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ド根性ガール  作者: ちかぞお
10/16

ライバルが出現してしまったのですが

 私の名前が「ズー」として寮のアメリカ人にまで浸透してしまった頃(とはいっても、ものの数日ですけど。トホホ)、学校で新入生歓迎BBQパーティーがあった。

 パーティーって行っても、カフェテリアの駐車場にドーンと大きなBBQグリルを置いて、そこで焼くっていうだけで、その場で立ち食いか、近くの芝生に座るかっていう方式ですけどね。

 飲み物もアルコール類は一切無いし。まぁ、あっても飲めないけど。


 アメリカのバーベキューって、どうやらホットドックとハンバーガーが主流らしい。日本の焼肉的なバーベキューとは違うのね。

 他には何か辛いソースの掛かったチキンがドーンと焼かれてます。

 っていうか、肉、肉、肉!って感じです。肉祭りです。お野菜はどこー?


 ハンバーガーはチーズ乗せリクエストが出来るので、アリでお願いしました。

 お皿にパンを取って、グリルでチーズが上で蕩けたお肉を乗せてもらって、テーブルに用意されたトッピング(玉ねぎとかレタスとかトマトとか。お野菜はこれだけでした)を乗せてから、ケチャップとマスタードをお好みでかけて出来上がり。


 出来立てホカホカのハンバーガーは美味しかったです。

 あー、何かアメリカしてるなぁ…


 デザートにはチョコレートブラウニーとかクッキーとかが用意されていた。

 ブラウニーって言うのは四角くて茶色というよりは黒い物体で、カフェテリアで初めて見た時「これ、何?」ってエリちゃんに訊いたら「チョコレートケーキみたいなもん」って言われたんで、モノの試しに食べてみたら、鼻血が出そうなくらい激甘だった。

 以来、私はブラウニーを危険物指定いたしました。

 

 そんなわけで、個人的にブラウニーは得意じゃないので、数種類ある巨大クッキー(直径10センチは超えてる)のうち、何を取るか悩んでいたら、遠くから隊長の「ズー! 俺にブラウニー!」という命令が聴こえた。

 自分で取りに来い!とは思ったけど、隊長には逆らえません。ええ、一兵卒はしっかり隊長の分のブラウニーを確保であります!


 私は隊長のブラウニーを右手、私のオートミール・レーズン・クッキーを左手に持ちながら、芝生の上に座っている隊長のいるグループに近づいた。


「隊長! ブラウニーであります!」


「うむ! ご苦労!」


 心の中で「何様だよ」と思いつつも、まぁ、ズーと名づけられた以外は特に実害は無いし、隊長は何だかんだで車を持っていない1年生を買い物に連れて行ってくれたり、困ったことがあると助けてくれる面倒見のいい人なので、これくらいは日頃の感謝の気持ち、ということにしておく。


 何てことを思っていたら、隊長の隣に座っていた見知らぬ日本人男性が、私と隊長の遣り取りを見ながらニコニコと笑っているのが目に入った。

 わ、私、笑われてますね…?


「あ、ゴメン。挨拶がまだだった。初めまして。俺、2年のトムです」


 自ら自己紹介をしてくれたトムさんは、トムって言う名前の割には見た目が完璧に日本人です。髪は少し茶髪だけど染めた感じだし。

 それは置いといて、まずは自己紹介から。


「初めまして。1年のズーです。トムさんって、えっと、日本人…ですか?」


 私の質問に、トムさんはハハッと爽やかな笑い声を上げた。イケメンさんは笑い声もイケメンです。


「あ、名前でしょ? 俺、本名「ツトム」なんだけど、どうもアメリカ人には言い難いみたいでさ。こっちに来た高校の時にお世話になったホストマザーが『トム』って呼び始めて、そのままトム」


「あー、私のズーみたいなものですね。私、本名はアズサなんですけど、隊長のせいでズーになりまして…」


 何か、妙に親近感。

 同じ苦労を分かち合った同士!みたいな?


