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冒険者登録

「これからどうするのですか?」

 山を川沿いに下っていると、ダーシュが尋ねてきた。


「この先に東へ向かう山道があるから、そこを通って山越えだ。モロミ渓谷を越えて、カンアツ国へ入る。

 ギルドに登録して冒険者になるにも、知り合いのいないカンアツ国がいいのだが、王都間をつなぐヨイドーレ街道を通ると便利は便利なんだが、関所を通るには金と時間がかかるからね。


 ギルドに登録前じゃ、冒険者だと言っても信じてはもらえないし、かといって最早宮仕えの身ではないから旅券も簡単には発行してもらえない。そうなると大金を積んで関所を通してもらうしかないのだが、そんな金もないし、借金すると今後の生活に困ることになる。仕方がないから、裏口から国境を超えるわけだ。」

 トーマが書き写した簡易地図を指でなぞりながら説明する。


「はあ、でも……モロミ渓谷は魔物も多いし、それに道が入り組んで迷路のようになっているから、足を踏みいれて無事に戻った旅人はいないと聞いていますよ。」

 ダーシュが不安そうに顔を顰める。


「心配するな、お師匠様からモロミ渓谷の詳細ルートを聞いてある。それに今ではモロミ渓谷には馬車も通れる道もできていると聞いている。かなり遠回りになるし、法外な通行量を取られるそうだがね。だが、通関手続きなどないから、こっちを使う業者も多いと聞いてはいるぞ。俺たちは金がないから歩いて山越えだ。」


 そういいながら、これまた手書きの図表を取り出す。三角や曲線の集合体なのだが、書き込みの文字はミミズがのたくっているようなものであり、トーマの記憶がなければ、これが何なのか俺でもわからん。

 このルートは常々冒険者が移動に利用しているので、魔物も大半は狩られているから危険も少ないらしい。


「ほお……そうですか。」


「ああ……お師匠様もカンヌールへ入るときに利用したと言っていたし、何よりカンアツの王都にもギルドはあるが、北方山脈近くにギルドがあって、こちらのほうが主流ということだ。

 そこで冒険者登録しようと考えている。」


 都会のギルドはどちらかというと、要人警護のほかには魔物や獣肉など素材調達のクエストが多いが、人里離れた山奥のギルドでは、ダンジョン攻略してお宝アイテム採取などのクエストが多いらしい。

 取得したお宝にもよるが、当然ダンジョン攻略のほうが実入りがいい場合が多いということだった。



 その後3日かけて山越えして、さらにもう半日ミニドラゴンの馬車で駆け、コージという山間の小さな村に到着した。冬場には雪が多いのだろう、とがった傾斜のきつい屋根の形状が、豪雪地帯を予感させる。


 村の入り口すぐわきにある、ひときわ巨大な建物の横で馬車を預け、『ギィッ』正面に回ってドアを開けなかに入ると、殺気のような緊張感ある冷たい視線が一身に注がれる。 

 危うくたじろぎそうになるが、こんなとこでくじけているわけにはいかない。


 つかつかとそのまま入り口正面にあるカウンターへと向かう。ちょうどお昼時のようで、人はまばらで混んでいない。チャンスだ。


「いらっしゃいませ、コージーギルドへようこそ。ギルドは冒険者であるあなたのサポートを全力で行います。

 何なりとご用件をお申し付けください。」


 受付嬢が俺を認めて笑顔で話しかけてくる。肩までの長い髪、ぱっちりと開いた大きな目に長いまつげ、きれいに通った鼻筋に魅惑的な唇。はっきり言って美女だ。地域柄なのか、透き通るような白い肌をしている。


「ああ……ワタルというが、冒険者登録をお願いしたい。」


「はい……お連れ様の冒険者登録ですね?お連れ様がワタル様でしょうか?失礼ですが、お名前とギルドの会員証若しくは冒険者カードを提示願います。それからこの用紙に必要事項を記入願います。」

