俺にも色々あるわけで
トムさん視点です
週末に学校の寮の前にある駐車場に向かうと、そこにはもうすでに彼女が友人たちと一緒に立っているのが見えた。
まだ、待ち合わせの時間より、10分も早い。
彼女はいつも待ち合わせより早く来るから、こっちもなるべく時間より早めに着くようにしてるんだけど、待ち合わせ場所に行くと、いつも彼女が先にいる。
彼女にそのことを訊いてみたら、「単なるダンサーの習性だから、気にしないで」と言われたんだけど、どういうことだ?
彼女の元へ早く行きたい気持ちを抑えて、何とか制限速度ギリギリのスピードを保ちながら車を移動させる。学校の構内の制限速度は遅く、歩いた方が早いんじゃないかと思う。実際、歩いた方が早いよな、これ。
でも、急いで、彼女の目の前でスピード違反で捕まったりするのは超カッコ悪いから、制限速度は守る。
週末だからと言って、学校のセキュリティ・ポリスを侮る無かれ。
俺はここでスピード違反で捕まったやつを、片手の指の数以上、知っている。
駐車場の入り口に差し掛かる頃に、彼女が俺の車に気が付いた。
最近は毎週末、彼女を車で迎えに行くことが多いので、「車の種類とか、よくわからない」と言っていた彼女も、俺の車は覚えてくれたらしい。
俺の車に向かって笑顔で小さく手を振る姿が、何だか小動物っぽくてカワイイ。
思わずニヤけてしまうけど、今は車の中で1人だから、まぁ、構わないだろう。
うん、俺の彼女はカワイイ。幸せだ。
今日は彼女と彼女の友人たちと一緒に、ちょっと遠くにあるドイツ村に遊びに行く。
彼女を誘ったら、遠慮しながら友人たちも一緒に連れて行ってもらえないかと頼まれた。彼女たちも車を持っていないし、ドイツ村にはまだ行ったことがないから、自分だけが行くのは気が引けると言っていた。
俺としては彼女と一緒に歩けたらそれでいいからOKを出したら、凄く嬉しそうな顔をしていて、その顔も可愛かった。
自分で言うのも何だけど、俺はかなり彼女に惚れているらしい。
彼女を作ったのは初めてじゃないけど、こんな風に誰かを想うのは初めてだと思う。
だからかな。時々、自分の気持ちをもてあまして困る。
俺は駐車場の彼女たちの近くに車を停めて、一度降りた。
彼女が笑顔で近づいてくる。ああ、彼女の友達がいなかったら、絶対にハグしてキスするのに、残念。
仕方がないので、脳内で彼女にハグとキスをしてみた。
中学生か、俺は…。俺、こんなキャラじゃないはずなのに。
っつーか俺、まだ彼女にキスしたこと、ないんですけど。
妄想が空しすぎて、後で2人きりになった時に絶対に実物にハグをすると心に誓った。キスも出来たら最高ですっ。
ヤバイ。脳内思考が完全に思春期だ。
これをマサが知ったら、絶対に「お前、いくつやねん」って言われるな。
来年ハタチだが、それが何か?
