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反論

「確かに……如何に攻略後間もないダンジョンであったとしても、ダンジョン攻略に不慣れな、新兵含め軍兵士たちを向かわせるべきではなかったと、反省しております。すべて私の責任です。」

 ジュート王子がそう言って深々と頭を下げる。


「では……ジュート王子様以下、王宮地下ダンジョン攻略の指導的立場であった関係者たちに対する処罰に関しまして……追って通達させていただきます。それまでは謹慎をお願いいたします。


 また、救援をお願いした冒険者の方々への報奨金に関しましては、お持ち帰り頂いた精霊球及び特殊効果石に加え、宝石の原石らをギルド職員と鑑定したのち、部隊救出のお礼金含め所定の口座に振り込ませていただきます。その際、ご不満がおありの場合は2週間以内に異議を申し立て願います。」


 検事役の兵士は勝ち誇ったように、鼻息荒く胸を張った。


「待ってくれ……俺はこの国の国民だし、さらに公爵の称号をもらっている。であればこの場での発言を許されるのかな?」


 仕方がない……報告会でスピーチを頼まれた場合に備え、ジュート王子が活躍した場面を寝る前に箇条書きにしてメモしておいたのだ。本来は王子を絶賛するためにまとめたものだが、目的は違うが役に立ちそうだ。おかげで寝入った途端にトオルに起こされ、ほぼ徹夜状態だ。


「ああ……ワタル公爵様……ですが……報告会はすでに終了いたしました。申し訳ございませんが、閉会させていただきます。」

 ところが検事役の兵士は、聞く耳持たずといった態度だ。ジュート王子の反省の弁を引き出せたので、目的は達したということなのだろう。早々な閉幕を願っている様子だ。


「おいおい……先ほど王様に言われたことをもう忘れているのか?陸軍中将!救援要請を受けてジュート王子様たちを救出した者の意見も聞かずに閉会するというのか?」

 仕方がない……こういった高圧的なやり方は大嫌いなのだが、状況が状況だ。陸軍中将を動かそう……。


「はっ……ワタル公爵殿……おいっ、ご意見をお聞きしろ!」

 陸軍中将は、俺の言葉にたじろぎながら兵士に命令する。俺が怖いというより、目の前にいる国王様が怖いのだろうがな。


「仕方がありません……閉会後なのですから、なるべく簡潔に願います。」

 検事役の兵士は、いかにも余計な仕事とでも言わんばかりに、ふてくされ気味に俺の方へと向き直った。


「簡潔になるかどうかな……それよりも、先ほどから貴殿の態度はずいぶんと無礼だな……スースー殿はカンヌールの国民ではないが、百年ダンジョン攻略の功績を認められて、カンヌール王から爵位を賜っているお方だぞ。まさか国軍兵士である貴殿が知らぬわけはないと考えるが、貴殿は本当にこの国の者か?


 確かめたいので、まずは所属と階級と名を名乗ってくれ。」


 どうにもふてぶてしい態度の兵が気に障るので、所属を明らかにさせることにした。後で公爵の権威を振りかざしてでも、上司に対して文句を言ってやろうと思っている。


「えっ……わ……わたしは……」


「どうした?名も名乗れないというのか?どこのだれかわからぬようなやつが、王様の御前で報告会の取りまとめを行っていたとでもいうのか?」


「いえ……そのような……。」


「だったら、所属と名前をはっきりと申してみろ!」

「…………………………」


「おいっ、捕えよ……。」

『はっ?』


「明らかに怪しいだろ?不審者だ……捕えよ……。」


 すぐに謁見室の壁際を取り囲む警固の兵士たちを見回しながら命じる。俺は国軍と何の関係もないが、中には近衛兵士もいるようで、顔だけは見たことあるやつが混じっているので、命じてやる。名も名乗れないようなおかしな奴が、王様の御前にいるというのに、どうして誰も咎めようとしないのだ?


「おっ……お待ちくださいワタル殿……おいっお前っ……どうして名乗らない?所属と階級と名を名乗れと命じられているのだぞ!」

 陸軍中将が、焦って検事役の兵士に命じる。下の階級の者の名前などいちいち覚えていないだろうからな。


「は……あの……おっ……王宮守備隊第2部隊所属陸軍中尉ミースです……。」

 検事役の兵士が、蚊の鳴くような小さな声で答える。


「王宮守備隊の第2部隊というと、お妃様の警護担当者だな。そのような者がどうしてダンジョン報告会の取りまとめをしているのだ?」

 さっきは軍の総務部とか言っていなかったか?一体どういうことだ?