 すぐに美人受付嬢が反応し、1枚のA4用紙を手渡してくれる。声もきれいだし応対も滑らかだ。


「ああそうじゃない、連れは……いや、連れの冒険者登録もするのだが、俺自身の冒険者登録もしてほしい。」

 新人冒険者をスカウトして連れてきた業者か熟練冒険者と間違えられたのだろう、すぐに自分も登録をしたいと訂正し、もう1枚登録用紙を請求する。


「ええっ……ああ……はあ……そうですか……あなた様も冒険者登録をなさる……。

 もしや、何かの都合で一度冒険者を廃業されて、もう一度舞い戻ってきたとか言うご事情でしょうか?」

 受付嬢が渋い顔をする。俺が冒険者登録をするということが、どうしても信じられない様子だ。


 無理もない、カルネ師匠は13歳から冒険者としてダンジョンに入っていたようだし、15の時にはすでに一流の仲間入りをしていて、22で引退したわけだ。引退といっても、一目ぼれした娘と結婚するために、冒険者を辞めただけのようだが。


 カルネの場合は特別としても、普通でも15歳くらいから冒険者を目指すものはギルドに登録しているらしい。学校へ通いながら冒険者をやるものもいるようだが、若いうちから経験を積まないと、仕事として続けていくのは難しいとカルネも言っていた。


 ダーシュは20を超えているようだが、見た目は美少女で若く見られるから、かろうじてセーフラインと認められたのだろう。


「いや……冒険者になるのはこの年になって初めてだ。だが、王宮の剣術指南役をやったこともあるくらいで、免状を持っているぞ。なっ……名前は違っているが……その……冒険者としての通り名を……。」

 仕方がないので、トーマの剣術の免状を見せる。A級の冒険者に匹敵するとカルネが評価してくれた。


「あっああ……そうですか……免状は写真付きなので、間違いはないと確認できますし、冒険者としての登録名は自由につけていただいて問題ありません。


 それなりの経験や技量をお持ちであれば止めませんが……冒険者になるということは、ダンジョン内で魔物に襲われて命を落としたとしても、すべて自己責任とみなされますから覚悟してくださいね?」

 受付嬢が真剣なまなざしで、じっと俺の顔を見つめて確認してくる。ううむ……美女の顔が……近い……。


「あっ……ああ……もっ……もち……もちろんだ……。」

 俺は何とか声を振り絞ってこたえる。美しい顔と超接近したため緊張でのどがカラカラだ。


「承知いたしました。お二人の冒険者登録ですね?お連れ様は何か免状などお持ちでしょうか?」

「はっ……はい……カッコンの師範代の免状を持っております。」

 ダーシュも免状を持っていると見えて受付嬢に提出する。


 カッコンというのは、拳法と柔道を合わせたような武術と、クナイや投げナイフなどの武器も加わった、それこそ忍者ともいえる総合格闘技というか殺し屋の技だ。

 王宮の武人では、警護に役立てるために持っているものが多いと聞いている。その師範代ならばB級冒険者に匹敵するはずとカルネも評価していた。


「了解いたしました。ワタル様とダーシュ様ですね。登録いたしますので少々お待ちください。」


「ちょっと待ってください。」

 受付嬢が免状と登録用紙を手に、カウンター奥へ引っ込もうとするのをダーシュが止める。

 まだ何か免状を持っているのか?


「ずるいです。と、トーマさ……いえワタル……。どうして私だけ本名のダーシュなのですか?

 私の冒険者としての名前はどうなりましたか?」

 突然ダーシュが叫びだす。そういやそんなことを言っていたな、面倒くさいから後回しにしておいたのだが。


「まあ、今のところはダーシュのままでいいじゃないか。」

「いけません、後で改名なんて無理ですよね?」

「はっ……まあ……できないことはないですが……せっかく冒険者として名が売れ始めても、名を変えてしまうと不利になるので、普通はしませんね。」

 ダーシュの問いかけに、受付嬢が余計なことを答える。


「ほら、ごらんなさい……、さあ、私の名前をお願いします。」

 ダーシュが真剣なまなざしで詰め寄ってくる。ううむ、男と分かっていても顔は美少女だから緊張するな。


「わかったわかった……じゃあ、トオルにしよう。いいだろう?ワタルにトオルだ。」

 仕方がないから適当に浮かんだ名前を告げる。


「トールですか?それほど変わった感じはしませんが、どんな意味があるのですか?」


「トールではない、トオルだ。のばさずに”お”が入る。意味としてはそうだな……ワタルが出航なんて意味があると説明しただろ?トオルは道を通るという意味……いや違うな、そういった意味を持たせることもできるが、徹とすれば徹する……何事も徹底的に行うという意味といえる。


