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トークとの再会

 ヌールーからコーボーを経由して野営しながら飛び続け、レーッシュについたのは4日後の昼近くなっていた。約束していたので、コーボーの旧別荘へチートに挨拶に立ち寄ったのだ。スースー達も付き合ってくれて、キーチ達が加工を始めた干物類をたくさん手土産に頂いてしまった。


 なんとホーリ王子の許可を頂き、旧別荘の部屋のうちシャワー付きの2部屋を俺たちが立ち寄った時のために、常に空き部屋として確保してくれていると言ってくれた。近隣の貧しい家庭の方たちのための炊き出しは毎日行っているが、住む処のないホームレス的なものはほとんどいないので、部屋は未だに開いているのだそうだ。いつでも立ち寄ってくれとせがまれ、近いうちにと返事をしてしまった。



 トークの教会は、レーッシュ郊外のマース湖から流れてくる大河マーレー川の河口付近の断崖の上に建っていて、周囲に民家がないから直接教会の庭に降り立った。マーレー川の川沿いは樹木の密度が濃く密林のようになっていて、河口付近近くになってようやく木立が途切れ、川面を直接地上から望めるという様相だ。


 なにせ川幅が2キロ近くもある大河であり、川岸にボートを浮かべても対岸は見えないだろう。この広大な川をサーケヒヤー国の軍艦が往来しているということだ。


 カンヌールとカンアツ国境及びカンアツとサーケヒヤー国境はそれぞれ川が流れているが、河川敷を含めても数百m程度の川であり、国境ということで大陸図に記載されている。ほかにも川はあるが小さいので大陸図には記載されないのだが、マーレー川は大河であるため大陸図にも記載されているのだ。


「おおスースーか……カンヌール王宮の300年ダンジョン攻略おめでとう……すごいな、カルネですらも無理と言って断念したダンジョンだぞ……。何せ王宮に忍び込まなくちゃならんから、大人数で行くわけにはいかないし、かといって300年物となると1チームでは無理……だったからな。


 一緒にいるのはお客様か?珍しいな……お前たちが他の冒険者仲間とここへやってくるのは……しかも飛竜を連れて……カンヌールの方たちかな?あそこは若い時に滞在していたが……いいところだった……。」


 スースー達を送ってくれた飛竜は御者にお礼を言って帰っていただき、教会のすぐわきの断崖の下には白波が打ち寄せ、すぐ間近まで密林が迫っている勇壮な景色に見とれていたら、教会の中から恰幅のいいひげを蓄えた初老の男性が出てきた。恐らくスースーが電信で帰ることを連絡していたのだろう。


 城を出発するときに爺やに何か頼んでいたからな……恐らくその時だろう。出てきた男の顔は、トーマの記憶の中にあった……。


「はい……同行してくれたチームの活躍に助けられました。僕たちは忍び込んだのではなく、王室からの依頼があって向かったわけですからね……以前とは事情が異なりますよ。

 それよりも……ダリハネス司教……驚きますよ……。」


「お……おじさん……」


「うん?」

 スースーが紹介する前に、ナーミはその恰幅のいい男性に駆け寄り、胸に縋りついて泣き出した……おかしいな……ナーミが生まれたのはカルネが引退した後だし、トークと直接の面識はないはずだが……。



「ええっ……4年前に人買いから子供たちを救い出した、伝説の冒険者?」


「うん……あの時の……おじさんでしょ?」


 トークに縋りついて離れようとしないナーミを何とかなだめて教会の中に入り、高い天井の広い本堂の中で、ようやく落ち着かせて訳を聞いたら、とんでもないことを言い出した。


「あの時の……ということは……そうか、あのお嬢ちゃんか……すごく頑張ってくれて、意識を失った男の子を支えてくれた……そうかそうか……あのクエストはギルド内でも極秘でな……どの冒険者が達成したのかとか、救出された子供たちをどうしたとか……関係者にも知らされずに処理された。


 だから救出した子供たちが今どうなっているのか、全くわからなくて気にはしていたんだ……そうか……元気でよかった……今は冒険者をしているのだな?そうしてスースー達と知り合ったと……そうか、会いに来てくれて、本当にありがとう……。


