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ルート探索

「本日は、ここで泊まりましょう。幸いにも入り口は小さいし、中は広くて水場があるから野営には最適だ。

 おーいケーケー、どんな具合だい?まあ、ちょっと休んで食べたほうがいいぞ。」


「ああ……そうするか……。」


 スースーに呼ばれてケーケーがこちらに歩いて来た。なんだか、ちょっとやつれたような気がする……サーマの治療にかなりのエネルギーを使っているのだろう。それだけ重症ということだ。


「2人ともかなり重症だ。と言っても一人は回復水2本飲んで、明日にはなんとか動けるようになるかもしれないが、もう一人の方は予断を許さない状況だ。明日移動可能な状態まで回復できるかどうか自信がない。」


 ケーケーは、トオルにカニ雑炊をどんぶり一杯よそってもらい、かきこみながら2人の重傷剣士たちの容体について答える。サーマの方だな……俺が見た時に意識がなかったからな……。


「回復状況によっては、ここを拠点に動くしかなくなるというわけだね……まあ、食料もまだあるし、下手に動かして悪化させると大変だからね……。」


「明日の朝になれば、動かせるかどうかわかるよ……。」

「了解……じゃあ、今日も交代で見張り番をしよう。」


 夕食後テントを張り野営の支度を終え、日課のトレーニングをする。ジュート王子も是非にと俺のところに寄ってきて、剣術の稽古をした。彼は嬉しそうに木刀を振っていたが、こっちは怪我をさせてしまわないか緊張した。なにせ、一国の王子様なのだ……。


 見張り番はナーミュエントとホーシットだけで交代で行い、ジュート王子たちの部隊はゆっくり休んでもらうことにした。



「おお、これはうまいね……。」


 翌朝の朝食は、ふんだんな野菜とベーコンとの炒め物だった。しかも野菜がしゃきしゃきで新鮮だ。それに、このキノコの味の濃いこと……バーコンの塩気とマッチして、噛むと染み出る濃厚な風味が堪らん……。


「キノコとアスパラは、この洞窟でとった洞窟キノコと洞窟アスパラだね。ほかにも洞窟もやしがあるから、明日はこれを調理するよ。」


 ホーシットの調理番のミーミーが笑顔で教えてくれる。と言ってもホーシットは、全員で持ち回りで料理当番をしているようだ。


 うちの場合はトオルが絶対譲ってくれないから専任で、最近はナーミやショウが手伝う形になっている。一度俺が手伝おうとしたら、手順が狂うから邪魔しないでくれとひどく怒られたので、俺はテントの設営や後片付けを担当で、ナーミとショウの場合は、花嫁修業の意味もあるので、手伝いを許してもらっている。


「ということは……やはり重症患者は動かせないということだね?」


「そうだね……ケーケーが一晩付きっきりで治療していたんだが、動かすのはまだ無理という状況だ。それでも、命は取り留めそうだというからほっとしている。今はケーケーを休ませて、チーチーが回復水を飲ませている状況だ。意識は取り戻したようだから、回復は望めるさ。」


 一緒に朝食を食べているスースーが代わりに答えた。ううむ……昨晩は意識不明だったからな。それが一晩で意識を取り戻して、回復水を飲める程度までにはなったということは喜ばしい。ケーケーのおかげだ。


「皆さんのおかげで、サーマも助かりそうだ。本当にありがとうございました。」


 おいしい朝食を食べ終わるころ、カチャカチャと鎧の音を立てながら、緑色の口ひげを生やした中年の兵士がやってきた。髪の毛は焼けて失われてはいるが、痛々しかった頭部の火傷はだいぶ回復している様子だ。


「ああ……セーサさん……もう大丈夫なのかい?鎧を装備して……無理をしないほうがいいよ。」

 まだ左足を引きずって歩く姿が痛々しい。


「いや……いつまでも寝てはいられない。サーマの分まで働かねばならんからな。朝もちょっと一回りして、水飲み場へやってこようとした魔物を一匹、退治してきたところだ。いつでも戦えますぞ。ハッハッハ……いたたたた……。」


 そういって、セーサは豪快に笑う……が、すぐに痛そうに腰のあたりをさすった。


「ほら……無理をされないほうがいいって……サーマさんは動かせない状況なようだから、まだここに滞在することになりそうなので、もう少し休んでいてくれ。」


 そういってサーマの隣の簡易ベッドへ戻るよういざない、嫌がるセーサの鎧を脱がせてクーラーボックスから回復水を取り出して与え、無理やり寝かしつけた。


「わかった……じゃあこれを……。」


 セーサから紙片を受け取る。昨晩ケーケーに聞いたが、猛獣たちの牙は内臓まで達していて、かなり危険な状況なのだそうだ。サーマが危篤状態だったから、セーサまでは手が回らなかったので、回復水だけで我慢してもらっている状況なのだ。


