お兄様と過ごした1週間
夏も盛りになり、緑の丘は賑やかな季節を迎えたけれど、私は相変わらず森へ毎日通っていた。
毎日いろんな魔法や精霊魔法の練習した。
特に回復魔法とか治癒魔法を頑張った。
ユニコーンを助けた日以来、回復魔法が前よりも上手にできるようになったみたいで、練習したらした分だけ上達するのが嬉しかった。
それまでは1日に3回か4回回復魔法をかけてあげないと辛そうだったお母様が、お昼前と夕方の合わせて2回かければ1日無理なく過ごせるようになっていた。
そういえば、この前お父様が遊びに来た時、前から思っていたことをお願いしてみたんだ。
「私にはお兄様と妹がいるのよね?会いたいんだけど、だめかしら?」
お父様は少しおどろていたけれど、にっこり笑って
「考えておくよ。」
と言ってくれた。
私が回復魔法を使えるようになったのだから、お母様と2人でお父様のおうちに行っても大丈夫なんじゃ無いかな?おいでって言ってくれないかな?と思い聞いてみたの。
その期待は裏切られたけれど、お父様は私のお願いを半分くらいかなえてくれた。
だって昨日から2人のお兄様と一緒に遊びに来てくれているんだもの。
いつもは、虹色の扉の隣の緑の扉からおばあ様と一緒にやってくるのだけれど、今回は違った。
お父様はお兄様たちと馬車に乗って来たんだって。
「私の妹は来ないの?」
「リラの妹のノエミはね、ノエミのお母様のお友達に招待されてお友達の別荘に遊びに行ったんだよ。そちらの約束を先にしていたから、今回は来れなかったんだ。今度は一緒に来るよ。」
「お父様、約束よ?」
残念だけど、先にお約束があったなら仕方がないよね。
また今度会えるならそれでいい。
上のジャンお兄様は17歳で、王都の国立学校に通っているそうだ。
もう一人のポールお兄様は16歳。
先月、士官学校を卒業して、秋からジャンお兄様と同じ学校に通うそうだ。
2人のお兄様は、お父様にそっくりだった。
髪の色も、瞳の色も同じ、明るいブラウン。
ジャンお兄様はお父様よりも目が少し鋭くって、ポールお兄様は、お父様よりも少し口が大きい。
2人とも細いのに筋肉モリモリで、お父様よりも少し背が大きかった。
お兄様たちはとっても優しくて、いろんなお話をしてくれた。
私は赤ちゃんの頃お兄様達に会ったことがあるんですって。
いつもお父様から私のことを聞いていて、ずっと会いたいと思っていたって言ってくれたのがとても嬉しかった。
今回私が会えなかった妹のことも聞いてみた。
「えっと、髪の色はオレンジっぽいブロンドでカールしているんだ。目は、僕よりも少し鋭いかな。瞳の色は僕らよりさらに明るい茶色で、口はポールに似ているよ。鼻は僕らよりも高くって、顎が尖っているんだ。ちょっぴり我が儘だけど、かわいい妹だよ。前にお父様がリラにプレゼントした本あっただろう?あれは僕が選んだんだけど、ノエミもあの本が大好きなんだ。」
「あの本はジャンお兄様が選んでくれたのね。ありがとう!すごく面白かったわ。あの本が好きなら、仲良くなれるわ、きっと。私も大好きな本だもの。」
「今度は僕と兄さんだけじゃなぅてノエミも一緒に遊びに来るよ。」
お兄様たちがいる間は、緑の森へは行かなかった。
なんでかわからないんだけど、お兄様達は入れないんだって。
お母様は時々ローランおじ様と一緒に森に行っていて、わたしも一緒に行きたいとお願いしたのだけれど、せっかくお兄様たちが私に会いに来てくれたのに、私が出かけたら失礼よ、と言われた。
それと、お兄様たちの前で魔法や精霊魔法は使ったらだめだよ、とも言われた。
森じゃないところだと、魔法を失敗しやすくて、失敗したらお兄様たちが怪我をしちゃうからなんだって。
