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魔力枯渇

「では明日の午前中にでも、改めてご挨拶にお伺いさせていただきます。」


「そうですか……了解いたしました。本当にありがとうございました。重ねて御礼申し上げます。」


「そんな……我々こそ助けられましたから……お顔をお上げください。それとちょっと気になることが……ダンジョンの構造図は、直接ヌーリー商会の社長から受け取られたのでしょうか?もしかするとお妃さまを通じてではないのでしょうか?」


 いい機会だから、このところ気になっていることを確認しておく。


「いえ……あの……その……けしてそのような……」

 ジュート王子が口ごもる……答えにくそうだ。


「そうですか……くれぐれもお体を大切にしてください。では……失礼いたします。」


 確かめたいが、恐らくジュート王子は答えないだろう。仕方がないので王子とは別れ、王宮建物を出て厩へ向かう。ミニドラゴンは他の飛竜たちと仲良くしているようだ。スースー達はジュート王子の手配で、御者がついた6人乗りの飛竜で居城まで送ってくれた。



「父が人を……ましてや王子様をだますようなことをするはずはありません。信じてください、お願いいたします!ですから取引はこのまま継続を……。」


 ミニドラゴンで居城の中庭に着陸すると、外門の通用口のところで大きな声がしている。見ると髪の長い女性が爺やに食って掛かっていた。面長の、なかなかの美女で、どこかその顔に見覚えがあった。


「どうした?一体何をもめている?」


「ああ、トーマ様……おかえりなさいませ。300年ダンジョンを攻略でしたか……ずいぶんとご活躍だったそうで……お仕えする爺も鼻が高いです……実は……出入りの業者を変更しようとしましたところ、その娘さんが直々に変更を取りやめるよう、訴えに参られたもので……。


 ですが、この業者のおかげでジュート王子様の御命にかかわるような、危険なダンジョンへ向かう羽目になったとお聞きしております。そのような偽の情報を流すような業者は信用ならんということで、昨日から近隣宅宛に通達が回っておりました。


 王宮でも、その旨報告があったとか……そうでございましょ?だから……悪いがお宅との取引はやめさせていただくよ……。」

 爺やは、そういいながら俺から視線を美女に移した。


「ネーリン……だったよね?久しぶり……お父さんのことは……お気の毒だったね……。」


 見覚えがあると感じたが、古くからの出入りの業者だったヌーリー商会の社長の娘だ。トーマの記憶によると彼女とは幼馴染ともいえ、ヌーリー商会社長と一緒に配達にきては城に残り、夕方になると父親が迎えに来るといった関係だった。5つ年下の彼女は、兄弟のいないトーマの格好の遊び相手となっていたのだ。


 だが、その関係もサートラが来てから変わってしまった。カルネの死後、対外的に妻と称されたサートラの父親の会社に、すべての取引先が変更されたのだ。それでも、サートラたちを追い出した後は元の業者に戻したはずだから、今になってまた取引中止を申し入れたわけだな。


「トーマさん……お久しぶりです……父は無実です……。10日ほど前に、ちょっと王宮から呼び出しを受けたと言って出ていったきり行方知れずで、昨晩突然王宮から連絡があり、外堀の中で父の遺体が発見されたということでした。自殺ということでしたけど、父が自殺などするはずはありません。


 王宮との取引も再会できる目途が立ったと、20日ほど前に上機嫌で話していたくらいです。それなのに一体どうして……しかも王子様に間違った資料……ダンジョンの構造図……を提出して、無理やり取り入ろうとして失敗したなどと……父がそのような不正を行うはずはありません。


 お酒もたばこもやらず、毎日仕事が終われば一直線に帰宅するような真面目で誠実な父が、人をだますことなどありえません。それなのに、おかしな通達が回っていて、近隣の取引先全てから、今後の取引中止を通達されてしまいました。


 父の死で喪に服すつもりではございますが、それでも商売を中断してしまっては、会社がつぶれてしまいます。多くの従業員が路頭に迷ってしまいます。どうか後生ですから……私を信じていただいて、取引だけは継続をお願いいたします。私はどんなに非難されても構いませんから、従業員のためにも取引だけは……。」


 ネーリンが、俺の体に縋りつくようにして訴えかけてきた。目に涙を浮かべながらの切実な訴えだ。


「お父さんは王宮から呼び出されて出かけて行ったということだったけど、俺が今日聞いた報告では、調査のために呼び出そうとしたが10日前から行方不明で、昨日遺体で発見されたということだった。王宮の誰から呼び出されて出掛けていったのかわかるかい?」


「確か王宮守備隊の……名前まではわかりませんが……王宮の資材取引に関係する担当者の方からと聞いておりました……。」


「そうか……やはりな……いや……ただこれだけだと、ずいぶんと弱いな……取り敢えず、少し見えてきた。爺や……せっかく再開した取引先だ。ちょっとした噂程度で取引をやめるのはもったいないだろ?値段だってサートラの父親の会社よりは、ずいぶんとお得に取引で来ていると聞いていたはずだぞ?


