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3つの石

「ショウ君の様子はいかがですか?」

「ケーケーは……ケーケーは気が付いたかい?」


 トオルたちが出てきたのは、そろそろ夜が明けそうな時間だった。広いドーム内を徹底的に捜索したので、さらに半日近く時間を費やしたのだろう。魔物は超強力だったし、300年ダンジョン恐るべしといえる。


「2人とも、いわゆる過労ということのようだね。今は点滴をして、眠っているいるところだ。」


 トオルたちにショウとケーケーの容体を説明する。とりあえず容体は安定しているし、それほど危険な状態ではないそうなので、俺も安心している。


「時間も時間ですので、王様への報告は本日の昼からということになりました。皆さんはお疲れのところ申し訳ありませんが、この離れで仮眠をとっていただき、一緒にご報告をお願いできないでしょうか……。

 今、会議室にベッドを運び込ませておりますので、少しでも体を休ませてください。」


 ジュート王子もやってきて、これからの説明をしてくれる。城へ戻りたいところだが、ショウをこのまま置いていくわけにもいかないので、仕方がない離れに泊まるしかないか……。


 寝室は結構広いしショウのことが気がかりなので、俺もナーミもトオルも会議室にはいかず、ショウのベッドの周りに寝袋を使って雑魚寝することにした。



(ワタル……ワタル……起きてください。)

 しばらくすると耳元でささやかれ、寝袋ごと体をゆすって起こされた。


「ふあー……」

(しっ!)

 あくびをしただけで口を手で覆われて、静かにするよう怒られた。


(なんだなんだ……どうした?)

 仕方がないので、小声で囁く。


(一緒に表へ出てください。)

 ショウもケーケーも、意識は回復していない。ナーミは……疲れ果ててぐっすり眠っているようだな……。


『キィー…………』声の主であるトオルに促され、そっとドアを開けて廊下に出る。そのまま見張り番の兵士に見つからないように、離れの外へ出た。外はうっすらと夜が明け始めていた。


「これを見てください。」


 トオルが、冒険者の袋の中から3つの石を取り出す。2つは赤いのだが火の精霊球ではない。ちょっといびつな球というより吊るし柿のような形をしていて、黒みがかった赤……血の色のような赤で、心臓の形を思わせる。もう一つは純金のような黄金色をしていて、その形は羽のない竜のような形をしているようだ。


「なんだこれは……特殊効果石じゃないのか?」


「そうです……2石は生命石で、もう1石は……恐らく玉璽でしょう。」

 トオルが深刻な顔をして告げる。何だって……生命石と玉璽?……って、どうしてそんなもの持っているんだ?


「精霊球も特殊効果石も、すべて王宮に提出したんじゃなかったのか?ジュート王子から預かったのか?」


「いえ……勝手に持ち帰りました。あの時点ではまだみんな戦い終わって一息ついたときでしたので、誰にも見られていないはずです。」

 トオルが自信満々に話す。


「おまっ……ばか……だからと言って、やっていいことと悪いことがあるぞ……こんなもの勝手に持ち帰って、ばれたら切腹もんだぞ。生命石なんかそりゃ高価だっていう話だけど、めったに出ないものだから、売って儲けようなんて考えても、すぐに足がついてしまうぞ……ましてや玉璽なんて……。」


 なんてことするんだ?トオルというやつが、わからなくなってきた……頭が痛い……。


「すぐに名乗り出てごめんなさいするんだ、うまくすれば軽い刑で済ませてもらえるかもしれん。俺は絶対トオルの味方をして弁護してやる。この間の戦争だって、すごい功績を上げたんだしな……減刑してもらえるよう頑張るし、牢屋に入れられたとしても、何年だって仲間として待っていてやる。だから……。」


 すぐに自首を勧める。しでかしたことは確かにいけないことだが、誰にだって出来心というものはあるのだ。


「ありがとうございます……ですから、これから渡しに行きましょう。秘密裏に王様に直接手渡さなければなりません。」

 トオルが、とんでもないことをサラッと言ってのける。


「はあ?王様に直接って……約束しているのか?今日の明け方にどこそこで待ち合わせって……そんな約束、一体いつの間にしたんだ?」


「していませんよ……ですから直接お伺いして、手渡すのです。王様のお部屋の場所は分かりますか?」

 周囲に注意しながら王宮へ近づき、トオルが2階の小窓を見上げる。


「しっ忍び込むのか?見つかったら、間違いなく反逆罪で死刑だぞ。どうしてまたそんな危険なことを……。」


「3つの命あるところ玉璽ありと伝えられております。飛竜・地竜・水竜の3竜に相当する生命石と一緒に玉璽は現れるということです。確かにあのダンジョンでは、生命石は3つありましたし玉璽もありました。


