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オオサンショ

「まさかとは思うが……今の攻撃がボスのオオサンショの攻撃じゃあないよね?」

 1層目の小ドームを越えたすぐ先が、ボスステージということはないとは思うが、念のためナーミに確認してみる。


「うーん……多分違うと思う……あれは……カエル系の魔物……かな?おおっきなカエルでウシガエル系の……ダンジョンにはたまにいるのよねー……と言っても、ここまで強力な魔法には、あたしも出会ったことがないけど……。」

 ナーミが首をひねる。


「そういや……300年ダンジョンでも7層目でカバ系の魔物が大口あけて猛烈な水流を吐き出していたな……威力は、あの時と変わらないのかもしれないが、向こうは洞窟が今よりもっと広かったからな……水流を食らっても横に避けることもできたが、今回は逃げ場なしだ……先に発見して倒すしかないということか……。」


 ううむ……洞窟の狭さまでもを武器とされては勝ち目がない……剣をしまって、冒険者の袋から銛を取り出しておく。



「中炎玉!」

『ボワアッ』『ザッバァーンッ』『プッシューッ』2層目のスロープを下っていき、前方の黒い影にショウが洞窟幅一杯の炎の玉を発射すると、瞬く間に巨大水流で消滅させられた。

『ブンッ……ズッゴンッ』衝突のタイミングを見計らって、すかさず銛を投げつける……と、確かな手ごたえが……。


「ほら……やっぱりウシガエル系魔物だったでしょ?魔力がB級のものより強くなっているのと、この洞窟が狭すぎるのが問題よねー……気を付けていきましょ。」

 ナーミが前方へ駆け寄っていき振り返った。


「そうだな……前方は要注意だ……。」

『ズボッ』ウシガエル系魔物の喉の奥に見事的中した銛を抜いて、先へと進んでいく。



 その後もウシガエル系魔物やウナギ系魔物には悩まされたが、何とか2層目の水飲み場へ到着した。


「では、今回の組み合わせ当番は私とショウ君の番でしたよね?先に見張り番しますから、ナーミさんとワタルは寝てください。4時間で起こせばいいですね?」


 食後に日常訓練を終えた後、トオルがすぐにショウの手を引いて、水飲み場の入り口へ歩いていく。300年ダンジョンでスースー達のチームと交代で見張り番していたから、その前までのコーボーでのダンジョンでの見張り番のローテーションの続きを言っているのだろうな……俺も全然覚えてはいないのだが……。


 いつもなら、無理やりにでも俺と組みたがっていたのだが……今ではショウと組むことが第一というわけだ……トオルはいつ何時でも一直線だからな……。



「どうしちゃったのよ本当に……まさか……トオルが女性だってことと関係あるんじゃないでしょうね?


 ずっと2人きりだったから、ワタルが無理やりトオルに迫って関係が悪くなったとか……いや……もしそうならトオルが断るはずもないわけだしー……でも……トオルのこと、ワタルは好きでしょ?


 エーミはどう思っているかあたしは分からないけど、相手がトオルだったら仕方がないと思っていたんだけどな……知識は豊富だし、やること全て完ぺきにこなすし……なにより本当にワタルに一途で、一生懸命だったものねー。勝てないと思っちゃったからなー……。


 ダンジョンでの戦いはいつだって、息がぴったり合っていたしね。それなのに、何があったというのよー。」

 トオルたちと交代した見張り番の時に、水飲み場の入り口でナーミが、心配そうに俺の目を見つめながら問いかけてくる。えっ?……


「なっ……ナーミは、トオルが女だということを知っていたのか?」


「あったり前でしょ?あんな分かりやすい……特に、擬態石を持っているって知ってからは確信して……どうして男の格好をしているのかは、全く理解できないけど……顔は変えていないのでしょ?あんなに美しい顔立ちをしているというのにね……どうしてまた……。


 はっ……もしや……ワタルは、知らなかったとでも……?まっ……まずいことを言っちゃったかな?」

 俺の反応を見て、ナーミが慌てて口をつぐむ。


「いや……俺が知ったのは、ナーミたちが教会に泊まっているときのことだ。トオルが男の格好をしているのには理由があってだな……トオルの父はノンフェーニ城の警備主任をしていて、城の跡継ぎである息子のお付き……護衛というか、常に行動を共にして援助する役割だな……を要請された。