 スースーたちも……ありがとうな……わしが人買いから子供たちを救出したクエストに携わっていたことは、お前たちにも秘密にしていたのだが、ばれていたということか……わしもまだまだだな……。」

 そうしてトークは、いつくしむような優しい目で、ナーミの顔をじっと見つめた。


「いえその……実は……。」

 全く状況が分からないスースーは、どう切り出していいか混乱している様子だ。


「トーク……だよね?俺はトーマ……ヌールーのノンフェーニ城でカルネに剣術を教えてもらっていた。カルネがヌールーにやってきて、城に住み込むとなった時に一緒に会ったことがあるが、覚えているかな?


 今はワタルと名乗って冒険者をしている。そうしてこの子はナーミ……カルネがコーボーで出会った恋人との間にできた子供だ。更にこの子はエーミ……擬態石を使って男の子の格好をさせているが、実はカルネと結婚したサートラとの間にできた女の子だ。


 2人とも俺と一緒に冒険者をしている。もう一人、トオルを加えて4人でチーム、ナーミュエントだ。」


「トオルです……トークさんとは……確かお城でお会いしたことはございますね……。」


 スースーがてんぱっているので、簡潔にメンバー紹介しておく。トークに会った時に戸惑わないよう、メンバーの素性を箇条書きにメモしておいて、ここへ来る途中の夜寝る前に何度も読み返して反芻しておいたのだ。

 あとで、部屋を借りてエーミに戻らせてやればいいな……。


「なっ……君はあの時の青年で……君は少年……女の子のようにかわいらしい顔をした少年だった……。


 そうして……ナーミって……じゃあ俺はカルネの娘を人買いから救ったのか?……さらに……さらにさらにエーミだって?」


「そのようだね……トークのおかげで俺たちは、ナーミと出会うことができた。」


 ナーミの話を聞いていて、状況が理解できた。何たる偶然……というか、神がかっているのだが……そもそもエーミとの再会だって十分に神がかっていたからな……もうこのくらいでは驚かない……。


「なんとまあ……カルネに感謝だな……奴が老い先短いわしに、皆をめぐり合わせてくれた……。そうかそうか……ナーミ……もう一度顔を見せてくれ……それからエーミ……。」

 トークは椅子から立ち上がってナーミを呼び寄せ、さらにショウも呼び寄せようとする。


「ああそうだ……ショウはエーミの姿に戻したほうがいいのだろうが、実は300年ダンジョンのボスと戦って、魔力が枯渇しているんだ。その治療をお願いに来たのだが、魔法使いとしてのショウの姿でなくても治療は可能かい?それなら、部屋をお借りできれば、すぐにエーミの姿に戻すことができる。」


 感動の再会もいいのだが、まずはここへ来た目的を話しておく。ショウだって魔法の呪文を唱えるのを禁じられたままでは、気持ちが悪いだろうからな……。


「ダリハネス司教……実は俺も……霊力が枯渇してしまいまして……。」

 そうしてケーケーも霊力枯渇を打ち明ける。


「おやおや、そうか……では、祈祷室を準備せねばならんな……おーい……誰かいるか?祈祷室にベッドを2つ並べておいてくれ。それと……椅子とテーブルもだな……椅子は7脚頼む。」


「はーい……かしこまりました。」

 トークは本堂の中を見回して、大声で他の牧師に用事を言いつけると、牧師はすぐに奥へと引っ込んでいった。


「魔力回復も霊力回復も、どちらも祈祷で行う。危険な行為ではないから、安心してくれ。


 そうだな……寝る時の格好に着替えてもらったほうがいいな……魔法使いの姿ではなくても全然かまわんぞ……着替えるのは……奥の事務室にはだれもおらんはずだから……そこを使うといい……。ケーケーは本堂の隅で着替えればいいだろう……じゃあ、ちょっとこっちへ……。」


