あらためて決意
伯父様からのメールが来たのでトイレの個室で返事を打っていると、ヒロイン様とヒロイン様のお友達が話している声が聞こえました。
「麗様最近調子にのってるよね!」
「わかる!」
「従弟なんだっけ?えーと塚田柚樹君。」
「婚約者が居るのに毎日あんなにベタベタしちゃって。」
ああ、柚君のせいで悪い噂がたっています。
「帝君はあんな二人見たら悲しいよね。」
ヒロイン様が呟くように言います。
私は帝様を傷付けてしまっている自覚があります。
それを癒すのがヒロイン様の力の見せどころではないでしょうか?
ヒロイン様達が出ていったのを確認してから私は個室から出ました。
私が出るのと同時に隣の個室から未来ちゃんが出てきました。
驚きです。
未来ちゃんは物凄い怖い顔で私を睨み付けます。
「麗。保健室に行こう。」
未来ちゃんは私を引っ張るようにして保健室に連れていきました。
「紫音先生!ちょっとベッド借りる。」
「え~!もう授業始まるわよ~!」
「心の病気です。」
未来ちゃん、それは理由になるのでしょうか?
「なにそれ!面白そう~!先生も混ざって良い?」
先生、面白そうって………
「麗。何で怒んないの?麗は帝君の事大好きでしょうが!」
「うん。大好き。」
未来ちゃんは私がヒロイン様達に怒らなかった事を怒ってくれています。
「私が柚君とイチャイチャしていると見られてしまうのは仕方がないのです。実際のところは柚君がお祖父様の言い付けを実行しているだけです。帝様はそれを知っています。」
「鼻にチューまでされてたわよね。」
「あれは、ただの悪戯です。」
紫音先生はケラケラ笑います。
「麗。最近変だよ。前みたいに胸を張って帝君を好きだって言えるの?」
本当に未来ちゃんは素敵な人です。
私の変化に気が付いてくれています。
でも、少し違うんです。
私は帝様を好きだからヒロイン様と上手くいってほしいのです。
「胸を張って好きです。自信だって有ります。誰にも負けないぐらい帝様が好き。」
未来ちゃんは眉間にシワをよせます。
「帝君本人には?言ったの?」
「へ?」
未来ちゃんの言葉にフリーズです。
本人に向かって好きだなんて言って苦笑いなんかされたら死ねます。
「む、む、無理です!本人になんて言えません。」
私の言葉に未来ちゃんと紫音先生は深いため息をつきました。
「その一言で全部解決なのに………」
紫音先生の呟きは私には聞き取れませんでした。
「麗。誰にも負けんじゃない!好きなら、欲望に忠実でないと!誰にも渡しちゃ駄目だ!私も協力するから!」
未来ちゃん、本当にありがとうございます。
私は本当に良い友達を持ちました。
ヒロイン様もきっとこんな不甲斐ないライバルでは張り合いがないですよね!
もう少しだけ、ライバルと認めてもらえるように頑張ります。
「私、頑張ります。」
私の言葉に未来ちゃんは満足そうに笑ってくれました。
放課後、私は帝様の部活が終わるのを待っていました。
剣道部の練習が見えるこの窓際の席は特等席です。
部活が終わった気配を感じて私は帰り支度を始めました。
「麗!まだいたの?一緒に帰ろ!」
帝様は私に気が付いて手を振ってくれました。
私は頷く事しかできません。
もっと可愛い反応が出来なかったのか、後悔します。
私は急いで帝様の所に向かいました。
「お待たせしました。」
「そんなに急がなくても良いのに。」
帝様は優しく笑ってくれます。
「私が帝様をお待たせするわけにはいきませんので。」
また、可愛いげのない言葉が口をついて出てきます。
「気にしなくて良いよ。本当は麗が急いで来てくれて凄く嬉しいんだ。実は僕を待っててくれたんじゃないかって自惚れたくなるよ。」
待っていました。
帝様と一緒に帰りたくて待っていました。
「ぐ、偶然です。」
「だね。………でも、僕が居るときは送ってあげるけど居ないときは早く帰らないと駄目だ!麗は可愛いから心配だ。」
「私は小さな子供じゃありませんよ。」
私の言葉に帝様は苦笑いを浮かべます。
「子供じゃないから心配してるんだよ。麗は可愛いし、家柄も良いから悪い奴が狙っているかも知れないだろ?」
私なんかを心配してくださる帝様は本当に素敵な人です。
帝様はニッコリ笑って私に手を差し出します。
私が首を傾げると、帝様は苦笑いを浮かべて私の手を握りました。
「手をつないで帰ろ。」
私は何も言えませんでした。
嬉しくて幸せで、欲張りになってしまいそうで苦しくて。
帝様、どうか、どうか幸せになってください。
私もライバルとして頑張ります。
ただの当て馬だって頑張ってやりきって見せます。
私はそんなことを考えながら帝様と手をつないで帰りました。
麗ちゃんを送って行った帰り。
帝君が滅茶苦茶浮かれている様が見えます。