 ですが、玉璽が現れたことを公にするわけには参りません。3竜をもって世界を制す。つまり野生の3竜を従えることができる玉璽があれば、この大陸を制することはたやすいのです。


 そんなものがカンヌールに出現したことが公になれば、カンヌールと仲たがいしているサーケヒヤー国だけではなく、友好的なカンアツ国ですらも、すぐさま連合を組んでこの国へ攻め込んでくるでしょう。ぐずぐずしていたら、自国が滅ぼされてしまう可能性が高いですからね。


 前回は憶測で仕掛けてきたのでサーケヒヤー国だけでしたが、今度は連合軍で仕掛けてきますよ。


 それは=この国の滅亡を意味します。そんなことがあってはならないのです。ですから、3つの生命石が出たことも玉璽が出たことも、極秘にしておかねばなりません。そのため、直接王様にこれらを手渡すしかないのです。


 本当なら、あのままダンジョン内に隠しておきたかったのです。出る時にそっと置いておくつもりでしたが、兵士達総出でダンジョン内を目を皿のようにしてチェックしておりましたし、攻略後のダンジョンは兵士たちの訓練所に使用するとジュート王子様がおっしゃっておりましたので、隠すのは無理と考え持ち帰りました。」


 トオルが、深刻な顔をして告げる。そうか……こんなこと誰にも知られるわけにはいかないのだ。王様に直接手渡して、隠し通すしかないのだ……。


「わ……わかった……だったら、ジュート王子様の部屋へ行こう。俺だって王様の部屋がどこかは知らないが、ジュート王子様の部屋は知っている。ちょうどこちら側の、右端の部屋がそうだ。

 だが、どうやって忍び込む?王宮周りには堀があるのだぞ……。」


 王宮は目の前に見えているが、その前に幅十mの内堀があるし、壁には忍び返しもある。ロープをひっかけて登っていくなんてことは、ほぼ不可能だ。


「飛ぶのですよ……。」

「飛ぶ?」


 ああそうか……いつもダンジョン内でやっていることをやればいいということだ。

『ダダダダダッ』(脈動!脈動!)『ダダダッ……ダッ……ダッ』脈動を使って3段飛びして王宮よりも高く舞い上がり、そのままの勢いで堀を飛び越え『ガツッ』王子の部屋の窓枠下にしがみついた。


『カンッコンッカンコンカン』剣の柄を使い、窓枠をリズミカルに叩く。


「………………………………………………」

『カチャッ……キィー……』少し間があって、窓がゆっくりと開いた。


「王子様……夜分に申し訳ありません、トーマです。お休みでしたか?」


「やはり……トーマ先生でしたか……明日の報告のまとめをしていたので、起きておりました。一体どうされました?まずはお上がりください。」

 ジュート王子の手を借りて、窓から王子の部屋へ侵入する。


「ちょっと窓はこのままでお願いします。」

『ズビュワァーッ』すぐにトオルが、開けられた窓へ勢いよく突っ込んできたので、『シュタッ』『カチャッ』トオルが入ったら、すぐに窓を閉める。


「王子様……王様とご一緒に、お伝えしなければならない、重大なことがございます。」

 トオルがその場にかしずいて、王子に告げた。


「並々ならぬご用件と察します……わかりました……少々お待ち願います。」

『バササササッ……ズザザザザッ』ジュート王子は少し考えてからそう答えると、突然部屋の壁際の書棚の本を床に落とし、そうしてから書棚を横に動かし始めた。


「王様の居室とこの部屋はつながっているのですよ……いつも突然入ってこられてうっとおしいので、書棚で蓋をしてあるのですが……。」

 ジュート王子が、はにかみながら奥から現れたドアをノックした。


『トントンッ』「失礼します……王様……お目覚めでございましたか……?」

 そうしてドアを開け、中を覗き込みながら声をかける。


「おお……王子……この年になると、夜明けとともに起きるものじゃな……特に深夜になり、王子たちの隊が時期戻ってくると報告を受けておったから、興奮して寝てもおれんかった……如何した?」


