愛しい貴方に捧ぐ愛
「いつもありがとうございます」
「いいえ?貴方のためですもの」
本当は貴方の為に少しだけ無理したの。得意なんだけど、貴方の手助けするには私の知識では足りないの。
貴方のためなら、私の少しの無理ぐらい大丈夫。
貴方を愛してるから。
貴方は気づいていないからも知れないけどね。
確かに、貴方とはそんなに会う機会が無いかも知れないわ。
会って、貴方が困っていたら助けているでしょう?
少なくともね、私はどうでも良い人間の手助けはしないの。
周りに、もうちょっとぐらい気を配れって言われるぐらいね?
だから、私のことをよく知っている人間は、私の気持ちは気づいているわ。
以前から言ってたもの
天徳の御歌合を知っている? 忠見と兼盛どっちなのかしら 式子内親王だったりしてね?
つつめども 恋すてふ 玉の緒よ
よく言われたのは、どれも恋を忍ぶる歌。
周りは言いたかったのよね、貴方以外が気づいていると。
けれど、貴方は気づかないもの。
周りも私も驚くほどね。
だから、私は貴方への思いは言わないわ。
貴方が愛する人が居るのは、人づてに聞いたから。
私は好きで貴方の手助けをしているの。
私は貴方に好意を向けてもらおうとは、思わないわ。
知ってる?
究極な愛に見返りなど要らない。
私は、私の行いで嬉しがってくれる貴方の表情がみたいのだから。
貴方の喜びが私の喜びなの。
けどね、心の中では言わせて?
「貴方のことを愛している」
天徳の御歌合
沙石集『歌ゆえに命を失ふ事』の題材に使われている話。初恋のお題の元、詠まれるた歌がつつめども 恋すてふの2首。両方名歌であったがため優劣をつけ難く、帝が兼盛の歌を気にいったことにより、兼盛が僅差で勝った。負けた忠見は、自信があったにも関わらず、思わず自分も認めてしまうほど名歌であったので、食も通らず死んでしまう。が、負けたと言えども名歌であったため、百人一首の一首になっている。
つつめども 色に出でにけりわが恋は ものや思ふと 人の問ふまで (平兼盛)
隠していても、顔色に出てしまったなあ
私の恋は、物思いをしているのかと人が問うほどまでに
百人一首では、つつめども ではなく しのぶれど である。
しのぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまで(40番)
心に秘めてきたけれど、顔や表情に出てしまっていたようだ。
私の恋は、「恋の想いごとでもしているのですか?」と、人に尋ねられるほどになるほど
恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひそめしか (41番 壬生忠見)
「恋している」という私の噂がもう立ってしまった。誰にも知られないように、心ひそかに思いはじめたばかりなのに。
玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの よわりもぞする (89番 式子内親王)
私の命よ、絶えるなら絶えてしまえ。このまま生きながらえていると、耐え忍んでいる私の心が弱くなってしまい、自分一人の心に秘めている想いが、人に知られてしまいそうですから
彼女の心情にピッタリの歌
かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな もゆる思ひを (51番 藤原実方朝臣)
こんなにもあなたを思っていますが、それを言うことなどできません。伊吹山のもぐさのように、熱く燃えている私の心なんてあなたは知らないでしょうね。