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ついに7層目進行開始

「朝食は馬刺しとシカ肉のステーキです。リュックに詰めていた米は部隊用に全て置いてきたので、携帯している弁当の白米と一緒に召し上がってください。朝からボリューム満点ですが、睡眠時間が少ないですし、体力回復のためにもたっぷり食べてください。精がつきますよ。」


 朝食は馬刺しとステーキだった。ニンニクを効かせた生姜醤油で食べる馬刺しは最高!舌の上でとろけるような味わいで、言われた通り確かに力がみなぎってくるような感がある。


 白米弁当は3食分で普通の弁当1食分とカウントされるので、食材調達可能なダンジョンでは有利と考え30食分持ってきているのだが、ようやくその効果が表れたと言えそうだ。


 米や麦などの食材はスースー達も大量に持ち込んでいたので、全て置いてきた。水飲み場に洞窟キノコや野菜もあったので、大人数の部隊だが3,4日分は何とかなりそうでほっとしている。水だけでは、強力な魔物相手に戦えないからな……。


「じゃあ、出発するか……ショウ……大丈夫か?」

「うん……昨日は本当に眠たくて……ごめんなさい……。」


 ショウが、ほほを真っ赤に染めながらうつむき気味に答える。歩きながら、睡魔に襲われて寝入ってしまったことを、恥ずかしく感じているのだろう。


「いやいや、パパこそごめん……休憩も取らずにひたすら進む様指示していた。メンバーの体力のことも考えて、休憩しながら進まなければいけないことを忘れていた。スースーにもしっかりと言われていたのにな。


 本当にすまなかった。今日からは注意して、2時間に1回は休憩をはさむことにする。トオル……悪いが時間管理をしてくれるかい?」


「はい、わかりました。2時間ごとにトイレ休憩と、4時間ごとに食事休憩ですね。1日10時間以上の行動は控えることとしましょう。」


 トオルが、懐中時計を手にうなずいた。いたずらに体力消耗していると、肝心な時に戦えなくなってしまうからな、休息は必要だ。


 スースー達チームと競っているつもりはないのだが、先が詰まっていた場合は急いで戻って、向こうのチームに追いつかなければならないということが頭にあり、どうしても先を急いでしまう。さらにトーマの体は本当に優秀で、それほど寝ていないにも関わらず、疲れも感じずに動けてしまう。


 そのため、自分から休憩しようという気にならないのが申し訳ない。トオルにタイムキーパーをお願いすることにした。トオルが湧水を沸かしておいてくれたので、各自水筒に詰めて持っていく。



『タッカタッカタッカタッカ』「かまいたち!かまいたち!かまいたち!」『ビュゴワッゴワッビュウッ』前方から突っ込んでくる大きな影にショウのかまいたちがさく裂。巨大な角を盾代わりにして突っ込んでくる、ヘラジカ系魔物の喉を的確に切り裂き、仕留めた。


「スースーさんたちチームが通ったルートのはずなのに、魔物に遭遇しますね……。」


「ああ……やはりダンジョン構造が入り組んでいて、そこかしこで交錯しているのだろうな。魔物たちもスースーが通ったほうではないルートを回りこんでくるのだろう。こうなると、7層目の魔物を駆逐しつくすことは難しいな……大人数の部隊を安全に脱出させるには、一緒に行動するしかないだろう。」


 スースー達が残していった、三角印を頼りに分岐を選択してきているのだが、それでも時折魔物に遭遇する。これでは俺たちが構造図を作成しておいて、後から追いついてもらうといった別行動は難しいと感じる。


「まあ、まずはヘラジカ系魔物の解体に入りましょうか。」


 トオルがすぐに倒した獲物の解体に入る。すでに冒険者の袋のアイテム部分はほぼ満タンのはずだが、俺とトオルは回復水や野菜類を入れていた空のクーラーボックスと、さらに3人とも空のリュックをもっているので、まだ余裕はある。何せ部隊員が多いので、少しでも食材を確保しておきたい。


 7層目は草食系魔物が多いことは多いのだが、それでも大半はカバやサイなどで、食用に向きそうな魔物は少ないのだ。出会ったら、キープしておくのが一番だ。


 その後も、たまに魔物たちと遭遇しながらスースー達を追っていくと、ようやく昼近くになって追いついたというか、彼らが戻ってくるところに出くわした。


「ずいぶん早いね……左ルートはすぐに行きどまりになっていたのかい?」


「いや……1日歩いた先が行き止まりでショックを受け、急いで戻って朝からこっち側のルートを追ってきていたんだ。おかげであまり寝ていないよ……。」


「そうなのかい……大変だったね……かなり大きなダンジョンのようだね……全容は解明できなかったけど、たまたま選択したルートがボスステージに通じていた。他の分岐まで本来なら確認するところなんだけど、今回は部隊の救出が目的だからあきらめたよ。とりあえず脱出の目途はついたから戻ろう。」