 困難なことでもあきらめずにくじけずに、最後までやり遂げる意志の強さと言うふうに解釈できるな。」

 この世界の名前は、第2声が伸びる場合が非常に多い。カルネも本名はカーネというらしいが、冒険者名としてカルネと登録したと聞いていた。


「へえ……徹するという意味ですか。気に入りました。トオルで登録願います。」

 ダーシュ改めトオルは上機嫌で受付嬢を見送った。やれやれ……思い付きでうまくいってよかった。



「ワタル様、トオル様、冒険者登録が終了いたしました。」

 受付嬢が提出した免状と一緒に、冒険者カードを手渡してくれる。結構な登録料を取られたが、これから稼いでいけばいいだろう。あれ……?


「ここにCとなっているが、剣術の指南役免状を持っていれば、A級になれると聞いているぞ。」

 冒険者カードのクラス分けの記載がCとなっているのが気にかかる。


「いえ……C級ではなくて、右肩に+が記載されていますよね?C+級です。

 王宮の剣術指南役の評価に関しまして検討いたしましたが、剣技に優れているといってもあくまでも道場レベルで実戦経験が薄い……という理由からマイナス評価されまして、B級とされました。


 さらに……大変申し訳ないのですが、ワタル様は新人冒険者としましては少々お年を召されております。

 そのためさらにマイナス評価されまして、C+級となります。


 同様の理由で、トオル様の師範代の免状はC+評価となりまして、トオル様はお若いのでそのままのクラスとなっております。」

 受付嬢が申し訳なさそうに、うつむき気味に答える。


 冒険者というのは級分けされていて、最初のクラスはC級で次がB級で一番上がA級。実はさらにS級というのがあるのだが、この大陸内にも数人しかいないらしい。そのうちの一人がカルネだった。

 そうして冒険者の大半はC級冒険者ということらしい。新人冒険者でもベテラン冒険者でもC級(+級もあるということは初めて知ったが)で、よほど活躍してようやくB級。


「仕方がないな……了解した。C+級から頑張ってクラスを上げていくとしよう。」

 しぶしぶ受付嬢から、冒険者カードを受け取る。


「では、これから新人冒険者に対する講習会がございますので、参加願います。」


 受付嬢に指示され、ギルド奥の会議室へ入っていくと、そこにはすでに数人の若者が来て、何列にも並べられた長机の前の席に座っていた。

 若者に交じって講習を受けるのは恥ずかしいので、一番後ろの列にトオルとともに座る。


「おい……なんだあれ……保護者付きで講習会受けんのかよ……あんなんで冒険者やっていけるのか?」

「パパと一緒じゃないと……僕だめなんです……。」


 ドアを開けて入ってきた俺たちに対して、振り向いた前席の若者たちがひそひそ声どころか、はっきりと聞こえるような大きな声でいやらしい笑みを浮かべながら言い合っている。


 年のころなら15,6歳くらいだろう。新人冒険者としてちょうどいい年ごろだ。対するこっちは新人冒険者としてはずいぶんと薹が立っているからな、陰口は仕方がないにしても、わざわざ聞こえよがしに……。


「おーい……講習を受ける冒険者も多いんだから、保護者の方はお引き取り願えませんか?後から後からやってきますよ!」

 そうしてよせばいいのに、一人の若者がわざわざ大声で声をかけながらやってくる。


「おおそうか、誤解を与えているようだな。悪いな、おじさんも新人冒険者で一緒に講習を受けるんだ。」

 なるべく歯を見せるような笑顔で答える。


「ぷっ……おっさん……新人冒険者だって?なんだよ……食い詰めて借金抱えて冒険者になろうってのか?無理だね……おっさんじゃあ無理だ。冒険者なんて夢見ていないで帰って地道に働き口見つけな!」