「ちょ……ちょっと待っていてください……。」

 ショウは一旦教会の外に出ると、荷台の荷物の中からパジャマを取り出し戻ってきて、トークに連れられ奥の事務室へと引っ込んでいった。


「じゃあ、俺も着替えるか……。」

 ケーケーは準備していたのか、カバンの中から寝巻を取り出して、本堂の隅で着替え始めた。町から離れた場所の教会であり、俺たち以外の信者の姿は見られないようだ。


 そうしてイチゴ柄のパジャマに着替えたエーミとともに、トークに連れられ本堂奥右手の部屋へ入っていく。そこには折りたたみ式の簡易ベッドが2つ並べられていた。先ほどの牧師が運び入れて準備したのだろう。


「では……2人ともここに寝てくれ……。」

 トークはエーミとケーケーをベッドに寝かせると、2つのベッドの間に立ち、2人の頭の上にそれぞれ手をかざし、目をつぶった。


「地と水と風と火の神々よ、そなたたちの御力を失ったエーミ、ケーケー両名の体に再び宿り、彼らとともに戦うことを願う。さらにその御力が、より強く開放されることを強く願う……。」

 そうして祈りの言葉をつぶやき始めた。


『プワァー……』するとトークの両手から、うすぼんやりとした光の玉のようなものが飛び出し、エーミとケーケーそれぞれの額の中に入っていったような……


「ようし……体が慣れるまで、すぐには動けないからな……2,3日かかるだろう。その間はここに泊まっていればいい。じゃあ、イスとテーブルを用意させたから、思い出話でもするか?お茶を入れてやろう。」


 スースーはそういうと、ベッドの足側に並べたテーブルと椅子を俺たちに勧め、自分はテーブルの上の急須にポットから湯を注ぎ、湯飲みにお茶を注ぎだした。


「あっ……あの……ダリハネス司教……人買いから子供たちを救出したというお話は、本当なのですか?


 帰郷した際に、司教様が誰か知らないけどうまいことをやったとお話しされていたので、その事実を知り、そうして司教様はその冒険者に心当たりがあるのだろうな、と感じてはいましたが、まさか本人とは……。」

 出されたお茶を飲んで少し落ち着いたのか、スースーが話を切り出した。


「ああ……あの頃は人買いの奴らも不定期に、周りに知らせずに子供たちを運ぶキャラバンを運用していた。

 だから、当時はもちろんギルドでもクエスト登録などしてはいなかった。キャラバンが通る日程とルートをつかんだ元冒険者が仲間にいてな……そいつに誘われて作戦に参加したというわけだ。


 もちろんギルドには事前に連絡しておいて、救い出した子供たちの救護の手配をしておいてもらったが、もちろんクエストではないので、表立って誰が行ったとか、何人救出したとかそういった情報は極秘とした。


 元冒険者の老人たちが、ちょっとは世の中のためになることをしてみようと立ち上がってみたのだが、人買い連中は大仰な装備と大勢の護衛を引き連れたキャラバンと化し、しかも自分たちのやっていることは正式な商取引だと主張し、かえって奴らの活動を助長する羽目になったと、その結果は評価されなかったな……。


 でもまあ3人の子供は救い出せたし、その中にナーミがいたんだ……大成功だったというわけだな……たったの4名だけで成し遂げたんだ……痛快だったぞ……。」


 トークはそう言いながら笑顔でお茶をすすりながら、当時の様子を話し始めた。その話を聞きながら、ナーミの目からはとめどなく涙があふれていく……大変な思いをしたのだな……。


 その日は、教会隣の宿舎で全員泊まらせていただくことになった。教会なので酒などでないと思っていたが、晩飯にはワインや日本酒など振るまわれ、キーチ達からもらった干物が大量にあったので、トークとともに大いに盛り上がった。


 客間というか大広間にベッドが並んでいるだけの寝室だったが、ベッドがあれば寝るには全く問題ない。



「エーミはまだここで治療が必要ということだが……じっとしているのもなんだから、マースへ行って浮島とやらを見てくることにするよ。住む場所を確保しておけば、エーミが回復したら、すぐにクエストに取り掛かれるからね。スースー達が、浮島に関しても詳しそうだから、一緒に行ってもらうことにした。」


