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6層目終端到達

『ボウワァーッ』「うわっ!」「大炎玉!」『ブワァーッ……バシュンッ』

 毛皮を剥ぎにかかっていると突然、洞窟の幅いっぱいに巨大な炎の玉が飛んできた。慌てて叫び声をあげたが、ショウは冷静に大炎玉を発し衝突させて消滅させた。


「ぐぎゃおわぁー!」「ぎゃぁおー!」「ぐるわーっ!」

 ほっとしたのもつかの間、猛獣の咆哮とともにとともに巨大な影が襲い掛かってきた。『ガツンッ……ザバッ、ザシュッ』『ズゴッ』飛びかかって来た方を盾で受け止め、右下から襲い掛かってきた方の口の中に剣を突き刺してから、盾で押さえたほうの喉笛を斬りつけ倒す。トオルも一撃で、魔物の喉を長剣でついて倒したようだ。


「うーん……さっきの奴と同じ魔物だな……恐らく同じ群れの仲間で、最初の奴がいわゆる斥候なのだろう。そいつが倒されたので一気に襲い掛かってきた……毛皮の採取で止まっていたのが幸いしたな。先へ進んでいたら、巨大火炎攻撃をまともに食らっていたかもしれん。」


 さすがに、ここまで下ってくると魔物たちも戦い慣れしているというか、奴らは奴らなりに縄張り争いの戦いなど、熾烈なのだろう。ちゃんとした戦法を使ってくる。

 魔導石が通じないといっていたから、知能も高いのだろうと思う。


「やりましたね……残してきた部隊の昼食用に肉を提供してきましたからね。冒険者の袋にアイテム用の空きができているからちょうどいいですよ……。」

 水飲み場のドームには17人残っているので、冒険者の袋に入れて持ってきた肉も多めに置いてきたのだ。


 ここ数日ほとんど食べていないはずだし、たくさん食べて早く元気になってもらうためだ。ナーミは簡易調理道具を購入して冒険者の袋の中に入れているから、そういう点でも居残りが適役だった。

 4頭のサーベルタイガー系魔物の毛皮を急いで回収して、先へと進む。


「火弾!火弾!」

『ボワボワッ』『ザッザッ……シュタッ』『ザザッシュッ』『ザッパァーンッ』『シュパッ』その後も2頭のトラ系魔物に襲い掛かられ、俺とトオルが一撃で仕留めた。数が少なくてこちらから敵を発見できれば、ショウが先制攻撃を仕掛けて、驚いて逆襲してくるところを倒せるから楽だ。


 サーベルタイガー系のように、潜んでいて突然攻撃を仕掛けてくるのが厄介だ。こうなると、どっちの視力がいいかというか、先にどっちが見つけられるかという戦いになる。向こうは長い洞窟生活で夜目が効くのだろうが、こっちは輝照石で照らしているから、どうしても存在が明らかになってしまうので不利は不利だ。


 唯一有利な点としては輝照石の光量が強烈なため、直接その光が目に入ると魔物たちの目がくらんで動けなくなってしまう点だ。こっちが先に敵を照らすことさえできれば、先制攻撃可能だ。


 そのため、なるべく前方を広範囲に照らしながら(要するの頭を上下左右に小刻みに振りながら)進んでいくことにした。ちょっと目が回ってくるが、やむを得ない。


「そうだ……僕たちがこの洞窟内では一番奥まで進んでいる冒険者たちだよね……。」

 うん?突然ショウがおかしなことを言い始めた。


「ちょっと言葉の意味は分からんが、ジュート王子様たちの部隊には昨日のうちに追いついて、彼らにはちょっと休んでいていただいて、今は俺たちとスースー達のチームが斥候代わりにルート探索に出ている。そういった意味では、俺たちが先行してこのダンジョンを進んでいることは間違いがない。」


「そうだよね……だったら、大炎玉を使って一気に洞窟奥まで攻撃しても構わないでしょ?さっき大炎玉で攻撃されてみて思いついた……いちいち見つけてから攻撃しなくったって、倒せないまでもかなりなダメージは負わせられるでしょ?不意打ちも食らわないで済むし、後が楽だよ。」

 ショウが突然、過激なことを口にする。


「まあなあ……確かに大炎玉を使えば、この先百m以上の敵は駆逐できるだろうな……というか分岐があってもその片方まで下手すれば進んで行くかもしれん。だが、先は長いぞ……魔力は持つか?」


