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ダンジョン挑戦

「チーム、ナーミュエント様ですね……登録完了いたしました。」


 昨日は買い物の後、みんなで菜園の土を耕して、トオルが買ってきた野菜の種を植えた。菜園といっても、ただ単に浮島の一角に土を盛っていただけで、ただの荒れ地と化していたので、皆で雑草むしりから始めた。


 浮島の葦の一部にくぼみを作って、そこに土を入れてあり、50センチくらいの土の厚さがあるので、大根程度までなら十分に育てられるという触れ込みだ。


 収穫を楽しみに水をやってから日常訓練をして、トオルたちが晩飯の支度をしている最中に、俺はミニドラゴンで湖上を遊覧飛行した。マース湖は、凄まじく巨大な湖であり、1時間飛んでも対岸が見えないくらい、海ではないかと思うくらいだ……。


 1日ゆったりと休んだ後、今日は朝からギルドへやってきて、冒険者登録を行ったのだ。港から歩いていける距離にあるのはありがたい。


「じゃあ、クエストを探すか……ダンジョンはここから遠いのか?まさかこんな都会の町中には、ダンジョンはないのだろ?」

 ギルドのホールの壁へ、クエスト票を探しに行くついでにナーミに確認する。


「マースギルドのクエストダンジョンは、港から定期船で行く湖岸に入り口があるものと、北西のマース山脈にあるダンジョンの2種類あるわ。近いのは船で行く湖岸のダンジョンね……こっちは水系のダンジョンよ。


 山の方は火と土と風のダンジョンがあるのよ。こっちは馬車で片道1日ちょっとかかってしまうから、一旦戻ってミニドラゴンで行った方がいいわね。」


 ナーミが壁に張り出されたクエスト票の分類を示しながら、説明してくれる。確かに壁には水系と火、土、風系の掲示があり、間に仕切りのテープが貼られていた。目的地までの交通手段が異なるので、区分しているのだろうな。


 コージと違って都会のギルドでは、近場ダンジョンといっても歩いて……と言った感じではないのだ。


「わかった……とりあえずは……近場の水系ダンジョンを目指そうか……これならモーターボートがあるから、それで行けばいいわけだからな……。

 じゃあ、持ってきた構造図の中にある番号の水系の……A級クエストを申請するか……。」


 カルネから写させてもらった構造図のうち、マースギルドのA級ダンジョンのものをいくつか種類ごとに持ってきたので、番号を見比べながら壁の上の方に貼ってある、1枚の紙片を手に受付へ戻っていく。


「ご健闘をお祈りいたします……。」

 美人受付嬢の笑顔に送られギルドを後にして、桟橋へ戻りモーターボートに乗り込み北西へ向かう。ギルドにもらった地図では、桟橋から30分ほどボートで航行した場所のようだ。



『ブロロロロロッ』木々が生い茂っている湖岸の一部が欠けて、木製の桟橋が作られている。そこにポールが立てられていて、No.32と書かれているので目的地だろう。ボートを桟橋に付けロープで係留し、桟橋を歩いていくと、湖岸の浅瀬に金網で仕切られた檻が見えた。


『ガチャッ……ギイッ』ギルドから受け取った鍵で南京錠を外し扉を開けて中へ入っていくと、すぐに辺りが真っ暗闇と化す。冒険者の袋から揮照石を取り出して額につけると、高さも幅も2m位の洞窟の中だった。


「うおっ!」


『タッタッタッ』『シュシュシュブスブスブスッ』歩き出してすぐに、足元の何かが絡みついてバランスを崩し転びそうになったが何とか耐える。この辺りに罠はなかったはずなのだが、足が重いと感じていたら、ナーミの矢が飛んできて刺さった。


「きゃっ!」

『シュシュシュッブズブズブズッ』ショウを襲った魔物は、トオルがクナイで仕留めた様子だ。


「ウナギ系の魔物よ……足に絡みついて、転ばそうとするのね。特に毒の池周辺に多く生息しているけど、入り口辺りにも多いみたいね。電気ウナギ系もいるみたいだから、気を付けたほうがいいわ。」


 ナーミがウナギ系魔物から矢を取り外しながら、注意を促す。おおそうか……さっそく地域性の高い魔物の登場だな……電気ウナギ系というと、電撃ショックが来そうだから、気を付けたほうがいいな……。

 魔物はトオルが喜んで冒険者の袋に詰めていた。



「うん?岩弾!岩弾!岩弾!岩弾!」

『ビュビュビュビュッ……ドガドゴドギュドッゴン』輝照石で照らした先で何かが動いたので、先手必勝とばかりにこぶし大の岩を飛ばす。電気ウナギだったら危険なので、速攻で倒しておくことにする。


「ザリガニ系魔物のザリガーニね……素早く動いて両手のハサミで攻撃してくる厄介な奴だけど、巣ごとつぶしちゃったようね。素揚げにすると香ばしくっておいしかったんだけど……無理なようね……。」


 ナーミが岩弾の直撃を食らった魔物の巣を眺めながらつぶやく。十匹ほどのザリガーニが、無残にも粉々になっていた。ちょっと強烈すぎたかな……?


