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ついにボスステージ挑戦

 翌朝もスースー達を先頭に、ゆっくりと7層目を進んでいく。けがをしていた兵士たちも回復し、さらにサーマも歩くことができるまでには回復したので、ずいぶんと負担は軽くなった。ケーケーのおかげだ。


 それでも大事をとって、ボスステージ手前の水飲み場で野営を予定通り行うことにした。洞窟内は夜も昼もないのだが、ボスは超強力であることが予想されるので、十分な休息をとってからボスステージへ向かうということで、全員の意見が一致した。ここで一泊して体力を回復させ、明日はボス戦だ。



「じゃあ僕たちはこれからボスステージへ向かい、ボスを倒してきます。ボスステージ前には野営に適当な空間はありませんので、皆さんはここで待機していてください。ボスを倒したら呼びに来ますので、一緒に脱出しましょう。」


 水飲み場で野営した翌朝の朝食後、スースーがジュート王子に告げる。ボスステージ前にこんな大人数を待機させておくと、広い洞窟内で左右どちらからも魔物たちが襲い掛かってくる可能性があるため、その分護衛に多くの戦力を割かなければならない。


 水飲み場であれば出入り口は狭く、しかも1ヶ所だけだから、セーサと回復したサーマの2人だけでも問題はないだろうという判断だ……ジュート王子もいるから、ナーミも一緒にボスステージへ向かうことができる。


「そうですか……我々も御一緒させていただくということは……無理でしょうか……?」

 ジュート王子が恐る恐るといった感じで尋ねてくる。


「そうですね……ボスの確認はできてはいませんが、恐らく強力です。我々とナーミュエント2チームだけでも勝てるかどうか……助太刀はありがたいのですが、セーサさんやせっかく回復されたサーマさんをこちらに回してしまいますと、今度は本隊であるそちらの護衛がおろそかになってしまいますね。」


 確かに元冒険者である2人の剣士が来てくれれば、ボスを攻略できる可能性は高まるが、それでは本隊の警護が手薄になるということになる。ジュート王子の身に何かあっては大変だ。


「いえ……そうではなく、我々の部隊も全員でボスステージに一緒に入って戦ってはいけないでしょうか?それとも2チームだけしかボスステージには入れないのでしょうか?」


「えっ……それはどういうことでしょうか?全員でボスと戦うのでしょうか?ううん……申し訳ありませんが、貴国の部隊は魔物と戦う戦闘には慣れていないと考えております。かえって犠牲者を増やすだけとしか、考えられません……やめたほうがいいです。」


 スースーが、なるべく優しく諭そうとする。いってしまえば足手まといになるだけなのだ……彼らの安全にまで気を使いながら戦えるほど、ボスステージは簡単ではない。ましてや300年ボスなのだ。


「いえ、あの……兵士たちの安全に関しましては、私や元冒険者の教官たちで責任を持ちます。皆様のお手を煩わせるつもりはございません。そうして一太刀だけでも浴びさせていただきたいのです。


 このダンジョンに挑戦したいきさつはご存知と思いますが、魔法部隊の兵士たちを精霊球取得のクエストに参加させ、精霊たちに精霊球の持ち主であることを認めさせるためのものです。300年ダンジョンということは全くの想定外で、おかげで4名の尊い命が失われました。


 ですが、このまま皆さんに救助されてただ帰るだけでは、喪った命がただの犬死となってしまいます。せめて残った兵士たちを精霊たちに認めさせたく、私も命をかけて戦いますので、どうか後生ですから参加を認めてください。お願いいたします。」


 それは悲痛な叫びだった……確かに、このままでは後から来た俺たち2チームが、このダンジョンを制覇して、皆を救出して終わりとなってしまう。そうなるとここまで必死に頑張ってきた部隊員たちは、何しにここへ来たのか、ましてや亡くなった兵士たちのご遺族に対しても、申し訳が立たないことになってしまう。


 少なくとも兵士たちも勇敢にボスステージまで戦って、精霊たちに認められたことにしたいと考えるのは至極当然だが……あまりにもレベル差がありすぎると感じている。


 俺達だって勝てるかどうか……相手を見ていないから何とも言えないが、それこそ命がけだ。恐らくジュート王子の身に危険が及びそうな場面に遭遇しても、助けに行ける自信は全くない……無理だろう……。


「………………………………………………………………。」


「いいんじゃないの?一緒にボスステージで戦わせてあげれば……。」


 恐らくスースーも俺と同じ考えだろう、とはいっても部隊長であり王子様だし、むげにも断れない。考えあぐねていると、ナーミが口を開いた。


「3日間ずっと一緒にいたけど、兵士たちだって命を懸けてこのダンジョンを戦い抜く覚悟はできているみたいだし、いいんじゃない?一緒に戦えば……危ない場面はなるべくサポートしてあげるとして、やらせてあげないと、本当にどうしてここまで辛い思いをしてきたのかわからなくなってしまうから……。」