彼女にこんな脳内のアホな思考を悟られないように深呼吸してから、平常を装った。
「おはよう」
「おはようございます、トムさん。あ、トムさん、エリちゃんとサキちゃんに会ったことあります?」
「えーっと、見掛けたことはあったと思うけど、ちゃんと話すのは初めて、かな?」
ゴメン。俺、実は、興味のあまりない人間の顔と名前を覚えるの、結構苦手だったりするんだよね。
だけど、彼女たちは彼女の大切な友達だから、頑張って覚えるよ。
そんな俺の心の呟きなど知らない彼女は、友達を簡単に紹介してくれた。
彼女に紹介されると、エリちゃんとサキちゃん(よし、覚えた!)が同時に「初めまして~」と俺に向かって笑顔で会釈をした。2人とも感じのいい子たちで、ちょっと安心する。
前に彼女を町に連れて行こうとした時に乱入してきた女の子たちとは、エライ違いだ。アレには正直、参った。
あ、イヤなことを思い出したついでに、さらにイヤなことを思い出した。
あの時連れて行った女の子のうちの1人が、あれから俺に妙に付き纏ってきて、迷惑してるんだよな。
彼女と付き合い始めてからは大分収まってきたような気もするけど。
ああいう肉食系女子には、こっちの高校でいい加減懲りたから、出来れば遠慮したい。
彼女を助手席へ、彼女の友人たちを後部座席に乗せて、俺は車を走らせた。行き先のドイツ村までは、片道で1時間近く掛かる。
道中の車内では、運転しながら彼女たちの弾丸トークに耳を傾けた。授業の話から始まって、寮の話になり、さらに寮の人間関係の話になった。
寮の中は去年同様、色々あるらしい。そういう話を聞くと、寮を出て良かったって思うんだよね。
「それでね、トムさん。リサちゃんって知ってます?」
後部座席から、エリちゃんが身を乗り出すように訊いてきた。
こらこら。危ないからちゃんと座ってくれ。
「リサちゃん? えーっと、どの子? 1年生だよね?」
俺の質問には、彼女が答えた。
「そうですよ。えっとね、ちょっとぽやっとした感じで、小柄で、眼がきゅるんってしてて、こけしカットの子。わかります?」
彼女はよく、変ったモノの表現をする。
ぽやっとしてきゅるんでこけしって…。まぁ、言いたいことは何となくわかるし、面白いからいいけど。
俺が該当する人物を頭の中で検索していたら、俺がピンと来てないのを察した彼女が追加情報をくれた。
「あ、そうだ。ほら、この前に町に一緒に連れて行ってくれたじゃないですか。カナデちゃんと一緒に。あの時の小柄な方がリサちゃんです」
「あーーーーー。あの子ね」
思い出したも何も、俺に付き纏ってるアイツだ、アイツ!
「あの子が、どうかしたの?」
俺は一応、平静を装って訊いてみた。が、驚愕の事実がエリちゃんの口から発覚する。
「そのリサちゃんが、ある日突然、『ズーは私のライバルだ』って周りに言い始めて、何かっちゃーズーちゃんと張り合い始めたんですよ。ねー」
…は?
「そうそう。バーベキューパーティーのちょっと後くらいからだよね」
思い出しながらそういうサキちゃんの言葉に頷きながら、彼女は後部座席の方に身体を向けながら首を傾げた。
「私、『何で?』って思った。ライバルとか言われても、何も競った覚えないし。っていうか、私、未だにあれが何でなんだか、さーーーっぱりわかんないんだけど、何で? いい加減、迷惑なんだけど」
バーベキューの後辺りからで、彼女を敵対視するような…。
あれ? その時期って、丁度アイツが俺に付き纏い始めた時期じゃ?
そう思ったら、ピンと来た。
「あー。それ、俺かも」
「へ?」
「「あー、なるほどねー」」
彼女は驚いたような声をだしていたが、後部座席の2人は何かを納得したようだ。
「そっちのライバルでしたか」
「うーん。何ていうか、俺の勘違いなら申し訳ないんだけど」
一応、ちゃんと前置きはしておく。彼女に自意識過剰なイタイ男だとは思われたくないし。
「アズと一緒に街に連れて行った後から、何か俺に付き纏ってきて、正直、困ってんだよね」
「「「ええええええ」」」
3人の声がキレイに重なった。
「つ、付き纏われてるって、え、どーゆーことですか、トムさんっ!」
彼女が心配そうな顔をして俺を見た。
心配そうな彼女には申し訳ないけど、その顔もカワイイとか思っちゃった俺は、もうどうにかなってるかもしれない。
「例えばさ、移動時間にバッタリ会うとか。まぁ、始めは小さい学校だからしょーがないかなとは思ったけど、それも何か待ち構えてるみたいに頻繁過ぎるから、何か不自然なんだよね。だって、他の1年の子たちには、そんなに遭遇しないわけだし。あとは、バスケやってる時にじっと見てたりとか。カフェとか図書館とかでもよく声掛けてくるし」
