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第2話 綺羅星るりりについての自己評価

 学校を出て繁華街方面のバスに乗る。一番後ろの席に座り、右側に夜桜、左側に木場という布陣で私たちはドーナツ店を目指して出発した。バスの中では部活のことや授業のことを話し合うが、次第に話題のメインはなんだかんだで月末に迫った高校生活初めての中間テストのことになっていく。


「今回もまたるりりが学年トップだろうねー。ケンローもまあそこそこではあるけど、ほんとはもっと上のとこ行けたんでしょ?」


 中学が同じだった夜桜は私の中学時代の成績を知っている。当然私は私であるので、中学三年間一度も学年一位以外の成績をとったことがない。


「そんなことないって。私は雰囲気が好きだったからここ選んだんだし、それに思わぬところに伏兵がいるかもしれないじゃん?」


 私はその成績を誇ることなく言葉に謙遜を入れる。本気でそれを高校選択の理由にしたというわけではないが、わりと穏やかな賢狼高校の校風は嫌いじゃなかったし、王であり続けるという目的を成就させるための学校としてはここがベストだと思っていることは確かだ。あと近いし。伏兵はまあ、まずいないと思っているけれど。


 間違いなく伏兵でない木場は私たちの会話を聞き、演技じみた腕を組むポーズをとって言う。


「ふっふっふ、俺のことかな……って、綺羅星そんな頭いいの?」

「いやいや、ちょっとできるくらいだって」


 本音で言えば、まず間違いなく私が学年トップであると思う。

 私立賢狼高校は県内トップ校というわけではないが、偏差値は上の下くらいのまあまあのレベルを維持している。地元の人間はみな夜桜のように親しみをこめて「ケンロー」といった発音で呼ぶことが多い。


 一方私個人のレベルははっきりいって上の上。県内トップ校どころか、日本全国に名前が通っているような超有名校だって狙える。

 中学時代は教師陣から大反対されたが、「校風が気に入りました」の一点張りで押し切った。あの時の担任のこれ以上ないほどに落胆した顔は記憶に新しい。

 まあ、それもこれも学年一位という地位を磐石にするためだ。そのためには中学の進学実績なぞ知ったものか。

 行けたかもしれない有名校なんて、もっとどうでもいい。




 バスは十分ほどで目的地の停留所に到着した。そこから私たちの目指すドーナツ店までの距離は数百メートルあるかないかといったところなので、歩きで繁華街の中を突っ切る。


「……いらっしゃいませー」


 ドーナツ店はあまり人がいない時間帯なのか純粋に流行っていないのか、広い店内に似つかわしくない客の入りだった。内装は全体的に明るく、ビンテージテイストの机と椅子が樹木色の壁紙とマッチしそこそこに洒落た店という印象を受ける。味が悪いとか値段がやたら高いとかでなく、雰囲気から受ける入店のハードルが高すぎるのかもしれない。これまた店内の雰囲気に負けないほど洒落た服を着た女店員がポニーテールを揺らしながら私たちを出迎え、席に案内する。


「ご注文お決まりましたらお呼びください」


 男一人女二人という組み合わせなのか何なのかは不明だが、女店員は私たちを珍しそうに眺めながらマニュアル通りであろうセリフを残し、メニューを置いて去っていく。挨拶の時の若干の間といいさてはあの女店員、私に惚れたか。いやないか、いやちょっとはあるか? なくはないか。


「へー、あそこに並んでるドーナツは全部見本なんだな。注文するシステムなのか」

「そうみたいだね。私も外から見たことしかなかったから」

「あたしどれがいっかなー、でもけっこう値段張るなー」

「大丈夫だよ、木場が奢ってくれるって言うから」

「言ってねーよ!」

 

 計画通り木場に奢らせる流れを作りながら、きゃいきゃいと言葉を交わし私たちはドーナツと飲み物を選ぶ。肉とチーズが挟まったドーナツなんてものまであるが、いくら肉っ気が欲しい腹具合とはいえこれを頼むのはなんだか私のキャラじゃない気がする。いや私っぽくないっていうか、王っぽくないっていうか? いやでもこういう時わがままを通すのが私の目指す王の形だし……うむむ、悩む。


 と、その時。

 私の視界の端に、私たちが着ているのと同じ賢狼高校の制服が映る。

 私たちの学校からこの繁華街はかなり近いところにあるので、同級生や先輩に会うことは珍しくもない。

 しかし――今日二度目。

 早すぎるデジャヴ。

 そして何より、あまりにも目を引く挙動不審さ。

 まごつきながら店の前を横切ったり遠ざかったり、また戻ってきたりを繰り返すその不審な少女は、またもや古畑寝屋だった。


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