 王子と一緒に王様の居室に入る。そこは大きなベッドが一つと、応接用のソファーとテーブルセットがあるだけの、きらびやかな装飾もない簡素な部屋だった。王様はすでに目覚めて、応接のソファーに腰かけておられた。お妃さまは……いらっしゃらない……助かった……。


「はい……トーマ先生たち皆様方のおかげで、無事帰還することがかないました。ご尽力ありがとうございました。詳細報告は本日昼に行いますが、まずはトーマ先生たちが内密でお話したいことがあるそうでして。」


「うん?トーマ殿が……?ほお……どのようなご用件かな?」


「ははー……実は王宮のダンジョン攻略をしておりましたところ……」


 王様に手招きされ、ソファーに腰かけながら話を切り出す。トオルが持ち帰った生命石と玉璽の話をトオルに説明させ、さらにあのダンジョンが300年ダンジョンであることを巧妙に隠して、単純な1層だけの構造図を渡したことには悪意を感じるとも説明しておいた。


「おお……そのようなことまで考えて……そちたちはまさに愛国の士じゃな……ありがとうありがとう。


 この2石の生命石と玉璽は、わしが責任をもって誰の目にも触れないところに隠しておく。我が国は、大陸制覇などといった野望は持っておらん。戦争など起こしてはいけないのじゃ、民が苦しむだけじゃからの。国名がどうなろうと、王が変わろうと民には関係ない。平和に暮していけるのが、民たちの願いのはずじゃ。


 百年ダンジョンの生命石は手に入れたが、別にわしや王妃が若返りたいわけでも何でもない。不治の病に苦しむ民の治療薬に使えると聞いたからじゃ……1石で千人以上の命が助かると聞いた。


 じゃが、この2つの生命石があることが知られると国の脅威となるなら、一緒に隠さねばならん。じゃから、このことは、この部屋を出たら他言無用じゃ……王子もいいな?」


「はい……もちろんでございます。」


 王様の言葉にジュート王子もこっくりとうなずく。やはり思った通りだ。温厚で平和主義者のカンヌール王は、シュッポン大陸の統一など望んではいない。それよりも戦火で民が不幸になることを恐れている。


 だからこそトオルは、玉璽が出たことは絶対に他国に知られてはならないと考えたのだろう。なにせ、こちら側から攻める意思はないから、相手に万全の準備をされて攻め込まれるだけになってしまうのだ。


 平和主義だから戦争にならないというわけではない。相手が脅威を感じたら、それを排除しようと攻め込んでくる可能性はあるのだ。玉璽の存在は、絶対に秘密にしておかなければならない。


「一応念のために……なのですが、これをお渡ししておきます。先日もサーケヒヤー国の戦艦に攻め込まれてしまいましたから、この国の防衛に使えないかと考えまして……ですが、開発は極秘に願います。」


 そういいながら1枚の設計図を渡しておく。開発しないならそれはそれでいいのだが、あればきっと役に立つはずと俺は信じているものだ……。


「これは……わかりました……極秘事項として、軍部のトップの信用置けるものたちと、検討いたします。」

 ジュート王子は、真剣な表情で設計図を眺めながら受け取ってくれた。


「では……失礼いたします。300年ダンジョンに関しましては、後ほどご報告させていただきます。」

 ジュート王子とともに王の居室を後にして、王子の部屋に戻り、『ズザザザザザッ』『ガタゴトガタッ』すぐに本棚を戻し、床にばらまかれた本を王子とともに本棚に並べた。


「では王子様……我々はこれにて失礼いたします。」

『ガチャッ』王子に別れを告げてから、窓を開ける。


「ま……待ってくださいトーマ先生……もう8時近いですから、見回りの兵もおりますし、窓から出入りされては目立ってしまいます。逆に、いい時間ですから、このまま普通に王宮の出入り口から出ていけますよ……一緒に参りましょう。」


 すぐに王子に止められて思いとどまる。そうだな……とっくに夜は明けて人が動き始めている。これなら普通に出ていけばいいのだ……王子に付き添ってもらい、そのまま王宮出入り口を通り、お堀の渡し橋を渡って離れへと歩いていく。


 出る時に衛兵が首をかしげていたが、そりゃあそうだろう……本殿入場の記録はないのだからな……だがジュート王子が一緒についていてくれたから、何も言えずにいたようだ……申し訳ないと思ったが、下手なことは言えないのでそのままにしておいた。


いつも応援ありがとうございます。この小説への評価やブックマーク設定は、今後の連載継続の励みとなりますので、お手数ではありますが、よろしかったらお願いいたします。よろしくお願いいたします。

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