うまくできる自信あったんだけど、もし本当にそうなったら怖いからちゃんと約束は守った。
私はお父様やお兄様達と一緒に、湖でボートに乗ったり、お馬に乗せてもらったり、たくさん遊んでもらった。
賑やかな緑の丘はなんだかいつもと違うところに思えた。
賑やかでとっても楽しかった。
私が遊んでもらったお礼を言うと、お兄様は、私が生まれる前はお母様もお父様と一緒に王都のおうちに暮らしていて、その頃はたくさんお母様に遊んでもらっていたからそのときのお返しだよと言われた。
私はお母様が王都のおうちで暮らしていたことを知らなかったから、とても驚いた。
私がお母様のお腹の中にいるときに、お母様は体調を崩して、その時から今の私のおうちで暮らしているんだよと教えてもらった。
それから、赤ちゃんだったころの私のこととか、王都のこととかいろんな話もしてくれた。
お兄様たちは1週間私のおうちで過ごすと、学校が始まる前に準備をすることがたくさんあるから、と言ってまた馬車で王都へ帰ってしまった。
残念だったけれど、また来年、今度はノエミも一緒に来るからね、と約束してくれた。
なぜかお兄様が来ている間はフレッドが遊びに来なかった。
お兄様達に私の親友紹介したかったのに残念だ。
フレッドに会いたいな。
翌日、久しぶりに緑の森へ行った。
私を守ってくれる精霊さんたちも、森にすむ精霊さんたちもなんだか嬉しそうだった。
お兄様達がいる間は、朝と夜、お母様に回復魔法をかけていたけれどそれ以外の魔法は使っていなかったので、久しぶりに思いっきり練習した。
精霊魔法ではお花をたくさん咲かせたり、蔓や小枝でブランコを作ったり、水をまいてお掃除をして、光と風でかわかした。
精霊さんたちは嬉しそうにお手伝いしてくれた。
お昼ご飯を作るとき、魔法を使ってお手伝いをした。
お野菜を水の魔法で洗ったり、火の魔法でスープを煮たり、氷の魔法でフルーツを冷やしたり、しばらく使っていなかったから上手にできるか心配だったけれど、前と同じように使えてほっとした。
もちろん、お母様に回復魔法もかけたし、包丁で少し切ってしまった私の指も治癒魔法で治した。
自分に治癒魔法かけるのは初めてだった。
ピリピリ痛んでいた傷口が光に包まれると温かく、心地よくて、痛みがすぅっと消え、光が消えると跡も何も無くなってすごく不思議だった。
気になったので、自分に回復魔法もかけてみた。
やはり体が光に包まれると温かく心地よかった。
そして光が消えると体が軽くなって元気が出て、精霊さん達もいつもに増してキラキラ輝いていた。
誰か元気のない時に、回復魔法をかけてあげたら元気になるかもしれない、今度試してみよう。
フレッドは今日も来なかった。
何だか淋しくなったから、回復魔法をかけて元気になろうと思ってまた私にかけてみたけれど、何にも変わらなかった。
次の日、やっとフレッドはやって来た。
久しぶりですごく嬉しくて、ハグしたんだけど、気づいたらフレッドは真っ赤になっていた。
「フレデリックが困っているから早く離してあげなさい。」
ローランおじ様に怒られてしまった。
ここが避暑地で王都よりは涼しいけれど、季節は真夏だし暑かったんだと思う。
なんか悪いことしちゃった…と思って謝ったら、謝ることじゃ無いよ、って言ってくれた。
やっぱりフレッドは優しい。
私はフレッドが来なかった間にお兄様達が遊びに来たことを話した。
私が、お兄様達のことを紹介したかったと言うと、フレッドはお兄様達と何度か会ったことがあるって言うのでびっくりした。