 翌朝、朝食の席でトオルやナーミに説明する。


「ふうん……あたしはエーミが心配だから、ここに残るわ。ダリハネス司教にパパの話も聞きたいしね。」


「わかった……トオルと一緒に、家を決めておくよ。じゃあ、スースーとチーチー……悪いが付き合ってくれ。」


「任せてくれ……それに飛竜でマースまで送ってもらえるのは感謝だよ……マーレー川には水竜の幼獣が引く高速定期便があって、それだと12時間くらいでマースまで行けることはいけるけど、1日4往復しかしていないから時間待ちがあるからね。」


 スースーとチーチーとトオルと4人でミニドラゴンの背に乗り出発し、西を目指す。マースには夕方頃到着した。



「そうですね……飛竜も一緒に住めるくらいとなりますと……浮島のサイズもぐんと大きくしなければなりません。なにせマース湖では個人で飼育している幼獣の水竜も多くいますからね。彼らを刺激してはいけませんので、歩き回っていても下から飛竜の姿が見えないくらい大きなものでないと……50m四方位ですかね……。」


 王都から10キロくらい離れたマース湖のほとりに降り立ち、スースーの知り合いというマース湖湖岸にある不動産屋に出向いて、浮島の出物を探してもらうと、とんでもないことを言われてしまった。


 50m四方ってサッカーグラウンド半分くらいか?そんな大きさ……浮島としても一体いくらするのか……不動産会社の社員がそっと差し出す価格を見て、さらに驚く……。


「ううん……お高いですね……。」


 当たり前とも思えるのだが、すごく高い……しかも飛竜を飼育するといったら、賃貸は不可能で購入しかないだろうといわれた。A級ダンジョンの報奨金全額の10回分よりもまだ高い……。


 俺たちもこのところクエストを多くこなしていたが、コーボーギルドでは主にC+級の報奨金だけで、魚肉などの売り上げも加わればそこそこあったが、途中からはキーチたちのためにほぼ持ち帰っていたからな。A級ダンジョンはタールーの分も合わせて5回しかこなしていない。


 これではナーミたちと4人分の全財産を加えても、全然足りないだろう……困った……住宅ローンなんて、この世界にあったかな?


「確かにずいぶん高いね……そういえば、300年ダンジョンの報奨金を振り込むといっていただろ?いくら振り込まれているか、確認してみたらどうかな?」


「ああそうか……ちょっと確認お願いします……。」

 スースーに言われて思い出し、不動産会社の社員にお願いして、俺の冒険者カード残高を確認していただく。


「おおっ……これだけあれば……。」


 なんと、残高は4倍近くになっていた。A級ダンジョン報奨金の15回分は振り込まれているのではないかな?これだけあれば4人分合わせれば余裕で足りる……。カルネに聞いていた額より少なめだけど、大勢の兵士もいたし、ギルドの評価金額に基づいているのだから、無難な線なのだろう。これでも十分にありがたい。


「ちょっと相談してみる必要性はあるけど……買う方向で検討するから、この浮島は押さえておいてくれ。これから見に行くことはできるかい?」


「はい……それは大丈夫ですよ……すぐに参りましょう。」


 不動産会社社員と、会社のすぐわきの桟橋からモーターボートに乗って、沖合の浮島へ向かう。そこは広々としたスペースで、木々は生い茂り中央部分にログハウスのような大きな家が建っていた。


「中は土も入れられていて、菜園もあるようですね……ここにしましょう。」

 トオルもすぐに気に入った様子だ。


「そうだな……。」

 この浮島から、新たな冒険生活のスタートだ……。


続く……。


久しぶりに再会したトークは、なんとナーミを人買いから救った冒険者でした。奇跡的な再会を喜ぶトークたちと、物語は新たな展開を迎えます。マースの浮島を拠点とする新たな冒険が始まる、注目の次章に、ご期待ください。

いつも応援ありがとうございます。この作品に対する評価やブックマーク設定など、連載していくうえでの励みとなりますので、お手数ですが、よろしかったらお願いいたします。また、感想やご意見をお寄せいただけますと、書き進めていくうえでのヒントともなりますので、こちらもよろしくお願いいたします。


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