 その横で「俺様のお陰だ、お か げ!」って隊長がブツブツ言ってるけど、気にしなーい。


「ところで、トムさんって、寮に住んでましたっけ?」


「ううん。俺、今年からアパート借りてそこに住んでるんだ。寮もまぁ、それなりに良かったんだけど、俺にはちょっと食事とか色々合わないっていうか」


「へー。じゃ、今は自炊ですか?」


「自炊半分、あとは適当に外食とか」


「外食出来るような場所、この町にあるんですねぇ…」


 タンブルウィードの転がる風景があまりに強烈過ぎて、町がどんなだったか、もはや記憶の彼方です。


「あはは。確かにあまりセレクションは多くないけどね。それでも一応、日本人がやってる日本食レストランも1軒、あるんだよ?」


 日本食ですと? それは初耳です!


「え? それ、マジですか? どこら辺に? あ、でも、町自体がよくわかってないから、教えてもらってもわからないかも」


「ズーちゃん、まだ町に行ったことないんだ?」


「ここに来る時に通ったり、買い物に1度連れて行ってもらったりとかしたんですけどね。ほら、私、車持ってないんで、学校の敷地から出られないんですよねー」


 そう。ここでは、車が無いと、外界へと出ることは出来ないのです。

 まさに陸の孤島。

 脱走しようとしたら、もれなく周辺のタンブルウィードの生えた荒地で遭難して白骨化する自信があります。


 私の言葉に「ああ、それはツライよねー」と頷いた後、トムさんは言った。


「じゃ、今度町を案内してあげるよ。俺、車持ってるし」


 おほう、ラッキー!

 新たな車持ち様、発見であります!

 まぁ、車持ってないと外には住めないから当たり前っちゃー当たり前ですけど。


 私たちみたいな車を持ってない人は、買い物に行くのに、いちいち車持ち様にお願いしてお店まで連れて行ってもらわないといけないのですよ。

 授業に必要な文房具は学校の売店で買えますけどね。生活用品は売ってませんから。

 え? コンビニ? 何それ?って感じです。この町の辞書に「コンビニ」の文字は無いようです。しくしく。


「是非是非! お願いします♪」


 伊藤ズー梓、こういう時の愛想の良さには自信があります!


 トムさんは「うん。じゃ、今度連絡するね」と連絡先を交換して下さいました。ありがたや、車持ち様~。

 だって、車持ち様は貴重なんですよ? 何人かいても、全員が私が必要な時に時間があるとは限らないし、中には私たちのために車を出してくれない車持ち様もいらっしゃるんですよ、ケチ~。

 それに、車持ってない留学生は多いから、全員が車に乗れるとは限らないし。そういう時は、乗れる人に買い物メモとお金を渡して買って来てもらいます。

 こんな状況だから、トムさんのような好意的な車持ち様は本当に貴重です!


「ほわぁー。トムさんって、いい人だ~」


 エリちゃんたちのいる場所に戻ってクッキーを食べながらまったりしつつ、車持ち様の好意に感動していたら、エリちゃんとサキちゃんがニヤリと笑いながら小声で言った。


「トムさんって、さっき隊長の隣に座ってた、あのイケメンさん?」


「うん。ナイスな車持ち様だよ~」


「へぇー、ズーちゃん、そのイケメンなトムさんから連絡先なんて貰っちゃったんだー」


「あ、うん。今度町を案内してくれるって。日本食レストランもあるんだってよ、田舎町のくせに」


「へぇー。ズーちゃん、トムさんとデートするんだー」


 サキちゃんの言葉に、私の脳が一瞬、理解不能に陥った。


「へ? 何でデート?」


 私の反応に、逆に2人が驚いた。


「え? 違うの?」


「違うよ。車持ち様が車出してくれるだけだよ?」


 私の言葉に、エリちゃんとサキちゃんは揃って顔を見合わせて、そして言った。


「「トムさん、可哀想…」」


「は? 何で? しかも、ハモった?」


「ま、いいからさ。楽しんで来なよね」


「え? エリちゃんとサキちゃんも一緒に行こうよ」


「「私たちは、また今度で」」


「だから、何でハモってんのよ…」


 結局、週末に開催されたトムさんの町ツアーには、私の話をどこから聞きつけたのか、突然参加表明をしてきた私のルームメートのカナデちゃんとカナデちゃんの友達のリサちゃんが一緒に参加した。