「僕、4人兄弟なんだけど、1番上の兄がジャンさんと、2番目の兄がポールさんと同じ歳で、士官学校でクラスも一緒だったんだって。何度かうちに遊びに来てたから少しは話したことあるよ。」
因みに、3番目のお兄様が13歳で、3人のお兄様達のお母様はジュリエッタさんではないそうだ。
私とジャンお兄様、ポールお兄様、ノエミと同じだ。
フレッドも、ここに来れなかった間の事を話してくれた。
「3人の兄達と父上と、それから兄の母上も一緒に、父上の上司の別荘に1週間だよ。しかも毎日パーティばっかり。堅苦しいし、魔法は使ってはいけないって言われるし、リラには会えないし、ものすごくつまらなかったよ。僕の母上は仕事だからってお祖母様とどこかに行っちゃうし。友達も一緒だったけれど、毎日すること無いから2人で剣術の練習ばっか。僕もその友達も、つまんないってのが口癖になるほどつまらなかったよ。リラも一緒だったら良かったのにな。」
フレッドは疲れたとも言っていたので、回復魔法をかけてあげた。
そしたらなんだか元気になったみたい。
それにやっぱり精霊さん達も元気になった。
特に少し前に仲間入りした虹色の子達がキラキラだ。
それから、いっぱい魔法の練習も、精霊魔法の練習もした。
1人でする練習より、2人でする練習の方がずっと楽しかった。
それに、フレッドが一緒だといつもより上手にできる気がする。
とくに、精霊魔法がすごく上手くいくのだ。
私だけじゃない、フレッドも同じこと言っていた。
フレッドもおうちで時々練習していたみたいなんだけど、おうちだとなんとかできるけれど、すごく効果が弱いと言っていた。
「それは仕方ないのよ。」
練習に夢中になっていたせいかお母様が近くに来ていたのに気付かなかった。
「王都は精霊が少ないし、精霊には過ごしにくい環境なのよ。でもここはね、精霊にとってとても過ごしやすい場所で、たくさんの精霊がいるのよ。精霊魔法はいつもあなた達と一緒にいる精霊だけじゃなくて、その土地の精霊の力も借りて魔法をかけるの。だから、精霊のたくさんいる森だとうまくいくのよ。
それからね、リラとフレデリックに限ったことなんだけど、あなた達が精霊術を使うとき、結の精霊が力を貸してくれるの。普通は風を使った術だと風の精霊の力だけを借りてかけるのだけど、結の精霊がいると、風の精霊以外の精霊もお手伝いしてくれるのよ。その結の精霊だけど、リラとフレデリックが仲よくしていると元気になるの。だからあなたたちが一緒に仲よく練習しているときはとても上手くかけられるのよ。」
それから精霊術についていろいろ教えてくれた。
今は精霊の数で精霊魔法の強さが変わるけれど、私たちがもっともっと勉強して頑張ったら、精霊がすごく少ないところでも強い魔法がかけられるそうで、それはもうすこし大きくなったらおばあ様にお願いして教えてもらいましょうね、と言われた。
「私に何を習いたいんだい?」
いつの間にかおばあ様も私たちの後ろにいて、ニコニコしながらそう聞かれた。
「精霊魔法、もっと上手になりたいから教えて欲しいなってお話していたのよ。」
私が答えると、
「それはもう少しあなた達が大きくなってからにしましょうね。それよりも、今は他のことをお勉強した方がいいわ。そのお勉強をしてからの方がより上手にできるようになりますからね。
それで、そのお勉強なんだけど、リラとフレデリックだけではなくて、もう2人、8歳の男の子と7歳の女の子と一緒にお勉強することになりますからね。
9月から週に3日、慣れたら4日、5日まで増える予定よ。」
おばあ様はそう言うと、楽しみにしていてね、と手を振ってアルフレッドおじ様のところへ戻っていった。
お兄様たちの年齢を訂正しました。(7月16日)