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報告会?

「うーん……おはよう……あれ?勝ったんだよね……?」


 離れに戻って寝室にそっと入り、そのままソファーに腰かけて仮眠しているとショウが目覚め、辺りをきょろきょろと見回しだした……よかった……気が付いた様子だ。


「ああ、勝ったぞ……ここは王宮の離れだ……戻って来たんだ……。」

 ベッドに駆け寄り体を起こしたショウを、ぎゅっと抱きしめる。


「あれ?気が付いたんだ……急に倒れるから、心配したんだよー……。」

 声がしたせいか、ナーミも起きあがり寄って来た。


「ごめんなさい……なんだか突然体中の力が抜けちゃったみたいで……。」

 ショウが、神妙な顔で頭を下げる。


「ううーん……はっ……ここは……?」

 俺たちが話していると、ケーケーも目を覚ました様子だ。


「すぐにスースーさんたちを呼んでまいります。」

 トオルが、すぐに会議室へスースー達を呼びに行ってくれた。


「ここは王宮の離れだ……俺たちは無事戻ってこられたんだ……。」

 ケーケーに、状況説明してやる。


「そうか……勝ったんだな……やったー……。」

 ケーケーが握りこぶしを作って、ガッツポーズをする。


「おお、ケーケー……目が覚めたか……やったぞ。僕たちは、300年ダンジョンを制覇したんだ……。」

 すぐにスースー達がやってきて、ケーケーのベッドに駆け寄ってきた。


「みんな起きたようだな……じゃあ朝食を済ませて、王様への報告会だ……。」


 全員で離れの食堂へ向かう。さっき戻ってきたときに、朝食というか昼食の準備をしていたことは確認済みだ。ちょっとしか寝ていないので、眠いがまあ我慢だ……報告会が終わればゆっくり寝られるさ。



「輝照石のほかに魔導石も携帯し、回復系の僧侶及びダンジョン攻略経験豊富な元冒険者の、現在新兵の剣術指南役をしていらっしゃる教官2名に協力をお願いいたしまして、万全の準備を整え向かいました。


 ところが予想外に巨大で階層の深いダンジョンであり、食料も尽きかけ重症者や犠牲者も出て、部隊全滅の危機もあり得る本当に危険な状況でした。元冒険者の教官たちに助けられ、何とか水飲み場を探し当てて、そこに籠城していたのです。そうしてなんとか、トーマ先生たちの救出部隊と巡り合うことが出来ました。」


 午後1時から王宮本殿の謁見室にたくさんのいすを並べ、王様の前でダンジョン攻略の報告会が始まった。300年ダンジョン攻略という、本来ならば非常にめでたいことではあるのだが、4名の犠牲者が出たということで祝賀ムードは一切存在しない。


「魔物が出るという命の危険にかかわるようなダンジョンに、どうして新兵を連れていかれたのですか?」


 検事役の兵士が質問をする。軍の総務部の人間と紹介された人間だ。いわば監査役だな……新兵4名が犠牲になったことについて、責任の所在を明らかにしたい様子だ。


「精霊球は取得者と購入者では、魔法効果に差が生じるということを教えられ、魔法部隊の新兵を精霊球取得に同行させ、より大きな魔法効果を得られるようにする計画でした。精霊球を扱えるのはもちろん1名だけですが、今後もこの活動を続けるため、5名の新兵を同行させたのです。


 まだできて間もない1層だけのダンジョン……ギルド評価でいうところのC+級ダンジョンであるという情報がありましたので、十分な対処ができると考えておりました。」

 ジュート王子が答える。当初のダンジョンの難易度想定から考えて、無茶な行為ではなかったはずだ。


「そうなりますと、ダンジョンの評価を誤っていたということですね?お恐れながらジュート王子様は、冒険者の経験はおありになりませんよね?経験もないのにダンジョンを甘く見て、ダンジョン攻略に不慣れな国軍兵士を連れて、無謀な挑戦をされたということではないのでしょうか?