「ワオ。ストーカー!」
「うわ、こっわ!」
「それって、まさか、今も?」
心配そうな彼女の問いに、俺は小さく頷いた。
「うん。アズと付き合い始めてからは少し減った気もするんだよね。だから俺としては、もうちょっと人前でアズといちゃいちゃして、俺には彼女がいるから間に合ってますよーって見せつけて撃退できたら嬉しいんだけど?」
ちらっと横を見ながらそう言うと、顔を赤くしながら俯いた彼女が「それは、無理です」とポツリと言った。
「まぁ、ズーちゃんのことは私たちが守りますよ。それにしても、トムさんはズーちゃんのこと、『アズ』って呼んでるんですね」
サキちゃんはさすがに気付いたらしい。
そう、俺は彼女のことを、ちまたで普及している「ズー」ではなく「アズ」と呼んでいる。
「うん。だって、ズーって名付けたの、隊長でしょ? 他の男が命名した名前で呼ぶの、俺はイヤだから」
「「おおおおおお」」
後部座席から歓声が漏れた。
助手席の彼女は照れているのか、窓の外を向いているが、耳がほんのりと赤くなってる。
ずっと見ていたい気分だけど、残念。俺は運転中だ。
「はい! トムさん、質問!」
エリちゃんの元気な声が車内に響いたと同時に、エリちゃんの手がニュッと俺の顔の横に出てきた。
「こら、危ない。 ちゃんと聞くから、手は引っ込めて? で、何?」
「トムさんがズーちゃんを好きになったキッカケって、何ですか?」
「ちょっとー。やめてよーー!」
エリちゃんの質問に、彼女がちょっと涙目になりながら後部座席を睨んだ。
「えー。いいじゃん。知りたいじゃん。ズーちゃんはこの質問の答え、知ってるの?」
「う…。そういえば、訊いたこと、まだ、ない…かな?」
「じゃぁ、知りたいよね? 聞きたいよね? どうして自分を好きになったのか、知りたいよね?」
「えーーー。聞きたいような、聞きたくないような…」
照れて悶える彼女をよそに、それまで黙っていたサキちゃんがトドメを刺した。
「で、実際、どうなんです?」
実際、ねぇ…。まぁ、別に隠すもんでもないから、言ってもいいかな。
「えーっと…。興味を持つキッカケになったのは、踊ってる姿がキレイだったからかな」
「「「はい?」」」
今度は3人が同時にハモった。
「踊ってる姿って…」
「ジムのラケットボール・コートで、踊ってたでしょ?」
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俺は1年の時から、学校のバスケットボール・クラブに所属している。
その日はクラブの公式練習が始まる前のウォーミングアップって感じで、同じクラブに所属している隊長とマサと他数名で自主トレをしていた。
自主トレが終わった後にボールを片付けていたら、どこかで音楽が流れているのが聞こえた。
ジムでも練習中やウェイトレ・ルームで音楽が掛かってることはよくあるけど、それはこの場に似つかわしくないクラシック音楽だったから、誰が何をしているのか、ちょっと興味が沸いた。
音のする方へ行ってみると、階下に覗けるようになっているラケットボールのコートで、女の子が1人、踊っていた。
その姿が何だかキレイで、気付かないうちに、俺は彼女が踊る姿を見詰めていた。
「お? 梓ちゃんやないか」
しばらく彼女が踊る姿を見ていたら、なかなか戻ってこない俺を心配した隊長とマサがやってきたらしく、俺の隣に立ったマサが階下を覗きながら小声で言った。
「梓ちゃん?」
初めて聞く名前だ。ということは。
「ああ。今年入った1年でな。えっと、苗字は、なんやったか… 何かこう、よくある感じのやつやねん。佐藤…?」
「伊藤だ」
マサの自問に、ドヤ顔の隊長が答えた。
伊藤梓ちゃんっていうのか、あの子。
「なんや、気になるんか?」
マサの直球な質問に、俺はその時は答えられなかった。
気になると言えば気になるけど、それは今、彼女が目の前で踊っているからであって、これが普段の状況で彼女を見た時に、今と同じような気持ちになるかどうかは、全くわからない。
「いや、別に」
そうは答えたものの、俺は踊る彼女から目が離せずにいた。
その後、残念ながら彼女と会う機会はなかった。俺は外住まいだし、1年の彼女とクラスが被る訳も無い。
たまにそれらしい子を見掛けた事はあったけど、授業と授業の合間の時間は、教室の移動だけで精一杯だ。何でこんなに無駄に敷地が広いんだ、この学校は…。
新学期が始まって少し経った後で、学校主催のバーベキューパーティーがあった。学校のイベント毎に疎い俺は、隊長とマサから「タダ飯チャンス」と言われて召喚された。
親からの仕送りで生きる留学生にとって、タダ飯チャンスは逃せない。しかも肉。頂きます!