「それで……どうする?ここで1日待っているというのも、悪くはないけど……。」


 セーサを寝かしつけてから、スースーに尋ねる。1日ここにとどまるのは仕方がないのだが、その間にやれることはありそうな気がするが、やはり経験豊富なスースーに聞くに限る。


 ジュート王子は、まだ目覚めていない様子だ。よほど疲れていたのだろう。昨晩無理に起こして状況を聞いた時も、半分うつろな状況だったからな。


「ああ……動けるようになった時に、少しでも早く移動できるよう、この先のルートを確認しておく。少なくとも、この層の最後まではいっておきたいね。やることは、これまでとほぼ同じだよ……正しいルートを探りながら、魔物たちを退治しつつ先へ進む。


 違うのは、ある程度目途をつけたらここまで戻ってくるということだけ。戻る分だけ時間がもったいないけど、まあ仕方がないね。」

 スースーが、何度も小さくうなずきながら答える。


「ようし……じゃあ、さっそく行くとするか。この水飲み場も守らなくてはいけないからな。昨日多くの魔物たちを倒したとはいっても、まだここへやってくるのがいないとは限らない。うーん……そうだな……ナーミ……悪いが、ここを守ってもらえないか?


 基本的には回復した兵士たちに、盾を使って入り口をふさいでもらうだけでいいのだろうが、やはり昨日のように多くの魔物たちが押し寄せてきたときは、多少は攻撃しないと圧力に負けてしまう可能性がある。

 ナーミだったら矢も使えるし、炎の魔法攻撃もできるから、守備側にはうってつけだろう。」


 俺たちが来た時にはジュート王子が一人で守っていた水飲み場ドーム入り口だが、今は回復水で回復した兵士が2人並び、大きな盾を使って交代で入り口をふさいでいる。1頭や2頭の魔物であれば十分だろうが、群れで攻め込まれるとやはりきつい。蹴散らすくらいの火力が必要だ。


「分かったわ……ここは、あたしに任せて。気をつけてよ……昨日戦ったけど、魔物たちは魔法を使うしかなり厄介だわ。狭い水飲み場への洞窟内で、あまりに自分たちの数が多すぎて、魔法も弱い初級のものしか使えなかったみたいだし、駆けたり跳躍もできていなかったけど、この先はそうはいかないからね。」


 ナーミが快諾してくれて、さらに忠告までしてくれる。確かにそうだ……昨日あれだけの数の魔物たちを一気に倒せたのは、単に運がよかっただけだ。なにせ、水飲み場へ向かう魔物たちの群れの背後をつくことができただけだからな。


 言葉は悪いが、ジュート王子たちの部隊をおとりにして、不意打ち攻撃を仕掛けたようなものだ。


 さらに水飲み場への洞窟は狭く、いくら群れの数が多くても一度に襲い掛かってくることはできず、さらに強力な魔法を使うと自分たちの仲間を攻撃してしまう可能性もあり、俺たちの姿を確認してからでないと攻撃に転じられないという制約があった。


 通路の先には味方部隊がいることは分かっていたから、こちらも魔力を制限されてはいたが、それでも見える範囲は全て敵だったから、手当たり次第に攻撃できたという優位差が大きかったが、今度はそうはいかない。


「ああ……せっかく王子様たちに出会えたのだからな。一緒にここを脱出するんだ、十分気を付けて戦うよ。

 じゃあ、出発しよう。」


「ああ……ケーケーは重症者の治療があるから、ここに残ってもらう。悪いが、回復時は回復水を使ってくれ。昨日、兵士たちに配布していたようだが、手持ちは大丈夫かい?」

 スースーが少し心配そうに、自分の冒険者の袋を開ける。


「ああ……昨日配布したのは、クーラーボックスに入れて持ってきた、予備分だ。賞味期限は2週間だから、そうやって持ち運んでいる。山奥のダンジョンを複数一度に攻略するときのための知恵だよ、タールーのギルドで教えてもらった。俺たちのチームには、僧侶がいないからね。」


 重傷で意識のなかったサーマ以外の14名のジュート王子以下、兵士たちに回復水を配布したが、40本のうち20本消費しただけだ。解毒薬の予備は10本だけだったが、消費は6本ですんだ。