 王子様たちのご帰還が予想外に遅く、王様のご指示で百年ダンジョン攻略実績のある冒険者に救援要請を行ったところ、すぐに上級ダンジョンであろうことを予想されたと伺っております。


 さらに、そのようなダンジョンに救援に向かうには、A級冒険者が最低でも3チームは必要とも評価されたようです。実際には他の2チームと連絡が取れず、やむを得ずに別チームに要請し2チームだけで救出に向かわれたということでしたが、ダンジョン攻略に苦戦を強いられたと伺っております。


 いかようにして、当該ダンジョンの評価を軽くお見積もりになられたのでしょうか?」

 検事役の兵士は、ジュート王子の責任を強く追及している様子だ。


「それは……ダンジョンの構造図を手に入れまして……それが伝説とまで評された冒険者、カルネ殿が記載した構造図でして。その日付が18年前となっておりましたから、その当時に攻略したダンジョンの構造図であると判断いたしました。元冒険者の教官2名にもお伺いしましたが、同様の意見でした。」


「では……元冒険者の教官にお聞きいたします。えーと……セーサさんですね。今回、ジュート王子様にご同行された剣士で間違いありませんね?ではお尋ねします。


 ジュート王子様に相談されたときに、該当ダンジョンは18年前に攻略された、日の浅いダンジョンであると確実に判断できましたか?王宮内の……しかも離れの下に隠されていたダンジョンですよ?おかしいと思いませんでしたか?」


 検事役の兵士は、ジュート王子と一緒に証言台に並んで立っているセーサに向き直って質問を開始した。


「おお……ジュート王子様と一緒にダンジョン攻略に向かったのは間違いありません。


 あのダンジョンに関しては、構造図を見せられて18年前に攻略されたダンジョンと思われるが、どうでしょうかと相談を持ち掛けられた。


 場所が場所だけに違和感を覚えたが、信頼できる筋から入手したものだとお聞きし、伝説の冒険者カルネであれば、王宮内に忍び込んでダンジョン攻略するなんてこともやってのけると考えたわけだ。


 何せ彼は、この大陸内のありとあらゆる場所の未管理ダンジョンを発見して、そこを踏破することを趣味としておったからね。彼ならやりかねないと考えたわけですな。」

 セーサが答える。誰だってカルネの名を出されたら、そう思っても仕方がないとは俺も思う。


「ほお……そうでしょうか?ところが救援をお願いされたA級冒険者の方は、異なった判断をされております。あなたもジュート王子様と一緒に、間違った判断をされたという評価でよろしいでしょうか?」

 ところが検察官役の兵士は、執拗に責任の所在について追及する。


「い……いや……それは……。」


「すいません、王宮内に隠されていた300年ダンジョン攻略の報告会とお聞きして参加していますが、これは裁判なのでしょうか?我々が、今おっしゃっていた、救援を要請された冒険者なのでしょうが、意見を述べさせていただいてもよろしいでしょうか?」


 すると突然傍聴席というか、謁見室後方のいすに腰掛けていたスースーが挙手をしながら立ち上がった。


「えーと……あなたは……A級冒険者のスースーさんですね。あなたはカンヌール国軍兵士ではございませんし、カンヌール国民でもございませんので、この報告会での発言の権利はございません。必要な場面になりましたら、証人として証言をお願いすることはあるかもしれませんが、今はそのままお座り願います。」


 検事役の兵士は目を細め冷たい視線を送り、席につくよう要請した。


「そうはおっしゃいますが、先ほどから私に関することを、あなたは2度ほど口にされました。おっしゃっていた内容自体に間違いはございませんが、どうにもその事実をあなたは捻じ曲げて解釈していらっしゃるようなので、訂正させていただきたいのですが、いけませんか?」


 ところがスースーは、検事役の兵士の指示には従わず、起立したまま言葉を続ける。


「捻じ曲げた解釈って……何とも無礼な……申し訳ありませんが、あなたはこの場にふさわしくありません。ご退出願います。……おいっ!」

 検事役の兵士がスースーを手で指示すると、すぐに2名の兵士がスースーの席へと向かっていった。


「おいおい……何とも乱暴なことを……ダンジョンから戻らずに行方不明となった、ジュート王子の部隊の救援をお願いして皆を救出していただいた、いわば英雄ともいえるお方に、なんということをする。


 陸軍中将……これはお客人がおっしゃったように、報告会ではなく裁判なのか?裁判とすると、どうしてジュート王子が被告人のような扱いとなるのだ?」

 すぐにカンヌール王が制し、傍らの恰幅のいい軍人に振り返る。


「はっ……決して裁判などでは……おいっ、少しお客様に対する態度に気を付けろ!ご意見を述べたいのであれば、ちゃんとお聞きして差し上げろ!」

 陸軍中将は、すぐに検事役の兵士をたしなめた。


「はっ……承知いたしました。……では、ご意見をお聞かせください。」

 検事役の兵士は非常に厳しい表情で、にらみつけるようにしてスースーを促す。


「あなたは王宮のダンジョンが、ジュート王子様たちによって勝手に攻略されたばかりの新しいダンジョンだと判断された。ところが救援を要請された僕たちは、すぐにそれが上級ダンジョンであると判断したと言っているけど、その解釈は間違っているよ。