 おおそうか……スースー達がボスダンジョンまでのルートを見つけたのだな……助かった……この先何日もかかってルートを探っていたのでは、部隊を連れていくのがまた遅くなってしまう。そのうちに食料枯渇の危険性もあったからな。


 急いで6層最深部まで戻ることになったが、昨日のことがあるので、2時間に一度は休憩をはさむことを提案したが、スースー達もほとんど寝ていないといい、休憩しながら戻ることに賛成してくれた。 



 そうして6層目最深部到着は、深夜になってしまった。


「待たせて悪かったね……でも、なんとかボスステージまでのルートは確立できたよ。」

 スースーが、まだ起きて待っていてくれたナーミとセーサに笑顔で話しかける。


「全然待ってなんかいなかったわ……4人の遺体と重症患者を盾を担架代わりにして2人ずつで運ぶんだけど、やはり疲れるから休憩が長くなってしまったの。運よく魔物たちには出会わないで済んだけど、最深部までの到着に1日半かかってしまい、ついたのは今日の昼頃よ。


 ところがドーム内には大きなサイ系魔物とシマウマ系魔物がいて、セーサさんと一緒に戦ったんだけど、サイ系魔物なんてボスなんじゃないかと思ったくらいよ。ようやく倒したのが、つい先ほどでみんな疲れて寝ているわ。ジュート王子と兵士たちも一緒に戦ってくれたんだけど、3人が怪我をしてまた寝込んでしまったわ。


 明日からの移動が厳しいわね……。それでもシマウマ系魔物がいたから、食材が手に入ったのはありがたかったけどね。」


 ナーミが疲れ果てたといわんばかりに、ため息をつく。ドームの出入り口を警戒する兵士もいないので、セーサとナーミがそれぞれの口に立って立番していたのだ。ジュート王子も疲れ果てて寝ているようだ。


 見ると、ドーム壁のあちこちが焼け焦げていたり崩壊したりしていて、シマウマ系魔物は無数の矢に射貫かれハリネズミ状態。サイ系魔物は体中に斬りつけた跡と焼けこげあと。嘶いたときに受けたのか、口の中に一本の矢が突き刺さっていた。


 恐らくサイ系魔物が強力なので、ナーミとセーサが対応し、シマウマ系魔物は部隊の兵士が対応したのだろう。激戦の様子が伝わってくる。やはり、ナーミに残ってもらったのは正解だった。


「悪いな……そいつらは俺たちが、仕留め損なった魔物だ……。」

 俺たちが全ての魔物に対応できていればよかったのだが、取り逃がした分で迷惑をかけてしまったようだ。申し訳ない……深く深く頭を下げる。


「そんなの気にしないでいいわよ……出会う魔物すべて倒そうとしていたら、ルート探索していられないでしょ?ワタルたちは斥候の役割なんだから、なるべく戦わないでボスステージまでのルートを最優先で、見つけようとするのが当たり前だものね。


 そこで漏れた魔物を倒すために、あたしが残ったのだから、それは構わないわよ。それでもちょっと魔物たちが強力過ぎたから、手こずってしまったけどね……。」

 ナーミが笑顔で舌を出した。彼女は彼女なりに責任を感じているのだろうな……。


 まあなあ……兵士たちは対人戦闘の訓練はしているのだろうが、魔物相手となると勝手が違うだろうからな。トーマの剣技だって人を相手にする剣だったのをカルネが鍛えてくれて、どのような敵相手でも対応可能にまで熟練した。


 さらに俺が姑息な補助魔法という手順を追加したからこそ、何とか強力な魔物たち相手でも通用しているといえる。シューティングゲームや格闘ゲームで、魔物相手の戦闘にも俺は慣れていたしな……。


 国軍の兵士が弱いというのではなく、戦い方の基本が違うのだから仕方がない。サーケヒヤーとの戦争では、飛竜が持つ移送箱に入って敵戦艦に乗り込み、少ない人数で敵艦を制圧したような猛者たちが来ているはずだからな。決して弱いわけではない、想定して訓練している戦う相手が異なるのだ。


 6層側は恐らく魔物たちは全滅しているはずなので、7層目の入り口のみを警戒することにして、交代で見張り番をすることにして、就寝した。魔物たちに刺さったままの矢は、見張り番しながらゆっくりと回収した。



「おはようございます。疲れていたためか、昨晩は起きていることができず、申し訳ありませんでした。」


 翌朝、見張り番を交代してもらい朝食を受け取りに行くと、ジュート王子みずから配膳していた。聞くと、兵士の遺体を運ぶのも手伝っていたというし、疲れているのも仕方がないのに、どの兵士よりも早く目覚めナーミたちと朝食の支度を手伝っていたらしい。本当に頭が下がる。


