未来ちゃんと柚君
「麗。そいつウザいんだけど。」
「未来ちゃんハッキリしすぎです。」
ここ数日、食堂に行くと待ち構えていたかのように柚君に抱き締められます。
「酷いな~未来ちゃんもギュッてしてあげようか?」
どうやら柚君は未来ちゃんの事を気に入ったようです。
「ギュッてされるなら麗にされたい。お前には何も望んでねえよ!」
「えー。未来ちゃん厳しい!」
柚君は楽しそうに笑っています。
私は今日お弁当を作って来たのでそれを広げます。
今、柚君は私のお家に居候しています。
ですから、柚君の分もお弁当を出して私の横の席に置きます。
私にしがみついたままの柚君は驚いた声をあげました。
「麗姉さん。もしかして僕の分?」
「柚君は好き嫌いが激しいですからね。作った方が沢山食べられるんじゃないですか?本当は好き嫌いが無くなれば良いのですけど。」
「姉さん大好き!お嫁さんにほしい!」
柚君は私からはなれると私の隣の席に座ります。
「………僕好き嫌いいっぱいあるけど姉さんが作った物なら残さないよ。」
柚君は私に笑顔をくれます。
「昨日の夕飯のピーマンを全部よけていた子の言うことは信じられません。」
私は少し膨れてそう言いました。
「えー、ピーマン苦いんだもん。」
お子様の様な柚君の成長が心配です。
こんなにお子様なのに人気者なのも解せません。
遠巻きにキャーキャー言われているって解っているのでしょうか?
「向こうでキャーキャー言ってるぞ!手でも振ってやれば?」
未来ちゃんが嫌味ったらしく言います。
「無理!僕バカ女嫌~い。」
未来ちゃんが絶句しています。
「未来ちゃんみたいに強い女の子は好きだよ。」
「麗。こいつ殴って良い?」
「駄目ですよ。」
未来ちゃんは両手で目を塞ぐと上を向いてポツリと言いました。
「何でこんなんが麗の従弟なんだ。」
柚君にも良いところは有るんですよ。
今すぐ言えと言われたら何も出てきませんけどね。
私はお弁当の中の玉子焼きを箸で摘まむと未来ちゃんの方につきだしました。
「未来ちゃん、アーン。今日の玉子焼きは自信作ですよ。アーン。」
未来ちゃんは体制を直して私の玉子焼きを食べます。
「美味い!」
未来ちゃんはるんるんしながらお弁当を食べている柚君のお弁当箱から玉子焼きを奪い取ると口に放り込んだ。
「あー!一番最後に食べようと思ったのに~!」
「油断したな!すきありじゃ!」
未来ちゃんは時代劇の悪代官のようです。
「うー!玉子焼き~!」
すると回りから女の子達がわらわら寄ってきて玉子焼きをあげようとしてきました。
私はもう止められません。
ごめんなさい。
「柚樹君、良かったら私の玉子焼き食べて。」
1人の女の子が意を決した様に言いました。
「あのさ~!僕が食べたいのは麗姉さんの玉子焼きなの!何?そんな自信あるの?自意識過剰も大概にしてよ!言っとくけど麗姉さんの玉子焼きはメチャクチャ美味いからね!でしゃばりで傲慢だって解らないかな~!」
女の子達が一人また一人と、ワシがはなれていきます。
「自信ないなら寄ってくんなよ!」
未来ちゃんの顔が険しくなります。
「なんかごめん。私のせいでいたいけな女の子達にトラウマを残してしまった。」
「未来ちゃん、柚君がこんな感じで御免なさい。でもね。未来ちゃんとのやり取りは楽しかったんだと思うよ。それまでは怒って無かったから。柚君ももう少し言葉を選ぼうよ。ね。」
「麗姉さんは悪くないでしょ!空気読めないバカ女嫌い!」
未来ちゃんは鋭く柚君を睨み付けると言いました。
「嫌いでも笑顔で相手しなくちゃいけない時だってやって来る。それをしないで生きていくなんて難しい事だ。お前はガキ過ぎてムカつく。嫌いですむなら、私もお前が嫌いだ。」
未来ちゃんの言葉に柚君は瞬きを三回ほどすると、嬉しそうに笑った。
「僕は未来ちゃん好きだよ。」
「黙れ糞ガキ!」
未来ちゃんの眉間に皺がよります。
柚君だってこのままの性格では生き辛い事を解って居るんです。
だからこそ、叱ってくれる人は信じます。
未来ちゃんは迷惑でも柚君は未来ちゃんの事を信用したようです。
「未来ちゃんもギュッてしたいな。」
「麗。こいつ殴る。良いよな!」
これから暫くお昼休みは柚君と未来ちゃんのやり取りを見て微笑ましくなってしまうのだと私は確信めいた気持ちに襲われたのだった。




