てのひら
静かな夜
たった一人の部屋の中
布団の上に寝転がる
顔に近づけたてのひら
そこにあるシワを見つめて思う
この手で どれだけのものを掴んできただろう
どれだけのものに触れ
何を得てきただろう
白く光る蛍光灯に てのひらをかざす
指の隙間から漏れる光を見つめて思う
ここから どれだけのものが零れていっただろう
どれだけのものがここをかすめ
何に触れられなかっただろう
手に入れたものと引き換えに失ったもの
その大切さに ちゃんと気づけているだろうか
何かを失ってまで手にしたもの
その大切さに ちゃんと気づけているだろうか
つないだ手の温もりを
ちゃんと覚えているだろうか
はなした手の感覚を
ちゃんと覚えているだろうか
触れてきたものの優しさを
得られたときの喜びを
忘れてしまっていないだろうか
触れられなかったそのわけを
得られなかった悔しさを
忘れてしまっていないだろうか
きっと
全てのものを手に入れられるわけじゃないけれど
今あるものの大切さに気づき
そのものの温もりや優しさに触れ
手にしたときの感動を味わい
手にできなかった悔しさから何かを学ぶ
きっと
失ったもの全てを取り戻せるわけじゃないけれど
零れていったものが何なのかに気づき
そのものの存在に感謝し
手をはなした自分の愚かさや弱さを知り
大切なものの上に大切なものを重ねられるようになる
てのひらを自分に向け
ギュッと握りこむ
そこからは
もう何も零れ落ちたりしない
そっと開いて見つめたてのひら
それは
大切なもの 守りたいものが何なのか
ちゃんと知っている