「ワタル!なんてことをするのですか!これではせっかくの食材が台無しですよ!ちゃんと魔物肉を捕獲できるように加減して攻撃しなければいけません……分かってますか?」

 やはりというべきか……トオルがかんかんだ……しかも……いつもよりも言葉が厳しい……。


「わ……悪い悪い……電気ウナギ系がいると聞いたものでな……以後気を付けるよ……。」


「ほんとにもう……ちゃんとしてくださいね!」


 ううむ……相当に機嫌が悪そうだ……何せ俺はトオルの恩人のトーマではないことが、分かってしまったからな……もしかしたらトーマが戻ってくるかもしれないと、淡い期待を抱いて一緒に行動しているにしても、俺に対してこれまでのように仕える気などないのだろう……まあ、これは仕方がないことだ……。


「あたしたちが、トークおじさんの教会に泊まっている間に、何かあったの……?喧嘩した?」

 勘の鋭いナーミがやってきて、俺にそっと囁きかけてくる。


「いや……別に……何もなかったよ……まあ今のは俺が悪い……だが……初級魔法の石つぶては、指を割り当てていないから、使えないんだ……まあちょっと考えるさ……。」


 本当のことを伝えるわけにはいかないので、何でもないと答えておく。だが……ナーミはトーマの知り合いではないから言わなくてもいいのかもしれないが……エーミには……エーミに対しては、彼女に好きな人ができて、結婚することになったら伝えよう……それまではエーミを守り続けるのだ。


「電気ウナギの場合は、ショックで稀に気絶するようなことはあるけど命の危険まではないから、あまり神経質にならないほうがいいわね。まあ、すっごく沢山群れていたり、心臓が弱い人は気を付けたほうがいいだろうけどね。1匹だけだと痺れてびっくりするくらいが普通よ……。」


 薬が効きすぎたと思ったのか、ナーミが電気ウナギのことを説明しなおす。ああそうか……驚いたりする程度か……そりゃそうだろうな……電撃で冒険者が死んだりするのなら、それなりの対応をギルドで義務付けるだろうからな……例えば絶縁ゴムでできた長靴着用必須とかな……。


 これまで出会ったことがない魔物に対しては、どのように対応していいのか全く分からないから、臆病な性格がもろに出てしまうな……用心に越したことはないにしても、警戒し過ぎというのも問題だ。

 カルネの構造図には、本当に危険な魔物に対してしか記載がないからな……電気ウナギのことは書いてないのだから、大したことはないのだ。


 洞窟天井から降ってくるヒルには注意を払い、沢蟹系魔物の毒泡はショウが突風で吹き飛ばしながら進んでいくと、広い空間に出た。恐らく1層目の最奥で、元はボスステージだったホールだろう。


「じゃあ今日はここまでにして、ここで野営にしましょう。すぐに食事の支度にとりかかります。」

 何も言わないのに、トオルが冒険者の袋の中から調理道具キッドを取り出して、取得したうなぎや沢蟹系魔物の調理を始めようとする。


「トオル、待ってくれ……まだ時間的にはそんなに遅くなっていないだろ?カルネの構造図を見ると、2層目のボスステージの少し手前に水と書いた箇所がある。俺もよくわかっていなかったが、300年ダンジョンでスースー達と過ごして分かった。ここは水飲み場の印だ。


 そこで野営したほうがよくはないか?後2,3時間もあればつけるくらいの距離だと思うのだが……そのほうがボスステージが近いから、明日が楽だぞ。」


 俺の予定としては、水飲み場の場所が折角分かっているのだから、そっちを利用するつもりでいたので、その旨伝える。


「だめです……ショウ君はいわゆる病み上がりですよ!また倒れてしまったらどうします?今日はここまでとして、明日2層目に進みましょう。ボスステージまでに時間がかかりそうなら、明日もその水飲み場で野営して、明後日ボスステージへ向かえばいいのです。


