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ド根性ガール  作者: ちかぞお
14/16

初めてのことだったんで、うろたえているわけなのですが

 ― 衝撃でした。


 え? 何がって?

 そりゃ、まぁ、あれですよ。

 その、えっと、いわゆる1つの、ち、ち、チューってヤツですよ。


 初チューが、まさかの掠め盗り系とか。予想外です。

 普通は「目、閉じて?」とか、キスの予感にドキドキかーらーのーとか、あるんじゃないですか?

 なのに、心の準備も何もなく、腕掴まれたから何だろうと思ってトムさんの顔を見上げたら、顔がメッチャ至近距離にあって、「何? 何何何?」と思ったところに、柔らかくてちょっと湿ったものが口にポンっと。

 ポンっていうのも、どーなんだろ。チューというからには、そっち系の音とかするもんじゃなかろうか? だって、日本で友達が「このCDのリップ音がめっちゃエロいから、聴いてみて!」って言われて無理矢理聴かされた「ドラマCD」ってヤツのキスシーンはチュパチュパ言ってましたけど?

 ああいう音がするものかと思ってました。うむむむむむ。


「で、どうだったのよ。キスでもされた?」


「ひゃあああ!」


 脳内会議で必死だったから気付かなかったけど、いつのまにか寮の自分の部屋の前まで来ていたらしく、私の部屋の前で待機していたらしいエリちゃんとサキちゃんから、いきなりのナイス・言葉パンチを食らって、変な声が出ちゃいました。失敬。


「しー! 2人とも、声が大きい! 何も、こんなところで!」


「じゃ、うちらの部屋に行きますか」


「そーだね」


「へ? えっと? うわぁ!」


 返事をする間も無く、両腕をガシっと2人からそれぞれ掴まれたと思ったら、そのままズルズルと2人の部屋まで連行されました。

 うわお。こんなマンガやコメディドラマみたいな展開、初めてです。


 2人の部屋に入るとドアが閉められ、にじり寄ってくる2人と対峙する形に。

 何がどうしてこうなったのか、さっぱりわかりません。


「で?」


 エリちゃん、顔が近いです!

 とりあえず、ここは誤魔化し戦法を取らせていただきますよ! 無駄なのは百も承知ですけどねっ。

 プライベートの自由です! 黙秘権、発動!


「で? とは?」


 すみません。目がめっちゃ泳ぎました。

 そんな私を見て、サキちゃんがニヤリと悪役のような笑みを見せました。正直、オーラが黒いです。


「誤魔化したってダメだからね? で、どーなのよ。キスしたの?しなかったの?」


「やだー。サキちゃん、ダイレクト過ぎ!」


 ちっ。予想していたとはいえ、やっぱり誤魔化し戦法は効かないかー。

 そんなことを思っている間も、2人は「さぁさぁ!」と、まるで一昔前のヤンキー様の「女子トイレに呼び出し」的な状態になってます。なるほど。これは怖いです。


 ジリジリと2人ににじり寄られて、小市民な私は、心の中で白旗を上げました。

 はい、ギブアップでーす。この2人には勝てません。無理無理。


「…しました」


「「やっぱり!」」


 やっぱりって、何さ?


「トムさん、したそうだったもんね」


「トムさん、グッジョブ!」


 手を取り合いながらキャッキャと喜ぶ2人には悪いのですが、一つ疑問が…


「えーっと、何でそこでトムさん限定で賞賛が…?」


「「だって、トムさん、すっごく可哀想だったから!」」


 か、可哀想って…。

 この場合、トムさんは加害者なのに、ヒドイ…


「だってさ。トムさん、いっつもズーちゃんと一緒の時にイチャイチャしたがってるのに、ズーちゃん、見事なまでに天然スルーなんだもん」


 気の毒そうにそういうサキちゃんに、エリちゃんが納得とばかりに首を縦に振ってますが、はて? いつ、トムさんがイチャイチャをしたがってましたか? 


「サキ師匠! ズーちゃん、意味不明って顔をしてますが、大丈夫でしょうか?」


「フッ。イケメンにあれだけくっつかれて溺愛されておるのに、まだ気付かんとは、愚かな…」


「サキちゃん、そんなキャラだったっけ?」


「今の私は、男女のアレコレを見極める者。師匠と呼んでくれても、やぶさかではないぞ?」


「いや、だから…。何でいきなり師匠?」


 私の質問に、サキちゃんはどーだとばかりに胸を張って仁王立ちしながら答えてくれた。


「だって、この中で私だけが、男女のあんなことやこんなことを経験済みだから♪」


「あんなこと? こんなこと?」


「あら。詳細を言って欲しい?」


「あ、う、えーっと、遠慮します…」


 何か放っておいたらR18な展開になりそうなので、ここは回避を選択させて下さい! 