 事態がもっとはっきりして、本当に不正を働いたとわかってから切り替えてもいいのではないのか?」

 爺やに、考え直すよう説得する。恐らく彼女の会社は白だ。


「それはもう……サートラ様の実家の会社は、何せお値段が……そうですね……了解いたしました。事実がはっきりとするまで、当面の取引は継続いたしましょう。


 さっそくですまないが、上等なお酒を5樽と……コーラだったかな?シュワシュワっとした薬臭い飲み物……あれを10本……すぐに持ってきておくれ。どうやらお客様をお連れのようだからね……。」


「はいっ……毎度ありがとうございます……。トーマさん……本当にありがとうございました。」

 ネーリンが、涙をぬぐいながらも少し明るい笑みを見せる。


「なあに……トーマでいいよ……ずっとそう呼ばれていたからね。


 そうだ……近隣のお宅にも、事態がはっきりするまでは下手に取引先を変えないほうがいいと、触れ回ってもらえるかい?サートラの実家の商社のほうが価格も高かったはずだって付け加えてね。」


「はい……ようござんすよ……老舗の取引先が、つぶれてしまっては困りますからね……承知いたしました。城のものあげて、ご近所様を回っておきましょう。


 それはそうと……お客様も含めて……本日はお泊りでよろしいのでしょうね?」

 爺やが、疑い深そうな目でじっと俺を見上げる。


「ああ……もちろんだよ……急な来客をお連れして申し訳ないが、部屋の用意と晩飯の準備をお願いする。」


「おおおお……よかった……せっかくお戻りになられたのに、城は素通りされるのではないかと冷や冷やでしたよ……メイドやコックたちから、我々は何のためにここに勤めているのだと、不満が上がっておりましたからね。コックたちも張り切って腕を振るうことでしょう……ではこちらへ……。


 そういえば……ソーペラ様からお手紙が参っておりましたよ。すぐにお部屋までお持ちいたします……。」


 スースー達は爺やに連れられて、城の客間へ向かっていった。手紙……何だろう……やっぱりノンフェーニ城を売った時の金を支払えという要求だろうか?今はそれなりに懐が温かいから、払うのは別に構わないのだが、だったら払うといった時に受けとっておいてくれればよかったのにな……。


「じゃあ荷物を置いたら、もういい時間だから日課の訓練を開始するとしよう。それが終わってから晩飯だ。

 中庭に集合でいいね?」


「うん……わかった……。」

「いいわよ……。」


「はい……でも、私は訓練が終わったら申し訳ありませんが、実家に戻らせていただきたいのですが……。」


 トオルだけは、実家へ戻りたいと言い出した。まあそうだな……褒賞で大きなお屋敷を与えられてから、一度も帰っていないはずだからな。


「そうだね……じゃあトオルは今晩は自宅でっくりと家族と過ごしてくれ。明日は午前中には王宮へあいさつに向かうから、遅れないようにね……。」

「はい……大丈夫ですよ……。」



「火弾!火弾!……あれ?

 灼熱の火の聖霊よ、友を信じ力を貸し与えたまえ。その術を使い敵を貫け。火弾!……うーんダメだ。」

 トオルと剣術の稽古を始めようとしたら、ショウが首をかしげる。


「どうした?」


「うん……わからないけど……指を折って唱えてもだめだったから、正式に呪文を唱えてみたけど、やっぱり魔法が使えない……確かに胸の奥のところに力が入らないというか……呪文に力を込められない……。」

 ショウが手に持つ赤い精霊球をしげしげと眺める。


「精霊球の調子が悪いんじゃないのか?別な精霊球で試してみろ!」


「うん……わかった……水弾!……ダメだ……突風!……こっちもダメだ……どうしちゃったんだろう……。」

 ショウが頭を抱える……ううむ……ここまで指を折るショートカットキーの設定で、うまく使いこなせていたのだが、すべてリセットされてしまったとかそういったことか?