芝生の上で腹一杯に食べた後、まったりしていたら、突然、隣に座っていた隊長が大声を出した。
「ズー! 俺にブラウニー!」
何だ?と思いながら、隊長が叫んだ方向を見ると、そこには彼女がいた。
彼女だ…!
こっちに来ないかな。
あわよくば、自己紹介のチャンス、プリーズ!
アホな俺の祈りが通じたのか、彼女がなぜか苦笑しながら、こっちに向かって歩いて来た。彼女は俺の目の前…より人一人分外れた場所で立ち止まると、手に持っていたブラウニーを勢いよく、俺の隣に座っていた隊長に差し出した。
「隊長! ブラウニーであります!」
「うむ! ご苦労!」
だーーーー!!
隊長! お前というヤツは、彼女をパシリに使いやがってーー!
っていうか、ズーって何だ、ズーって!
さらに、隊長は図々しくも、彼女が取ってきたブラウニーが小さいとか何とか文句言ってるし。
それに対する彼女のツッコミはなかなかのものだな。
いやいやいや、そうじゃなくって!
俺が2人の遣り取りを見ていたら、俺の横腹をマサが突いた。
何だ? と思ってマサを見れば、ヤツは口パクで「話し掛けろ」と言った。
クソ…!
そう言うことか…!
悪友2人の変な心遣いに、つい笑みが溢れた。
そのまま彼女の方を見上げると、丁度彼女と視線が合って、俺は彼女と初めて言葉を交わすどころか、彼女の連絡先までゲットした。
バーベキューの後、腹ごなしにジムでバスケをしていると、ドヤ顔の隊長とニヤけ顔のマサがやって来た。
「どうだ、この俺様の見事な作戦は」
「なんや、首尾良く携帯の番号までゲットしたらしいのお」
「俺様に感謝するがよいぞ、トム隊員!」
「誰が隊員だ、誰が!」
そうは言ったものの、さっきから妙に興奮していて、抑えが効かないんだ。
俺は隊長とマサの首に腕を回して力づくで引き寄せた。
「サンキュー。何か、スゲェ嬉しい」
「おお、そうか」
「なんや、青春やのお」
何か上手い事この2人の掌の上で転がされた感が満載なんだけど、気にしたら負けだ。
チクショウ、転がされてやんよ!