 だって、前にサキちゃんとエリちゃんが2人でそっち方面の会話をしてたのを小耳に挟んだんだけど、超赤面する内容だったから!

 あの時でも赤面モノだったのに、今、この状況下で聴くのは精神崩壊へGO!です


「いやぁ、でも、そっかー。とうとうズーちゃんも大人の階段昇ったか~」


 うっとりとした顔でそう言うエリちゃんに、サキちゃんが鼻でフッと笑いました。

 おいおい。サキちゃん、さっきから何かキャラが黒いんだけど?


「エリちゃんもまだまだねぇ。キスごときで大人の階段昇られたら、アメリカに住む幼稚園児は全員、ズーちゃんよりも数段上の大人の階段昇ってるわよ」


「オー。ヤー。こっち、家族とか友達でも平気で口チューするもんね」


「マジで?」


「「うん。するよー」」


 アメリカ社会、恐るべし!


「まぁ、でも、キスしたってことは、次はお泊り準備ですな」


「そうですな」


 えーっと、エリちゃんとサキちゃんの会話が先走り過ぎて着いていけません。


「お泊りって…」


「だって、トムさん、アパート住みでしょ?」


「1人暮らしでしょ?」


「うん、そうだけど…」


「「なら、泊まるでしょ!」」


 …なぜハモる。


 トムさんが学校から少し離れた住宅街にあるアパートで1人暮らしをしているのは知ってる。でも私、まだトムさんのアパートに遊びに行ったことはないんですよ。

 だって、何か、ねぇ…。

 付き合ってまだそんなに経ってないのに、「アパートに行きたい」なんて言って、変に期待してるとか思われるの、痛いじゃないですか。

 それに私、今まで彼氏がいたことないんで、その、そーいう状況に陥った場合、何をどうしたらいいのかがよくわからないんですよね。

 いや、最終的にする行為は知ってますよ? でも、そこに至る過程についてって、謎じゃないですか?

 TVとか映画とか、キスしたら次のシーンは朝チュンじゃないですか。

 キスした後、どうするの? 服って、自分で脱ぐわけ? でも、それじゃ何か「さあ!いたしましょう!」みたいな感じでよろしくない? 普通はどーなの??

 わかりませーーーん!


「そういえば、ズーちゃんってまだ、トムさんのアパートに行ったこと無いよね?」


 サキちゃん、お願いだから、いきなり核心に近づくのは止めてー!


「トムさん、ジェントルマン過ぎます…」


 エリちゃん、何故そこで涙ぐむ?


「ジェントルマンはいいけどさー。付き合ってる彼女いるんだから、準備くらいしとけよって思うけどね。トムさん、意外とヘタレ?」


「確かに、詰めは甘いよね、あの人」


 あれ? 何気にトムさん、ディスられてる?

 しかし、1つ疑問が。


「ねぇ、準備って何? 部屋が片付いてないくらい、私は気にしないんだけど?」


 私の言葉に、サキちゃんとエリちゃんが何故か両目が飛び出そうなくらい、文字通り「ビックリ」って顔をしました。何故だ?


 私が首を傾げていると、エリちゃんとサキちゃんがお互いの顔を近づけながらヒソヒソ話(っつーてもしっかり全部聴こえてますけど)を始めました。


「エリちゃん。これは、私たちからプレゼントすべきかしら?」


「いや、でも、あれってサイズとかあるじゃん? アメリカのって、日本のとサイズ同じ?」


「そんなにおっきいの? あの人?」


「知ってるわけないでしょ!」


「だよね。あ! 隊長とマサさんなら知ってるかも」


「ナイスアイディア、サキちゃん!」


 えーっと、グッとか親指立てて笑ってる2人には悪いんですけど、置いてけぼり感が半端無いっす。


 何だかんだで、その後ちょっと雑談とかしてから私はエリちゃんたちの部屋から解放されました。自分の部屋に戻ったらカナデちゃんはもう寝ていて、ちょっと安心。

 今日、リサちゃんがトムさんのストーカーしてるのを知っちゃったもんで、リサちゃんと仲のいいカナデちゃんもきっとそのことを知ってるんだろうなーとか思うと、どう接していいのかなって、悩んでたもんで。

 エリちゃんとサキちゃんには「普通にしてればいいんだよ」って言われたけど、「普通」って、考えちゃうと逆に難しい。


 その翌週、すんごい笑顔の隊長とマサさんから、トムさんにコンドーム1箱が贈呈されました。

 トムさんは隊長とマサさんを呆れながら殴ってたけど、発起人は2人の後ろで笑っていたエリちゃんとサキちゃんだと思うの…。

 

 

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