「おいっ……これはどういうことだ?どうして王宮守備隊の中尉がこんなところに?」

 陸軍中将も目を丸くする。そりゃそうだ……まったくの畑違いだろう。


「その……………………」


「しっ失礼しました……おいっ……お前は下がっておれ……お妃さまは本日体調がすぐれなということでご出席なされなかった為、手の空いているものが報告会の司会役をやっていたようですな……本来は王宮警護担当なので、不慣れな業務で対応に少々難がありました……大変申し訳ございません、ご容赦くださいませ。


 ここからは私が取りまとめを行います。公爵殿……何かご意見がございますかな?」


 陸軍中将が急いで玉座のある壇上から降りてきて、検事役の兵士を下がらせて代わりにマイクをとった。王様の御前なので、とりあえず場をとりなそうとしているのだろう。それにしても奴のお咎めは、なしなのか?『バタン』検事役の兵士は、そのまま誰も付き添わずに謁見室を出ていっただけだ。


「ああ……それでは、300年ダンジョンであった王宮地下ダンジョン攻略の戦いで、気づいたことを2,3報告させていただく。


 まずは300年ダンジョンは、本当に過酷なダンジョンであった。7層構造であり、ダンジョン内で出会うどの魔物たちも、5層目まではそれなりに強力といえるレベルであったが、6層目以下となると下級ダンジョンの……そうだな……C+級ダンジョンのボスクラスのレベルだった。


 救援部隊の我々がジュート王子様の部隊に出会ったのは、その6層目の中盤近いダンジョン内の水飲み場であった。


 そのような地点まで、先ほどから何度も指摘を受けていたように、大半がダンジョン攻略経験のない兵士たちを引き連れて、何とか部隊を存続させていた、セーサ、サーマ両名の元冒険者の方たちとジュート王子様の手腕は、本当に賞賛に値するものと考える。勿論兵士たちも優秀だった……当たり前だがね。


 また、我々が水飲み場に到着した時点では、セーサ、サーマ両名は重傷を負い戦える状態ではなく、他の兵士たちも傷つき横たわっていた状態であったにもかかわらず、ジュート王子様はご自身も傷つきながらも気力を振り絞り、たった一人で水飲み場の入り口を、命を懸けて群がる魔物たちから守っていた。


 これはもう……驚嘆としか言いようがない。自らの命を賭してでも部隊員の安全を守る……これ以上の部隊長がいるだろうか?


 さらにボスステージは巨大な魔物が2体もいて、凄まじく強力だった。救援に向かった我々2チームだけで当初は戦うつもりであったが、ジュート王子様は魔物の気を惹くくらいの事はできるとおっしゃられ、部隊ともどもボスステージに同行なされ、ご活躍された。


 特に兵士たちが腕を組んで踏み台のようなものを作り上げ、兵士を高く飛ばし上げる作戦というか技……ジュート王子様自ら大跳躍されて、巨大魔物に一撃を加えられた。部隊の活躍がもしなければ……我々2チームだけで戦っていたとしたなら、恐らく我々は今日この場に存在していなかった。


 それくらい強力なボス魔物たちであり、ジュート王子様率いる部隊と一緒に戦ったからこそつかんだ勝利であったと、確信している。


 私の経験から判断すると、ジュート王子様の部隊の実力があれば、恐らくB+級ダンジョンまでなら部隊だけで犠牲も伴わずに攻略できていたはずだ。ところが王宮のダンジョンは300年ダンジョンという、A級冒険者ですらも恐れるようなダンジョンであった。


 そのため4名の尊い命が犠牲となったが、彼らだって勇敢に戦って戦死されたのだと思う。ご冥福をお祈りするし、ご遺族の方たちにはお悔やみを申し上げるが、300年ダンジョン攻略という歴史に残るような功績を遂げた事の礎となった彼らの死は、決して無駄ではなかったと考える。


 それらをもって今回の騒動の責任は、決してジュート王子様にあるのではないことを、私は断固として主張する。」


 如何にジュート王子が活躍されたかを、分かっている限り並べ、王子の責任ではないことを主張する。恐らく俺たちと出会う前までだって、活躍されていたはずなのだ。あの部隊ならA級ダンジョンだって攻略可能な気もするが、ここはあまり大げさには言わないで、確実な線にとどめておく。


「ジュート王子様の部隊の活躍がなければ、ダンジョン攻略できていなかったという見解とB+級ダンジョンまでなら攻略できたであろうという推測に関しましては、僕も同意見ですよ。王子様の責任云々に関しましては……僕は国民ではないから意見を述べてはいけないのかな?


