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ド根性ガール  作者: ちかぞお
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大学に到着したのですが

「さあ、着いた~」


 学校名の書かれた大きな石碑の横を通り抜け、車は平べったい白い建物がポツリポツリと並ぶ場所に入ってきた。


 うーーーむ。

 何ていうか、ここ、私の描いていた「アメリカの大学」のイメージとは、ちょっと違う…。


 映画で見たことのある「アメリカの大学のキャンパス」って、こう、大きな茶色のレンガ造りの「どこのお貴族様の豪邸ですか?」って思うような建物とか、学生さんが座りながら教科書を広げる芝生の広場とかあったような気がするんだけど。

 どう思い描いても、平べったい建物の前にある駐車場をタンブルウィードがゴロゴロと転がるような、乾いた風景では無かったような…。


 叔父さんは唯一赤い屋根を持つ一番目立つ建物の近くの駐車場に車を留めると、私たちにも降りるように促した。


「この時間なら、まだいるかも」


 誰が?と訊く間も無く、叔父さんは軽い足取りで赤い建物の中に入っていった。

 その後を、私と父が慌てて追いかける。


「えーっと、あれ?どっちかな。この建物も変わったからなー」


 ブツブツと言っていた叔父さんは、近くの受付っぽい場所に座っていた叔母さんに英語で何やら尋ねると、晴れやかな笑顔で戻ってきた。


「2階だって。こっち、こっち」


 近くの階段を使って2階に上がると、そこにはドアが並んでいた。その中の一つにつけられたプレートに書かれた名前を確認して、叔父さんはドアをノックした。


「カミーン!」


 野太い男性の声が中から響いて、ちょっとたじろぐ。

 叔父さんはドアを開けて、陽気に「ハーイ!」とか言いながら、何かを話し始めた。


「ほら、梓と義兄さんも入って、入って!」


 叔父さんに促されて部屋に入ると、大柄な、いかにも「ワタ~シ、アメリカノ~、オジサン、デェ~ス」って風情の男性がにこやかに私に向かって微笑んだ。


『君が梓だね! 初めまして!』


「な、ないすとぅーみーちゅー」


『そこに座って、座って! ミスターイトウもほら!』


 父(英語は全くわからない)は当たり障りの無い日本人的曖昧な笑みを浮かべながら、彼の身振りを見て何事か理解したのか、手で示された椅子に座った。


「この方が、この学校の学部長さんで、僕もお世話になった人なんだ」


 トーマスさんとおっしゃる方は、親切に学校の説明をゆっくり話してくれたので、私でも彼が何を言っているのか何とか聞き取ることが出来た。

 きっと、私みたいな留学生を、今までに沢山お世話してきた人なんだろうな。

 彼の英語はとってもわかりやすい。昨日のファストフードのお姉ちゃんとは大違いである。


 トーマスさんはその後、私たちを事務局まで連れて行ってくれて、必要な書類の確認や授業料の支払いを手伝ってくれ、さらに私たちを地元の銀行まで連れて行ってくれて、私の銀行口座を開ける手伝いをしてくれた。

 何て至れり尽くせりなんだろう。

 顔はちょっと怖いけど、トーマスさん、いい人!

 私の中の「頼れる人ランキング」の上位に食い込んできましたよ、トーマスさん! まぁ、1位は今回の旅行でかなりお世話になった私の叔父さんだけれども!

 

 銀行では口座を開けたあと、小切手(「チェック」っていうらしい)の切り方を教わった。

 アメリカ人は現金をあまり持ち歩かないらしい。理由は


「強盗に襲われたら大変だから」

 

 へ、へぇ…。

 いるんだ? 強盗…。

 アメリカって、アメリカって…!(涙目)


 銀行の近くの大きなお店で必要になりそうな日用品を買い、それらを持って、私は学校の寮に入った。

 そう、この学校を選んだ(というか選ばされた)理由の一つが、寮があることだったのですよ。

 アメリカは広いので、アメリカの大学には寮のある大学が多いけれど、2年制のコミュニティ・カレッジで寮のある学校って、あまり無いらしい。

 元々、「コミュニティ・カレッジ」って、その地域コミュニティに住む人のための学校だから、家から通えない学生を考慮していないんだそうで。


 ちなみに、この学校に珍しく寮があるのは、元々敷地とかが空軍の訓練施設だったからだということを、後日、掃除のオジサンから教えてもらった。確かに、学校の敷地の隣が小さな飛行場で、小型の飛行機がブンブン飛んでいて、まぁ、小さな町の飛行場だから小さな飛行機しか飛んでないのかなーなんて思っていたら、いきなりジャンボ機が飛んで来てビビりましたけど。

