吸血鬼の王は大変みたいです
金髪美少女に先導されながら汚い大人達の住処に向かう。凄い機嫌良く鼻歌を歌いながら先導してくれているのはいいんだけど、大丈夫かな。
「そう言えばさ」
「はい?」
「名前聞いてなかったよね?」
あ、みたいな顔をする金髪美少女、けどこれは僕も僕だな。名前を聞くのを忘れるなんて...それに、僕が先に言うべきだな、聞いたの僕だし。
「僕の名前は進藤悠、進むに佐藤の藤に悠だよ」
「私の名前はレイス・ヴァンピィエールです。王よ」
おお、何か外国っぽい。でも名前言ったのに王って。そんなに僕の名前呼びたくないですか。何か変にへこむからやめて。
「名前で呼んでよ」
「そんな...不敬です」
めんどくさい、何故こんなかたくなに設定を守りたがるのか、じゃあもう設定に乗っかって話してみようかな。
「じゃあ命令だよ、名前で呼んで」
「はっ!わかりました悠様!」
嬉しそうにレイスは言う、というか中学生ぐらいの女の子に命令してるとか両親にバレたらなんと言われるかわからない。
あ、そういえば妹に今日は遅くなるって連絡しないと。LIMEの家族グループで連絡しとこう。LIMEとはスマホのSNSの名前だ、連絡のときに便利。何に説明してるんだろう、僕は。
「さっきは助けて頂きありがとうございました」
「別にお礼を言われるようなことじゃないよ」
さっきとは、何人かのムキムキマッチョの変態たちに囲まれて涙目になっていたことだろうか。確かにあれは流石の僕でも恐怖を感じた。まぁ全員ボコボコにしたけど。
「あれは全員ヴァンパイアハンターや退魔師といった私達の天敵です」
あんな物理特化みたいなやつらが!?嘘でしょ!?何であんなにムキムキなんだよ…もっと不思議な力とか魔法とか使えよ…ていうか絶対退魔師じゃないだろ...全員スーツだったし…
「へ、へぇ〜」
「悠様は普通の人間なのに凄くお強いのですね」
「まぁ鍛えてるからね…」
そりゃ高校生になるまで男̀と̀し̀て̀育̀て̀ら̀れ̀た̀の̀だ̀。そんなに早く意識を変えられない。今も多分レイスは僕のことを男と思ってるだろう。
というか思ってないとあんな私のことを好きにしてください何て言うわけない。パッと見男か女かわからないしポニーテールの中性的な男にしか見えないだろう。だから高校生になっても無意識に鍛えてしまうのは仕方ないことだ、そう、仕方ない。
「やはりこんなお強い悠様には吸血鬼になってもらわなきゃ...」
小声で言ってるつもりだろうけど聞こえてるから、そういえば吸血鬼になったら私は家族と離れるのだろうか。それは嫌だな、男として育てられたとはいえ大好きな家族とは離れたくはない、特に妹は私が居なくなると何をするかわからない。
吸血鬼など居ないだろうが一応聞いておこう。
「ねぇ、吸血鬼になったら家族とはもう会えないの?」
「いえ?吸血鬼でも普通に人間世界に溶け込んでる人達もいますよ?それに退魔師たちやヴァンパイアハンターも吸血鬼や敵対する人間以外に危害を加えることはないので大丈夫です」
「へぇー」
何が大丈夫なのだろうか、というか何か...緩いな退魔師?たち。ほんとに退魔師なのか。まぁそれが人間として普通の対応だろうけど。漫画やアニメのような悪人の方が少ない世の中だ、退魔師?たちもそこら辺は自重するのだろう。ていうかそれなら何でヴァンパイアには厳しいのだろうか。
「ヴァンパイアだけではないのですが、魔族は歴史的に退魔師とは血と血で洗う戦争を繰り返してきたのです、しかし今は退魔師が優勢でして...どうしても優秀な王が必要なのです!」
何か今まで大人しく聞いてたけどこの子は自分のことを吸血鬼だと信じて疑わないことを考えたら、この子にとっての退魔師?達とはこの子みたいな騙されてる子を助けようとするいい人達なのではないか?
「ですから悠様には是非とも我等の敵の退魔師達を殺戮して欲しいのです!」
えぇ...何か物騒なこと言い出した…どうしてそんなことになってるんだろうか。
「殺すとか駄目だよ」
「はっ!そうでしたね!殺さずじわじわと苦しめないと!」
何だろう…同じ言語で話してる気がしない。このままではただの会話のドッチボールだ。僕はキャッチボールの方が好きなんだ、友達の少ない僕でも不安が少ないからね。
「もうそろそろ私達の本拠地に着きます、私は先に行って説明してくるのでついたら入口で待っててください」
「うんわかった」
本拠地って結構人気の多いとこなんだな…街中だし、すぐに退魔師?達にバレるのではないか?
「その心配はないです、強力な結界が貼ってあるので!」
フンスっという擬音が聞こえてきそうなほどドヤ顔で言うレイス。可愛い。
「もう着きます、あの建物です」
あの建物とは下が定食屋とカフェになっている事務所のような建物だろうか。なんでだろう、猛烈に帰りたくなってきた。これ程に結界という言葉が似合わない建物があるだろうか。
「少しここでお待ちください」
「うん」
下のカフェに入って待っておくように言われたので素直に座っておく。何だか力が抜けいく思いだ。とりあえず待っておこう。
「いらっしゃいませ〜ご注文お決まりになりましたらお声をおかけ下さい」
「はい」
中々にこの店は良さげだ、シックな雰囲気で普通にカフェ目的としてもここに通いたいくらいにはいい感じ。店員さんも優しい雰囲気の可愛い女の人だ。お、チーズケーキとショコラシフォンがある、これと紅茶でもいいかもしれない。
「すいません」
「はーい少しお待ちくださーい」
「このケーキ二つと紅茶ください」
「注文くりかえします。チーズケーキとショコラシフォンと紅茶ですねー」
「はい」
とりあえずケーキ食べながら待つか…どんな人達があの子を騙しているのか。少し覚悟しながら待とう。まぁクロだったら全員半殺しにしてやろう。