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「ってなことがあったんだよね、実は」
俺の告白に、車内の女子は全員ポカーンとしている。
「ってことは、つまり、トムさんの一目惚れに隊長とマサさんの策略が絡みーの、それにまんまとズーちゃんが捕獲されーの?」
サキちゃん、なかなか恥ずかしいけど的を得た表現だね。
「んー。でも、その後に会って話をしてみて楽しかったから、付き合いたいって思ったんだよ。それに、早いところKYからも保護したかったし」
「「あーーーーー」」
「隊長とマサから報告があってさ。ズーちゃんにあからさまに言い寄ってる男がいるって。正直、俺、それ聞いてめっちゃ焦ったんだよね」
「取られるーーー!って?」
エリちゃんが少し興奮気味に言ったけど。
「うん。 まぁ、隊長もマサもそっちの心配はしなくていいって言ってたんだけどね。どっちかというと、ヤツがストーカーっぽくなりつつあるのが心配だって言ってたよ」
「確かに」
「あれはウザかった…」
エリちゃんとサキちゃんの言葉に、彼女が申し訳なさそうに「2人とも、迷惑掛けてごめんね?」と言うと、2人は慌てて「そんな事ないって!」とフォローしている。
いい友達を持ったよね、アズは。
そんな話をしている間に、ドイツ村に到着した。今は丁度収穫祭の最中で、車を停めるスペースを確保するのに少し手間取ったけど、俺たちはお祭りムードに溢れたドイツ村を楽しんだ。
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「今日はありがとうございました、トムさん!」
「楽しかったです! あー、次は絶対に成人してから行く! ビールもスパークリングワインも、皆、美味しそうに飲んでたもんな~。くやし~~~い」
ドイツ村を堪能した後、途中で晩飯も食べた俺たちは、ようやく寮へと帰って来た。
「うん。俺も楽しかった」
買い物の袋を抱えたエリちゃんとサキちゃんが車を降り、彼女も降りた。
降りちゃうのか。 ま、そうだよな。ここ、彼女も住んでるわけだし。
「あれ? ズーちゃんもここで降りるの?」
車から降りた彼女に気付いたサキちゃんが、何で?という顔で彼女に言うと、彼女は意味がわからないといった感じでキョトンとしている。
「へ? だって、寮に着いたし?」
首を傾げている彼女に、エリちゃんとサキちゃんがニヤリと笑いながら言った。
「やだなぁ、奥さん。今日は土曜日よ?」
「そうそう。どうせ明日もお休みなんだから、今夜は旦那さんとまったりしておいでなさいな~」
「へ? あ…。あ、え、ええええええ?」
「「しーーーー!」」
大声を上げた彼女の口を、2人が慌てて塞いだ。
口を塞がれてモゴモゴ言ってる彼女の顔は、薄暗い中でもわかるくらい赤くなっている。
彼女がうちに来てくれるのは構わない…。あ…。片付けてない。
それに、万が一うまくいった場合の備えも、無い。
キスだけとか、2人きりの密室で、そんなバカな。無理だろ、それ。
非常に残念だが、地獄の据え膳になりそうな予感しかしない。
「えっと、2人の期待には応えたいけど、今日はちょっと、心と諸々の準備がまだ出来てないっていうか…」
情けねぇ…。でも、正直になるしかない。
「心と…」
「諸々の準備、ね…。フッ」
あ、サキちゃん。今、鼻で笑ったな?
「それなら仕方ないですね。じゃ、帰ろうか、ズーちゃん」
「トムさん、おやすみなさーい」
「あ、え、えっと、おやすみなさい?」
「あ、ちょっと待って、アズ!」
2人に引き摺られて行きそうな彼女を、慌てて捕まえる。
「へ?」
慌てて捕まえたから、彼女が顔を上げた瞬間、彼女の顔が思った以上に近い距離にあったから、ドキっとした。
「あ、えっと…」
はい、正直に言います。キスがしたかっただけです。
でも、言えるか!そんなこと!
「はい?」
ああ、彼女の天然さが今だけは憎らしい…。
「あー、ハイハイ。じゃ、ズーちゃんの荷物は先に持って行っとくから。後でうちらの部屋に取りに来て?」
「ズーちゃん、ちゃんと鍵は持ってるよね?」
「あ、うん! ありがとう!」
この子たちはエスパーなのか?と思うくらいの絶妙なタイミングで、エリちゃんとサキちゃんが彼女の荷物をささっと取り上げて、「後はお若い2人で~」とか言いながら去って行った。
本当、面白い子たちだよな。
「いい友達だね」
そう言うと、彼女は嬉しそうに笑った。
「うん。2人にここで会えたのが、本当によかったなって、思う」
「そっか」
「うん。トムさんも隊長さんとかマサさんとはそう思う?」
「そうだな…。ま、そうかな?」
俺のどっちつかずの答えに、彼女はクスッと笑った。
「もー。どっち…」
ゴメン。
彼女が可愛くて、待てませんでした。
俺は彼女に、キスをした。