「ちょっと風の精霊球を貸してみてください……。突風!」

『ビュワッ……カンカンカンッ』ショウから風の精霊球を受け取ったトオルが試してみると、的に見立てた木の棒が一瞬で吹き飛んだ。


「精霊球の不具合ではなさそうですね……ショウ君自体の問題ではないかと……。」

 トオルが風の精霊球をショウに返しながらつぶやく……ショウの問題って……???


「恐らく魔力が枯渇したんだと思う……300年ダンジョンで、限界まで魔力を消費したのが原因だろうね。そのままでも戻る場合もあるけど、前と同じレベルまで戻れないこともあるから、治療が必要だね。」

 すると突然後方から声が……見るとスースー達がやってきていた。声の主はケーケーのようだ。


「こうやって、ダンジョンの外でも毎日訓練しているから、強力な魔法が使えるんだね……さすがだよ。でも、魔力が枯渇したのであれば、残念だけど訓練は当分やめておいた方がいいね。絞り出せばある程度の魔法は使えるようになるようだけど、きちんと治療しないと魔力の総量が減ってしまう場合が多いと聞いている。


 だけど安心してくれたまえ。枯渇した魔力も教会へ行って霊力豊富な司教に治療していただけば、復活できる。しかも枯渇する前よりも大きなパワーでよみがえる場合が多いようだ。ケーケーなんか、修業を終えて僕たちと合流した最初のダンジョン挑戦で魔力が枯渇してしまい、すぐに教会へ逆戻りさ。


 ところが治療後は魔力が倍くらいになって、そのうちに障壁まで張れるようになった。本来なら司教クラスでないと無理な術だよ……。


 実を言うとケーケーも霊力が枯渇してしまい、今は治癒魔法が使えない状態なんだ。彼にとっては人生2度目の霊力枯渇だ。あのダンジョンで霊力を大きく消費する障壁を何度も使ったからね。我々も一旦、ダリハネス司教の教会へ戻るつもりでいたから、一緒に行こう。会いたいといっていたから、ちょうどいいよね?」


 そうしてスースーが、トークのいる教会へ一緒に治療に行こうと誘ってくれる。彼らと一緒にいてよかった。

 俺達だけだったら、ショウに何度も呪文を唱えさせ、無理やりにでも魔法を絞り出そうとして、魔力総量とやらを減らしてしまうところだった。


「そうなのか……この状態はもう治らないとか……そういった深刻な状態ではないんだね?」


「ああ……魔法の使い過ぎによる魔力枯渇は、それほど珍しいことではない。きちんと治療すれば、すぐに治るよ……。」

 スースーに言われて、ほっと胸をなでおろす。


「じゃあ、当面はショウも体術の訓練だけにしよう。カッコンの訓練だけじゃあ時間が余るから、俺が剣術を教えるからナーミは弓を教えてくれ。何でもできるようにしておいて、ショウに合った体術を最終的に選択しよう。」


「わかったわ……あたしが持っていた弓は初中級向けだから、ちょうどいいわね……。」

 この日は体術メインの訓練を行い、魔法の訓練は俺とトオルとナーミが順に、ショウの体術訓練の手が空いているときに行った。



 訓練を終えてからスースー達を交えて夕食……というか、祝勝会だな……。


「へえ……ショウ君はやっぱり女の子なんだ……聞いてはいたけど、実際に見るとやっぱり不思議な気がするね。」


 ミーミーが、エーミの姿に戻ったショウを見て、興味深そうにじろじろと頭のてっぺんから足元まで何度も見まわす。ノンフェーニ城では使用人たちの手前、下手に隠さないほうがいいということで、訓練のとき以外はエーミの姿でいることにしたのだ。


「ああ……擬態石を使って普段は男の姿に化けている。みんなに協力してもらった義賊クエスト……あの時に救いだした、人買いに売られていくところだった女の子の一人……それがエーミなんだ。


 エーミはカルネの娘だが、妻のサートラがエーミのことを……まあともかく……人買いから逃れるために、エーミは姿を変えているというわけだ。


 だからエーミのことを知っているものが多い、カンヌールにはあまり長くはいられないというわけだ。」

 エーミのことを簡潔に説明しておく。思い起こせば彼らだって関係者なのだ、事情は知っておいた方がいいだろう。


「そうだったんだね……でも、会えてよかった……ダリハネス司教は絶対に喜ぶはずだ。生まれた時からずっと気にかけていたからね……もちろんナーミのこともね……会うのが楽しみだね……。」


 スースーが、自分のことのようにうれしそうに話す。ちょうど魔力の枯渇の治療という用件もできたし、早々にトークのところへお邪魔することになってしまった。まあこれも、何かの縁ということだろうな……。


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