 ナーミが続ける。彼女はずっと一緒に行動してきて、兵士たちの気持ちもある程度理解しているのだろう。ううむ……そうはいってもそう簡単にはいかない……。何せ16人からの命がかかっているのだ。


「そうですね……一緒に戦いたい気持ちはあるのですが……僕たちには皆さんのことに気を使っている余裕があるとは到底思えないので……。」

 やはりスースーは消極的だ。


「そうだな……俺も彼らは戦わせてあげて欲しい。少なくとも一緒にボスステージには入りたいね。このダンジョンはギルド非管理だから、恐らく別々にダンジョンに入ったパーティでも、ボスステージに一緒に入りさえすれば、同一パーティとして認められるはずだ。


 戦えないまでも、ボスステージに一緒に参加ぐらいはさせてあげたいね。長時間は無理でも、短時間だったら20人分くらいのスペースなら、俺が障壁を張ってカバーするから、一緒に行かせてあげて欲しい。


 戦闘ということにはそれぞれの役割があるはずだから、恐らく一緒にダンジョンに入ってさえいれば、精霊たちには取得者として認められるんじゃないのかな。もちろんそれには、俺たちがボスに勝つ必要があるけどね。多分、それで行けるよ。」


 するとケーケーまでやってきて、彼らの擁護を始める。彼もずっと一緒に行動していたからな。そうか……僧侶は回復系魔法だけかと思っていたら、障壁を作り出すこともできるのだな?そうか……障壁……。


「うーん……ケーケーは昨日まで重症者の看護でずいぶんと体力を使っているはずだし……。」

 それでもスースーは、難しい顔をして頭を抱える。ケーケーの体力も心配しているのだろう。彼は戦闘はしていないが、けが人や重傷者の治療に体力を消耗しているはずだ。


「障壁ということで思いついたのだが、俺にも思いついたことがある。みんなで一緒に行こうじゃないか。いい格好をするつもりはさらさらないが、どうしても行きたいといっているのだし、その気持ちもわかる。


 ここで置いていかれて救助だけされて王宮に戻る彼らの気持ちを察すると、それは死にも匹敵するだろう。

 命をかけてという気持ちに偽りはないはずだ。その気持ちを汲んであげたい。」

 無事に帰ったとして、俺達2チームに助けていただきました……ということでは今後の人生辛すぎる。


「わかったよ……みんながいいなら、僕は異論はないよ……もちろん僕だって全員無事で帰りたいから、サポートは惜しまないつもりだしね。いいでしょう……みんなで行きましょう。」


「あ……ありがとうございます!」


 スースーも何とか折れてくれて、全員でボスステージへ向かうことになった。ジュート王子は涙を流して、喜んでいる様子だ。そうだな……ここまで犠牲を払ってきているのだ、その見返りとは言わないが、やりたいことはやらせてあげたほうがいい……たとえ結果がどうなろうとも……。



 スースー達チームを先頭に、水飲み場を後にしてボスステージへ向かう。途中、火を噴くライオンや猛烈な水流を吐き出すカバの群れに遭遇したが、スースー達とセーサ、サーマに加え、ジュート王子も戦って仕留め、俺たちの出番はなかった。ジュート王子も少しずつ戦い方に慣れてきたのか、対応できているようだ。


 このところ一緒に過ごしているときは、木刀を使って実戦形式の模擬戦を繰り返しているからな。付け焼刃とはいえ、段々と様になってきている。



「じゃあ、入りますよ……危険と察知したら遠慮なくこの出口から洞窟内へ逃げ込んでください。基本的にボスは巨大なので、洞窟内までは追ってこられません。ここで体力を回復させてから、また戦いに挑めばいいのです。決して無理をしないようお願いします。」


 ドーム入口で、スースーがジュート王子以下の兵士たちに告げる。そうだ……一旦引くことは、恥ずかしいことではないのだ。ボスを倒して帰ることが、できてはじめて勝利なのだからな。


「みんなでやってくることを想定して、水飲み場の水を煮沸した後霊力を注いでおいた。回復水として使えるはずだ。皆さんはこれを携帯して、攻撃を受けた時はすぐに飲んでください。あまり時間がなかったので、ちょっと少ないけど我慢願います。」


 ケーケーが少し恥ずかしそうに、使用して空になった竹筒に新たに回復水を詰めたものを、ジュート王子以下一人に2本ずつ配布した。少ないなんて……それだけだってすごくありがたい……何せ、俺たちが予備として持ち込んだ40本はすでに兵士たちが使い切ってしまったからな。