 その辺りも後で話を聞いたら、ここで飛んでいるジャンボ機は某航空会社の訓練センターのものなのだそうで、訓練用のジャンボが時折、「タッチ&ゴー」と呼ばれる離発着をひたすら繰り返す訓練を行うことがあるんだとか。

 ジャンボ機に対していちいちビビっていたら、ここでは生活ができないのか。

 こりゃ、大変だー。何て思っていたけれど、ジャンボ機の音には意外と早く慣れた。人間の身体って、何ていい加減なんだろう…。


 話はそれたけど、私の鬼な英語の先生曰く、「初めてアメリカに行っていきなりアパート暮らしなんて色々と手続きが大変だし、家事をする時間があるなら、その時間を勉強に使ってもらわないと困るんだよっ」だそうです。

 ああ、ハイ、左様ですか…。まぁ、ごもっともな御意見ですよね…。

 1人暮らしに憧れないわけじゃないけど、確かに英語がそれほど出来ない私には、アパート契約だの何だのって、ハードルが高過ぎて全然想像が出来ないし。


 寮は基本二人部屋で、部屋にはベッドと机が2つずつと、壁に備え付けのクローゼットがある以外は何も無い、殺風景な部屋だった。

 床は真っ白なタイル張りだし、壁は真っ白だし。

 思わず、病院に強制入院になったのかと思うような内装です。まぁ、元は軍事施設ですからね。しかも、私たちは2人でこの部屋を使いますけど、軍時代はこの部屋を3人で使ってたそうですよ。

 軍人さんは大変だー。


 ルームメイトがまだ入室していないので、勝手に窓際のベッドを取っちゃいました。まだ見ぬルームメイトよ、ごめんよー!

 とりあえず父と叔父さんに手伝ってもらって、買ってきたばかりのシーツや毛布を使ってベッドを作って寝床は確保。

 残りは少しずつ自分の部屋っぽく出来たらいいなー。

 今日は仕方がないけど、自分の部屋なのにアウェイ感が半端ないです。しくしく。


 トイレとシャワーは共同。

 驚くべきことに、寮に住む女子の数が少ないために、3階建ての建物の中の2階の一角に女子の部屋が集められていて、女子専用のバスルームがある以外は、男子と共存って、マジか!!

 ええ、同じ建物の同じ階に普通に男子もウロチョロしてますが、何か?

 TVのある娯楽室とか、洗濯機のあるランドリーとか、全部男子と共用。

 この大らかさはアメリカだからなのか、それともここが田舎だからなのか?

 とりあえず、「寮に入れば安心」だと思っていたのを根本から覆されたようで、廊下をゾロゾロと歩く大きなアメリカ人男子のグループを見ながら、父親が固まってましたけどね。

 「寝る時はしっかりとドアの鍵を掛けるように!」って言いながら、ドアの鍵がちゃんと掛かるかどうか、叔父さんと一緒にこれでもかっていうくらい確認してたし。


 この学校は田舎の割にはというか田舎だからなのか、日本人の留学生を積極的に受け入れているとのことで、寮で何人か日本人の学生に初遭遇した。

 2年制の学校なので、アメリカ人の学生達は私と同い年が多かったけれど、留学生は割と年齢に幅があるみたい。

 でも、皆さん笑顔で接してくれて、中でも同い年の女の子たちとは仲良くなれそうな雰囲気だったのが嬉しい。お友達、必要です!


 食堂は寮の建物から少し離れた場所にあって、そこで叔父さんと父も一緒に最後の晩餐をした。

 そう、最後。

 なぜなら、食事の後、父と叔父は帰ってしまうから。


 別れ際に、父がうっすらと涙を流していたような気がするけど、少ない街灯の明かりの下では、暗くてよくわからなかった。

 父と叔父が去った後、私は部屋に戻って、一人だけの2人部屋の中で、早くもホームシックに掛かって泣いていた。

 泣くつもりなんてなかったんだけど、もうしばらく会えないんだなと思ったら、鼻がツーンと来て、涙が何だか止まらなくなって、自分でもどうしたらいいのかわからなかった。

 私、普段はこんなに泣き虫じゃないのになぁ。


 ううう。

 今日は仕方ないけど、明日からは頑張るぞー!


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