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Ⅰ
遠くから、苦悶に満ちた声が木霊する。大地を震わせ、高い空に漂う雲が黒く染まる。
聞き覚えのあるその声に、少女は思わず息を潜める。鼓膜の奥深くまで響くそれは、彼女の心をひどく揺さぶる一方で、どこか安堵の気持ちを感じさせた。
ああ、これは両親の声だ。そう悟った少女の視界に、父と母の姿が映る。彼女の眼前で、父は生きながらに四肢をもがれ、母は腹から内臓を露出していた。
そんな二人の屍の周りを、人とも獣ともつかない大量の黒い影が取り囲んでいる。ある者は血溜まりへと長い舌を這わせ、またある者は手足を乱暴に揺らしながら踊っていた。影はすぐ側に少女がいるのにも構わず、地面に広がる血の海を駆け、赤い足跡を刻む。
やがて、一匹の影が甲高い声を上げたかと思うと、彼らは四方八方へと散り散りになって消えて行った。
独り残された少女の瞳には、原形を留めていない両親の血肉だけが映っていた。