 ところが奴の家はずっと女姉妹ばかりで8人連続していて、9人目もまた女の子だった。このままではもうお付きとして仕えることができないと考えたトオルの父は、末娘を生れた時から男として育てることに決めた。そうして学校に上がる時分には擬態石を手に入れ、男の子としての生活を始めたらしい。


 そうか……エーミも、このことは知っているのか?」


「その、跡継ぎ息子っていうのがワタルなのね?だから、トオルは異常なまでに執着してワタルを守ろうとしていたわけだ。エーミはトオルのことを……多分気づいているんじゃあないかな……とは思う。だけど……それで、どうしちゃったの?」


「いや……その……お……俺が悪いんだ……。」

 まさか、これ以上チーム内に敵を作るわけにはいかないので、本当のことは話せない。少なくとも今は、エーミにだけは知らせるわけにはいかないのだ。


「やっぱり……トオルに迫ったというわけね?……拒否されたんだー……うーん女心は複雑よねー……。


 でも、多分トオルはワタルのことを嫌っているわけではないと思うわよ。その……お付きっていう役目?ワタルに寄り添ってお守りするって……ずっと言い聞かされて育てられていたわけでしょ?トオルはまじめだから、その役目から離れられないんじゃないかな?少なくとも今はね……。」


 ナーミがわかったようなことをつぶやく……ううむ……ここは勘違いさせておくしかないか……。


「まあ、ちょっとの間は気まずいでしょうけど、大切な仲間なんだから、絶対に失うことがないように精いっぱい努力してつなぎとめるしかないわね。あたしも協力するから、頑張ってね……。」

 ナーミが笑顔で励ましてくれる。


「あ、ああ……悪いね……よろしく頼むよ……。このことは、エーミには言わないで置いてほしい。」


「もちろん言わないわよー……チーム内の人間関係がこれ以上ぎくしゃくすると困るからね。」

 ナーミを間に入れてでも……何とか関係修復できればいいのだがな……。



 朝食はザリガーニを炒めたものと、洞窟キノコの味噌汁だった。ザリガニ系魔物は殻が薄いのか、そのまま剥かずにバリバリと食べることができ、香ばしさと濃厚な味が格別だった。洞窟キノコも、なめ茸的な粘り気を出していて、やっぱり水飲み場まで来てよかっただろ?と危うく言いだしそうになって、慌てて口を押えた。


 2日連続の会話のない食事は、本当に味気なかった。



「では、昨日もちょっと話には出たが、このダンジョンのボスは、サンショウウオ系の魔物のオオサンショだ。

 上級の水系魔法を使うようだから要注意だ。しかも、大ナマズ以上の粘性を持った保護膜に体が包まれているので、まともには攻撃が通らないだろう。


 以前、大ナマズと戦った時のように、巨大炎で体表を焼いてしまうのが有効かもしれないけど、向こうだって強力な魔法を使ってくるのだから油断はできない。十分気を付けて戦おう。」


『はいっ』

 ドーム入口前で、皆に注意点を伝えてからボスステージへ入っていく。


「ありゃりゃ……大きいね……。」

 それは本当に見上げるほどの……頭からしっぽまでの体長は10mは越えているだろう。体の厚さというか体高だって5m近いし、体の大きさの割に短く小さい手足だって、1m以上ありそうだ。


「ショウッ行くわよ!」

「うんっ」


『大炎玉!合体!』

『ドゥゴボワッ』ナーミとショウそれぞれから発せられた7m級の巨大な炎の玉は、空中で合体してオオサンショと変わらないほどの大きさにまで巨大化し、一直線にオオサンショへ向かっていく。


『ブワァー』ところが、オオサンショはその顔の半分はありそうな巨大な口を大きく開けると、大水流を吐き出して、一瞬で巨大な炎の玉を消滅させた。


「げーこげっこげっ」

『ジュバァッ』さらに続いてオオサンショが唱えると、目の前の空間がゆがみ始める。


「まずいっ!逃げろっ!」

「超高圧水流!」

『ダッ……ジュバッ』


「脈動!」

『ダダッ……ダッ』ショウを抱きかかえて……と思ったら既にトオルがショウを連れてジャンプした後だったので、反射的にナーミを抱えて左方向へジャンプ。


『ドッダァーンッ……ザッバァーンッ』後方からものすごい衝撃とともに、波が岸壁に打ち付けるような音が響き渡ると同時に水しぶきが一面にまき散らされる……。


「なっ……何があったの?」

 俺が抱えたままの状態で、ナーミが首だけ振り返りながら目を見開く。


「よくわからんが、空間がゆがんで見えたのは巨大な水の塊が真正面から飛んできたからだと思う。それが高速で壁にぶち当たったものだから、ドーム自体が揺れるような衝撃だった……カルネの構造図に言葉だけ記載があったが、あれが水撃砲だな……まさに大砲並みの威力だ。まともに食らえば無事では済まないだろう。」