 構造図がないので、ひたすら分岐を探っていく必要性があるのだからな。いくら2チームで手分けしているといっても、このダンジョンはかなり広い。


「大丈夫だよ……この階層の終わりまで行ったら今日は終わりでしょ?十分持つよ……。」

 ショウが笑顔で答える。


「うーん……焼けこげになってしまうと、毛皮も肉も使えなくなってしまいますから、通常のダンジョン内では不可ですが、今は先を急いでおりますし、さらに猛獣ダンジョンで食肉というわけにはいかない相手が多そうですからね……私は反対しませんよ。」

 トオルはちょっと、違う観点から見ているようだ。


「じゃあ行くよ……大炎玉!」

『ボワワッ』ショウが唱えると、4×3mの洞窟内を埋め尽くすような巨大な火炎の玉が、ゆっくりと前方へ進んでいく。


『ボシュッ』ところが20mほど先で巨大火炎は、消滅した。


『ダダダダダダッ』「脈動!」「超高圧水流!」

『バシュッ』『シュッパパン、シュパッ』『シュパッパッ』トオルとともにダッシュで駆けだし跳躍すると、一気に間を詰め、うろたえるサーベルタイガー系の魔物たちを斬り捨てた。


「ふうむ……向こうにも大炎玉を使えるのがいるんだったな……簡単にはいかないということだ。」

 いい案だと思ったが、すぐに無効にされてしまった。それでも、暗闇に潜んでいて突然攻撃を仕掛けてくる奴らを、あぶりだせたのは幸いした。さすがに毛皮回収はもういいのか、そのまま先へ進む。


「分岐に来たようだな……まずは左側へ進むか……大炎玉をやってみるか?」


「うんっ……大炎玉!」

『ボゴワワッ』洞窟内を埋め尽くすような巨大な火炎の玉が、ゆっくりと前へ進んでいく。『パシュッ』そうして大きさが半分ほどになった時点で消滅した。


「うーん……獣の悲鳴も聞こえませんでしたし、恐らくこの先は行き止まりでしょう。そのため炎が消えたのだと思います。念のため……強水流!」


『シュワーッ……ブシュブシュブシュ』トオルが水流を発すると、大炎玉の熱の影響か、蒸発して水蒸気を上げ、前方が白く曇る。『タタタタタッ…………………………タタタタッ』そうしてトオルが駆けだし、しばらくするとやはり駆け足で戻ってきた。


「そうですね、やはり百mほどで行きどまりでした。ショウ君の大炎玉は、潜んでいる魔物たちを明らかにしたり、行き止まりを検知するのに大変役に立ちますね。今回限りでしょうが、どんどん使って行きましょう。」

 トオルが汗だくで戻ってきた、サウナにでも入っていたような感じだ。湿度100%だろうからな……。


「じゃあ、分岐は右へ進んでいこう。もう一度大炎玉出来るか?」


「うんっ、大炎玉!」

『ボワーッ…………バシュッ』洞窟を埋め尽くすような巨大な火炎は、今度は先ほどよりも更に小さくなってから消滅した。


「強水流!強水流!」

『シュワーッゴォーッ……ブシュシュシュ』そうしてトオルが、水流を発する。今度は少し長めだ。


「じゃあ、今度は俺が行ってみてくるよ。」

『ダダダダダダッ』ダッシュで右側の洞窟に入っていく。トオルが、かなり大量の水を放出したので、熱さはほとんど感じない。洞窟天井から、水滴が落ちてくる中を進んでいく。


 大炎玉のような強力な火炎は、本来はこういった狭い洞窟内では禁じ手なのだろうな。先の見通しがついても、そのままでは熱が残っていて、先へ進んでいけないからな。


 おお……500mほど走ったが、やはり行きどまりだ。これが普通に潜んでいる魔物たちを警戒しながら恐る恐る進んできていたら、ショックだったろう。魔物の心配せずに走ってこられるから、急いで見通しをつけるならショウの大炎玉は有効と言えるのか……。トオルの水流とセットなら、何とか使えるか。


「ようし……じゃあ、最初の分岐まで戻ってスースー達と合流しよう。どうやら向こうが本流のようだ。」


『はいっ!』『ダダダダダッ』ダッシュで来た道をかけて戻る。そうして分岐に差し掛かったら、反対の右方向へ進んで、なおもかけていく。この先はスースー達が魔物たちを駆逐しているはずだから警戒は無用だ。



「おお……早いね……この先の左側の分岐が本道のようだよ……先を少し確認して一旦戻るところだった。じゃあ、引き返して一緒に先へ進もう。」


 数百mほど走ったところで、スースー達と出くわした。彼らも駆け足で戻ってきていたが、そのまま全員で先へと進む。


 その後も斥候を繰り返し、12個目の分岐の向こう側が、少し広くなったドーム状空間で、土が端の方に確認された。どうやらここが6層目の終わりだろう。すぐさま、水飲み場のドームへ引き返していく。