 カナデちゃんの情報網、マジ怖いっす。

 急に人数増えてゴメンナサイってトムさんには謝ったけど、トムさん、ちょっと驚いてたもんね。でも、その後すぐに立ち直って、笑顔で「気にしないで」って言ってくれて、安心した。イケメンさんは心が広いです。


 その数日後。


 私がカフェテリアでエリちゃん、サキちゃんと一緒に朝ごはんを食べていると、隊長とマサさんがやって来て、私を見るなり一言。


「お、丁度いいところに」


 は? 何が丁度いいのやら?


 そう思っていたら、朝食の乗ったトレイを持った2人が私たちがいたテーブルに座り、マサさんが口火を切った。


「ズー。お前、リサちゃんに何やらかしたんだ?」


「は?」


 私はエリちゃんとサキちゃんを見た。 

 2人とも「意味わかんない」というように、肩をすくめている。私だって意味わかんない。


 私たちの反応を見て、隊長とマサさんも首を傾げた。


「えーっと、リサちゃんがどうかしたんですか?」


 恐る恐る訊いてみると、マサさんが「んー」とちょっと口を濁しつつ、頭を搔いた。これは会って間もない私でもわかるようになった、マサさんの誤魔化しポーズだ。

 いかん! 追跡開始!


「リサちゃんが、私のことで、何を言ってるんですか…?」


 ドスの効いた低い声で詰め寄る私に、マサさんと隊長が一瞬引いた。


「ズー、どうどう」


「私は暴れ馬ですかい!」


「いや、今のは暴れ馬に近かったやろ」


「なら、暴れる前に白状して下さい」


 私が睨みつけると、マサさんが私から目を逸らしつつ、白状した。


「あー。なんや。リサちゃんがな、最近、『ズーは自分のライバルや』って、色んなとこでゆーてるらしいで」


「……はい?」


 ライバル?

 誰が? 誰の?

 私が? リサちゃんの?

 何で??


 ハッキリ言って、混乱中です。脳内処理がこの情報についていってません。


「その顔、身に覚えが無いって顔だな」


「えーっと、まさに、その通りなんですけど…。何か競ってましたっけ、私たち?」


 これがアニメとかマンガなら、私の頭上には今、ハテナマークがポコポコと浮いているに違いない。

 そんな私に、マサさんが呆れた顔をして言った。


「ほな、何でライバル宣言されとんねん、自分」


「知らんがな!」


「お、ズー。お前、関西の出身か?」


「ちゃうがな!」


「いや、そのツッコミは関西やろ」


 この後、テーブルでは私の出身が関西か否かの議論になってしまったために、リサちゃんの突然のライバル宣言の件はおざなりになってしまったので、残念ながら私はそれ以上の情報をマサさんや隊長から得ることが出来なかった。


 それにしても、いきなりライバル宣言されても、別に私、スポーツやってるわけでもないし。

 大体私、スポーツはそれほど得意じゃないから他人にライバル視されるような事態になることはありえないし。

 唯一得意なのはダンスだけど、ここでは踊ってない。


 勉強…なわけないし。英語学校卒のリサちゃんは私よりも英語が上手なので、彼女と被ってる授業って留学生必修の英会話の授業くらいだし。

 ライバルとか言われても、全くもって意味不明なんですけど。


 何かを競ってこそのライバルでしょ? 何を競ってるんですかね? はて?

 コレは一体、私にどうしろと?

 誰か教えてーー!


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