 心配なのでクーラーボックスは置いていくつもりだが、俺たちは冒険者の袋の中の10本ずつあればなんとかなるだろう……あとは2層だけなのだからな。ちなみに、トオルもクーラーボックスを持ってきているが、あっちには生鮮野菜などが詰めてある。


 そうして使い切って空になったクーラーボックスに、冒険者の袋に入りきらないダンジョン内で手に入れた魔物肉などを詰めて持ち帰るのだ。無駄のないサイクルにしている。


「じゃあ、行こうか……。」

 俺とトオルを先頭に、水飲み場ドームを後にする。クーラーボックスのほかにリュックの中身も置いてきたので、かなり身軽だ。斥候の役割を十分に果たせそうだぞ……。


「ああそうだ……これを渡しておく。」

 水飲み場への狭い分岐をはいつくばって本道へ出た後、スースーにA4の紙数枚を手渡す。今朝、セーサから渡されたものだ。


「これは……このダンジョンの構造図……これをどうして?」


「ああ……セーサが記入していたようだが、大けがをして水飲み場へ何とか逃れサーマが重傷を負った。その後、俺たちが来たのだが、回復したセーサが今朝方回って、抜けている部分を埋めてくれたようだ。ここから先は、記入をお願いする。」


 律儀にもセーサは早起きして、自分が怪我をしてから水飲み場ドームへの道順を追記してくれたようだ。俺は構造図の記載になれていないから、スースーに任せることにした。


「ありがとう……途中から急いできたから構造図が書けず、気にはしていたんだ。おかげで完全な構造図が書けそうだよ。」


「ああ……礼なら戻ってからセーサに言ってくれ。」


 そういって歩き出す。やはり一流の冒険者は違うな……とつくづく痛感する。俺も、構造図の書き方を、習いたいという気持ちになってきた。



「分岐に出たから、斥候をやらなければならない。ただし、知ってはいると思うけど、この層から魔物たちも魔法を使うようになっているから、危険性はかなり増している。一人だけだと逃げ切るのは難しいから、ちょうど3人ずつだし、チームごとに分かれよう。


 いつもの斥候と同様、次の分岐の先までは探って、状態がどうであっても一旦ここまで戻ってくる。ちょっと違うのは、逃げずに出会った魔物たちと戦いながら探っていくことだ。魔法攻撃があると、背を向けるのは危険だからね。ここからは、早さよりも攻撃力を試されるということだね。」

 スースーが、チームごとに分岐の様子を探っていくことを提案してきた。


「了解した。じゃあ、俺たちは左の分岐へ進むとするよ。それで戻ってきて、ここで待機だね?」


「そうだね……自分たちが行った先がいずれも行きどまりの場合は、反対側のルートを追ってきてくれても構わないよ。そのほうが、合流が早いから効率は上がる。」


「ああそうか……なるほど、承知した。じゃあ、あとで……。」


 そう言い残して、スースー達チームと別れて分岐を進んでいく。いろいろと勉強になることが多いなあ。なにせ、ほぼ毎日ダンジョンをこなしていたけど、あれよあれよとレベルだけ上がってしまい、経験という点では非常に劣っているからな。本来ならもっと勉強しておくべきことがたくさんあるはずなのだ。


 他の冒険者たちとの交流を増やしてでも、学んでいかなければならない。



「ぐるるるるるっ……ぐっぎゃおうっ!」

『ボワボワボワッ』『バシュバシュバシュ』しばらく進むと、暗闇の中からいきなり高速の炎の弾を浴びせられ、慌てて盾で防ぐ。


「強水流!」

『ジュワァーッ』とびかかってくる獣系魔物の体に高圧の水流が浴びせられ、圧力に押し戻され魔物の体が一瞬宙に浮く。『ドブシュッ』すかさず喉元に剣を突き刺し絶命させた。


「なんじゃこいつは……。」


 3mほどありそうな魔物は、トラのような縞模様だが上あごの前側には2本の長い牙を持ち、口に収まらずにはみ出していた。そう……古代に絶滅したサーベルタイガーのような魔物だ。こんな牙に串刺しにされたら……ひとたまりもないな……こいつが火炎の魔法を操りながら襲い掛かってくるのだから用心せねば。


 群れを成していなかったことに感謝だ……。


「けっ……毛皮を……。」

 トオルが目の色を変えて、その珍しい毛皮に駆け寄っていく。


「急ぐのだが、仕方がないな……。」

『ズズズーッ……ズズズズズッ』ショウも加わって、一緒に毛皮を剥ぐのを手伝ってやる事にした。まあ、どうせ水飲み場へ戻るのだから、多少遅くなってもいいだろう。


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