「いえいえ……ご無理なさらぬように……まだもう少しありますからね。」


 王子様なのだから、逆に朝食を運んできてもらうくらいでもいいのにな……。朝食は、猛進イノシシ肉の生姜焼きだった。生姜醤油がよくマッチして、ニンニクの風味も食欲をそそる。



「本日からいよいよ、7層目を踏破いたします。ですが、かなり広いダンジョンですし、けが人や遺体を運んでいかなくてはいけませんので、途中で2泊するつもりです。幸いにも、水飲み場をルート上に2ヶ所見つけてありますので、そちらを利用します。」


 朝食後、スースーがこれからの予定をジュート王子たちに説明する。俺たちが見つけた水飲み場のほかに、ボスステージ少し手前にもう一つ水飲み場があったようで、スースー達はそちらで野営したようだ。俺が書いた行き止まりだったルート図は、すでにスースーに渡してあるから水飲み場位置も記載がある。


 3日がかりとなってしまうが、大所帯だし仕方がないだろう。急いで最短ルートで行ったとしてようやく1日半でボスダンジョンまで到達できるかどうか、それくらいの大きなダンジョンだ。


「わかりました、ご面倒をおかけしますが、よろしくお願いいたします。」


 本来ならば、俺たちが先行でボスステージまで到達してボスを倒しておけば、本隊が到着次第すぐに脱出できるのだが、構造が入り組んでいて魔物たちが思わぬルートで迫ってくるので、駆逐はあきらめた。


 一緒に行動してボスステージまで移動する。これだってルートは先行して見つけてあるので、かなり早く到達できるわけだ。


「ふう……昨日からようやくゆっくりと、安心して寝られるようになって助かるわ。」


 部隊の最後尾を進みながら、ナーミがしみじみとつぶやく。ここ数日間は別行動だったからな。彼女がいたからこそ、部隊を置いて別行動していても不安はなかったが、ナーミの気苦労は大きかっただろう。


 なにせ自分の両肩に大勢の部隊員の命がかかっていたのだからな……セーサがいたにしても、どれほど大変だったか……そんな大役を17歳の少女がやってのけるのだから、本当に感心する。


 スースー達チームが先行して次に部隊が続き、念のためにセーサが部隊中央に位置している。最後尾で背後を守るのが、チームナーミュエントだ。広い洞窟だし、どこから魔物が襲ってくるかわからないので、十分警戒は必要だ。とはいっても一昨日かなりの数退治したから、頻度は減るとは予想しているがな……。


 4人分の遺体と、いまだに動けないサーマを兵士たちが交代で運ぶのだが、担架代わりの盾を前後に一人ずつ2人で持つため、それだけで護衛のセーサを除くとジュート王子含めて14名中10名必要だ。交代と言ってもほんの少しの時間休める程度であり、これでは休む休み進むしかなく、時間がかかるのも仕方がない。


 昨日魔物との戦闘で傷ついた兵士たちは、とりあえず歩くことはできるようにはなったが完全ではないため、警護をナーミとショウに任せて俺とトオルも一緒になって、遺体を運ぶのを手伝うことにした。


 そうしてようやく、最初の野営ポイントである水飲み場まで到着した。水飲み場への分岐ではカバ系魔物とハイエナ系魔物に出くわしたが、スースー達チームが対応してくれた。



 夕食はシカ肉のシチューとパンだった。パンが焼き上がるまでの時間煮込んだ肉はフォークでほぐれるほど柔らかく、しかも味が濃くてうまみが豊富で最高だった。特に昼食抜きでトイレ休憩だけで水飲み場まで一気に来たため、腹が空いているのも料理をおいしくしたといえる。


「それでは皆様方は、このダンジョンがこれまでこなした中でも最深のダンジョンになるのですか?」


 夕食後の作戦会議が終わり、皆が残っての雑談でジュート王子が興味深そうに尋ねてきた。ここまで巨大で深いダンジョンには巡り合ったことがないとスースーが何度も強調して、最下層である7層目を通過するのに3日がかりもやむを得ないと説明した経緯からだ。


「それはもう……私は冒険者になってから日が浅いので特にでしょうが、A級ダンジョンも少ししかこなしておりませんし、構造図を頼りにいつも最短ルートを選択しておりましたので、ダンジョン内で1泊だけ泊りになったことが数回ある程度です。


 我々のチームの中で一番経験豊富な、ナーミだって泊りはなかったはずだよな?」

 経験のほとんどない俺は当たり前だが……恐らくナーミだって一緒のはずだが念のために話を振っておく。


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