 俺の返事を聞いた別の若者が大声で叫びながらやってくると、俺の胸ぐらをつかんで立たせようとする。


「なっ……なんという無礼な!」


「新人とは言いながらそれなりに腕に覚えもあってな……一応C+という評価をいただいている。君たちよりも少しは強いぞ……俺も隣の相棒もな。君らに俺が冒険者としてやっていけるかどうかの評価を頼んだ覚えはない。黙って席に戻ってくれないか……我慢にも限度があるぞ。」

 立ち上がろうとするトオルの頭を押さえつけ、なるべく平静を装って若者たちに答える。


「ちっ……なにをいけしゃあしゃあと……。」

 冒険者カードのクラス表記だけを見せてやったら、おとなしく引き下がってくれた。結構便利なものだ。


 以前の俺だったら、ビビッておとなしく逃げ帰ったところだろうが、トーマの体であることと未管理とはいえダンジョンを攻略してきたということが、俺に自信を与えてくれた。とはいっても、争いにならないでほっとしている。トオルの手前平静を装ってはいたが、やはりああいった高圧的な態度をとる輩は苦手だ。



「えー、ギルドで引き受けたクエストを清算する場合は、獲得アイテムや達成証明を持参してギルド受付で申請してください。確認をしたのちに報酬が支払われます。


 注意していただきたいのは、すべてのクエストに期限がついていることです、いくらクエストを達成したとしても、指定期限を過ぎた場合は報酬が支払われないか若しくは減額される場合があります。

 クエストを達成するとその難易度に応じたギルドポイントが加算されます。ギルドポイントがたまっていくと、上位クラスに格上げされ、より高度なクエストが引き受けられるようになります。


 しかし、クエストを達成できなかった場合、ギルドポイントが減算されるので注意が必要です。一般的には獲得ポイントの2倍の値を減算されてしまいますが、上位クエストに挑戦して失敗した場合は、大量のギルドポイントが厳選されるので、無理なクエストを引き受けないことをお勧めします。


 また、他のチームが獲得したアイテムを横取りしない……」

 講習会では、冒険者として活動を行っていくうえでの注意事項や心構えを講習してくれている。


 要約すると

1.ギルドに冒険者登録してクエストを引き受け、アイテム等を獲得して清算することにより報酬とギルドポイントがもらえる。ギルドポイントの積み重ねで級が上がっていく。


2.他人の獲得アイテムを横取りしない。不正を働かれた場合は、ギルドに届け出ると調査して、対象冒険者チームに返還を請求できる。しかしダンジョン内には監視機能がないため、基本的には冒険者同士の責任となり、もめた場合は決闘で正否を判定するのが常ということだ。

 クエスト未達の罰則も大きいので、自分のレベルに釣り合わないダンジョンにはいかないことと強調された。


3.決闘はレベルの釣り合った冒険者同士でなければ成立しない。無理に行った場合はレベルの高いチームが罰せられるが、レベルが低い側が仕掛けた場合は決闘として有効と評価されるので、注意。


4.アイテムを清算せずに自分で所持することも、また転売や贈与も可能だが、通常はギルド清算が一番報酬が高い。


5.クエストはレベルが設定されており、設定級の冒険者が適正配置で4人で対応する前提評価。

(剣士だけ4人とか偏っていると難しい場合もあるということだな……)


6.チームの人数に制限はないが、報奨金や獲得ギルドポイントは何人で受けても変わらないため、一人当たりの分け前が減る。(一人だけでクエストを引き受けて達成すれば総取りということだ)


7以降、朝晩歯磨き励行とか、服装には気を使い、常に周囲に好印象を与えるよう努力しろとか、生活にまで入り込んで、細かなものを上げていくときりがないが、冒険者心得という小冊子をくれたので、追々読んでいこう。


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