吸血鬼の王は戦う
ヴァンパイアハンターが攻めてきたらしい、どうしようかとレイスが焦りながら報告してくる。僕にはどうもこうも出来ないけどね。何か頭の中がごちゃごちゃだし。家に帰らせて欲しい。
「くっ...もう位置がバレたか…」
クロエが吐き捨てるように言う、乙女がしちゃいけない顔だ、やめて欲しい。
「今、ライラが戦ってくれてるから早く助けに行こう!」
「悠様は裏から逃げてください」
何かわかんないけどヤバいみたいだ。逃げろか...まだこの子達が悪い奴らかどうかわからないのに逃げていいのか?というか女の子を置いて逃げるのか?
そんなこと僕が僕を許さないだろう。
彼女たちは多分本当の吸血鬼なんだろう、流石にここまでくれば僕もわかる、だが、それでもレイスちゃんやライラちゃんは凄くいい子達で優しかった。そんな子を守らなきゃそれこそ僕がもっとも嫌いなチキン野郎だ。だから
「僕も戦うよ、というかレイスは戦えないでしょ」
「「!!」」
そうだ、ゴリマッチョ達に囲まれて涙目だったレイスに戦えるとは思えない。なら自動的に僕が戦ったほうがいいだろう。
「そ、そんなことは...」
「戦えても戦えなくても僕は一緒に戦うよ、レイスやライラのこと、友達だと思ってるからね」
「悠様...!」
話はまとまったようなのでとりあえず下に行きますか。ライラが心配だしね。
「今来てるヴァンパイアハンターはさっきレイス襲った奴らとはレベルが違います、ライラが頑張っていますが相打ち覚悟で殺せるかどうかでしょうね...」
クロエが少し注意するように僕に言う、僕が吸血鬼の王であることを自覚しろとでも言いたげに。
「なら尚更助けに行かないと行けませんね」
だが、そんなこと知ったことではないのだ、僕はただ、友達を助けたいだけだ。王だとかそんなことは知らない。
「ふぅ...仕方ありませんね...」
諦めたようにクロエは言う、もう何も言う気はないようだ。
「じゃあ、行こうか」
僕達は階段を下に降りて、カフェに入った、中は僕が食事してたときの綺麗な店内は見る影もなく、椅子や机ひっくり返され、ぐちゃぐちゃになっていた。そんな中で傷だらけで倒れたライラとそれを見下ろす銃を持ったオカマが立っていた。
「ぐぅ...ァァ...」
「ライラ!」
「遅かったわねえ、貴方達は亀か何かかしら?」
その光景を見て、僕は何も言わなかった。怒ってなかった訳ではない、別に恐怖に怯えていた訳でも無い。ただ、こいつが僕の友達を傷つけ、何も思ってなかったのを見て、僕もこ̀い̀つ̀を̀傷̀つ̀け̀る̀こ̀と̀に̀何̀の̀感̀情̀も̀起̀こ̀さ̀な̀い̀こ̀と̀に̀し̀た̀の̀だ̀。
「はぁ...だから吸血鬼はクズな
それ以上こいつの言葉を聞きたく無かったので僕は、そいつの顔面を全力で、殴った。
轟音が店内に響き渡る、まるで音爆弾か何かを投げつけたときのような衝撃がレイス達の鼓膜に突き抜けた。
「ぐばぁっ!!」
敵のヴァンパイアハンターがただ、悠様に殴られただけ、文にしてみるとただ単純なことだ、理解するのに数秒もいらない、しかし、目の前の光景を、レイス達は理解できずにいた。何故、普通の人間が、まだ吸血鬼になっていない人間が、魔̀法̀で̀強̀化̀さ̀れ̀た̀ヴ̀ァ̀ン̀パ̀イ̀ア̀ハ̀ン̀タ̀ー̀を吹き飛ばせるのか。
レイスは見誤っていた、自分が助けられたときの強さが悠の最大の強さだと勘違いしていた、あんなのは悠にしてみればただのお遊びであった。
今の悠は言ってみれば人間という種族の頂点、人間という種族の最大値なのだ。それがただ、魔法で強化されただけの普通の人間が勝てる道理などありはしなかった。
「あ、あんた...何なのよ…いきなりアタシの顔を殴るなんて!」
悠は無表情で敵に近づく、何も感じないとでも言いたげに。
「何なのよ、何なのよぉおおお!!」
最後の力を振り絞るようにオカマは銃を悠に乱射した。しかし、悠はそれを掻い潜るように左右に移動し、オカマのすぐ近くに降り立った。
「別にアンタに恨みがある訳でもないけど」
「ヒッ」
「ここは僕のお気に入りの店なんだよね」
「ごめんなさい...ごめんなさい!!」
「それにあなたはライラを傷つけた」
「謝ります!何でもあげますからぁ!」
悠はそのオカマの肩に手をポンッと置いた、オカマはまさか許してくれるのかと悠の顔を見た、悠は満面の笑みで
「許すわけねぇだろ」
悠は全体重を乗せたアッパーを放った。
「うぎょっ」
変な声をあげながら、オカマは天井を突き破り、またカフェに戻ってきた。
「ふぅ...すっきりした」
「す、すごい...」
まずはライラの治療しなきゃね...あとはお店の片付けとオカマをどうするか考えないとな...
はぁ...マジな話とわかったのはいいけど、どうするかなぁ...完全に王になるって雰囲気だしなぁ…
前途多難だなぁ…