 僕らだって1層だけの構造図を見せられ、これが伝説の冒険者カルネが18年前に攻略したものだって聞かされれば、それが王宮地下にあろうがどこにあろうが信じてしまうよ。


 元冒険者の方や大勢の国軍兵士で部隊を編成し、1層だけの18年ダンジョンを10日かかっても攻略できないことはあり得ないから……だからそのダンジョンの経緯を調べてくださいって依頼したんだ。その旨を電信に書いて要請してあるから、あなたたちが知らないわけはない。


 それなのに、いかにもジュート王子様たちのミスのように何度も強調して言うから、あなたが解釈を捻じ曲げているといったのだ……私からあなたにお聞きしたい。


 あなたは何をもって、ジュート王子様が間違った判断を下したのだと限定しているのかな?」

 スースーも同じく検事役の兵士をにらみつけた。


「い……いや……それは……上からの……。」

 検事役の兵士が、慌てて口ごもる。


「全ての元凶は、ダンジョンの構造図であると言いたいのですよね?我々だって馬鹿じゃないですから、構造図の入手元を調査しました。ヌーリー商会という18年程前までは、王室御用達の商社だったところです。


 構造図の真偽について、問いただしたいと会社に出向いて尋問しようとしたのですが、社長は10日前から行方不明で、ようやく昨日死体で発見されました。自殺していたと報告を受けております。


 恐らく兄上を通じて王宮に再び取り入ろうと画策し、王宮地下に隠されたダンジョン構造図を使って近づこうとしたのでしょうが部隊が戻らず、追及されることを案じて自殺したと目されております。


 かような状況でありながらも部隊を守り抜き、犠牲者は出ましたが、多くの兵たちを帰還させた兄上の采配は、本当に尊敬に当たるものです。ですが……もう少し人を見る目も養われたほうがよろしいのかと……。」


 すると突然、玉座の隣の装飾のついた豪華な椅子に腰かける少年が口を開いた。手には分厚い紙片があり、ページをめくりながら、読み上げるように話している。


 報告書を棒読みだな……カンヌール王が座る玉座の左は正室のお妃さまの席のはずだがいらっしゃらずに空席、右側の席は本来はジュート王子が座る席だから、こちらも空席のはずなのにそこに腰かけている。


「これは……ダーウト王子様……お言葉ありがとうございます。」


 検事役の兵士がダーウト王子に向かって頭を下げる。そうか……彼が第2王子であるダーウト王子か……ジュート王子は、ダーウト王子の発言を目を白黒させて聞いていた。ダーウト王子の発言が予想外ということなのだろうか……?


「そうですか……以前王宮に出入りしていた業者が、再度取引を願うため、ジュート王子様に取り入ろうとして……構造図を手に入れた経緯などは、本人が自殺してしまって分からないということですね?


 そうなると、王宮のダンジョンが攻略後間もないダンジョンとして評価されるに至った経緯は、闇の中ということになってしまいましたね……残念ですが仕方がありません。


 私が申しあげたいことは、至極一般的なことです。この国には多くのダンジョンが存在しております。ダンジョンは精霊球や特殊効果石が産出するほか、生息する魔物たちの肉などの高級食材のほか、毛皮など恵みを与えてくれます。


 そのダンジョンを管理しているギルドは常々宣伝しておりますが、ダンジョンは非常に危険なところなので、一般人は決して近寄らない様注意喚起しておりますね?


 日ごろから訓練している冒険者でも、ギルドで評価されたレベルに見合ったダンジョンを選択して挑戦しなければならないという、学校でも習うような常識的なことが守られなかったことが今回の悲劇につながったのだと、考えているわけです。


 元冒険者の教官先生に同行願ったとはいっても、新兵5名と僧侶1名のほかはジュート王子様以下13名の国軍兵士たち。確かに軍人としてのキャリアは積んでいるようですが、ダンジョン攻略の経験どころか、魔物との戦闘経験もほとんどないような兵士ばかりと聞き及んでおります。


 そのおかげで多くの負傷者をだし、重症者及び犠牲者まで出したと言えるのではないのでしょうか?今回の不祥事は、ジュート王子様の安易な判断が招いた結果といえると考えますが、いかがでしょうか?」


 ダーウト王子の言葉により勢いを取り戻した検事役の兵士は、あからさまにジュート王子を糾弾し始めた。やはりこれは、弾劾裁判ではないのだろうか……?


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