 そもそも責任追及の裁判ではなく報告会なのでしょう?おかしいですよね……。」

 スースーも立ち上がって同意してくれた。そうしてこの報告会の異常さを指摘する。


「貴重なご意見、まことにありがとうございました。恐らく先ほどまでと、ジュート王子様以下、国軍部隊への評価が大きく変わったことと感じます。ほかに、ご意見はございませんか?」

 陸軍中将が、マイクを手に辺りを見回す。


「では王様……最後にお言葉を、よろしでしょうか?」


「ああ……うん……突然の連絡にもかかわらず、すぐにご対処いただき、わが軍の危機をお救い頂きました2チームの冒険者の方々……本当にありがとう。貴殿らのご活躍がなければ、この国は存続の危機に陥っていたかもしれん。それくらいの一大事じゃった……本当にありがとう。


 また、犠牲は伴ったがわが国軍の優秀さを知らしめることもできた。兵士たちにも感謝の言葉を述べたい。犠牲になった兵士には追悼の言葉と、ご遺族の方たちにはお悔やみと手厚い処遇を望む。


 そうして……ジュート王子……よくやった……。」


 陸軍中将に促されカンヌール王が極めて簡潔に、言葉を区切りながら閉められた。よかった……これでジュート王子や関係者たちにお咎めなどはないだろう。


『パチパチパチパチパチ』終始湿った雰囲気の会場であったが、だれからともなく拍手が起こり、やがて謁見室全体を包みこんだ。そうなのだ、彼らの功績をもっとめでたいことと、称えるべきと俺は思う。


「パパ、カッコよかったよ……。」

「本当に……ご活躍でした……。」


「すごいね……あの偏屈な兵士をやりこめてしまうなんて……大したもんだよ……それとあのスピーチは素晴らしかった……。」


「殴ってやればよかったのよ……あんな奴……。」


 ショウやトオルにナーミ、スースーらがすぐに寄って来た。ジュート王子の活躍した場面を思い出して、メモ書きしておいたおかげだ。


「トーマ先生……ありがとうございました。また、スースーさんも、本当にありがとうございました。お二人の弁護のおかげで、これ以上の責任追及はなさそうです。


 いえ……責任逃れをするつもりは毛頭ございませんが、謹慎ということになりますと、犠牲となった兵士たちのご遺族の方たちを回って、お悔やみを申し上げることが出来なくなってしまうため、困っておりました。


 今回の騒動の後始末をきちんとつけてから、私は国軍の将から身を引く所存にございます。私には荷が重い役職であったのでしょうね。」

 すぐにジュート王子がやってきて、頭を下げる。


「いえいえ……私はどんなことがあってもジュート王子様の味方でいるつもりではございますが、先ほどの意見はあくまでも中立の立場から見た所見を述べたものです。王子様が同行されていなければ、恐らく部隊は我々到着を待たずに全滅していたはずです。間違いございません。


 ジュート王子様は人の上に立つべき人物であると私は信じておりますので、国軍から身を引くなどと、決して考えないでください。お願いいたします。」

 そういって、頭を下げる。責任を取るべき人物なら、ほかにいるはずなのだ……。


「ありがたきお言葉……胸に染み入ります……先生がおっしゃるなら、もう少し考えさせていただきます。


 トーマ先生たちは、本日も王宮の離れにお泊りになられますよね?犠牲者が出ましたので祝賀会はできませんが、ささやかな晩餐などを検討しておりますが……。」

 ジュート王子から食事会に誘って頂いた。光栄なのだが……。


「ノンフェーニ城の居城がありながら、冒険の旅を続けている身の上……帰国しているにもかかわらず、居城に帰らなければ、城の者に何を言われるかわかりません。お気遣い大変ありがたいのですが、本日は帰宅させていただきます。


 スースー達もどうだい?古い建物ではあるが、それなりに広く部屋はたくさんある。4人なら十分に宿泊可能だが一緒にどうかな?」


 申し訳ないがお誘いはお断りさせていただいて、更にスースー達もこっちに誘う。命が危ぶまれるようなダンジョンから、20日ぶりに帰還されたのだ。今夜はカンヌール王と親子水入らずで過ごされたほうがいい。


「ああ……それならご一緒させていただこうかな……ナーミとは積もる話もあるしね……ダンジョン内では緊張していたから、ふざけた話などできなかったからね。ご厄介にならせていただくよ……。」

 スースーも笑顔で快諾してくれた……よしよし……。


「そうですか……残念ですね……でしたらスースーさんたちは王宮の飛竜でノンフェーニ城までお送りさせていただきます。」

 がっくりと肩を落とされるジュート王子……申し訳ないが親子水入らずの邪魔はできないさ。


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