「どうだ?魔物たちの襲撃はあったかい?」


 狭い入口の分岐をはいつくばって通り、そこからさらに分岐を経由して水飲み場の小ドームに辿り着く。今朝出ていくときよりも、包帯を巻かれてうなっている兵士の数は減ったようで、ちょっと安心する。


「昨日、あれだけの魔物たちを駆逐したから、もうこっち側にはいないんじゃないかしらね。1日平穏だったわよ。あまりに暇だったから、昼食は大ナマズ肉のかば焼きにしたの。みんな体力が落ちているから、精力をつけてもらおうと思ってね。


 トオルに教わった通りに作った付けダレをつけて、何度も焼くのは手間だったけど、ジュート王子も手伝ってくれたし、評判はよかったわよ。お代わりする兵士もいたからね。それで、晩御飯はイカ刺しとオオロブの刺身にイカの塩辛と貝の味噌汁にしたわ。量をこなすにはお刺身はありがたいわね。


 回復水も一人一本ずつ飲んで、重症の剣士以外は、もう動けるみたいね。よかったわ……。」


 ナーミが上機嫌で答える。料理が予想外に評判だったのがうれしいのだろう。意外と世話好きの性格をしているのかもしれない。しかしジュート王子まで手伝わせたとは……なんという罰当たりなことを……。 


 だがまあ今朝がたは、疲れがひどくて目覚めていなかったからな。起きて動けるようになったということなら、一安心だな。あれ?ちょっと待て……


「もう晩飯を食べたというのか?ずいぶん早いな……病人が多いから早めに就寝したということかな?」

 水飲み場ドーム入口には4名の兵士がついていて、魔物たちの侵入を見張っているが、その他の兵士の大半は横になっている様子だ。まあ、回復して間もないから仕方がないか……。


「何言っているのよ……もう夜中だよ……あたしはみんなが頑張っているのに寝ちゃ悪いなって思っていたから起きて待っていたけど、とっくに夜も更けているからね。みんなは体力回復させないといけないから、交代で寝てもらっているのよ。」


 ナーミが、携帯用の置時計を持ってきてくれた。もう12時を回っている……深夜だ……。そうか……6層目の最深部まで魔物たちと戦いながらルート探しに奔走し、それから引き返してきたのだものな。日が登らない洞窟内だから、時間の感覚が狂うな……この世界にも腕時計というものは存在するが、非常に高価だし、トーマの時計は預けてあるからな……。


「トーマ先生……お疲れ様です。本日は、先のルートを確認に行かれていたとか……本来なら私もお供させていただくところ、目覚めが悪く参加できませんでした。それもこれも私の不肖の致すところ……大変申し訳ございませんでした。」


 とか思っていたら、さっそくジュート王子がやって来た。深刻な顔をして頭を下げている。起きれなかったことを、かなり気にしておられる様子だ。


「いえいえ……ジュート王子様は救出部隊の我々到着まで部隊を守っておられたのですから、疲れが出て当然なのです。あのような悲惨な状況下で、部隊を存続させた行動には本当に頭が下がります。


 それにダンジョンでの行動に関しては、冒険者である我々にお任せください。と言っても経験の浅い私は、チームホーシットに指導いただいてようやくですがね……彼らがいてくれて本当に有難いです。取り敢えず、6層目の最深部までのルートはわかりましたので、先へ進むことができます。」


 そういって、隣にいるスースー達のおかげであることを強調する。彼らがいなければ、俺達だけではこの層まで、ここまで早く到達できてはいなかっただろう。そうして先の見通しも……。


「おおそうですか……このダンジョンに入ってすでに2週間経過して、兵士たちの健康状態も懸念されますし、犠牲となった兵士たちの遺体も、早急にご遺族のもとへ届ける必要性があると考えております。そのため、1日でも早い脱出が必要と考えております。


 私でできることでしたら、どんなことでも致しますので、ご尽力お願いいたします。」

 そういって、ジュート王子がまたも深々と俺たちに頭を下げる。ううむ、こっちのほうが恐縮してしまう。


「それよりも、本日は昼食の支度なんか手伝わせてしまったようで、本当に申し訳ありませんでした。後でナーミには、きつく言っておきますので、ご容赦ください。」


 ナーミには、身分の違いというものをじっくりと説いておかなければならない。綬官の儀の時のカンヌール王への態度も、あまり良くなかったしな……王家への畏敬の念が欠けているようだ。カンヌール王は優しくて寛大な方だから終始笑顔でいられたが、この際だ、きちんと話して考えを改めさせねばならんな……。


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