 ドームの壁は衝撃で崩れ、ごつごつとした岩の突起がむき出しとなっている。あんなの数撃も食らえば、ドームは崩壊してしまうだろう……それまでに倒さなければ、お陀仏だ。


「炎の矢!」

『シュボワボワボワボワッ……ザザザザザザッ』ナーミが炎を纏わせた矢を射かけるが、刺さりは浅いか……。


『ダダダダダッ』「だりゃあっ!」『ドゴッ……ズザザザザッ』

 駆け出して剣を振り上げ魔物の左前足のあたりを斬りつけようとしたが、一瞬で弾かれ地面を転がされる。


「かまいたち!」

『シュパッ』ショウのかまいたちで、オオサンショの頭頂部から透明な粘液とともに、血が噴き出した。


『ビュンッ』「うわっ!」「きゃっ!」『ドンッ……ズザザザザッ』

 オオサンショが体の向きを変え、その大きなしっぽを振りナーミとショウの体をなぎ倒す。その動きを見る限り、2人の攻撃はさほどダメージを与えていない様子だ。


「いたたたたっ……」

「大丈夫ですか?さっ……回復水を飲んでください。」


 すぐにトオルがショウに駆け寄り、冒険者の袋の中から竹筒を取り出して、回復水を飲ませようとする。ううむ……まるで過保護な母親だ……。


「魔法が強烈すぎて、ドームの耐久性が心配だ。戦いを長引かせるわけにはいかないが、直接攻撃もあまり効果がなさそうだ……まずは巨大火炎で体表を焼いてしまうのが、やはりベストだと考える。


 さっきは2人で作り出した火炎を合体させたが、今度は一人がオオサンショの前方からおとりの炎の玉を打って、同時に背後から本命の炎の玉で攻撃を仕掛けてみよう。


 おとりの方はオオサンショの正面から攻撃しなければならないから、水撃砲を食らう恐れがある。十分気を付けて、炎の玉を発射したらすぐに逃げなければならないが、やれるかい?」


 効果のない直接攻撃よりも、やはり強力な炎であの体表のぬめぬめは除去しておきたい。そうすればナーミの矢だって十分な効果を発揮できるはずだ。そっちに注意を向ければ、直接斬りつける隙も生じる……。


「うんっ!大丈夫だよ……逃げるのは得意。」

 ショウが元気に答える。


「いけません……そんな危険な作戦は認められません。私がオオサンショの体の上に乗って、頭を銛でつきますから、これまでの巨大ボスの時のように、ショウ君が雷攻撃で倒していただけばいいのです。


 いくら体表が厚い粘膜でおおわれていたとしても、硬い殻というわけではないのですから、銛は突き刺さります。では、行ってまいります。」


『タタタタッ』「超高圧水流!」『ジュボワッ』

『シュタッ』トオルはそう告げると、俺たちの反応も待たずにそのまま駆け出して大ジャンプ、オオサンショの頭の上に着地した。


『グラグラグラッ』『ズルッ……・ズッダァーンッ』ところが不安定な魔物の体の上、さらに体表はぬるぬるの粘液で厚く覆われている……トオルは少しの揺れでも体を保つことができずに落下し、地面にたたきつけられた。ほらみろ……とまでは言いたくはないが、まずはあの粘液を何とかしなければいけないのだ!


『ズゴッ』落下したトオルの様子を見ながらため息をついていたら、地面に叩きつけられて臥せっているトオルの体の上に、オオサンショの右前足がのしかかろうと……危ない!


「脈動!」

『ダダッ……ダッ』『ドッ……ドッゴォーンッ』すぐに脈動で低く跳び、トオルの体を突き飛ばした瞬間、背中に猛烈な衝撃が……背骨があらん方向へ曲がったのかとも思えるような激痛で、俺は意識を失った。


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