 構造図を持っていない普通のチームは、そうやっているのでしょう?何も無理しなくてもいいのです。」

 ところがトオルは聞く耳持たずといった感じで、ウナギをさばき始めた。


「いや……まだそんなに体力を使ってはいないだろ?俺だってショウのことは気にかけているのだが……疲れているか?と聞いたって、疲れていても、そうとは答えないとは思うのだが……正直なところどうだ?」


 ウナギやザリガニ系魔物は初見なのでちょっと手間取ったが、他の魔物たちはこれまでの水系ダンジョンとさほど変わらないので、比較的楽にここまで来られたと思っている。時間的余裕があるのだから、ここで休憩する必要性はないと思うのだが……。


「僕は……まだまだ全然平気だよ……ケーケーさんも言っていたけど、一度魔力が枯渇して、教会できちんと治療したほうが、前よりも魔力が強くなるって言うの、本当なんじゃないかな?


 昨日の練習でも全然疲れなかったし……今日だって全然平気……。」

 ショウが笑顔で答える。


「そうでしょうか……ショウ君が倒れたのだって、300年ダンジョンであの巨大な象系魔物を魔法で何度も持ち上げようとした、無理がたたったからでしたよね?無理はいけませんよ……無理は……。」


 ところがトオルは頑として首を振る。トオルの守るべき対象が、俺からショウへと移ったな……なにせ、ショウというかエーミは、トーマが愛する娘だからな……それにしても過保護すぎないか?


「まあまあ……落ち着いて……ここで休憩しても2層目の水飲み場で休憩しても、どちらでも構わないとは思うのだけれど……このダンジョンのボスはどんなのかわかる?」

 意見が割れて平行線をたどる中、ナーミが確認してきた。


「ああ……このダンジョンのボスは……サンショウウオ系の魔物でオオサンショとなっているな。猛烈な水撃あり……要注意と書いてある。」

 構造図の注意事項を読み上げる。


「ああ……オオサンショね……B級ダンジョンでも出てきたけど、ナマズ系魔物よりもさらに体の表面が厚い粘液の膜で覆われていて、攻撃が通じにくい結構厄介な魔物よ。スースー達に聞いたことがあるけど、A級になるとより強烈な水系魔法を発するので、気をつけないと大怪我してしまうそうね。


 うちのチームには回復系がいないから、重傷を負ってしまうと大変だから、安全第一に時間かけて戦う必要性があるわね。行けるのだったら、今日中に水飲み場へ行っておいた方がよさそうね。少しでも体力を温存してボスステージに到達したほうがいいわよ。」


 ナーミは冷静にボスの強さを挙げて、水飲み場まで進んだほうがいいと提案する。このままでは決まらないので、仲裁に入ったということだな……。


「この地域のダンジョンに詳しいナーミさんがそうおっしゃるのであれば、仕方がありませんね。わかりました、2層目の水飲み場まで移動しましょう。」

 トオルはようやくウナギをさばく手を止め、荷物をまとめ始めた。何とか移動する気になったようだな。


「ありがとう……面倒かけたね……。」

 ナーミにそっと小声で、謝る。


「うん……やっぱりトオルと何かあったんでしょ?早いところ、仲直りしておいた方がいいわよ……あんたたち2人は、もともと恋人同士みたいにすっごく仲が良かったんだからね……息もぴったりだったし……。

 せっかくの関係を、壊しちゃだめよ……。」


 ナーミがやさしく諭してくれる……そうなんだよな……トオルはトーマを……だが、この関係を修復するのは困難なのだ……。



『グボワーッ』小ドームを後にして、緩やかなスロープとなっている洞窟を降りていくと、前方から凄まじい勢いの放水に見舞われた。放水といっても、消防車のホースからの放水くらいの勢いの水が、その数十倍くらいの太さ……幅2m位の洞窟の半分以上を埋めるくらいの量で、一気に押し寄せてきた。


『ズッドォーンッ……ズザザザザッザッパンッ』そのまま来た道を数十mほど押し戻され、洞窟地面に叩きつけられて停止した。1層目から2層目への高低差でスロープ状になっていたからまだよかったが、2層目の中盤以降など平坦な場所でこんなの食らったら、逃げ場がないからそのままおぼれていたかもしれない。


「げほっげほっ……みんな大丈夫か?」

「ぶわぁー……あたしは大丈夫よ……。」


「おぇー……僕も大丈夫……。」

「ショウ君……水を飲みましたか?無理せず吐き出して……回復水を飲みましょう。」

 トオルは俺の呼びかけに答えずに、ショウの背中をさすっているようだ……まあ無事ならいいのだが……。


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