたように目を剥く。しまった……ショウというかエーミには、結婚したということにしてあったのを忘れていた。


「まあまあ……色々と大人の事情があるのよ……でもワタルがエーミのパパであることは、変わりないから大丈夫よ……。」


「そうだよね?……パパはパパだよね?」

「もちろんさ……パパはエーミのことを世界で一番愛しているぞ……。」

「よかったー……。」

 ナーミ……ありがとう……。


「サートラのことを調べていたんだが……怪しい……というか怪しい点も何も出てこなかった……。」


「ほら……そうだろ?父親の会社は、この大陸で1,2を争うような大きな商社だと聞いていたが、サートラ自身はただの女というか、ただの社長令嬢だろ?」


 やっぱりそうだ……トーマの記憶でも、サートラからは性格の冷たさは感じていたが、別にそれ以上の怪しい点があったわけではない。


「いや……そうではない……サートラに関して何の記録もないんだ。出生の記録も、学校へ通った履歴も何もかもな……サートラの父親に関しては、出生記録があってその父親も母親も名前が分かっているし、就学した経歴も明確だ。ところがサートラの場合は、何の記録もない。


 いや……戸籍は存在する……ところが出生したという病院を調べても記録はないし、ロースクールもハイスクールも、彼女が通ったはずの学校はこの大陸のどこにも存在しない。戸籍には父親の名前だけが分かっていて、母親の名前は空欄だ。」


「空欄って?母親の名前は?」

 戸籍は存在するが、母親が不明……ということか?


「母親は誰か、現時点ではわかっていない。捨て子だったのを父親が引き取ったのかもしれんが、そのあたりも不明だ。


 カルネの話では、サートラはサーケヒヤーの出身ということだったので、俺はこの地に来てサートラのことを調べ始めたのだ。集めた情報によると、ある日突然大商社の娘として出現し、彼女は一人でカンヌールへ旅立ち、カンヌールでの商売のアシストを始めた……なんと13歳でだぞ!


 親友の妻の経歴を調べるのは裏切り行為とも思えたが、初めて会った時から俺は彼女に対していい印象を受けなかった……何か怪しい裏があるとしか思えず、カルネと別れさせるための証拠集めを開始した。


 だが……それも間に合わずにカルネは彼女と結婚して、その後不治の病に倒れて他界してしまった。それでも俺はずっとサートラのことを調べ続け……彼女がもしかしたら南の大陸の出身ではないかという結論に至った。そうして南の大陸に調査のために仲間を送った……。」


 トークが淡々と話す……なんと……サートラって……一体何者?


「その……仲間っていうのは?」

 さっき俺達って言っていたからな……


「ああ……セーキとセーラたちだ……彼らを南の大陸に送って、サートラのことを調べさせているが、まだ調査中ということだ……。」


 なんと……相当大掛かりに調べている様子だ……それほどカルネの死は疑わしいということなのだな。

 セーキとセーラは今でも冒険者を続けていると思っていたのだが、そのうわさも聞かなかったのは、南の大陸に行っているからなのか……それほどまでして……。


「わ……わかった……ノンフェーニ城でサートラは16年以上暮していた。その時の様子を詳しく知りたいなら、当時からいた使用人など大半が残っているから、いつでも城に来てくれ。俺は今はマースを拠点にしているから一緒に戻ってもいいし、連絡をくれれば城に電信などで協力するよう伝えることもできる。」


 出来るだけ協力することを申し出る。もしサートラが原因であるならば、早急にその証拠を掴まなければならない。なにせカンヌール王宮はじめ、国中の主要な機関が全てサートラの父親の会社と取引しているのだからな。そんなやばい奴の会社と取引を続けたなら、国がどんな被害を被るか……。


「ああ、それはありがたいな……近々お伺いすることにしよう。今度、浮島の豪邸とやらを訪問させていただくよ。」

 トークが笑顔を見せる。


「ママが……ママがパパを病気にさせたの?ママのせいなの?」


 ショウが呆然としながら、何度も同じ言葉をつぶやく……無理もない……ここまでの会話は、かなりショックな内容だ……だが、サートラはエーミを人買いに売った張本人だからな……エーミとしては彼女に対する情などないと思っていたのだが、そうでもなさそうだ……。


「いや……まだはっきりとはしていない……というか、どうして稀代の冒険者と言われたカルネが、原因不明の病であっさりと死んでしまったのかを調べているだけだ。サートラだけが怪しいと思って調べているわけでは決してない……。カルネの周りにいた人間は、俺も含めて全員調べに調べたわけだろ?」


「ああ、もちろんさ……トーマ……今はワタルか……のことも調べ上げたし、冒険者になったことも知っていたさ……エーミのことだって調べたが……さすがに5歳の子供じゃ、カルネをどうこうする対象にはなりえなかったしな。まさかワタルたちが人買いから救出したのが、エーミだったとは分からなかったしな。


 サートラは今でもヌールーにいるようだが、その生活の様子はほとんど伝わってこない……。」


「ほら……俺だってエーミだって、みんな調べているんだ。あくまでもサートラも対象となっているだけで……さらに出生が怪しいと……今のところはそうなっている。」

 すぐにトークに同意を求め、サートラが確実にクロというわけではないことを強調しておく。


「ふうん……そう……ママは……いつもずっとは一緒にいなかったから……。」

 ショウがぽつりとつぶやく。


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