 ボスステージ前で手持ちの分を皆に配布しようと考えていたくらいだから、おかげで余裕ができて助かったといえる。俺たちの手持ちは一人当たり6,7本しか残っていないからな。


「おおでかいですね……。」

 そのまま全員でドーム内へ入っていき、ジュート王子がドーム内を見渡しながら、感嘆の声を上げる。でかいのは、ドームなのか魔物なのか……。


「ぱおーんっ!」

「ばうっばうっ!」


 300年ダンジョンボスは、象系魔物とキリン系魔物の2頭だった……しかもでかい……どちらもドーム天井につくのではないかという大きさで、キリン系魔物は首の長さだけで十mは越えている。象系魔物は体高が20mはあるのではないだろうか……象というよりマンモスといったほうがいいくらいだ……。


『ボワボワボワッ』キリン系魔物が、いきなりその口から大きな炎の玉を連射してきた。


「隆起!」

『ズズズズズボワーッ』隆起を使って、俺たちの目の前に巨大な土くれの壁をこしらえる。ドーム天井まで届くくらい高く、厚さ2mで幅も十mほどの範囲で防護壁を作った。


「ボス魔物の体当たりを食らわない限り、こちら側は安全と考えます。基本的に皆さんはこの中にいてください。ここだってボスステージの中ですから、ボス戦に参加したことには変わりありません。


 戦える兵士たちは、この壁の向こう側を守ってください。そうして危険と感じたら壁を回って逃げてきて、最悪の場合は出口から一旦ドームを出る。命は大切ですから、必ずこのことは守ってください。


 そうして、ここは我々も避難路に使いますから、ここを皆さんで守っていてください。お願いいたします。」


 ケーケーの障壁という言葉を言われて、隆起で作り出す土くれの壁を思いついた。これは沈下させない限りその場に残るからな。そうして、兵士たちにはここを避難路として守ってくれるようお願いする。こうすれば、彼らだって戦いに参加したことになるはずだ。


「わかりました……我々、魔物たちとの戦闘に不慣れなものたちは、皆さんの足手まといになりかねませんから、この避難路を守ることに徹底いたします。」

 ジュート王子も、俺の言っていることを理解していただけたようだ。


「じゃあ、行こう……。」

 スースー達と一緒に、壁を回ってボスたちの前へ出ていく。セーサも一緒に戦ってくれるようだ。彼がいると、心強いな……。


『ボワボワボワッ……シュダンダンダンッ』すぐに巨大キリンが、またもや大きな炎の玉を吐き出した。すぐに散開して回避したが、結構強力な攻撃だ。あんなの当たったら黒焦げじゃないかな……。


「炎の矢!」

『シュボワボワボワボワボワッ……グサグサグサグサグサグサッ』『シュシュシュシュシュシュッ……グザグザグザグザグザグザッ』すぐにナーミが、火炎を纏った矢を放ち、ミーミーも矢を連射して大キリンの胸のあたりに確実にヒットする。


「んもわーっ!」

『ドゴワァッ』それはこれまで見た中で、一番大きな炎の玉だった。ドーム天井まで達するような、巨大な炎の玉が、一直線に高速で襲い掛かってきた。


「うわあーっ!」

『ダダダダダッ』円形ドームであり、左右に逃れるスペースもないため、ダッシュで先ほど作った土くれの壁の向こう側へと避難する。壁の前で守っていた兵士たちも、すぐに逃げ込んできた。


『ズボワーッゴーッ』障壁上部のわずかな隙間と左右の隙間から、真っ赤な炎が押し寄せてくるのが見える。


「あれは、反則だよね……絶対避けられないじゃない……たまたま壁を作っていたからよかったけど、なければみんな大火傷だ……。」

 スースーがその様子を見ながら、しみじみとつぶやく。本当にそうだ……避けようがない。


『ズビュワードーッ』炎が消えたすぐ後に、今度は猛烈な水流が壁にぶち当たる。


「これは……多分巨大象よね……鼻から水を吹き出しているのかしら……。」

 ナーミが、上から滴ってくる水を見上げながらつぶやく。多分そうだろうな……。


「なんか水というより茶色いね……せっかくの真っ白なローブが、汚れちゃうよ……。」

 薄茶色の滴る水が、魔法使いのローブを汚しているのを不満そうに、ショウがほほを膨らませる。猛烈な水流は、土くれの壁を少しずつ削り取りながら、なおも噴射を続けているようだな……。


「ぐずぐずしていると、障壁を壊されてしまうな……攻めに転じなければ……。」

 ゆっくりはしていられない……どれだけ強力なボス相手でも、戦って勝利しなければ脱出できないのだ。


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